Booking.comのA/Bテスト文化が浮き彫りにした4つの重要なユーザーインサイト

Repro Journal編集部
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2025.07.17
Booking.comのA/Bテスト文化が浮き彫りにした4つの重要なユーザーインサイト

目次

「Booking.com」はA/Bテストを科学のレベルにまで引き上げ、一度に何千ものテストを行っています。Booking.comの元プロダクトディレクターであるKristina Gibson氏は、「The Irrational Mind」ポッドキャストでのKristen Berman氏との対談において、それらのテスト結果から世界中のプロダクトチームが学べることについて語りました。以下はプロダクトチームが活用できる4つの重要なユーザーインサイトです。

なお、Kristina氏がBooking.comに在籍していたのは2019年頃であるため、本記事で紹介するテスト結果は現在サイト上に反映されていない可能性があります。

この記事は、Irrational Labsのブログ “4 Product Testing Results from Booking.com’s Experimentation Machine” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。

【1】売り切れ:戦略的な希少性の演出が意思決定を促進する

ECサイトで商品に「残り1つ」と表示されると、それを逃さないために急いで購入する消費者がいることはよく知られています。「Booking.com」はさらに一歩進んで、「売り切れ」になっているホテルも表示しました。購入できない商品をわざわざ表示することにどんな意味があるのでしょうか。CVR(コンバージョン率)の低下も懸念されます。

Booking.comが実際に「売り切れ」ラベルをテストしたところ、驚くべき結果が得られました。売り切れの宿泊施設を予約可能な施設と並べて表示したことで、予約数全体が増加したのです。利用できない選択肢をあえて提示したことが、ユーザーの「今ならまだ予約できる施設を逃したくない」という心理を刺激したと考えられます。

ユーザーは、サイト内に表示されている「残り●室」というメッセージが単なるセールストークではないこと、そして実際にホテルが満室であるという事実を目の当たりにし、購買意欲を促進されたわけです。

Booking.comはさらに、「現在●人がこのホテルを閲覧中」や「あなたの日程は●%埋まっています」といったリアルタイムのシグナルを示すことで、この心理効果をさらに強化しています。

プロダクト担当者が学ぶべきポイント

最近のユーザーは「期間限定」という表示に見慣れてしまい、本当に限定されている、つまり希少性があるとは感じなくなっているかもしれません。「売り切れ」ラベルのような、ユーザーに対して「嘘や誇張をしていないこと」を示す具体的なシグナルを加えることは、あなたのメッセージをより真剣に受け止めてもらうきっかけになる可能性があります。

もちろん、この手法を乱用するのは危険です。消費者はそれを見抜き、ブランド価値の低下を招きます。しかし、考え抜かれた「本当の希少性」は、人々の行動を強く後押しします。特に、旅行のように失敗した場合のリスクが大きく、ついつい先延ばしにしてしまいがちな意思決定ではなおさらです。

このアプローチの実践例

  • マッチングアプリの「Hinge」は1日にマッチングできる数を制限することでエンゲージメントを高めている
  • マクドナルドは人気の「モノポリー・プロモーション」をあえて期間限定で展開している
  • 国立公園は、環境保護と訪問者の体験の質を維持するため、1日の訪問者数を制限している

【2】トイレットペーパーつき:ほんのわずかな追加情報が不安を軽減する

宿泊施設に関するほんの小さな詳細情報の追加が、予想以上に大きなCV数の増大をもたらしました。一見当たり前のことや、些細に感じられる情報を明示することが予約数を増加させたのです。

  • ホステルでは「ベッド近くに充電用コンセントあり」と記載する
  • ホステルでは「トイレットペーパーつき」と記載する
  • ホテルでは、一般的な表現(「朝食つき」)ではなく、具体的な表現(「とてもおいしい朝食」)と記載する

こうした一見、無意味とも思えるような具体的な詳細情報が、意思決定の瞬間における不安を軽減しました。

プロダクト担当者が学ぶべきポイント

潜在顧客や購入検討者は、あなたが提供している商品やサービスが本当に良いものなのか、自分のニーズを満たすものか、それを超えるものかを慎重に見極めようとしています。あなたがすべきことは、この検討期間中に生じる不安を取り除くことです。

ユーザーが抱く懸念や不安を解消する具体的な詳細情報を提示し、その効果を検証しましょう。ときには、小さな情報ひとつが意思決定を左右することもあるのです。

このアプローチの実践例

  • 「Airbnb」はホストからの具体的な返信時間を表示している
  • 「Amazon」は配送日を範囲ではなく、正確な日付で表示している
  • 「Zappos」は靴のサイズを細かく記載している

【3】写真を厳選する:ビジュアルは本当の価値を瞬時に伝えてくれる

ホステルの場合、標準的な客室の写真よりも共有スペースの写真を掲載するほうが効果的だと、Booking.comは発見しました。二段ベッドが宿泊予約を促したのではなく、「コミュニティの雰囲気」こそが魅力だったのです。そのため、写真のカルーセル表示を調整し、最初に共有スペースを見せるようにしました。

プロダクト担当者が学ぶべきポイント

適切なビジュアルは、多くを語らずとも瞬時に価値を伝えることができます。単にプロダクトの機能をわかりやすく示すだけでなく、顧客が実際に購入している「本当の価値」を伝えましょう。

このアプローチの実践例

  • 「Peloton」は自転車のスペックよりもコミュニティ性を強調している
  • 「WeWork」は単なるデスクスペースではなく、コラボレーションを売りにしている
  • 「Airbnb」は無人の客室ではなく、その空間を楽しむ人々を見せている

【4 】無料キャンセル:不要なリスクの排除が大きな決断を促す

「無料キャンセル」は、Booking.comにおいて最も強力なコンバージョン向上施策のひとつとなりました。この施策は追加の運営コストを生じさせましたが、予約決定の際に「決定が最終的なものではない」と感じさせることで、予約数が大幅に増加したのです。大きな購入決定を前にしたユーザーは、万が一のための安心材料を求めているのです。

プロダクト担当者が学ぶべきポイント

重要度が高い意思決定では、単にファネルを最適化するだけでなく、「リスクを取り除く」ことに重点を置きましょう。

このアプローチの実践例

  • 「Warby Parker」は自宅試着プログラムを採用している
  • 「Zappos」は返品送料無料サービスを実施している
  • Appleはデバイスに対する14日間の返品ポリシーを採用している

A/Bテストはボタンの色を変えるだけのものではない

Booking.comのA/Bテストは、単にボタンの色を変えて結果を比較するだけのものではありません。ユーザーが旅行を決定する際の行動を体系的に分析し、その意思決定をより容易にする仕組みを構築しています。そして、同社の成功は、迅速で反復的なテストと、顧客の行動原理を理解した戦略的思考とのバランスによってもたらされています。

プロダクトのパフォーマンスを向上させるためには、こうしたテスト文化の浸透や行動科学の理解と応用が非常に重要です。まずは今回紹介した4つのユーザーインサイトが自社のプロダクトに活用できないかを検討してみてください。

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