「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホ新法)」の施行(2025年12月18日)まで、すでに50日を切りました。Repro Journalではスマホ新法とアプリ外決済※に関する情報を継続してご紹介中。「明日から真似したくなる!?『アプリ外決済』国内市場の先行事例をチェック!【ゲーム編】」「同 【マンガ編】 」として、人気アプリの国内市場におけるアプリ外決済の工夫を見てきましたが、今回は現代における「投げ銭」文化を盛り上げ、多くの高額課金者を輩出しているライブ配信・動画配信系アプリのユーザー課金(アプリ内/アプリ外における決済)の姿と、その工夫について見てみましょう。
※現在はアンチステアリング規定により原則禁止となっているアプリから外部決済手段への誘導の解禁
TikTokは「サードパーティの手数料が割引」と明言。上限は440万円以上
世界的に使われている動画共有アプリTikTok。運営するBytedanceはEUのデジタル市場法で「ゲートキーパー」に指定されている企業であり、アメリカでも事業の所有権をめぐる話題が注目を集めてきましたが、この記事ではあくまでも日本国内アプリ市場におけるアプリ外決済・アプリ内決済の一例として見ていきます。
TikTokでは、ライブ配信や動画に対して「ギフト」を贈ることが可能で、そのために必要になるのが「コイン」です。コイン自体はアプリでもWebでも購入可能ですが、Webの購入画面では「サードパーティーの手数料が割引されるため、25%程度低価格」※1と明言しています。実にわかりやすいですね。
 (※画像引用:TikTok)※2
(※画像引用:TikTok)※2
価格差以外に、もう一つWeb側の決済で特徴的なのが「カスタム」という選択肢です。カスタムで設定可能なコイン数は30~2,500,000(2025年10月30日現在、2,500,000コインの場合、4,419,250円)と幅広く、自由かつ高額に支払価格を設定できる点は、アプリ外決済だからこそ。440万円以上の決済は普段投げ銭をしないユーザーには非現実的な金額ですが、石油王と揶揄されるような高額課金者にとっては、もしかしたらちょうどよい設定なのかもしれません。
※1:現在は「25%程度」の割引率となっているアプリ外(Web)決済ですが、アプリ内決済の場合にかかっている手数料(30%)がWebでは求められず、その一方で利用している決済事業者への手数料(多くの場合5%程度と想定されます)が必要になることを考えると、浮いた手数料分のほぼ全てがユーザーに還元されているようです。なお、今後アプリから外部決済への誘導が解禁されるのに伴い、プラットフォーム側から何らかのアプリ外手数料が設けられるとしたら、それに伴いユーザーに還元されている料率がどう変化するか、海外などの事例とあわせて注視していく必要があります。
※2:上記画像はRepro Journal編集部が2025年9月に実施したアプリ外決済に関する調査の際に撮影したスクリーンショットですが、この記事を作成した2025年10月30日時点で、金額にもよりますがアプリでは7%程度、Webでは3.3%程度、コイン価格が値上がりしていることが確認されています(例:3,500コイン購入の場合アプリは7,880円⇒8,480円、Webでは5,980円⇒6,190円)。この記事の主旨とは異なるため値上げについてこれ以上は論じませんが、特にグローバルな展開を考える際には、為替の変動や税率の変更などにも注視する必要があるようです。
「推しに10%プレゼント」推し活心理を巧妙にくすぐるMirrativ(ミラティブ)が達成した「四方良し」
スマホで簡単にゲーム配信ができるアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」。このアプリでも、配信者にギフトを贈るためにはコインが必要です。キャンペーンやミッションでもコインを獲得できますが、やはり大きな役割を果たすのがアプリ内ストア、あるいはWebストアでの購入です。
Webコイン販売ページでは、「購入したコインの10%があなたの推しにプレゼントされる!」と宣言。期間限定ではあるものの、毎月9日~月末での開催となれば、3分の2はキャンペーン期間。しかも一般的な給料日パターン(毎月25日・月末・10日など)をその範疇に収めた日程ということもあり、給料日に脇目もふらず課金に走る投げ銭ジャンキーには、素晴らしく絶妙な期間設定……と考えるのは穿ちすぎでしょうか。いずれにしても、Web決済で発生する推しへの10%プレゼントが、課金者の本来の目的である「推し」への貢献に直結することは間違いありません。
 (※画像引用:Mirrativ(ミラティブ))
(※画像引用:Mirrativ(ミラティブ))
ただでさえ「推し」へのギフトを目的に購入されるコイン。さらにWeb側のストアからの決済であれば、コインを購入するだけで推しにプレゼントされる……つまり二重にプレゼントできるのであれば、コイン購入の大義名分として申し分なく、中毒性はより一層高まると言わざるを得ません。
今後のアプリ外決済の可能性を考える上でも、「推し」という価値観を利用するのは実に興味深い取り組みであると言えるでしょう。
もう一点、同アプリが提携しているエポスカード(クレジットカード)での支払いであれば、おまけで増量されるコインがさらに増える点にも注目です。
「ミラティブ推し活カード」として、推し配信者デザインのカードが発行可能で、カードの利用金額に応じて推し配信者にコインを渡せるという取り組みを実施しているミラティブ。さらにコイン購入の際にエポスカードを使うことでおまけコインが付与されるということは、
- コインを販売すればするほど利益が出るアプリ事業者
- カードが使われ、コインが購入されればされるほど、決済による手数料が発生するカード会社
- カードで買えば買うほどコインが多く付与される購入者
- ファンがカードを使えば使うほどコインが還元される配信者
と、関係する誰もがうれしい結果になります。支払い方法が限定されるアプリ内決済では決して達成し得ない「四方良し」の施策と言えそうです。これを見ればアプリ外決済が、マーケティングの手法としても有効に活用できることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
Pococha(ポコチャ)がコインのラインナップを統一した理由
もう一つ、ライブ配信(LIVEコミュニケ-ション)アプリの代表格「Pococha(ポコチャ)」の興味深い取り組みについても見てみましょう。
配信者(ライバー)にアイテムを投げ銭として送る際に使われるのが「コイン」です。ご多分に漏れず、ポコチャでもアプリ内ストアより、ロイヤルチャージ(WEB版Pocochaでのコイン購入)の方がお得に購入できることは言うまでもありません。
そんなポコチャでは、2024年にコインの「ラインナップの統一」が行われました。
 (※画像引用:Pococha)
(※画像引用:Pococha)
変更以前は「アプリ内で購入できるコインとロイヤルチャージで購入できるコインのラインナップが統一されておらず、どちらがお得に購入できるのかが分かりづらい状態」(コインのラインナップと価格の変更について Pococha-JP FAQ より)だったそうです。
過去の記事でも見てきましたが、実際に他の多くのアプリでは、コインやジェム、ポイントといったアプリ内通貨の販売単位がアプリとWebのストアで異なる場合があり、直観的な比較が難しい場合が少なくありません。
参考までに、上の図版では実際の価格差と割引率を掲載してみました。しかし一つひとつ見比べるまでもなく、どんな時でもWebから購入する方がお得であることがわかります。
一度の決済あたりの支払額が多く、その差額が直接「推し」への貢献に反映されるライブ配信アプリであれば、手元に残るコイン量の差は他のアプリの比ではない価値を持つとも言えるでしょう。そんな時に、販売価格の差が一目瞭然となるのであれば、アプリ外決済を選ぶ動機付けが増えることは想像に難くありません(少なくとも、アプリからWebの決済に遷移した際に一度立ち止まってしまいそうな障壁は取り除かれています)。特に、競うように投げ銭を続ける頭に血が上った廃課金ユーザーにとっては、瞬間的に違いが確認できるメリットは何物にも代えがたい価値があるはずです。
こういったユーザービリティ・ユーザー体験への配慮も、今後アプリ外決済の導入を考えている方にとっては参考になるのではないでしょうか。
「推し」とアプリ外決済は相性がよいのかもしれない? とはいえ投げ銭は計画的に
自分の財布への影響だけならさほどこだわらず、割引やオマケには振り回されない鷹揚な人であっても、「推しのため」であればより多くの成果(コイン)を求めることは大いに考えられます。そんな時、単にコイン量や販売価格に差をつけるだけではなく、ここまで見てきたような「推しへのメリットにもつながる」という視点での訴求や、わかりやすさ、使いやすさを研ぎすます改善は、決済回数の増加、決済金額の上昇につながり、事業の売り上げにも直結する重要な要因となりそうです。
とはいえ、いくら便利になったり、課金を最大限推しへの貢献につなげられたりするとしても、ユーザー側の視点からは、あくまでも常識の範囲内で、計画的に投げ銭を行うように心がけたいものですね。
※本記事に掲載されている社名、ロゴマーク、サービス名、商品名等は各社の商標、または登録商標です。
※本記事に記載されている内容は2025年10月30日時点の情報に基づいており、価格や販売内容等のデータは変更されている可能性があります。
※本記事内のアプリ内/アプリ外決済に関する価格は、特に指定がない場合すべて税込みです。