2025年12月の「アプリ新法」施行に向け、日本国内でも「アプリ外決済」が現実の選択肢となっています。すでに国内企業が配信するアプリでもアプリ外決済の動きが広がっていますが、実際の数値や影響を明らかにした国内事例については、ほとんど存在しないのが実状です。そこで今回の記事では、2025年4月に判決が出たEpic Games対Apple裁判の影響を受けてアメリカ国内で広がるアプリ外決済の事例をもとに、その影響や可能性についてみていきます。
※本記事は、2025年8月20日に開催されたRepro株式会社主催セミナー「アプリ外決済・アプリ課金が変わる!『外部決済シフト』完全攻略セミナー」の内容を再編集したものです。
「Fortnite裁判」を受け、アメリカで広がるアプリ外決済事例
「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホ新法)とアプリ外決済について解説した記事「『スマホ新法』で収益モデルが変わる?アプリ外決済の歴史と、外部決済シフトのためのチェックポイント」では、2015年12月に日本国内で施行されるスマホ新法の制定に至るまでの世界的な動きや、アプリ事業者が外部決済の導入を検討する際にチェックしておきたいポイントについてお伝えしました。
同記事内でご紹介した通り、「Fortnite」をめぐるEpic Games対Appleの裁判の結果、アメリカ国内ではアプリ外決済にかかる手数料がiOSアプリで0%となり、アプリから外部決済サイトへの誘導も可能になっています(2025年9月現在)。
その影響から、アメリカではアプリ外決済を導入したアップデートや、複数の決済手段の違いによるコンバージョン率の検証も行われるようになりました。今回は、その中から3つの事例をご紹介しましょう。
アメリカ国内でのアプリ外決済導入・検証事例
■「Spotify」が外部決済への直接リンクを設置

2025年4月30日に出されたEpic Games対Apple訴訟の判決およびAppleの規約更新を受け、同5月2日にiOS版「Spotify」がアップデートを実施。アプリ内に自社Webサイトでの購入オプションや料金情報を表示し、外部決済ページへのリンクを設置したのです。Appleもそれを承認し、アプリ外決済へのリンクを備えたバージョンのSpotifyがApp Storeで公開されました。
もともとSpotifyはAppleへの手数料を回避するためにアプリ内決済を利用しておらず、さらにアプリから外部決済ページへのリンクや導線の設置を禁止した「アンチステアリング規定」のため、Webの決済ページへのリンクも設置していませんでしたが(これは2025年9月時点での日本版Spotifyも同様)、このアップデートの公開後、正確な数値は非公開ながらPremiumプランへのアップグレードが増加したとSpotify側は発表しています。
さらにSpotifyの決算発表を見ても収益が大きく伸びていることから、アプリ外決済や手数料に関する動きが、海外のアプリ事業者にとって現実に大きな意味を持っているといえそうです。
【関連リンク】Apple approves Spotify app update that allows US users to access pricing info, external payment links(TechCrunch)
【関連リンク】Spotify Reports Second Quarter 2025 Earnings(Spotify)
■断食アプリ「Kompanion」による決済の選択肢

断続的な断食をトラッキングし、減量や健康管理を支援するアプリ「Kompanion」を提供しているStoikk社は、Fortniteをめぐる判決を受けアメリカ国内でアプリから外部決済サイトへのリンクが可能になると、迅速にアプリ外決済を導入。Kompanionでは、ユーザーがアプリ内のオンボーディングと質問への回答を完了した段階で、以下の2つの選択肢が存在する決済画面を表示する新たなフローを開始しました。
- 「Pay on web to save 25%」(アプリ外のWeb決済ページに遷移)
- 「Continue」(割引のない従来のアプリ内決済に進む)
数日間のテストを行った結果、ユーザーがWebでの支払いを選択した場合でもコンバージョン率の低下は見られない(むしろ微増している)というテスト結果が出たといいます。
ただし、これはあくまでも短期的な実験の一例であり、Web遷移後のスムーズなユーザー体験や支払い方法の設定なども影響していることから、すべてのアプリで同様の結果が出ると判断するのは時期尚早かもしれません。
【関連リンク】No drop in conversions, launched in days:How Stoikk capitalized on the App Store ruling(paddle)
■Dipsea× RevenueCatの検証

サブスクリプションプラットフォームを提供する「RevenueCat」が、オーディオブックアプリ「Dipsea」の決済フローを使い、従来のアプリ内決済とWeb経由のアプリ外決済、さらにその両方の選択肢を提示するサブスクリプション購入のパフォーマンスを比較する実験を行っています。
同社は、Dipseaアプリ内のペイウォールを以下の3パターンで出し分けテストを実施。各パターンごとに3100人以上のユーザーの経過を3週間にわたり観察しました。
- アプリ内決済のみを表示(以下、IAP)
- アプリ外(Web)決済のみを表示(以下、Web)
- アプリ内決済(標準価格で7日間の無料トライアルあり)とWeb決済(年間30%OFF価格)の両方を表示(以下、IAP+Web)
それぞれの初期コンバージョン率を見ると、IAPのみが表示されたユーザーが約27%と最も高く、Web決済のみが表示されたユーザーは約18%と最も低い数値に(IAP+Webは約23.5%)。Web決済フローでは多くのユーザーが離脱してしまいました。2回クリックして顔認証をすれば完了するアプリ内決済と、Webサイトへの遷移後に情報入力やID作成など様々な手間が必要になるアプリ外決済とでは、ユーザー体験として明確な差が出てしまっていることがわかります。
ところが、7日間の無料トライアル期間を経て有料プランへコンバージョンしたユーザーまで追跡すると、ふたつの選択肢を提示したIAP+Webが約28.2%と最も高い結果に。さらに初期CVRが低かったWeb決済のみのパターン(約26.3%)が、IAPのみのパターン(約25.0%)をわずかながら上回る結果になったといいます。
しかしWebサイト経由のアプリ外決済におけるトライアル後の継続率が高くても、初期コンバージョン(トライアル開始)の圧倒的な低さを補うには至っていません。単純に手数料率だけを見るのではなくユーザー体験を考えるのであれば、アプリ外決済が唯一解になるわけではないことは認識しておく必要がありそうです。
【関連リンク】Web vs in-app subscriptions: Web subscriptions result in 6% drop in takehome revenue(RevenueCat)
日本国内のアプリ外決済事例は?
入り口としてのコンバージョン率はアプリ内決済とアプリ外決済でどう変わるのか。その後のLTVまで見た場合にどちらがすぐれているのか。あるいは両方の選択肢を示して選んでもらうことで何かが変わるのか。アプリ外での決済にいたるまでのフローをユーザー体験としてどこまでよいものにできるのか。……今回取り上げたようなアメリカの事例は、アプリ外決済が現実のものとなりつつある日本国内のアプリにとっても、今後大いに研究するべき余地がある取り組みと言えそうです。
コンバージョン率や継続率まで明らかにした日本国内のアプリ外決済の事例については、まだほとんど存在しませんが、一方で、すでに多くの国内主要アプリがアプリ外での決済手段を導入していることもわかっています。
実際にアプリ外決済を導入している国内外のアプリ事例や方法、ユーザー体験の最適化に向けて考えられるソリューションなどについては、今後のRepro Journalや、Reproが実施するセミナーなどでもご紹介していく予定です。
【おしらせ】10月3日(金)、アプリ外決済のオフラインイベントを開催します

2025年10月3日(金)、スマホ新法の基礎的な内容から、事業者が取るべき戦略までをざっくばらんに語り合うオフラインイベントを、Repro株式会社イベントスペース(JR/大江戸線 代々木駅 徒歩3分)にて開催します(参加無料)。
これからのスマホ新法やアプリ外決済にまつわる対応やお悩みについて気軽にディスカッションしたいアプリ事業者様におすすめのイベントです。さらに、国内主要アプリの外部決済事例に関する解説も予定しています。
詳細・お申し込みは以下のリンクからご確認ください。
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