この記事はECサイトの売り上げ向上に取り組み始めた方を対象に書いています。すでに取り組みが進んでいる方にとっては当たり前の内容かもしれません。一方で、当たり前すぎておろそかになってしまっている要素が含まれている可能性もあります。
「売り上げ向上を実現できているECサイトが鉄板で取り組んでいる、本当に成果が上がる方法とは何なのか」。私が20年にわたってECサイトに携わってきた経験を基に書いていきます。
2020年以降、EC市場は大きく成長したが……
2020年に拡大した新型コロナウイルス感染症は、日本国内のEC市場を成長させる大きな契機となりました。経済産業省発表の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」では、2020年にEC化率が初めて8%を超え、市場規模も前年比約2兆円増と大きく飛躍。以降も右肩上がりに成長を続け、2022年にはEC化率が9%を突破、市場規模は13兆9,997億円と14兆円に届く勢いです。
■物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の推移
※出典:「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」経済産業省
しかし、すべてのEC事業やネットサービスがこの成長の果実を得ることができたのでしょうか。
下のグラフはRepro株式会社が2021年11月に、BtoCサービスの役職者以上に対して実施した「事業成長とデジタルマーケティング推進の関係性についてのアンケート調査」の結果です。
■2021年における担当サービスの目標指標(売り上げなど)の成長度
※出典:「事業成長とデジタルマーケティング推進の関係性についてのアンケート調査」Repro株式会社
このアンケート結果からわかるとおり、ECを含むすべてのネットサービスが等しく成長を実現したわけでなく、成長したサービスもあれば、むしろ減退したサービスも存在しています。
巣ごもり消費の加速、消費のネットシフトという市場全体の追い風があった中でも、このように成長度に差が生まれるのはなぜなのでしょうか。
私は、デジタルマーケティングにおける「基本的な取り組み」「鉄板ともいえるメソッド」を着実に実践できていたか否かが成長率の差を生んでいると捉えています。
この仮説は、前述のアンケート調査の結果からも裏付けられていると考えています。このアンケートでは、私が考案した「デジタルマーケティング組織スキル診断」の問診票をベースに、デジタルマーケティング6分野の実践レベルを問う設問を各5問ずつ出題。合計30問に対して回答をしていただいています。
下のレーダーチャートは、前掲の「目標指標(売り上げなど)の成長度」と、「デジタルマーケティング組織スキル診断」のスコアをクロス集計して、その関係性を示したものです。
■「目標指標(売り上げなど)の成長度」と「デジタルマーケティング組織スキル診断」のスコアの関係
※出典:「事業成長とデジタルマーケティング推進の関係性についてのアンケート調査」Repro株式会社
気持ちが悪いくらいにわかりやすい結果となりました。
30問の設問は、「KPIマネジメント」「PDCA活動」「データ活用」「チャネル活用」「ツール活用」「スキル・ノウハウ」の6領域における鉄板施策の取り組み状況が明らかになるよう設計されています。成長度が大きな企業ほど、綺麗にすべての領域のスコアが高くなり、面積も大きくなっているのです。
つまり、成長度の大きなサービスほど、デジタルマーケティングにおける鉄板施策を全領域においてバランス良く取り組んでいるということです。
リソース不足が最大の課題。いかに選択と集中を行うべきか?
ECサイトにおける売り上げの向上戦略には様々な領域があります。「マーチャンダイジング戦略」「価格戦略」「サービス向上戦略」「マーケティング戦略」……。どの戦略領域も重要ですが、この記事ではマーケティング戦略に絞って説明していきます。
マーケティング戦略ひとつを取っても、実施すべき施策は沢山あります。しかも、マーケティングを取り巻くテクノロジーや施策は日々進化しており、トレンドもどんどんと変化しています。
そのような中、多くの企業がマーケターの人材不足・リソース不足に悩んでいるのが現状です。限られたリソースの中で果たして一体どこに資源を集中していけば良いのか、どこまで手を広げなければいけないのかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
下のグラフを見てください。Repro株式会社が行った「Webサイト活用状況に関するアンケート調査 2021年版」でも60%近い回答者が人材不足を課題に挙げています。
このような状況の中で重要なのは、やみくもに手を広げるのではなく、売り上げに最もインパクトがあり、かつ着実に効果が見込めるマーケティング施策にリソースと投資を集中することです。
■デジタルマーケティングに関する課題
※出典:「Webサイト活用状況に関するアンケート調査 2021年版」Repro株式会社
それでは、どのような分野に資源を集中すれば良いのでしょう。私が提唱したいのは、「とにかくPDCAの量さえ回せば着実に成果が上がり」かつ「対象ユーザーが多くインパクトが大きい」領域に徹底的に集中するということです。
「とにかくPDCAの量さえ回せば着実に成果が上がり」かつ「対象ユーザーが多くインパクトが大きい」領域とはどのようなものなのでしょうか。様々なご意見があるかとは思いますが、私自身の経験、また多くのトップマーケターとの情報交換の中から導いた4大マーケティング施策を紹介したいと思います。
これから紹介する施策は、高い成長率を実現しているマーケターにとっては当たり前のものです。「なんだ、そんなことはもうやってるよ」と思う方も多いかもしれません。ただ、振り返ってみてほしいのです。それらの施策に対して、果たしてどこまで本気で取り組んでいるでしょうか。
重要なのは選択と集中です。他の施策に一切手を広げることなく、これから紹介する施策だけに徹底的に集中して取り組んだ方が、むしろ売り上げが向上すると私は思っています。
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ECサイトの売り上げを確実に向上させる4大マーケティング施策
私が考える、ECサイトの売り上げを確実に向上させる4大マーケティング施策は以下の通りです。
■【中澤式】ECサイトの売り上げを確実に向上させる4大マーケティング施策
集客においては「リスティングとLPO」、CVR向上においては「Web接客(ポップアップ)の徹底的なA/Bテスト」、リテンション活動では「メールよりLINE」、そして、全領域に共通して効果を発揮するのが「Webサイト表示速度の徹底的な向上」です。
他の活動を完全に止めてでも、この4点に集中し、徹底的に磨き上げることができればECサイトの売り上げは向上すると思っています。
【1】徹底的にWebサイトの表示速度を速くする
ECサイトにおいてすべてのユーザーに等しくインパクトを与えるのが、Webサイトの表示速度です。そしてWebサイトの表示速度はかなり高い確率でCVRと強い相関関係を持ちます。
加えて、Webサイトの表示速度は、基本的な取り組みを行えば確実に向上します。つまり「やるべきことの答えがわかっている」施策なのです。数あるマーケティング施策の中で答えがわかっている非常に稀有な取り組みがこのWebサイト表示速度の向上です。
そのため、ECサイトの売り上げを本当に向上させたいのであれば、真っ先に取り組むべき施策だと断言できます。詳しい理由は下の記事も参考にしてください。
【2】徹底的にリスティングとLPOを強化する
次は集客の領域です。
すでにCDP等を導入し、流入経路ごとのLTV、ROIを計測している方であれば恐らく同じ結論に達していると思いますが、新規集客を目的とした活動の中で最もLTV、ROIが高い流入経路はリスティング広告になっているはずです。
「SEOのほうが優れている」という声ももちろんあるでしょう。ただし、SEOには非常に多くの労力と高いスキルが要求されます。そしてコントロールしにくいのが現状です。ゆえに「確実性」という意味ではリスティング広告に軍配が上がると思います。
リスティング広告が他の広告施策と比べて圧倒的に高いROIを実現できる理由は以下のとおりです。
リスティング広告が他の広告施策に比べて高いROIを実現できる理由
- 検索という能動的なアクションに対するカウンター施策であり、そもそもモチベーションの高いユーザーに対する施策である
- 検索キーワードという形でリーチするユーザーの「ニーズ」が予め明確であり、CPAを軸にしたPDCA(タイトル、ディスクリプションの変更等)が行いやすい
- 検索キーワードとユーザーのモチベーション(検討深度)が連動しており、入札戦略を企画・策定しやすい
そして、リスティング広告の効果を最大化するために必要なのが、ランディングページのCVR改善です。リスティング広告はクリックによってコストが発生するもの。クリックした先にあるランディングページのパフォーマンスがカギになるのです。
ここで重要になる取り組みが「LPO」です。LPOは古くから様々な企業が徹底的に取り組んできた領域でもあり、すでに業界には多くの成功方程式が存在しています。
言い換えれば、「圧倒的に業界ナレッジが蓄積されており、改善に向けた答えを得やすい領域」といえるのです。そして何よりもPDCAの量に応じて着実に成果(CVR)が向上する取り組みでもあります。
マーケティングで確実に売り上げを伸ばしたいのであれば、何も先駆者になる必要はありません。むしろ業界ナレッジが蓄積されており、答えに辿り着きやすい施策ほど成果は出やすいのです。
【3】Web接客(ポップアップ)のA/Bテストをしまくる
CVR向上領域において大事なのはPDCAの量です。量は質を凌駕します。不思議なものでとにかく量さえ回していけば、一歩ずつ着実に成果は向上していきます。
一方で、CMSやECパッケージの管理画面を操作したり、HTMLそのものを書き換えたりしてWebサイトの表示要素を調整するのはとても大変です。大変というよりも、問題は「実行までに時間がかかってしまう」ことにあります。これでは「量」を稼げません。
そこで必要になるのが、ノーコードでマーケターが手軽にトライ&エラーを行えるWeb接客ツール。サイトに来訪するユーザーとのコミュニケーションを最適化し、CVRを向上させていくための必須環境だといえます。
そしてすべきことは、「とにかく思ったことをすぐに試してみる」こと。つまり、徹底的にWeb接客ツールを使ったポップアップメッセージのA/Bテストを行うことです。
実際にアンケート調査を行ってみると、私が「最低でも行うべき」と考えている、「月に5回以上の施策のPDCA」「A/Bテストによる効果検証」について、実に半分近くのマーケターが「実施できていない」と回答していることに驚かされます。
PDCAはとにかく量。A/Bテストは顧客との対話です。顧客との対話を積み重ねなければ成果の出るコミュニケーションは行えません。この基本的な取り組みにいかにリソースと時間を投資できるか、集中して取り組めるかがCVRの向上を左右します。
■WebマーケティングのPDCAに関する実態調査
※出典:「事業成長とデジタルマーケティング推進の関係性についてのアンケート調査」Repro株式会社
CVR向上の具体的なアイディアは下の記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。
【4】メールよりLINEに力を入れる
最後にリテンションの領域です。
ここはおそらく賛否がわかれやすい領域だと思います。しかし、多くのトップマーケターとの情報交換、メールとLINEの実績値の比較を見るに、現在においては圧倒的にメールよりもLINEの効果・効率が高いといえると思います。
BtoBの世界においては未だメールは最重要のコミュニケーション手段です。しかし、皆さんは普段の生活の中でどの程度個人のメールを確認しているでしょうか(中澤自身はどっちも見ないんですけどね……。FBメッセンジャーしか見ていない……)。
仲の良いマーケターに実績数値をコッソリ見せてもらったのですが、やはり、クリック率、CVRともにメールよりもLINEのほうが成果が高いようです。
間違ってほしくないのは、「メールが不要というわけではなく、両方に取り組むべき」という点です。ただし、売り上げを向上させるための「販売促進型のコミュニケーション」や「機会損失削減アプローチ」には、メールよりもLINEのほうが優れていると思います。
メールに対するLINEの優位性はいくつかありますが、その中でもCVRに結びつきやすい代表的な要素としては以下のような点が挙げられると思います。
メールに対するLINEの優位性
- Botを使って擬似的な双方向コミュニケーションを行える(アクションとリアクションのキャッチボールが行える)
- 表現力が高くインタラクティブな体験をLINE上で提供できる
- メールと異なり複数のLINE IDを取得するのが難しく、個人に限定したクーポン等を提供しやすい
- リアル店舗からの友達登録など、メールアドレス以上に接点を確保しやすい(友達登録のハードルが低い)
まとめると、メールよりもLINEのほうが「テンポ良くやり取りができて、かつコミュニケーションにおける表現力が高い」ということかと思います。このことから販売促進型コミュニケーションや機会損失削減アプローチにより向いていると考えられます。
よくLINEは友達ブロックされやすく、メールはLINEほどオプトアウトされにくいという話を聞きます。
それはあくまでも「メールのほうがオプトアウトが面倒くさいから」にほかなりません。実際のクリックを基に導線ごとのアクティブ率を分析することをおすすめします。クリック即ちアクティブという観点でいえば、LINEの方が高くなる可能性があります。
とにかく徹底的に基本的な鉄板施策を
ECサイトの売り上げを確実に向上させるたったひとつの方法は、トレンドや他社事例に惑わされることなく、とにかく徹底的に基本的な鉄板施策を行うことです。
そして、限られたリソースと投資資金を分散させることなく、「とにかくPDCAの量さえ回せば着実に成果が上がり」かつ「対象ユーザーが多くインパクトが大きい」領域に集中すべきだと考えます。
時代の先駆者になる必要もありませんし、奇をてらった施策を行う必要もありません。何よりも「着実」であることが重要なのです。
カンファレンスやイベント、そしてマーケティング系のメディアサイトを見ると、様々な先進事例が発表され、ベンダーは新しいソリューションをこれでもかとばかりに提案してきます。私は事業会社側の経験が長かったこともあり、これらの取り組みや事例をみると自然と心が焦り、つい新しい取り組みに目を奪われがちでした。
しかし実際に高い成長率を実現しているECサイトでは、今回紹介したようなまさに基本的な取り組みをとにかく徹底的に行っているものです。それらをやり切った上で、それよりも更なる高みを目指し、新たな領域にチャンレジしています。
リソースやお金はいつだって十分にはないものです。本当の意味での選択と集中を行うことで、この記事を読んでくださった皆様のECサイトが少しでも売上向上につながれば幸いです。
なお、今回はマーケティング施策に絞ってお話してきましたが、ECサイトにおいて最も売り上げの増大にインパクトがあるのは、マーケティング施策以上に「マーチャンダイジング」だったりします。この辺のことは、セミナーなどでお話していますので、機会があればぜひお聞きいただければと思います。
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※本記事は中澤伸也(取締役CBDO
(Chief Business Development Officer))の「note」の記事「ECサイトの売上を確実に向上させるマーケティング施策とは?」を再編集したものです。