安藤彩子氏に訊く:CRMに心酔。きっかけとなった原体験とこれからの在り方

山﨑 信潔
山﨑 信潔
2023.01.25
安藤彩子氏に訊く:CRMに心酔。きっかけとなった原体験とこれからの在り方

目次

CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)というマーケティング手法が日本に根付き始めてから15年ほど。その黎明期から第一線でCRMの発展をけん引してきたのが、現在は株式会社パルコ(以下:パルコ)でデジタル推進部 部長を務め、また、株式会社顧客時間(以下:顧客時間)ではCRMプランナーとしても活躍されている安藤彩子さんです。「顧客との関係を構築する」とは一体どういうことなのか。ご自身のキャリアと現在のチャレンジを紐解きながらじっくりとお話をうかがいました。

聞き手:Repro株式会社 千田 侑実

お客様のためにすべきことを突き詰めた先にCRMがあった

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――トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社(以下:トリンプ)、株式会社ユナイテッドアローズなど、数々の有名企業でCRMの推進役を担ってきた安藤さんには、CRMの旗手というイメージがあります。実際にCRMに携わり始めたのはいつだったのでしょうか。

安藤 タイミングとしては2007年か2008年くらい。私がトリンプに在籍していたころからです。といっても当時はいわゆる販売促進のチームにいて本格的なCRMを実施していたわけではありません。お客様との関係性という側面で考えると、ポイント会員様に対してのキャンペーンやメルマガ配信に携わっていた程度でした。

そんな中でポイントサービス刷新のプロジェクトが開始され、当時、紙のポイントカード入会申込書で取得していた会員情報をデジタル経由とし、正確にデータ化することに取組みました。入会申込書で取得していた顧客情報には、氏名、住所、電話番号、生年月日などありましたが、紙に手書きということもあり顧客データとして扱うには情報として足りないこともありました。取得したい項目が空欄、崩して書いてあるときは判読できないなどの理由でデータが欠けてしまうということがあり、活用できるデータとして整備しなおす必要があったのです。さらに、せっかくメールマガジンを配信しているのにメールアドレスがお客様の情報と紐づいていないという状況もありました。

顧客情報を整備しなおすならメールアドレスとの接続ができる仕組みを作ろう、お客様ごとに適切なメールマガジンを送れるようにしよう。こうして始まったのが、私とCRMとの関係ですね。

――CRMの本当に第一歩のところから取り組みを始められたのですね。

安藤 そもそも「CRMをやってほしい」というミッションを与えられたわけでもありませんでしたし、「CRMをするんだ」という強い意識もありませんでした。販売促進業務の一環として、顧客情報のデータ化があり、ポイント会員制度やメールマガジンの改善がありといった形です。でも、真剣に取り組んでいくと、お客様のことを知るためにデータを分析する必要がある、分析した結果をコミュニケーションに活かしたくなる。「あれ、これってCRMなんじゃないか」と考え方が変化していったイメージです。

ロイヤルティを醸成してお客様と長期的な関係を築く。教科書通りだけどこれが本質

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――いま、安藤さんは顧客時間でCRMプランナーと名乗られています。そこまでCRMにのめり込んでいった理由はどこにあったのでしょうか。

安藤 いまでこそCRMに心酔しているといえるほどですが、当初は迷いもありました。実は、はっきりとシフトチェンジするきっかけがあったのです。それが、トリンプ在籍時に参加させていただいた、マーケティング関連の共同研究とそれに基づくデータ分析や施策立案の経験です。

当時の私はデータの取り扱いや分析に関するリテラシーも低く本当に手探りだったのですが、周囲のサポートを得ながら顧客の分析に取り組んでいきました。そこで出てきたのが「高ロイヤルティ」「低ロイヤルティ」「バーゲンハンター」という顧客セグメント。

高ロイヤルティはメイン商品を定価でご購入いただいている方々、低ロイヤルティは低価格帯の商品を定価でお買い上げいただいているお客様です。バーゲンハンターはメイン商品をセール価格で購入されている層ですね。

このセグメントに合わせて、例えば高ロイヤルティの方にはメイン商品のニューモデル情報を提供する、バーゲンハンターのセグメントにはセール情報を配信するといったマーケティングを検討、実施していたのですが、データを詳しく見ているうちにふと気づいたんです。バーゲンハンターは低価格商品をさらに安く購入しようとしているわけではないということに。

安さだけに価値を感じているわけではなく、高品質なものをできるだけお得に手に入れたいという志向が強い方々なのです。であれば、メイン商品の品質の良さをもっとわかりやすく伝えたり、次回に使えるお買物券をプレゼントしたりといったコミュニケーションで高ロイヤルティの顧客になっていただけるかもしれないですよね。

顧客のデータを分析して、適切なコミュニケーションを取ることでビジネスに貢献できる。このことに気づいた瞬間に「CRMって本当に大切な仕事なんだ!」と実感して、CRMを追求したくなっていったんです。

――なるほど。明確な原体験があったのですね。以降も様々なご経験をされてきたと思うのですが、CRMに対する向き合い方や気持ちは変わりませんか。

安藤 CRMの定義はビジネスモデルによってそれぞれですが、私の中では「CRM=ロイヤルティを醸成してお客様との長期的な関係性を作っていくこと」という点に変化はありません。教科書通りの答えなのかもしれませんが、これは自分の体験を通じて実感したもので、私の心に深く刻み込まれています。

――安藤さんが出演されている他のインタビューで拝見したことがあるのですが、顧客との時間に重きを置いてらっしゃいますよね。

安藤 はい。CRMは瞬間風速的に購買量を増やすことが目的の取組みではありません。長いお付き合いの結果として購入量が増えていくと捉えることが重要だと考えています。

例えば、CRMに携わっていると必ずといっていいほど実施するのがRFM分析です。この分析やそれに基づいたコミュニケーション立案はとても有用なものなのですが、「これだけでお客様のロイヤルティを判断しきれるのかな?」という疑問もあって。自分が何に引っかかっているのかと考えたときに頭に浮かんだのが時間の長さの概念なのです。

そんなときにすごく共感できたのがLTV(ライフタイムバリュー)の考え方でした。バリューだけでなくライフタイムを重視したい。過去、現在、未来という時間軸の中で、お客様とのかかわり方を考えていくのがCRMの本質的な部分なのだろうと思っています。

これからのCRM組織に必要なのは「同質化しないインクルージョン」

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――最後に現在のお仕事とこれからのチャレンジについてもうかがわせてください。パルコという存在は単なるショッピングセンターではなく、文化の発信基地の役割も担っていると感じています。ファッションあり、アートあり、エンターテインメントありと様々な要素が融合していますよね。そこには多様な価値観を持つ様々なお客様がいると思います。CRMをどのように推進していらっしゃるのでしょうか。

安藤 大切な点のひとつはやはりデータを見ることです。どの企業も同じなのですが、「うちのお客様はこういうものだ」と思い込みで定義してしまいがちです。パルコがかかわるお客様のニーズは実に多様です。そのような中で勝手な思い込みを排除して真にお客様に向き合うためには、データという事実から出発することが非常に重要なことだと考えています。

――なるほど。だからこそ2022年11月には「PARCOメンバーズ/PARCO ID」という形での、お客様ID一元化も必要だったのですね。

安藤 それぞれのお客様のニーズに対応するためにはどうすればいいかという観点では、組織の「ダイバーシティ&インクルージョン」を意識することもありますね。
※ダイバーシティ&インクルージョン=人々の多様性を受け入れ、個々の特性が活かされている状態のこと。

私自身、パルコでの社歴が浅いのでパルコの魅力をすべて理解しきっているかというと大いに自信があるわけではありません。しかし、外から見たパルコの良さや、パルコを好きになる理由はすごくわかっている。一方で、一緒に活動しているメンバーの中には新卒入社で20年以上パルコに勤務されている方もいます。もちろん、まったく違う業界から転職して働いているメンバーもいます。

パルコの価値や魅力を発信しようという想いは同じなのに、メンバーによって見方も感じ方も異なります。だからこそ業務を進めるうえではいろいろなメンバーとディスカッションを重ね、様々な角度からパルコを見て、パルコのどんな一面をお客様に見ていただきたいのかを検討しています。それが、CRMやコミュニケーションの企画へとつながっていくはずなのです。

また、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉を考えるとき、最近では特にインクルージョンの重要性に注意を払っています。

多様な個性がそのままに組織に存在していることが大切なはずなのですが、組織に順応した結果、多様な個性だったものが同質化してしまっているケースを見たり、感じたりしたことはありませんか。

インクルージョンは単に多様性のあるメンバーを同化して組織内に存在させることではないんですよね。多様性が発揮され、ビジネスの発展に寄与してこそのインクルージョンなんです。

多様な価値観を持ったまま、パルコというものを見て、感じ、お客様にお伝えする。ひとつのゴールに向かっていれば、意見が異なっても協力し合えます。むしろ、違うものがぶつかり合うからこそ、お客様に価値を提供するために切磋琢磨ができるはずなんです。組織を率いるもの、CRMプランナーを名乗るものとして、今後も真剣に取り組み、チャレンジしていかなければならない領域だと考えています。

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プロフィール

安藤 彩子(あんどう あやこ)

株式会社パルコ
デジタル推進部 部長
安藤 彩子(あんどう あやこ)

化粧品・アパレルなどのメーカー・小売企業を経て、2018年 パルコ入社。各社にて、CRM戦略策定・ロイヤルティプログラム構築・顧客コミュニケーションプランニング・顧客データ分析・ポイントサービス開発運用等、CRM/デジタルマーケティング関連業務に従事、サービスリニューアルやCRMシステムリプレイスのプロジェクトを推進。
現在は、➀デジタルタッチポイント構築運用 ②自社ポイント・自社コード決済システム構築運用 ③システム基盤構築 ④データ分析活用 ⑤デジタルテクノロジー(XR等)活用を担うパルコデジタル推進部を統括。

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