2020年8月5日(水)、オンラインセミナーで開催された「CEC next(Customer Engagement Conference next)」。
セミナー最後を飾るWrap up Sessionでは、各Sessionでお話いただいたSpeakerの方々に再度登壇いただき、ボジショントークなしのフリートーク形式で顧客エンゲージメントを語っていただきました。
「エンゲージメントが高い」とは信頼関係が深く、より顧客が能動的である状態
中澤:弊社Reproでは、企業のエンゲージメント支援を行っておりまして、「エンゲージメントが高いって、具体的にはどんな状態?」「どうやって定量的に測るんだっけ?」と悩んでいます。「エンゲージメント」の定義と測り方について、ぜひ皆さんの意見や事例を教えてください。
そもそも、「ロイヤリティ」と「エンゲージメント」の違いを定義しておきましょうか。「(ブランド)ロイヤリティが高い状態」とは、顧客からブランドへの忠誠心が高い状態であり、一方通行なイメージです。一方、「エンゲージメント」は、「結婚する」「誓約する」といった言葉から派生しており、「エンゲージメントが高い状態」とは顧客との信頼関係が深く、より顧客が能動的であるイメージですね。
志賀:ロイヤリティが高い状態よりも、エンゲージメントが高い状態のほうが推奨意向、つまり顧客が友達におすすめする可能性が高いということですよね。ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)ではLTVやNPSの値が高い、あとは顧客がGDOを褒めてくれる、好きになってくれる行為が多いことが、エンゲージメントが高いという評価になると思います。また、「一人ひとりの会員IDに対してコメントを残す」「アンケートを書いてくれる」といった、能動的なアクション数はデータで取得しています。
輿水:弊社ではLTVをすごく重視しています。他にも、NPSや第一想起率を定量的に追っています。定性的は話では、公式LINEアカウントからメッセージがきても、イラッとされない関係は、エンゲージメントが高い状態だと思いました。エンゲージメント高ければ、忙しいときにメッセージを送られても、「今忙しいから後で見よう」と思うはずです。
変数ではなく、段階的に顧客エンゲージメントを評価する
藤井:NPSを追っていくと、どれだけの頻度で接してくれているのか、つまり「粘着性」との関わりがあると思っています。サービスという台の上にどれだけ乗っているか、というイメージです。それはロイヤリティやNPSだけで定量的に指標化するのは難しいですね。弊社のSaaS事業ではヘルススコアの数値だけでなく、「毎日使ってくれている人が何人以上いるか」「決裁者がコンセプトに納得しているか」といった、いろんな要素にブレイクダウンしていました。
顧客エンゲージメントを追っていくおすすめの方法がひとつあります。顧客の成長シナリオやステップを段階的にいくつか設定し、それぞれの段階ではどのような状態であるのが望ましいか、定量的に定義していくのです。
輿水:弊社ですぐ離脱してしまうお客様の分析と、逆にロイヤリティ化するお客様の分析をしたことがありました。そこで、「何カテゴリー以上買うととてもロイヤル化する」「来訪頻度が何日以上来なくなったら離脱する」といった顧客行動の兆候がわかるようになり、それを今はステージ化して追っていますね。
中澤:量的変数ではないステージのような概念で、いくつかの要素をクリアするとレベルアップしていくという考え方ですか。
藤井:いろんな要素が絡まってエンゲージメントは評価されていますが、ゲーミフィケーションの要素があるのかもしれないですね。
中澤:ブログサービスの「note」には、「達成バッチ」という機能がありますよね。初めてコメントしたり、投稿したりするとバッジが溜まっていくというものです。
藤井:従来型のECサービスの会員だと、購入金額で会員ステージが決まってしまいますが、サービスへの理解度合いをちゃんとスコアリングしていく形の方が、やっぱり今らしいなと思いますし、それがエンゲージメントにもつながりますよね。
中澤:人間関係においてエンゲージメントが高い関係とは、お互いのことをよく知ってる状態でもありますよね。なじみのお店で、なじみの店員さんができると、自分のことを知ってもらいたいと思うじゃないですか。
藤井:自己開示ですね。「自分のことよく知って、よく接客してほしい」という欲求がお客さんに生まれてくるとエンゲージメントは高くなるし、企業からのアクションに対しての反応率も高くなります。
自社のサービス内でも、先回りした顧客体験は実現できる
中澤:顧客体験を考えた時に、いかにお客さんの困るであろうこと、やりたいであろうことを、先回りして解決することがカギだなと感じました。ただ、先回りして解決するためには、商売とは関係のない範囲でも顧客を把握する情報やデータがないと先回りができないなと。顧客を把握するためのデータ接点に対する投資は、現実的なのでしょうか。
藤井:段階があると思っています。サードパーティも含め、データを統合していくには倫理的な問題とデータ統合のコストの問題があります。政府レベルまでやろうとする動きもありますが、それには特定のフォーマットにデータを合わせなくてはならず、そこで制約を受けて逆にイノベーションが生まれにくくなる構造になります。
それよりも、もっと前の段階でできることがあるのではないでしょうか。例えば、タクシー配車サービスの「DiDi」というワンサービス内だけでも、顧客の状況を把握して先回りしてくれています。その次の段階では、自社の複数サービスを購入頻度や使用頻度別に分けて、上手くデータ統合してあげれば、もっとわかることは増えるはずです。
そこで小さく成功事例を作って売上成果につなげていくと、データ接点に対する予算はより通りやすくなっていくのではないでしょうか。
DX成否のカギは「視点転換」。どのタイミングで危機感を持つか
中澤:顧客体験の再構築と絡めたDXに取り組まれている企業は増えてきました。しかし、まだまだできていない企業もあります。そうした企業と、できてる企業の最大の違いはどこにあるのでしょうか。
藤井:いろんな阻害要因がありますが、まったくDXに興味がないトップがいると厳しいですよね。結局のところ、視点転換が一番重要であり、危機感をどのタイミングで持つかという話だと思います。世界がどんどん変わっていき、従来型の産業が続かなくなる中で、10年前に変化を予見して動くのか、きつくなってから動き始めるのか、それとも動かずに潰れてしまうのか……。
知識や組織、業務基盤の固定化も阻害要因として挙げられると思います。未来をみんなで議論する時間やジョブローテーションといった、新しい情報を入れていく仕組みが、DXができている企業にはあると思います。
輿水:セクショナリズムや部門の壁を超えた相互理解がないと、DXには苦労するんだろうなと思います。
志賀:柔軟性と、あとスピードもあります。環境変化にどれだけ即座に対応できるか。今回のコロナ禍への対応もそうでしたね。
中澤:成功事例である企業には、垣根を超えた組織的な化学反応がすごく当たり前に起きているなと感じています。
毒にも薬にもなる「顧客からの声」にどう向き合うか
中澤:カスタマーエンゲージメントを考えていくときに一番大事なのは、どれだけ顧客目線になれるかだと思います。ただ、どの企業も「顧客目線を持て」とは言いますが、日常的な会議体のなかで顧客体験や顧客が求めているものが議論になることってあまりないな、と。ただのお題目としてではなく、顧客目線で物事を考えていくにはどうすれば良いのでしょうか。
藤井:弊社ではカスタマーサクセスと開発がちゃんと連携するようにしており、「今こんな意見がきています」といった良いフィードバックも、悪いフィードバックも伝えています。
そこのフィードバックをアンケートにしてしまうと、サイレントマジョリティの声ではなく、意見が強い発言ばかり取り上げられる構造になってしまいます。そうならないために、ヒアリングにいく部隊が意見を取りに行くようにしています。
輿水:アスクルに入社して驚いたのですが、カスタマーサポート部門からお客様の声をまとめたメールが毎日届くし、しかも社長含め全員目を通しているんですよ。アナログですが、社員が集まるランチスペースにもお客様のいい声と厳しい声が張り出されていました。
志賀:GDOでもカスタマーボイスを現場に出したことはあったのですが、結局モグラたたきになってしまうんですよね……。1つひとつの意見を受けて場当たり的に直していくと、現場がどんどん疲弊します。
そこで、事業部やサービス開発者にお客様の意見を渡すときは、優先順位で並べてその事象をまとめてあげるようになりました。そのためにもNPSを導入しています。
藤井:「ユーザーボイスしらみつぶし問題」は、いろんな企業で起きていますよね。お客様の声ではなく、できれば行動指標で見るべきだと思います。お客様の声に解釈を入れて仮説を持って解消できるようになると、「ユーザーボイスしらみつぶし問題」がなくなり、一個上のまとまった課題を切り分けることができます。そうすると、本当に重要な課題だけにフォーカスできるようになります。
中澤:お客様の声と向き合うためのリテラシーを、いかに組織的に高めていけるかが、顧客目線を理解することにつながるのではないかと思いました。
カスタマーエンゲージメントとは、顧客を憑依させ、仕組み化させること
中澤:最後の質問です。皆さんにとって、カスタマーエンゲージメントとは?
志賀:お客さまに寄り添うことです。
藤井:ちょっと近いですが、ユーザーになることだと思っています。
輿水:一人ひとりのお客様と社会的な関係性を作り、それをいかにスケールアウトさせ、実現できる仕組みを作るかということ。
中澤:ひとりの店員としてではなく、会社として顧客との関係を構築しようとすると、マーケターは顧客を憑依させないといけないし、それを組織で回るような再現性のある仕組みにしないといけない。今日はありがとうございました。