日本時間の2025年6月10日、Appleの開発者向け大規模カンファレンス「WWDC25」が開催されました。キーノートの目玉はApple製OSのUI刷新。その美しさにさすがAppleとため息を漏らした人も多いでしょう。もちろんWWDCはそれだけでは終わりません。アプリマーケティングの足下に影響を及ぼす新機能やアップデートも発表されています。
本記事では「App Store」「App Store Connect」に関する発表を中心に詳しくレポートしていきます。
「WWDC25」の目玉発表となったのが、Appleの各OSのデザインリニューアルでした。「Liquid Glass」と呼ばれるUIコンセプトは、その名の通り、流体とガラスにインスパイアされたもの。各パーツが透過されることで、背面のコンテンツが視認できるようになっており、ディスプレイ全体にコンテンツを表示し続けられます。
■Liquid Glassに対応したアプリのUI
このデザイン刷新はサードパーティのアプリにも大きな影響を与えることが予想されます。Appleはデバイス内の統一された体験を重要視しており、各種アプリにもLiquid Glassの採用を推奨。「今すぐに」という性質のものではありませんが、SwiftUIにはLiquid Glass対応の準備が整えられており、多くのアプリが徐々にLiquid Glassに最適化されていくことでしょう。自社のアプリでもどのようなUIが最適なのかを検討し始めてもいいかもしれません。
よりスピーディな対応が求められそうなのがアプリアイコンです。Appleは、「Icon Composer」という専用アプリを提供しており、Liquid Glass対応のアイコンを容易に作成できる環境を整えています。アイコンだけでも早めに新デザイン対応を進めてください。
■Icon Composerでのアイコン作成画面
なお、Appleの各OSのバージョン名は、個々のOSで独立したバージョン名ではなく、西暦を採用した「iOS 26」「macOS 26」という形式になることが発表されています。
iOSへのLiquid Glassの採用はデザイン上のものであり、ユーザー獲得やマネタイズをメインミッションとするアプリマーケターにとっては、関連性の薄いものと感じられたかもしれません。もちろんWWDC25では、より強くマーケティング業務に影響する新機能やアップデートも発表されています。ここからは、「App Store」「App Store Connect」の新情報を見ていきましょう。
アプリの検索性を高める目的で、App Storeに「App Store Tags（アプリタグ）」という機能が追加されます。App Store内の主要画面に表示され、タグをタップすることで、そのタグに紐付けられたアプリが一覧表示されるというもの。タグはアプリのメタデータ（説明、カテゴリ、キーワードなど）を基にAIが自動で生成し、その後、人間によるレビューを経て作成されます。
関連付けたいタグがある場合にはタグを選択することも可能。デベロッパーによるタグ付け機能はApp Store Connectで提供されます。ASO（アプリストア最適化）対策における必須施策となっていくかもしれません。
なお、App Store Tags機能は米国の一部アプリでテスト運用されており。UIは踏襲されることが予想できます。全地域、全アプリでの展開は2025年内の予定です。
複数のプロダクトページを作成し、流入元などに合わせて最適なページを表示することができるカスタムプロダクトページ。これまでは広告パフォーマンスの最適化を主たる目的として多くのアプリに活用されてきました。今回の「キーワード設定」機能の追加により、ASO対策により大きな価値を発揮することになります。
各カスタムプロダクトページに、アプリストア内検索に連動するキーワードを設定できるようになったのです。しかも、審査なしで設定可能です。例えば英語、中国語、フランス語に対応した語学学習アプリ。それぞれの言語用のカスタムプロダクトページを作成し、ページに合わせて「英語」「中国語」「フランス語」などとキーワードを設定しておけば、検索結果にそのカスタムプロダクトページが表示される可能性があります。この機能は2025年後半のリリース予定です。
文字の拡大、音声読み上げを代表例とするアクセシビリティへの対応をデベロッパーが宣言することによって、その対応状況がプロダクトページに表示されるようになります。基本的な内容は、2025年5月13日の「Apple、年内に導入予定のパワフルなアクセシビリティ機能を発表」と同じもので、現在はβ版の展開中。2025年後半に正式リリースされる予定です。
「オファーコード」は、わかりやすくいうとアプリ内課金の割引クーポンです。これまでApp Store Connectでは、自動更新サブスクリプション型のアプリ内課金に限って、オファーコードの発行機能を提供してきました。
WWDC25の発表でこの機能が大幅に強化されています。消費型、非消費型、非自動更新サブスクリプション型のアプリ内課金にも利用できるようになったのです。これにより、ゲーム内通貨や追加コンテンツの購入にもオファーコードを使用できるようになります。また、サンドボックス環境でもオファーコードの生成が可能になりました。この機能の提供開始は2025年後半の予定です。
個別アプリのプロダクトページに、AIが生成したレビューの要約が表示されるようになっています。基本的にはiOS18.4でβ版として公開されているレビューの要約機能と同等のものと考えるのがよいでしょう。
対象は「十分な量のレビューがあること」とされており、その内容は定期的に更新される（β版では「少なくとも週に1回」）とのこと。CVR改善のためのレビュー対策の重要性が増しそうです。また、生成されたレビューの要約とその最終更新日はApp Store Connectで確認でき、仮にデベロッパーが適切でないと感じる場合は、Appleにフィードバックを送信することができます。
App Store Connectの「App Analytics」が大きく生まれ変わります。100以上の新しい指標が追加され、アプリのグロースに必要な多様な分析が可能になるとのこと。代表的な改善点を以下に列挙するのでチェックしておきましょう。
App AnalyticsがApp Store Connectの「App」セクションに移動し、タブ形式で表示されます。各指標はユーザーのライフサイクルステージを軸に整理される形に。また、ひとつの指標に対して最大7つのフィルターを同時適用することが可能になりました。
「サブスクリプション」のセクションには、アクティブなプランや月間収益はもちろん、アプリのダウンロード元を示すデータが表示されます。
App Store内の類似アプリと、自社のアプリのパフォーマンスを比較することで、自社アプリの客観的な評価が可能になります。ダウロード数やCVR（コンバージョン率）、1ダウンロードあたりの収益などをチェック可能です。
「概要」タブでは有料転換するまでにどのくらいの期間がかかったのか、ダウンロード後にどれだけの金額を支払ったのかがわかります。また、同種のアプリとパフォーマンスを比較できるベンチマーク機能も搭載されました。「コーホート分析」タブでは、様々な指標のコーホート分析が可能。前述したサブスクリプション期間のコーホート分析もできます。
iPhone、iPad版のApp Store ConnectアプリにTestFlightからのフィードバックと通知をリアルタイムで受け取れる機能が追加されました。テスターからのフィードバックに対して、スピーディに対応できるようになり、アプリの信頼性を挙げることが可能になります。
実はもうひとつ、WWDC25に関連して大きな話題となったトピックがありました。それは、「『Safari』のプライバシー機能の強化」についてです。WWDC25当日の発表でも言及され、さらにAppleのWebサイトにも以下のように記載されています。
Browsing in Safari gets even more private with advanced fingerprinting protection extending to all browsing by default.
（日本語訳）Safariでのブラウジングは、デフォルトですべてのブラウジングに拡張される高度なフィンガープリンティング保護により、さらにプライベートになります。
引用：Apple elevates the iPhone experience with iOS 26
In our continuing efforts to improve privacy and protect users, Safari beta now prevents known fingerprinting scripts from reliably accessing web APIs that may reveal device characteristics, such as screen dimensions, hardware concurrency, the list of voices available through the SpeechSynthesis API, Pay payment capabilities, web audio readback, 2D canvas and more. Safari additionally prevents these scripts from setting long-lived script-written storage such as cookies or LocalStorage. And lastly, Safari prevents known fingerprinting scripts from reading state that could be used for navigational tracking, such as query parameters and document.referrer.
（日本語訳）プライバシーの向上とユーザー保護に向けた継続的な取り組みの一環として、Safari ベータ版では、画面サイズ、ハードウェアの同時実行性、SpeechSynthesis API で利用可能な音声リスト、Apple Pay 決済機能、Web オーディオのリードバック、2D キャンバスなど、デバイス特性を明らかにする可能性のある Web API への、既知のフィンガープリンティングスクリプトによる確実なアクセスを防止します。Safari はさらに、これらのスクリプトが Cookie や LocalStorage などのスクリプトによって長期間保存されるストレージを設定することも防止します。さらに、Safari は、クエリパラメータや など、ナビゲーショントラッキングに使用できる状態を、既知のフィンガープリンティングスクリプトが読み取ることも防止しますdocument.referrer。
引用：Apple elevates the iPhone experience with iOS 26
ただし、その適用範囲やインパクトについては専門家の間でも意見がわかれている状況です。Appleの新たな公式発表を静かに待ちながら、最悪の事態（既知の主要スクリプトによるトラッキングが不能になる）に備えて情報収集を進めておくのがよいでしょう。
今回、紹介したような現在の実務に役立つ確定情報も多数あります。まずは足下から自社アプリのグロースを目指して、各アップデートの活用法を検討してみてください。