「定期的な通知や小手先の仕掛けに頼らずにユーザーのエンゲージメントを維持するにはどうすればいいのか?」「何十回と遊んだあとでも新鮮で満足感のある体験を提供するには?」。これらはあらゆるグロースチームが直面する課題であり、ゲームデザイナーが日々取り組んでいる課題と同じもの。
この記事は、Kristen Berman氏が「Grindstone」のクリエイターであるJoel Burgess氏とDan Vader氏にヒットゲームの成功の原則を聞いたものです。
Grindstoneは、派手なグラフィックや安っぽいドーパミン刺激に頼っているわけではありません。Joel Burgess氏とDan Vader氏は、本質的なゲームデザインによってプレイヤーを夢中にさせる体験を創り上げることに注力しました。その結果、近年で最も満足度の高いパズルゲームが誕生したのです。

【1】ユーザーに「適度な摩擦」を与える
「Grindstone」というゲームの難易度はさほど低いものではありません。簡単には勝利を得られないのです。ユーザーは小さなチャレンジを乗り越え、戦略を考えることで勝利することができ、そのことが勝利をより価値のあるものにしています。
ここで重要なのは、ちょっとした抵抗をユーザーに与えること。このような「適度な摩擦(Good Friction)」がゲーム体験に深みを与えて、障害を乗り越えたときの達成感をより大きなものにします。
ここから得られる教訓はとてもわかりやすいものです。それは、すべての摩擦を排除することはエンゲージメントの向上に対して逆効果になり得るということ。ユーザーは努力をすることでより強い達成感を得て、プロダクトへの愛着を深めていきます。
掟その1:適度な摩擦(Good Friction)
すべての障壁を取り除くことを目指さない。ユーザーが自分の進歩を実感できるような挑戦を取り入れる。
【2】リテンションを高める「カムバック」の瞬間を作る
Grindstoneのデイリーランキングは24時間ごとにリセットされるため、プレイヤーは毎日、ランキング上位に入るための新たなチャンスを得ることができます。これにより、「いつでもトップに立てるかもしれない」という希望を持たせ、継続的なエンゲージメントを生みだしているのです。
また、勝者だけでなく、どのレベルの参加者にも報酬を与えることで、より多くのユーザーが競争に引き込まれる仕組みになっています。
これはJoel氏とDan氏が「カムバックメカニクス(Comeback Mechanics)」と呼ぶものの一部であり、たとえ苦戦していても「勝利はすぐそこにある」と感じられるように設計されています。この小さな希望の光が、プレイヤーに「もう一回だけ挑戦しよう」と思わせるのです。

マクドナルドの「モノポリー」キャンペーンを覚えているでしょうか。あのキャンペーンは、顧客に「また来よう」と思わせる仕掛けでした。アプリマーケターもゲームデザイナーのように考えてみましょう。ユーザーが楽しく、やる気を感じ、報酬を得られる体験を設計すれば、継続的な利用に繋がるはずです。
例えば、「Pipedrive」や「Salesforce」 のような営業支援アプリが、「どの顧客が最も早く成約するか?」を予想する機能を提供し、毎日、チームメンバーの予想を発表するような仕組みを導入したらどうでしょう。日々アプリを開き、自分の案件に新たな視点で関わる動機になり得ます。
掟その2:カムバックメカニクス(Comeback Mechanics)
ユーザーに「いつでも報酬を得られる」という期待感を持たせ、楽しみながら報酬を得られる体験を設計する。
【3】説明でなく「経験」でユーザーをオンボードする
Grindstoneはプレイヤーに過剰なチュートリアルを押しつけることはありません。その代わりに、プレイを通じて新しいゲームシステムを少しずつ学べるように設計されています。この「ステルスオンボーディング(Stealth Onboarding)」のアプローチによって、ユーザーは指示画面の煩わしさや負担から解放されるのです。
グロースチームにとって体験型学習を活用することは、オンボーディングをスムーズにし、アプリの本質的な価値体験へと、ユーザーを引き込むための有効な手段となります。

掟その3:ステルスオンボーディング(Stealth Onboarding)
オンボーディングを「体験」の一部として組み込み、単なる学習プロセスから脱却する。「実際に操作することで学べる」仕組みを作ることが重要。
【4】「希少性」「制限」で行動の価値を高める
当初、このゲームではプレイヤーに豊富な「ハート(ライフ)」を提供していました。しかし、それが緊張感やエンゲージメントを低下させることがわかりました。そこで、ハートの数を3つに制限したところ、一つひとつの判断がより意味のあるものとなり、成功の喜びが増したといいます。
この希少性(Scarcity)と制約(Constraints)が、プレイヤーのゲームへの没入感や熱中度を高める要因となったのです。
スーパーがある食品の購入数に「ひとり2点まで」という制限を追加すると、人々は自然とふたつ購入しようとするといいます。同様に、プロダクトでも特定の機能を制限すると(例えば、「Hinge」が「同時に8件のマッチまで」と設定しているように)、ユーザーはその枠をしっかり活用しようとするのです。
掟その4:希少性(Scarcity)と制約(Constraints)
制約を設けることで、行動や優先順位の決定を促すことができる。選択に実際の影響があると、人はより積極的に関与しやすくなる。
【5】競争だけでなく「体験の共有」を演出する
Grindstoneの「Daily Grind」モードは、全プレイヤーが毎日同じレベルをプレイすることによって、ソーシャルでの繋がりを生み出しました。共通の体験が単なる競争を超え、そして遊び心のある報酬を通じ、コミュニティ全体のエンゲージメントを向上させたのです。
例えば、毎日決まった時間までに回答を提出するトリビアゲームは、時間制限があってはじめて利用率が向上するとされています。もし、「社内メッセージは夜8時までに送信する必要がある」と制限を設けたら、使用頻度はきっと増えるはずです。「Trader Joe’s」 が人気のピーナッツバタープレッツェルを年に1カ月限定で販売するとしたら、その期間中により多くの人が購入することは想像に難くありません。

掟その5:体験の共有(Shared Experience)
ユーザーの行動を促す仕掛けとして、共通の「ミッション」「期間・時間制限」を活用することは、エンゲージメントの向上に繋がる。
グロース戦略をもっとゲームのように
Grindstoneのチームは、ゲームだけではなく、「何度もプレイしたくなる体験」を創り上げました。チャレンジ難易度のバランス、適切な制約、そして目に見える進捗を巧みに組み合わせることで、プレイヤーに強く響くプロダクトを生み出したのです。
これらの戦略はゲームに限ったものではありません。魅力的で満足度の高いユーザー体験を作りたいすべてのグロースチームにとって有効なアプローチとなります。ぜひ今回紹介した5つの掟をグロース戦略策定のヒントにしてください。