AIプロジェクト成功の条件とは? 最前線プレーヤーが最新テクノロジーを用いた顧客体験を語る【CEC next #2】

Repro Journal編集部
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2020.09.10
AIプロジェクト成功の条件とは? 最前線プレーヤーが最新テクノロジーを用いた顧客体験を語る【CEC next #2】

目次

2020年8月5日(水)、オンラインセミナーで開催された「CEC next(Customer Engagement Conference next)」。

Session1では、先進企業各社の代表取締役、執行役員の方々をお招きし、最新テクノロジーをどのように活用してエンゲージメントを高めているのか、経営視点から語っていただきました。
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それぞれの取り組み紹介

中澤:テクノロジーとは、より良い顧客体験を実現していくために使っていくものですが、本当の意味で顧客体験にテクノロジーを活用できている会社はまだあまりないんじゃないかと思っています。このセッションでは、高度なレベルでテクノロジーを活用されている3名に来ていただき、お話を伺っていきます。

輿水:アスクルと聞くと、コピー用紙といったオフィス用品の購入でご利用いただいてる方も多いと思います。私は個人向けの日用品を販売する「LOHACO」の事業を担当しております。2012年にサービスを開始し、現在年商500億円ほどのサービスになっています。

奥村:私はもともと大手のインターネット関連事業会社でAIのプロダクトマネージャーを務めていました。昨年に「Pairs」という恋活・婚活マッチングサービスを提供するエウレカに入社しまして、データダイレクターというポジションから意思決定のための分析やAI活用などデータに関するあらゆる領域に関わっています。

:FABRIC TOKYOはオンラインを基軸にしたオーダーメイドのスーツやシャツのビジネスウェアブランドです。特徴としてはリアル店舗をやっていることでして、小売店でもあるにもかかわらず、ITをフルに活用して顧客体験を作っています。

ビッグデータとAIで「当たり前」のサービスレベルの底上げを狙うアスクル社

輿水:今回はあえて、アスクルの物流領域における取り組みをご紹介させていただきたいと思います。通信販売サービスを提供している事業者にとって、物流がお客様の体験に大きな影響与えるため、かなり大きな投資をしています。特に法人向けのサービスでは、品切れやお届け遅延が命取りになります。

こちらはアスクルのサプライチェーンを物流軸で図にしたものです。赤が自動化している業務、グレーが人が行なっている業務です。

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倉庫の中で働いているメンバー1人あたりの生産性は、10年前と比べると2倍ぐらいに伸びているのですが、それでも人手に頼っている部分が多いというのが実情です。就労人口が減り、かつEC需要が高まっていく時代に対応できるような仕組みを作っていきたいと思っています。

ここ数年、ビッグデータとAIの技術活用が加速していると感じています。例えば配送では、これまで職人技的な経験と勘で決められていた配送ルートを、長年収集してきたビックデータをもとにシステムを組み上げることで、お届け予測時間の精度は格段に上がりました。

このシステムの裏では、トラックやドライバーの位置、道路の混雑、気象データといった100を超えるデータの中から、何がどのように影響したのかをAIを活用して分析し、より精度の高い配送時間を予測することを可能にしています。また、これまでは新人のドライバーが一人前になるまで半年から1年掛かっていたところ、このシステムを活用することで、いち早く即戦力になることができます。

中澤:物流の自動化が実現すると、顧客体験にはどのような変化が起きるのでしょうか。

輿水:お客様がECに期待する要素には、すぐ届くこと、欠品が起きないことが挙げられるのですが、実はそれを実現するのは本当に大変なんです。その要素を「当たり前」にすることで、お客様がよりストレスを感じなくなることが一番の変化ですね。

データと定性で、十人十色のマッチング精度向上に取り組む「Pairs」

奥村:データダイレクターという立場から、エウレカではどのようなデータ戦略を作っているかをご紹介します。エウレカのデータ戦略では、会社の意思決定をサポートするデータアナリスト部隊の「BI(Business Intelligence)」、データを使って新しく便利な機能を提供する「AI」、そしてAIとBIが価値を最大化できるようデータを管理する「Data Management」、この3つの歯車を噛み合わせることにフォーカスしています。

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では具体的にどのようなことをしているのか。まずひとつは「安心・安全のための取り組み」です。恋活・婚活マッチングサービスは、人と人が出会うサービスですので、安心・安全であることは最低限のラインになります。

もうひとつがマッチングアルゴリズムです。

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この人とこの人の相性が良さそうだ、ということをうまく数値化し、推薦することに注力しています。サービス開始の頃からデータドリブンでマッチング率を上げてきているのですが、最近はさらにAIを活用して体験を磨いていくというフェーズになっています。

中澤:お客さんがマッチングで満足する状態とは、どのように定義しているのでしょうか。

奥村:定量的なKPIでは、どれくらい「いいね」を送っているか、その「いいね」がどれくらいマッチングに結びついたのかを追ってはいます。

ただ、人と人との出会いは本当に十人十色なんです。ひとつのマッチングを取り上げても、その人にとって本当にかけがえのないマッチングかもしれないし、そこまでのマッチングでなかったかもしれない。つまり、数字上は同じ1マッチングでも意味合いが異なるのです。そこで定性的な調査としてユーザーインタビューやアンケート調査も活用しながらいい体験が提供できているか観測しています。

ビッグデータによって初めて分かることも多いのですが、様々な分析をしていると逆にデータの限界が見えてくることもあります。ここまではデータですぐに分かるけど、これ以上先のデータ分析は相当コスパが悪いぞ、と。そこは定性とデータ、ハイブリットで組み合わせる領域だと思うのです。

RaaS、OMOの最先端をいくFABRIC TOKYO

:FABRIC TOKYOではオンラインでは取得しにくい3Dスキャンの体型データだけでなく、通勤方法や食事、運動、お客様の好みといったライフスタイルのデータを取得していることが特徴です。オンラインではなかなか取得しにくいデータであるため、リアル店舗で定性データを集め、お客様の満足度を高める施策を行なっています。

最近では「小売りのサービス化」をテーマに掲げており、RaaS(Retail as a Searvice)ビジネスに挑戦しています。月額課金のサブスクとして、物だけでなくサービスも販売していく形で有料課金サービスを手掛けています。

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また、「STAMP(スタンプ)」という無人型店舗で3Dスキャナーによる採寸ができ、後日オーダーメイドのデニム製品が届くサービスにも取り組んでいます。「LINEで会員登録して、LINEで予約して、LINEで購入できる」というLINE上で完結する購入体験になっています。

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「STAMP」のブランドとして、ジーンズだけでなく他のアイテムへの横展開をしていく予定でして、より総合的なアパレルブランドにしていくことがひとつの目標です。1回スキャンしておけば、大きく体型が変動しない限りは、試着なしでもECで完結するという購買体験になります。

ただ、それだけだともったいないと社内でも話しており、「データのオープン化」も目指しています。アパレル以外の分野へ活用ができるのが体型データだと思うので、そうした横展開もやっていこうかなと思っています。

全社一丸で「ユーザーに良い体験を届ける」ことに向き合うこと

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中澤:テクノロジーを顧客体験に活用していくためには、バリューチェーン全体、組織全体を合わせていく必要がありますが、皆さんはどのように組織を作ってきたのでしょうか。

輿水:顧客体験を良くしていくことを考えると、自分たちの部署の範囲だけで考えても良いものは出てきません。部署をまたいで、みんながいろんなことに口出しできる、越境して意見を言える組織にならないと、顧客体験を良くすることはできないんだなと感じています。

特に優秀なキーパーソンや若手で将来有望な人材をジョブローテーションさせることはありますね。また、前述の物流による顧客体験はプロジェクト単位で進めており、そこでは複数部門を経験している人間がうまくハブになってくれている実感がありますね。

組織の半分以上をテック人材にするということでしょうか。組織のメンバーだけでなく役員もです。IT企業の働き方を経験している人をトップに据えることが大事だと思います。

奥村:ここにはふたつのキーワードがあると思っています。1つは「越境」で、チーム外の関係者と協力しやすいチーム体制を作ること、もうひとつは「ゼロイチを作りきるAttitude(姿勢)」です。

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特にAIのプロジェクトは、AIチームだけが頑張れば完結するプロジェクトではないのです。分析結果をどうやってシステムに組み込むかまでを、AIチームだけでなく現場のプランナーやエンジニアも理解していないといけない。また、AIの出力は確率的でして、90%正しいけど10%は不確かなものをユーザーさんに提供してしまうかもしれません。そこで組織全体でその10%をどうケアしていくか、試行錯誤を繰り返しながらラーニングを回していかねばなりません。

:AIのプロジェクトにおいて、成功するものと失敗するものの違いはどこなんでしょう?

奥村:技術的な要素もありますが、成功するケースって明確な目標とやり切る勢いがあるんですよね。「ユーザーに良い体験を届けるんだ!」という出口が全然ぶれてなくて、そこにみんなで「こと」に向かっている。そういうマインドがちゃんと作れているチームは、仮にビジネスインパクトが少なかったり、手段としてのAIが質素なものだったとしても何らかの成果は必ず出してくれます。逆にシステマチックにAIを入れようとしているだけだと、途中でどこかで行き詰まってしまいます。

まずは足元の組織を変えていくことが、DXの第一歩

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中澤:最後に皆さんから一言ずつ、これからのテクノロジーと顧客体験について、注意していくべきポイントをいただければと思います。

輿水今あるものをデジタル化するという発想ではなく、そもそもの業務プロセスを見直すところが大事だと思っています。ゼロベースで考えてみると劇的に業務プロセスが改善することはよくあります。あらゆるものをデジタル化してみる、例えば「会議はなくてもいいんじゃない?」みたいなところから考えてみることで変わっていくことがあるのではないでしょうか。

奥村:最新テクノロジーと聞くと、すごくキラキラしたような、未来・SF的なことを考えがちです。しかし、そうした新しいものを取り入れるためには、ちゃんと新技術を柔軟に受け入れられる組織を普段から育成できているかが全てだと思っています。当たり前のことに聞こえますが、そうした技術をトライし続けられるようなチームビルディングを足元からやっていくことが、やはり一番堅実で最短ルートです。

:まずひとつは10倍思考を持っておくこと。数%の改善はROIが合わないことがほとんどで、せっかく新しい技術に取り込んでいくのであれば、何倍もの効果が出るような思考法で考えたほうが良いと思っています。

ふたつ目は、組織のマネジメントと育成です。弊社では部署横断のトライプロジェクトというものがあります。各部門のメンバーがひとりずつ集まり、経営陣が出したお題に取り組むというものです。組織のハレーションがなくなり、社員の学びとなる良い機会提供になります。
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