近年、スマートフォン、SNSの普及により、消費者が手に入れることができる情報量は飛躍的に増加しています。もはや情報過多ともいえる現代ですが、このような状況下でも、企業は顧客獲得のために情報を的確に発信し、ターゲットに届けていかなければなりません。
その際に役立つのが「MA(マーケティングオートメーション)」です。マーケティング施策を自動化できるツールとして近年注目を集めていますが、MAについて全体像をいまいち把握できていないという方に向けて、今回はMAの基礎から、活用法、メリット、注意点までを網羅的に解説していきます。
MA(マーケティングオートメーション)とは
MA(マーケティングオートメーション)とは、マーケティングの各プロセスに対応する施策や顧客とのコミュニケーションをシステム化、自動化すること、あるいは自動化を実現するツールのことです。
MAを活用することで、自社の情報をリード(見込み顧客)に定期的に送信する業務や、セミナーや展示会参加者へのお礼メールを送信する業務など、人力で行っていたルーチンワークや複雑な作業が自動で行えるようになります。リードへのアプローチが自動化されれば、リードナーチャリングに人が割く工数を減らすことが可能になります。
また、MAによっては、各リードの基本情報や、閲覧ページの履歴、自社Webサイトへアクセスする頻度などを基にスコアリングを行うことができるものもあります。こうしたMAでは、算出されたスコアに合わせてリードへのアプローチを変化させることが可能です。
マーケティングオートメーションを導入する目的
多くの企業は売上増加を目的にMAを導入しています。MAを活用して顧客に対して的確な対応を継続的に行うことで、効果的な集客を実現し、売上増加につなげます。
また、煩雑な業務をMAによって効率化し、生産性を向上したいという狙いもあります。MAはマーケティングに必要な機能を豊富に搭載しているため、従来はさまざまなツールを使って実現していたことをひとつのツールで完結できるようになります。競争が激化する市場環境の中、増大したマーケティング業務の負担を軽減するためにも、MAの必要性が高まっています。
BtoB向け・BtoC向けの2種類の違い
MAにはBtoB向けのものとBtoC向けのものがあります。それぞれの用途に合ったMAを選ばなければ、その効果を存分に発揮できない恐れがあります。
ここではBtoB向け・BtoC向けMAの違いを4点紹介しましょう。
顧客数
BtoCはBtoBに比べて大幅に顧客数が増えます。一般的な目安として、BtoB企業の顧客数が数百~数万程度であるのに対して、BtoC企業の顧客数は数万~数百万程度です。
MAツールは蓄積できる顧客データの数に制限が設けられていることが多いため、BtoCで使う場合には蓄積できるデータ数の多いMAを選ぶ必要があります。
意思決定プロセスと購買期間の違い
BtoBとBtoCでは、意思決定のプロセスが大きく異なります。
BtoBの場合、購買の意思決定までに多くの人が関わるため、プロセスが複雑かつ結論が出るまでに時間がかかります。
長期にわたってすべてのリードに同じアプローチを行うのは現実的ではないため、BtoB向けのMAでは、アプローチの最適化に役立つスコアリング機能やセグメント機能などが充実しているものが多くあります。
一方でBtoCの場合は、意思決定に関わるのはその顧客ひとりのため、購買に至るまでの期間が短くなります。ただし、個人の興味関心やその時の気分など、BtoBの場合とは異なる要素が関わってきます。
そのためBtoC向けのMAでは、きめ細かなシナリオ設計や複数チャネルに対応したアプローチなど、「One to One マーケティング」の実践に重点が置かれています。
リードへのアプローチ方法の違い
先ほども少しチャネルについて触れましたが、BtoBではおもにメールや電話によってリードへアプローチするのに対して、BtoCではメールや電話はもちろん、LINE、SNS、オンライン広告など数多くのチャネルを使ってリードへアプローチを行う必要があります。
そのためBtoC向けのMAは、BtoB向けのMA以上に、多くのチャネルでの情報発信に対応しています。
マーケティング手法の違い
マーケティングにおいて、BtoBは商談の機会を作るのが目的であり、BtoCではOne to Oneで顧客とコミュニケーションを取ることが目的です。
そのためBtoB向けのMAでは「リードナーチャリング」の実施に重点が置かれ、一方BtoC向けのMAでは顧客と親密なコミュニケーションを取ることに重点が置かれます。
「SFA」「CRM」との違い
MAとよく混同されるツールに、SFAとCRMがあります。各ツールの違いはどういった点にあるのでしょうか。
まずは、SFAとCRMについて簡単に解説していきましょう。
SFAはSales Force Automationの略で、営業担当者をサポートするためのツールです。リードの属性情報やリードに対して行った営業活動の記録、取るべきアクションなどの情報をデータベース化します。成約までの営業活動に必要な情報をトレースできるようになるため、属人化しやすい営業活動の見える化を図ることが可能です。
一方、CRMはCustomer Relationship Managementの略で、顧客と長期的に良好な関係を構築するためのツールです。アプローチ履歴、購入履歴、意見、要望、苦情などの顧客に関するあらゆる情報をCRMが営業担当の代わりに管理します。
顧客情報をCRMで管理、分析することで、既存顧客の要望に沿ったアプローチが可能となるため、顧客関係の維持や顧客満足度の向上ができます。顧客満足度の向上は顧客のファン化・囲い込みにつながり、ひとりあたりの購買金額の最大化や長期的な売り上げの向上が期待でき、安定的な売り上げを確保できるでしょう。
さて、ここまでの説明でおおよそご理解いただけたかと思いますが、MA、SFA、CRMはマーケティングや営業の効率を高める点は共通していますが、それぞれ明確に役割が異なっています。
- MAはリードを発掘・育成するためのツール
- SFAはリードに対する営業活動を支援するツール
- CRMはリードや既存顧客を管理するためのツール
各ツールで得意な分野が異なるため、特徴を理解して適切に使い分けることが重要です。
マーケティングオートメーションを活用するメリット
MAを活用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。おもなポイントを3つ紹介します。
業務効率の向上
MAを利用することで、顧客データを自動で分類したり、分類したカテゴリーごとに内容の異なるメールを自動配信したりと、さまざまな作業の自動化が行なえます。これにより、従来多くの時間と労力を必要としていたマーケターの業務が効率化され、作業コストが減少します。マーケターの負担が減るだけでなく、空いた時間で他の業務が実施でき、生産性も向上します。
また、業務の自動化を行うことで、マーケティング・営業プロセスの遂行に必要な人員数を減らすことができれば、人件費の削減が可能となります。これは、小規模の企業などマーケティング領域のリソースが潤沢ではない場合には非常に重要なメリットです。
One to Oneマーケティングの実現
MAはOne to Oneマーケティングを実現する際にも活躍します。
MAを利用することで、リードに関する詳細なデータを取得することが可能になります。これは基本的な属性情報だけでなく、Webサイト上でどのようなページを閲覧したか、送信したメールに対してどのような反応をしたか、など行動履歴も含まれます。
このデータを活用することで、リードが何に関心を寄せているか、自社に対する理解度がどの程度なのかを推測することができるため、リードに合わせた適切なコミュニケーションを目指すOne to Oneマーケティングの実現に役立ちます。
マーケティングと営業の連携を円滑化
MAはマーケターの負荷を軽減し、マーケティング施策の実行をサポートしますが、MAの恩恵を受けられるのはマーケティング部門だけではありません。MAはマーケティング部門と営業部門との連携を円滑化する効果があるため、営業部門もその恩恵を受けることができます。
そもそもMAは、リードの発掘・育成に主眼が置かれており、リードを育成して営業部門に引き継ぐまでを役割としています。MAによってリードを十分に育成することは、その後の商談をスムーズにする効果をもたらします。
さらに、MAを活用すれば、リードの行動をもとにして確度の高いホットなリードを選別することが可能になります。厳選したリードの情報のみを営業部門に渡すことで、営業部門も注力するべき対象が明確になり、効率的な営業活動ができるようになるのです。
【ファネル別】マーケティングオートメーションの活用方法
ここでは、マーケティングにおいて重要な概念である「パーチェスファネル」に当てはめて、MAの活用方法について説明します。
パーチェスファネルのパーチェスとは購買を表し、ファネルとは漏斗をあらわします。獲得したリードが成約・購買に至るまでの間に、次第に少数に絞られていく様子が逆三角形の漏斗の形状になることを示しています。
パーチェスファネルは、大きく分けて以下の4つのフェーズに分けられます。
- リードを獲得するリードジェネレーションフェーズ
- リードを育成するリードナーチャリングフェーズ
- リードを選定するリードクオリフィケーションフェーズ
- 購買・成約フェーズ
ここでは購買・成約フェーズに至るまでの3つのフェーズについて、各フェーズにおける効果的なMAの機能とともに説明します。
リードジェネレーションフェーズ
リードジェネレーションのフェーズでは、一般的に以下のようなリード獲得施策が実施されます。
- Webサイトやオウンドメディアでの情報発信
- 展示会やイベントへの出展
- セミナーの開催
MAを活用することで、この中でも「Webサイトやオウンドメディアでの情報発信」を効率化することができます。具体的な機能の例をふたつ紹介します。
登録フォーム、ランディングページ作成
顧客情報獲得のための登録フォームや、リードとの接点になるランディングページを作成する機能です。Webサイト制作の知識がなくてもMAの管理画面から簡単に作成できるので、マーケティング施策の実施速度を早めることができます。
MAで作成した登録フォームにリードが情報を入力すると、その情報はMAの顧客データベースに登録され、そのまま自動的にMA上で設定されたアプローチが行われます。これにより、人の手を介することなく効率的に次のナーチャリングフェーズに移行できます。
IPアドレスによる解析
これは主にBtoBで活躍する機能で、自社のWebサイトを訪問したIPアドレスをもとにして、どんな企業が自社のサイトを閲覧したのか解析することが可能です。閲覧したページの記録も残るため、どのような情報を探していたかも分析可能です。これらをもとに、閲覧した企業に対してDMを送付したり、興味のありそうな展示会やセミナーを紹介したりすると良いでしょう。
また、Webサイトを閲覧した企業の業種、規模を分析することで、自社のターゲットとする企業イメージが見えてくるのでマーケティングに役立てることができます。
リードナーチャリングフェーズ
リードナーチャリング、つまりリードの育成とは、対象の属性やニーズに適したコンテンツをメールなどで配信し、リードの購買可能性を高めていく活動です。
MAを使うことで、リードナーチャリングフェーズにおけるさまざまな作業を効率化することができます。
メールマガジンの送信
MAを利用して、リードに対してメールマガジンを配信することができます。その際、単発の配信はもちろん、ステップメールといわれる連続的なメール配信や、リードのセグメント別に内容を変えて配信するなど、さまざまな機能を使うことが可能です。
また、新規リードが登録されたら自動でメールやステップメールの送信を開始する、リード獲得経路に基づいて最適な内容のメールを送信するなど、シナリオに合わせた自動配信が行えるため、人力では実現できないようなきめ細かくスピーディーな対応が可能になります。
キラーコンテンツへ到達したら通知
MAは一般的なメール配信システムとは異なり、ユーザーがWebサイトで見たページやクリックしたメールのリンクなどの履歴情報がユーザーごとに分かります。この機能を活用することで、リードがキラーコンテンツを閲覧したら社内向けに通知する、といった設定が可能になります。
「キラーコンテンツ」とは、既存の購買済み顧客やアポイントにつながった顧客の多くが閲覧していて、成約につながる可能性が高いコンテンツのことです。キラーコンテンツへの到達が通知されれば、営業担当者がすぐにアプローチの電話を行うなどの対応ができるようになります。その他にも、キラーコンテンツの到達時にメールを自動的に配信し引き上げを狙うといった施策も可能です。
リードクオリフィケーションフェーズ
リードクオリフィケーションとは、興味の深さや属性に応じてリードを選別し、確度の高いリードの情報だけを営業部門に渡すことを指します。
MAではリードの役職、会社規模のような基本的な属性によるスコアリングや、資料ダウンロード、セミナーへの参加など直近の行動をもとにしたスコアリングが可能です。点数の高いリードから優先的に営業部門に渡すことで、営業活動の効率化に貢献します。
マーケティングオートメーション導入の注意点
お伝えしてきたように、MAは多彩な機能を備えた便利なツールです。しかし、導入の際にはいくつか注意しておくべき点があります。ここではMA導入の注意点を3つ紹介します。
使いこなすための学習やコンテンツの作成が必要
MAを使うことでさまざまな作業を自動化できる点は前述の通りですが、MAを十分に使いこなすためには、機能や操作に関する学習が必要です。また、MAを活用した施策の考え方なども習得する必要があります。
ツールベンダーが提供する学習コンテンツやコンサルティングなどを利用し、自社内でMAを効果的に使えるようにしましょう。
また、MAの効果を十分に発揮させるためには、メール、LP、ホワイトペーパーなどさまざまなコンテンツを準備しておく必要があります。
既にコンテンツが手元にある場合は問題ありませんが、MAの活用に向けて新たに作るとなると、担当者には大きな負担がかかるでしょう。一通りコンテンツを揃えた後も、反応率などをもとに継続的に改善を重ねる必要もあります。
このように、MAを活用したマーケティングの立ち上げ段階では、コンテンツ作成によって業務量が増大する可能性も事前に把握しておきましょう。
ランニングコストがかかる
多くのMAが有料で提供されているため、初期費用やランニングコストがかかります。また、施策の実施やデータの蓄積など多くをMAに任せることになるため、一度導入すると解約しづらくなる点にも注意が必要です。
MAの機能や価格は製品によって変わりますが、基本的には高機能であるほど高額になります。自社に必要な機能をしっかりと見極めたうえで、長期的な運用コストを考慮して、慎重に選びましょう。
効果があらわれるまでに時間がかかる
MAは、導入してすぐに売り上げや受注率の向上が見込めるものではありません。継続的に施策を積み重ねることによって、自社に適したMAの活用法が見つかっていき、徐々に数字として効果があらわれてくるものです。中長期的な目標設定を行い、運用していくことが重要になります。
まとめ
この記事ではMAの説明とMAの活用法、活用するメリットと導入する際の注意点について説明してきました。
MAはリードの発掘から育成、選別といったマーケティング施策を自動化でき、業務効率や売上の向上へとつなげることができるツールです。注意点として挙げたポイントに留意しつつ、自社のマーケティング・営業プロセスの強化に役立ててみてはいかがでしょうか。