「アプリのユーザーオンボーディングのすべて Vol.1 - 役割と重要性 -」の記事では、オンボーディングがなぜ、どれだけ重要なものなのかを紹介しました。本記事ではより実践的に、優れたオンボーディングを構築するためのアプローチとベストプラクティスについて解説していきます。
アプリのオンボーディングにおける主要戦略
メリット訴求重視のオンボーディング
オンボーディングには主に3つのアプローチがあります。ひとつめは「メリット訴求重視」のオンボーディングです。この手法はユーザーに提供できる価値に焦点を当てています。そして、「アプリのユーザーオンボーディングのすべて Vol.1 - 役割と重要性 -」で説明した、マジックナンバーの実行を促進し、エンゲージメントとリテンションの向上につなげるのです。
このアプローチはヘルスケアアプリやファイナンスアプリなど、習慣化が重要なカテゴリで一般的に利用されています。ユーザーのモチベーションを高める方法としては非常に優れているからです。
下のスクリーンショットを見るとわかる通り、「Fastic」はオンボーディングフローのいたるところで、健康上のメリットを強調しています。
出典:Fastic
「YNAB」アプリもその一例です。このアプリのユニークな点はアプリのメリットについて明確に言及していないことです。代わりにユーザーからの口コミを掲載することで信頼性を獲得しています。
出典:YNAB
機能説明重視のオンボーディング
ふたつ目のアプローチは「機能説明重視」のオンボーディングです。メリット訴求と似ていますが、より機能を強調したものと考えてください。独自の機能や高度な機能を有しているアプリのオンボーディングに最適です。
機能説明重視のオンボーディングの多くはチュートリアルを通じて、ユーザーにアプリの使い方を理解してもらうものです。SNS管理アプリの「Hootsuite」の例を見てみましょう。
各オンボーディング画面がそれぞれ特定の機能について説明しているのがわかるはずです。
出典:The User Onboarding Journal
プログレッシブ・オンボーディング
最後のアプローチは「プログレッシブ・オンボーディング」です。「インタラクティブ・ウォークスルー」とも呼ばれ、重要な瞬間にポップアップやダイアログなどを表示します。
例えば「Evernote」の場合、初めて画面を閲覧したユーザーに向けて役立つツールチップを表示しています。
出典:Evernote
このオンボーディングの最大のメリットは、ユーザーを置き去りにした一方的なコミュニケーションにならないことです。独自の機能や複雑なUI、機能を持つアプリにとっては非常に有効な手段といえます。さらに重要なのは、この手法を使うとアプリの使用開始を妨げる障害を最小限に抑えられること。これを段階的エンゲージメント(gradual engagement)といいます。
GoogleのプロダクトディレクターであるLuke Wroblewski氏はこの手法の重要性について次のように述べています。
段階的エンゲージメントを用いると、ユーザーと直ちにコミュニケーションを開始でき、アプリの価値やユーザーが関心を持つべき理由を伝えることができます。せっかくダウンロードまで辿り着いたユーザーの75%を無理なサインアップによって失わずに済むのです。
もちろん、すべてのアプリがこの手法を採用すべきだというわけではありません。アプリ開発におけるどのような段階においても、採用するアプローチはアプリによって異なります。電卓アプリにインタラクティブなウォークスルーは不要でしょう。
アプリのオンボーディングフローに共通する要素
まったく同じオンボーディングはひとつとしてありません。しかし、いくつかの共通点はあります。ここではよく見られる3つの要素を紹介します。多くのアプリデベロッパーの参考になるでしょう。
インストラクション
最初は「インストラクション」。ユーザーにアプリの使い方を教える役割を担った要素です。これは、オンボーディングの一部としてほとんどのアプリに導入されています。ユーザーの教育が、リテンションやアプリの適切な利用には必要不可欠だからです。
例えば、「Robinhood」アプリにおける「Robinhood Learning」は、アプリのオンボーディングの基本を体現しています。Robinhoodのユーザーに金融リスクを最小限に抑える方法を学んでもらうのです。
出典:Ilonah Pelaez
メリット・機能訴求
続いて紹介する要素は「メリット・機能訴求」です。オンボーディングの一環として、アプリのメリットや機能を説明するパートです。このパートではアプリの操作方法だけを解説するのではなく、機能を活用することによって得られるメリットについて説明します。
「Slack」のオンボーディングでは、アプリの主要な機能とそのメリット、それがどのように役立つかをリストアップして紹介しています。
出典:UX Booth
カスタマイズ
最後の要素は「カスタマイズ」です。このパートを追加すると、ユーザーがアプリ体験を自分好みに調整できます。
例えば「X」の場合、オンボーディングでユーザーの興味・関心についてたずね、それに関連するアカウントを提案してフォローを促します。
出典:UX Booth
ただし、余計な選択肢を与えないことも重要です。まずはアプリをスムーズに始めてもらうために必要なオプションだけを提供しましょう。ユーザーの口座情報は早急に必要かもしれませんが、UIのカラー設定はあとからでもよいはずです。できるだけ早くアプリを利用し始めてもらうことがオンボーディングの目的であることを忘れないでください。
アプリのオンボーディングのベストプラクティス
最後にオンボーディングを改善するためのテクニックをいくつか紹介します。
コアとなる機能に絞り込んで訴求する
アプリの機能やメリットが複数ある場合、オンボーディングの時点では最大でも3つにフォーカスするのがベストです。アプリの本質を最もよく表すものを選んでください。端的でコアな機能に焦点を当てたオンボーディングが特徴的な「Trip.com」はその好例といえます。
出典:UXCam
コアな機能に限定することで、ユーザーを置き去りにする心配がなくなります。伝えたいアイデアに、さらに注目させることができるというメリットもあります。
初期状態の画面を最適化する
アプリの初期状態が完全に空っぽの状態になっていると、新規ユーザーがアプリを使用し始めるハードルが高くなります。SNSのタイムラインに投稿が表示されなかったり、Todoアプリのリストが空だったりといった状況を思い浮かべてください。この影響を最小限に抑えることが重要です。
優れた方法のひとつとしてデモコンテンツの活用があります。「Xero」アプリはこの手法を上手に採用しています。
出典:Smashing Magazine
最低限、空っぽの状態の代わりに、ユーザーに役立つ情報やアプリを使ってもらえるようなコピーを表示しておくべきです。「BBC」アプリはこのアプローチを採っています。
出典:Alex Mathew | Linkedin
アプリデベロッパーにとって、初期状態の画面の最適化はわずかな変更かも知れません。しかし、ユーザーの心理状態には大きな影響を与える可能性があることを頭に置いておいてください。
サインアップのタイミングを遅らせる
すぐにサインアップを求めることは、「アプリを正しく、十分に活用してもらう」という意味では正しいように思えます。しかし、オンボーディングの際には逆効果になる可能性があります。サインアップは、新規ユーザーにとってハードルの高い複雑なプロセスだからです。下のグラフがその事実を示しています。
■ファネル別ユーザー離脱レポート
出典:OpenView
サインアップで多くのユーザーが離脱していることがわかるでしょう。これを防ぐためにはサインアップを要求する前に、アプリを十分に体験してもらうことが大切。「eTaro」では、サインアップ前にアプリを自由に閲覧できます。アカウントの登録が必要になるのは取り引きを開始する直前です。
出典:eToro
ときには、アカウントなしでの利用も選択肢に入れてください。アカウントが必要な場合でも、サインアップは後回しにしたほうが有益な場合が多いでしょう。
オンボーディングを任意にする
オンボーディングは非常に重要なものですが、任意にするのもよいでしょう。すべてのユーザーが丁寧なサポートを必要としているわけではありません。使い慣れたユーザーからすると、それが逆効果になることもあるのです。
この場合は、ユーザーがオンボーディングを途中で終了させることができるスキップボタンを常に用意しておくべきです。
出典:Apptimize
さらに、オンボーディングをやり直せる選択肢も用意しておきましょう。インストール時には必要がなくても、将来的に必要になるときが来るかもしれないからです。使い方がわからなくなったときにユーザーが復習をする機会にもなります。
約束した価値を提供する
オンボーディングはユーザーのモチベーションを高め、アプリの利用を促すものであるべきです。しかし、それによって透明性や誠実さを犠牲にしてはいけません。オンボーディング中に約束したことは必ず守ってください。さもないと、確実にユーザーを失うことになるでしょう。
オンボーディングの品質はアプリのリテンションを左右する
全2回にわたって、オンボーディングの重要性や改善アプローチ、ベストプラクティスについて解説してきました。オンボーディングの内容や品質は、アプリのリテンションやエンゲージメントに大きな影響を与えるものであることが十分に理解できたはずです。
もし、初回起動後のリテンションレートに課題を抱えているのであれば、オンボーディングの設計に着目し、改善を図ることをおすすめします。想像以上の効果を得られるかもしれません。