これまでのO2Oやオムニチャネルといったオンラインマーケティングでは、分断されたオフラインチャネルとオンラインチャネルを連携させることで、購買チャンスを生み出すことが目指されてきました。近年、さらにその先を行くマーケティング概念として注目を集めているのがOMOです。この記事では、OMOという概念とO2Oやオムニチャネルとの違い、OMOの具体的な実施例、今後のOMOの発展に必要となる要素についてご紹介します。
OMOとは
OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、日本語に訳すと「オンラインがオフラインを併合する/融合する」といった意味になります。オンラインとオフラインの垣根がなくなり、オンラインでもオフラインでも差異のない快適な体験が提供される世界観を指します。この概念は2017年に中国のベンチャーキャピタル「シノベーションベンチャーズ」の創設者・李開復(リ・カイフー)氏によって提唱されました。
従来のマーケティングでは、オンラインとオフラインは分断されており、それぞれ独立したマーケティング施策が取られてきました。しかし現代では、IoTプロダクトの発展やモバイル端末の普及、それに伴うサブスクリプション型ビジネスやキャッシュレス決済の成立などにより、生活において完全にオフラインで完結する場というものが失われつつあります。このようなオンラインの仕組みの中にすでにオフラインの生活が包含されているというのが、OMOが想定している状態です。
したがってOMOのマーケティングでは、これまでのようなオフラインをベースにしたビジネスではなく、オンラインを出発点にしてオンラインとオフラインが混ざり合ったビジネスを組み立てることが目指されます。
例えば、消費者がキャッシュレス決済を利用していれば、どんな店舗からでも購買データを得て、導線分析を行うことができます。個人に紐づけられた情報に基づいてその人が必要としている商品を導き出し、常に携帯しているスマートフォンや、店舗に設置されたデジタルサイネージなどを通じて提案することもできるようになるでしょう。このようにOMOではオンラインとオフラインの各チャネルと情報が連関し合って新しいサービスが提供されます。
OMOの浸透に必要なこと
OMOが社会に浸透・発展していくためには、消費者があらゆる購入接点で常にオンラインとつながることのできる環境が必要になります。具体的には、OMOが成立するための条件として以下の4つが挙げられています。
条件1.モバイルネットワークの普及
条件2.モバイル決済浸透率の高さ
条件3.幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、遍在すること
条件4.自動化されたロボット・AIの普及
これらの条件の中で、OMOが最も進んでいる中国とそのほかの先進国とを比較した際に大きな相違点となるのが「モバイル決済浸透率の高さ」でしょう。中国では2014年からオフライン店舗でも使用できるようになったモバイル決済ですが、そこからわずか数年で、都市部ではスマホひとつあれば現金を持たない生活ができるほどの浸透を見せました。その背景には、中国ではPCとインターネットの普及を待たずしてモバイルネットワークが一足飛びに普及したことや、偽造貨幣の蔓延により現金の信頼性が低かったこと、利便性の高いモバイル決済という新たなシステムを受け入れる若者が多かったことなどが要因として挙げられます。
他方、日本国内では慣れや信頼性などの理由から、現金決済やクレジットカード・非接触ICといった決済方法を好む人の割合が高く、キャッシュレス決済の中でモバイル決済をメインに利用する人の割合は伸び悩んでいます。キャッシュレス決済のポイント還元事業をきっかけに、各年代で利用者数も増加し、数字は今後伸びていくことと思われますが、そのためにはモバイル決済を利用できる店舗やサービスの拡大が必要となっていくでしょう。
日本でも個人の飲食店などでモバイル決済に対応する店舗が増えつつありますが、中国のように屋台や公共交通機関でもスムーズにモバイル決済を利用できる環境は備わっていないのが現状です。こうした社会全体のシステムや、消費者の意識の変化なくしてOMOの発展はあり得ません。
OMOとは、ひとつの企業が無人レジのような設備を配備したり、オンラインストアで扱う商品を充実させたりといったマーケティング施策として取り組むことで実現できるものではない、発展した社会のひとつの状態なのです。
OMOが追求するのは「より良いユーザー体験」
OMOが目指すのは、単にオンラインとオフラインの各チャネルのどこからでも購入できる流れを作り、消費者の購買行動をスムーズにすることではありません。OMO社会で目指されるのは、オフラインの消費生活がすでにオンラインに取り込まれるように融合している状態を活かして、新たなユーザー体験(UX)を提供することです。
フーマーやAmazon GOのサービスのようなレジに並ばずに買い物をすることや、生鮮食料品を目で見て選びながら手で持って帰らないで済む生活は代表的な例でしょう。そのほかにも手に取った商品の使用イメージやバリエーションなどの多くの情報を、ネット検索せずに店頭サイネージで閲覧できるなど、OMO社会ではオフラインとオンラインのどちらのチャネルでもできなかった、素晴らしい購買体験を実現することができます。
こうしたより良いUXやCX(カスタマー・エクスペリエンス)を提供していくことで、これまでにない購買接点やより強い購買意欲を創出できることが期待されています。
OMOの具体的な実施事例
では、実際にOMOを活用した具体的な事例を以下でご紹介しましょう。
盒馬鮮生(フーマー)のOMO事例
中国3大インターネット企業のひとつであるアリババ(阿里巴巴 Alibaba)が運営するスーパーマーケットの盒馬鮮生(フーマー)は、ネットスーパーとグローサラント(食料品店と飲食店を組み合わせた業態)のふたつの面を併せ持ち、実店舗とオンラインストアを融合させた非常に先進的なOMOを実施しています。
フーマーの店舗に陳列された商品は、バーコードをスマートフォンアプリで読み取ることで価格だけでなく在庫数や、産地と店舗に届けられるまでの経路といった情報を確認することができます。食品偽装が大きな問題となっている中国では、こうした食の安全性を保証できるサービスの重要性が高まっているためです。
フーマーの店舗には有人レジは存在せず、利用客は無人レジで商品をスキャンし、基本的にモバイルペイメントで支払いを行います。また、このように商品を直接買って帰る以外にも、店舗でスキャンした商品をすぐさま自宅へ配送してもらうこともできます。これにより利用客は、商品の信頼性を店舗で確認しながら、品物を持って帰らずとも買い物ができますし、店側は駐車場スペースのない地下鉄の駅近くなどのこれまでにない場所に出店することができます。
フーマーはオンラインストアを運営していて実店舗とも相互に連携しているため、あらかじめオンラインで注文しておいた食材を使った料理を店内レストランで食べることや、一度店舗で購入したことがあって品質や分量などを把握している商品を購入履歴から簡単に注文するといった、これまでにない購入体験を提供しています。
このように実店舗とオンラインストアを融合させることで、生鮮食料品というEコマースではなかなか売り上げを伸ばしにくかった商品の販路拡大が可能になりました。
Amazon GoのOMO事例
Amazon.comが運営するAmazon GOは、レジで会計をせずにスムーズに決済処理を行い、商品を買うことができるという革新的な食料品店です。
Amazon GOの店舗の入り口には会員用スマートフォンアプリのコードを読み取るゲートがあり、利用客はここに自分のスマホをかざして入店します。その後は自由に商品を手に取ったりショッピングバッグに入れたりするだけで、自動でアプリ内の買い物かごに商品が追加されていきます。後はそのまま店を出るだけで自動的に会計が完了します。
これを可能にするのが、Amazonが「Just Walk Out」と名づけた技術です。Amazon GOの店内には多数のカメラとマイク、センサー類が設置されており、これらと画像識別システムやディープラーニング・アルゴリズムを組み合わせて、入店した人の動きをトラッキングします。一度手に取った商品を棚に戻す動作も認識して、購入のキャンセル処理ができるほどの認識精度の高さを誇っています。
Amazon GOで使われている「Just Walk Out」の技術は、2020年から各種小売店向けに提供を開始することが発表されており、人件費削減や混雑解消の効果が期待されています。
OMOとO2Oの違い
では、ここからはOMOと似たもののように捉えがちなO2Oの概要とOMOとの違いについて見ていきましょう。
O2Oとは「Online to Offline」の略で、オンラインでの情報提供によってオフラインでの購買を促すといった、「オンラインからオフラインへと顧客を誘導すること」を指します。具体的な施策としては、店頭(オフライン)で使うことができるクーポンを、メルマガや公式サイト上(オンライン)で配信して販売促進することや、SNS上(オンライン)からキャンペーンに参加した顧客を対象に、実店舗(オフライン)での買い物の際にポイントを追加で付与してリピート率の向上を図ることなどが挙げられます。
O2OもOMOと同様にオンラインとオフラインが関係するマーケティング施策ではありますが、O2Oはあくまでもオンラインとオフラインを独立した異なる性質のものとみなして、オンラインからオフラインへの一方向的な流入を促すことを目的としています。一方OMOでは、オンラインとオフラインは双方向的に連関し合っています。
O2Oの導入目的
ここまでO2Oの概要を説明してきましたが、次は実際にO2Oを導入する目的についてご紹介します。
新規顧客の獲得
まだ来店したことがない顧客に対してオンライン上でアプローチできるため、新規顧客の獲得に向いています。実店舗へ向けて顧客を誘導させたいと考えている場合、以前の販売戦略としては屋外広告の出稿、折込チラシの配布、ポスティングなどが一般的でした。そのため、店舗近隣の限定された地域のエリアには宣伝をかけられても、幅広い地域に宣伝をかけるということが困難でした。
O2Oが有能なのは、エリアを限定することなくマーケティングを行えるというだけでなく、さらにそれを低コストで実現できるという点です。オンライン広告を配信したり、クーポン情報を配信したりして、新規顧客の獲得につなげることが可能です。
再来店を促す
O2Oは再来店の促進にも大きく貢献します。一度訪れた店舗からのクーポン配信やSNSでの情報発信を行うことで、リピート率を高めます。リピーターを増やすことによってその企業の購買層も厚くなり、企業のブランド価値を高めることにもつながります。また、顧客との接触回数が増えることで顧客関係の強化も期待できます。
各顧客に最適なアプローチを行う
O2Oは顧客と最適なコミュニケーションを取るのに向いています。インターネット上にアップされた広告はリアルタイムで設定・変更を加えることが可能なため、使用期限が限られたクーポンの配布や数日間限定のセールといった内容も反映させやすい特徴があります。新規顧客限定のクーポン、リピーター専用クーポンなど、さまざまな顧客を対象にしたアプローチを行うことが容易です。
施策の効果測定が容易
先に触れたように、O2Oを駆使した販売戦略は「効果」が目に見えて分かりやすい特徴があります。オンラインで配布したクーポンは、店舗側でクーポンの利用枚数を確認すれば簡単に効果測定が可能になります。実施した販売戦略が成功したのかそれとも改善しなければならないのか、数値化させることで今後の検討も容易になるでしょう。施策は行っているものの、きちんとした効果計測ができていない場合におすすめです。
ちなみに、メリットばかりなように思えるO2Oですが、一方でいくつかの課題も抱えています。そのひとつが顧客単価の問題です。一般的に、客単価を上げる場合には商品の価格を引き上げたり、高グレード商品を販売したりする方法がありますが、O2Oはクーポンなど特典を活用して実施することが多いため、単価アップにはつながりにくい側面もあります。そのため、O2Oはあくまでも集客やリピート率の向上といった効果をメインに考え、顧客単価を上げる場合にはまた別の施策を考えるようにするのも手立てのひとつです
O2Oの実施方法
では実際に、O2Oの施策を実施する時にはどのようなツールや方法が用いられるのでしょうか。O2O施策として代表的なものを4つご紹介します。
O2Oの実施方法その1.店舗アプリの活用
スマートフォンの利用者数が増加している現代社会において、店舗アプリを利用することは非常に有用です。なぜなら、店舗アプリから情報を発信することで、ユーザーがどこにいても来店を促すことができるからです。
店舗アプリを活用するには、まずは顧客にユーザー登録をしてもらうことが重要です。顧客側にとっては手間がかかる行為でもあるため、初回の来店時にアプリのダウンロードやユーザー登録に対して十分なメリットがあることを伝えましょう。例えば、アプリ利用者限定のお得な情報を出すことを伝えたり、商品検索や予約が手軽にできたりするなど、特別感を演出するのも良い方法です。
同時にアプリのダウンロードの手間を減らす工夫も大切です。例えば、すでに登録者が多いLINEやTwitterにアカウントを開設したり、QRコードで簡単に利用できたりするような工夫をしてみましょう。顧客層を考慮して、自社のターゲットに合った方法を採用することが大切です。
O2Oの実施方法その2.クーポン配布やキャンペーンの実施
前述した店舗アプリやメールマガジンなどを利用して、クーポンやセールなどのお得な情報を利用して集客することができます。情報拡散そのものはポスティングなどオフラインの方法でも可能ですが、利便性を取るならオンラインで発信する方がいいでしょう。
さらに、店舗アプリやメールマガジンの利用者は店舗登録をしているケースが多く、そういったユーザーは特定の店舗に対して強い関心を持っている可能性があります。興味関心の度合いが高い顧客に絞って情報を発信できれば、確度が高い集客ができるようになります。
O2Oの実施方法その3.ECサイトと実店舗との連携
現在では、実店舗とECサイトを両方構えている企業も多く存在します。その場合、双方のサービスを連携させると顧客にとっては非常に好印象です。
例えば、ECサイトと実店舗の登録やポイントサービスを統一させる、ECサイトで購入した商品を実店舗で受け取ることができるようにするなど、相互補完的な役割を持たせると効率的です。実店舗で購入した顧客がECサイトを閲覧してくれたり、逆にECサイトを閲覧した顧客が実店舗に足を運んでくれたりするきっかけにもなるでしょう。
O2Oの実施方法その4.位置情報の活用
複数の店舗を構えているチェーン店が多いブランドでは、スマートフォンのGPS機能の位置情報を利用して集客する方法も行えます。例えば、来店時に店舗アプリにアクセスすることでポイントを入手できたり、ユーザーの近くにある店舗の情報を配信することで、手間をかけることなく店舗に足を運んで貰えたりするようになります。また、位置情報は店舗検索にも利用されるため、単純に利便性を向上させるうえでも重要でしょう。
OMOとオムニチャネルの違い
では最後にOMOとO2Oの概要を踏まえたうえで、オムニチャネルの概要とそれぞれの違いについてもご紹介します。
オムニチャネル(Omnichannel)は「すべてのチャネル(販路)」を意味する言葉で、マーケティング戦略としては、実店舗に加えてオンライン、テレビ、カタログ通販、SNSなどのすべての販路を統合することで、顧客があらゆる接点から商品を購入できることを目指すことを指します。
オムニチャネルが注目されるようになった背景には、EC市場がこれまでにない規模にまで成長し、小売業界にとってオンラインのチャネルが無視できないものになったという変化があります。かつてのように実店舗とネットショップのふたつに分かれて、売り上げを奪い合うという構図ではいずれ限界が来てしまいます。
また、モバイル端末が広く普及したことも要因のひとつです。現代では、店舗で商品を手に取ってみたり商品の説明を聞いたりしたうえで、その場で手元のスマホからネットショップに商品を注文するということも珍しくありません。このように現代の顧客は店舗というひとつの接点で購入を完結させずに、品揃えや価格といった観点からメリットのある接点を選択しているのです。
オムニチャネルでは複数のチャネルを統合し、シームレスに連携させることで、顧客の消費行動を統合したチャネル内で完結させ、機会損失を回避することを目的としています。例えば、店舗に商品在庫がない場合に店舗内の端末からすぐに在庫状況をチェックして注文することができたり、反対にネットで注文しておいた商品が配達されるのを待たずに近くの店舗で受け取れたりすれば、顧客と企業の双方にメリットを生み出すことができます。
オムニチャネルとOMOの違いは、各チャネルがオンラインとオフラインとに分断されているか、すべてのチャネルが常にオンラインにつながっているかという点にあります。
オムニチャネルでは、実店舗とECサイトのような、オンラインとオフラインに切り分けられた各チャネルを連携させることで消費者の購買行動を促すこと、つまりどこからでも買えるようにしておくことで機会損失を減らし、顧客からいかに買ってもらえるかを目指しています。
それに対してOMOでは、IoTやキャッシュレス決済などによって、あらゆる顧客接点が常にオンラインの中に取り込まれていることで得られるオンライン・オフライン双方のデータとIoT技術を活かし、ユーザーエクスペリエンスを向上させ、顧客にどの接点からでも買いたくなってもらうことを目指しているのです。