Androidは何年も前からモバイル端末でのWebプッシュ通知に対応していましたが、Appleはそれに対応していませんでした。
数年にわたって、多くの人気ブラウザが次々とWebプッシュ通知への対応を発表をしてきました。しかし、Safariはこの機能を提供しない異端児として扱われてきたのです。
この記事は、OneSignalのブログ ”How iOS16 Mobile Web Push Updates are Changing the Game for Web-First Companies” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.
iOS 16がWebプッシュ通知に対応した
ついにWWDC 2022において、2023年までにはiOSのSafariがWebプッシュ通知に対応することが発表されました。(その他のニュースとして、新たなロック画面体験やLive Activities APIについても発表された)
iOS 16の登場によって、Webファーストの企業(本記事ではWebサイトを主要な顧客接点とする企業やビジネスを「Webファースト」と呼んでいます)はユーザーをひきつけ、事業における重要な目標達成を促進するような革新的な方法を手にするのです。
Appleは世界のモバイル端末シェアの半数強を占めており、iOS端末でWebプッシュ通知が可能になったことは、Webファースト企業に対して、とてつもなく大きなビジネスチャンスが提供されることを意味します。
Webファーストの企業にモバイルファーストなエンゲージの仕組みを提供する
すべての企業が、モバイルファーストで顧客とのエンゲージメントを高めるよう努めなければならないのは明らかです。しかし、Webファーストの企業にとって、モバイルユーザーのエンゲージメントはひとつの課題となっていました。モバイルアプリを所有している企業は、タイムリーなプッシュ通知を打つことで、ダイレクトにリエンゲージメントを図ることもできます。しかし、Webファーストの企業は、iOS端末を利用しているユーザーに対して代替チャネルを利用して、接触を図らなければならなかったのです。
結果として、Webファーストの企業はSMSやメールなどのプッシュ通知に代わるコミュニケーション手段を利用して、エンゲージメント戦略を改善する必要がありました。
企業がWebファーストモデルを選択する理由
モバイルアプリの開発には多くのコストやリソースの投資が必要です。
Webファーストモデルで成功している企業にとって、アプリ制作に必要な時間とリソースを投資しても、それが最終的に自社のマネタイズモデルに貢献しないというケースはよくあります。
リソースに制限があるWebファースト企業は、モバイルアプリ開発に投資することが現実的でない企業の一例であり、代わりにWebプッシュ通知を通じてモバイル端末を利用するユーザーとのつながりを作る必要があります。
また、資金がほとんどない起業家やアーリーステージの企業も同様でしょう。企業の多くはアプリ開発に投資できるだけのリソースがないのです。
アプリ開発するメリットがないWebファースト企業の例をいくつか挙げてみましょう。SNSマーケティングや独立系コンサルタント、写真やデザインサービスなどがその一例です。
例えば、標準的なB2B事業のオーディエンスについて考えるなら、平日はほとんどデスクトップPCで仕事に向き合っているわけですから、Webファーストモデルにこだわる必然性があります。B2B企業がアプリ開発を考えるのは、ステークホルダーやクライアントとの接触が容易になったり、ユーザーの業務にかかる負担がより軽くなったりする場合程度でしょう。
モバイルファーストのユーザーを獲得するためのアプリ開発のトレードオフを考える場合、そのアプリがターゲットユーザーに直接的な利益を提供できると確信できるときにのみ、開発に踏み切るべきでしょう。
アプリを活用していない現代の企業にとって、Webプッシュ通知はiOSユーザーにリーチするための有効な代替エンゲージメントチャネルとなっていくはずです。
iOS端末でWebプッシュ通知が必要な理由
iOSユーザーのエンゲージメント戦略として、Webプッシュ通知を利用することの重要性を示す統計データをいくつかご紹介します。
- Safariは世界のブラウザシェアの約20%を占めている
- メールでのCTRが2~3%であるのに対し、プッシュ通知の平均CTRは8%である
- iPhoneユーザーの平均年収が53,000ドルであるのに対して、Androidユーザーの平均年収は37,000ドルである
- 加えて、iPhoneユーザーは月平均101ドルもハイテク製品に費やす、高支出なセグメントである
- Webプッシュ通知は上位Webサイトの8%以上で実装されている
Webプッシュ通知への対応に関する簡単なおさらい
Appleがモバイル端末でのWebプッシュ通知に対応しなかったことが、チャネルとしてのWebプッシュ通知の普及と実用性を劇的に遅らせてきました。たとえ、Apple端末にWebプッシュに対応したブラウザをインストールしていても、ユーザーはWebプッシュ通知を受け取ることができなかったのです。
2015年、ChromeがWebプッシュAPIに対応する最初のブラウザになりました。現在では、Windows、macOSのChromeやFirefox、macOSのSafariなど、多くのブラウザがWebプッシュに対応しています。Webプッシュ通知の登場以来、ターゲットをAndroidユーザーとする開発者は、Webプッシュチャネルを活用してユーザーにリーチし、より統一感のあるモバイルWeb体験を実現しています。
そしてついに2022年初頭、AppleはiOS 15.4のベータ版で、モバイル端末のWebプッシュ通知に対応することを示唆しました。そして、WWDC 2022で、このテック界の巨人は2023年初頭にWebプッシュ通知に対応することを発表したのです。Webプッシュ通知を送信するために、ブラウザは標準的なW3C Push APIを実装します。このフレームワークは、ChromeやFirefoxなど、非iOSブラウザでは標準的に使用されているものです。
Webプッシュ通知を実装する方法
【1】 基本の仕組みを知ろう
Webプッシュ通知を実装する前に、どのようにエンドユーザーに表示されるか、また、どのように送信されるのかを理解しましょう。
Webプッシュ通知はユーザーのスクリーンの端に表示されます。さながらアプリのプッシュ通知のようです。モバイル端末では、ユーザーがWebブラウザを起動していれば、画面の上部、または右側に表示されます。
配信されたWebプッシュ通知をユーザーがクリックすると、ユーザーは企業が指定したURLにアクセスできます。なお、Webプッシュ通知の配信は許諾制で、このコミュニケーションチャネルにユーザーがオプトインする必要があります。Webプッシュによる体験はブラウザによって異なります。画像やその他の要素を自由に実装できるものもあるのです。
プッシュ通知の配信には、NotificationAPIとPushAPIの2つのAPIが必要です。各ブラウザは、Webプッシュ通知の配信にそれぞれ異なる通知配信サービスを利用しています。ChromeはFCM(Firebase Cloud Messaging)、SafariはAPNS(Apple Push Notification Service)、FirefoxはMDN Serversです。
Webプッシュ通知を送信するためには、WebプッシュサービスからWebベースのSDKをサイトにインストールする必要があります。
【2】許諾フレームワークの理解
Webプッシュ通知はSMSやメールと同じように許諾をとった上で成り立つチャンネルです。SMSやメールと比較すると、Webプッシュは簡単に実装することができます。
モバイル端末でのWebプッシュのオプトイン手順は通常のWebプッシュとほぼ同じです。ただし、ふたつ重要な相違点があります。カスタムWeb許諾プロンプトがどのように表示されるか、ネイティブブラウザのWebプッシュ許諾がどのように表示されるかです。モバイル端末において、ネイティブブラウザのWebプッシュ許諾通知は画面全体に表示されます。
【3】許諾の取り方は戦略的に
モバイル端末でWebプッシュ通知の許諾を得る場合、いつ、どのように、そしてどんな質問をすることで、ユーザーがWebプッシュ通知の許諾をしたくなるのか、戦略的に考えましょう。許諾を得るときは、すべてのユーザーに対して同じような許諾の取り方をするのではなく、少しづつアプローチを変えることで、ほとんどの企業は許諾を高い確率で取れるようになります。
ネイティブプロンプトを遅れて表示させる
無機質なアプローチ方法を回避するためにも、ネイティブブラウザのプロンプトの表示を遅らせ、パーソナライズされたインセンティブメッセージを送信しましょう。
ユーザーとの最初のコミュニケーションでWebプッシュ通知の価値を伝えることができれば、登録者を増やし、ブランドに対する信頼感を与えることができます。最適なWebプッシュプロバイダで、カスタムプロンプト、ベルプロンプト、もしくはカテゴリースライドダウンメッセージを駆使することで、許諾リクエストに対してより高い対応が可能です。
強力なマーケティングオートメーションプロバイダを利用することで、ページビュー数やページ滞在時間に基づいた、より適切なタイミングで許諾プロンプトを表示させ、リクエストを行うことができます。
iOS16におけるWebプッシュ通知のユースケース
Webプッシュ通知を使い、モバイルファーストな方法でWebオーディエンスにアプローチすることの価値がわかる、主なユースケースをいくつか紹介します。
【1】 遠隔医療
例えば、患者に診察予約や症状の報告など、様々なサービスを提供する遠隔医療のポータルサイトがあるとします。患者さんがモバイル端末でサイトにアクセスしているとき、プロバイダからのメッセージ、ユーザーによる症状の報告の緊急性など、健康に関わる重要なお知らせを中心にコミュニケーションを取ることができます。
【2】小規模事業
実店舗を構え、小規模な事業を行っている場合もあるでしょう。おそらく、予算がないため、製品を販売するためのモバイルアプリは持っていないはずです。しかし、モバイルWebの訪問者に対して、新しい秋の製品や特定の商品の入荷情報などをターゲットにしたフォローアップメッセージを送ることで、再びサイト上の商品に関心を持ってもらうことができます。このようにWebプッシュ通知を使用することで、よりユーザーフレンドリーなモバイルWeb体験が生まれるのです。
【3】為替/株取引
Webベースの取引プラットフォームで、日常的に通貨や株式取引を行うユーザーの再獲得を目指していると想像してください。ユーザーの資産の価値が変動するたびに通知を配信することは非常に強力な手段になり得ます。特にユーザーが多くの時間を費やすモバイル端末においてはより効果的でしょう。。また、ユーザーが安心して取り引きができるように、セキュリティやプライバシーに関する通知も送信してもよいでしょう。