2024.09.11
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連続インタビュー「Marketers' Café:成功へのステップと発見」。Webサイトやアプリを活用してビジネスをグロースさせるため、日々、マーケティング活動に奮闘する現場のマーケターの生の声をお届けします。今回は日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」を運営する株式会社みんなの銀行 マーケティンググループ マネージングディレクターの今別府勇介さんにお話をうかがいました。
スマホ完結のデジタルバンク「みんなの銀行」
iOS/Android
――「みんなの銀行」について簡単にご説明いただけますでしょうか。
九州を基盤とする地域金融グループ、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下のみんなの銀行は、日本初のデジタルバンクとして、2021年5月にサービス提供をスタートしました。現在、アプリダウンロード数は300万を超え、口座数も100万件を超えています。
リアルな店舗を持つ既存の銀行やネット銀行と一線を画すのは、既存の銀行のシステムをコピーして作られたものではなく、デジタルを起点に発想し、ゼロベースで設計しているという点。商品や銀行システム、裏側の業務プロセスもすべてデジタル起点で設計し、フルデジタル、フルクラウド、フルモバイルという特徴があります。銀行に対するネガティブなイメージを払拭し、「銀行らしさ」からの脱却を目指すスマホ完結型の銀行です。
すべてがデジタル完結、アプリコミュニケーションをベースに設計されているのです。裏側のシステム面もそうですし、UI/UXもデジタルが前提となっています。
これは、みんなの銀行、デジタルバンクの発想が、未来に向けた金融サービスに基づいているからです。「デジタルネイティブ世代(みんなの銀行では『Z世代』と『Y世代(ミレニアル世代)』の総称と定義されている)」が、2030年には日本の生産年齢人口の6割以上を占めると推計されています。この方々をターゲットとした、まったく新しいモデルなのです。
SNSをプロモーションの主戦場としているのも、UIを極力シンプルにしかもイラストを多用しているのも、単にマーケティング効率を上げるため、若年層に好まれるためではありません。少子高齢化に伴う急速な人口減少や異業種の参入等で、将来的には銀行を取り巻く環境や人々の行動は劇的に変容していくと想定しますので、そのときにFFGのアドバンテージとなるように、みんなの銀行が全国から「未来のお客様を“今”獲得する」という考え方が根本にあるのです。
ちなみに既存の銀行の顧客分布は、40代以上が7割程度、それ以外が3割程度といわれています。みんなの銀行はこの比率が逆になっていて、40代以上が約3割、それ以外の若年層が7割くらい。デジタルバンク戦略がうまく機能しているひとつの結果と考えています。
――今別府さんの現在のミッション・役割について教えてください。
マーケティンググループに所属していまして、全体で14名の組織です。そのなかで私は、CRM(アプリ通知、メール等の顧客コミュニケーション施策全般)や公式SNSやキャンペーンの企画・運営、マーケティング機能の開発、データ分析などを担うメンバー数名が所属するチームを率いています。
グループとしてのKPIは年間の口座数が主なものですが、CRMをはじめとした、各施策の高度化や業務の効率化・最適化もミッションとして担っているイメージですね。そのほか、チームメンバーの育成やマネジメントも私の大切な役割です。
――みんなの銀行のマーケティング活動の運営やユーザーとのコミュニケーションにおいて重視していることはありますか?
大きくふたつ挙げられるかなと思っていて、ひとつは「仮説検証思考」。これは施策をプランニングするときに重要だと考えています。要はデータやファクトに基づいた仮説が立てられているかということです。
どんなに効果が良かった施策があったとしても、その前提にある仮説設定の筋が良くなければ、本当の意味での背景や理由がわからないため、再現可能な状況にならず、長い目で見た場合のパフォーマンス改善には繋がりません。背景となるエビデンスやロジックがあるからこそ、コミュニケーションの最適化、施策の高度化を図れると思っています。
もうひとつはどちらかというと顧客コミュニケーションの側面の話で、「顧客視点と事業視点のバランスを取って成果を最大化する」ということ。一般的な組織でも同じかもしれませんが、みんなの銀行では複数のグループが、それぞれに目標数値を持っています。例えば、「ローン商品の販売数を増やしたい」「デビットカード登録数を増やしたい」など。事業視点で見ると、それぞれのグループが目標達成に向けて、できるだけ訴求力が強い施策を数多く打ちたいわけです。
一方、顧客視点で考えると、お客様から見えるコミュニケーション対象はみんなの銀行アプリひとつ。お客様とみんなの銀行との間の一対一のコミュニケーションと認識されます。そんなときに、過度な表現や量の通知が送られてきたり、アプリのUI/UXと大きく乖離したような広告を目にしたりするのは良い体験とはいえませんよね。
CRMとして、顧客コミュニケーション全体の高度化を担う役割として、「みんなの銀行から発信される情報を俯瞰し、ユーザー視点に立ち返ってバランスが取れているのか」という点はとても重要だと考えています。
――お客様の声やユーザーの気持ちはどのように拾い上げているのでしょうか。
「お客様の声」という言葉の定義は様々にあると思いますが、第一はデータです。プッシュ通知の開封率やアプリの起動率、通知後のアプリ内の遷移率などは定常的に確認し、トレンドを把握しています。
あとは、デジタルネイティブ世代をターゲットとしているので、各SNSでのみんなの銀行の投稿やコメントには注意を払っています。数値ベースはもちろんのこと、特徴的な投稿があれば、たとえ1件でもN1で積極的に把握するように心掛けています。そのほか、コールセンターなどでのお問い合わせも、お客様の声や反応を把握できる貴重なチャネルのひとつです。
――マーケティング施策やユーザーとのコミュニケーションで、「これは成功だったな」といえる取り組みがあれば教えてください。
ひとつは「お友だち紹介プログラム」です。紹介経由で口座開設すると、紹介した人、された人双方が特典をもらえる施策で、SNS等でお客様に拡散いただくことで広がりました。
紹介キャンペーンは、今でこそ金融サービスでも多く見られるようになりましたが、デジタルネイティブ世代をターゲットとして、SNS等での広がりを狙い、あわせて広告費を抑えるマーケティング施策として、みんなの銀行では2021年5月のサービススタート時から実施しています。
また、CRM施策では、例えば「アプリをダウンロードしたままで口座開設を忘れていませんか」との通知で細かいリマインドをかけたり、お客様の誕生日にアプリが誕生日仕様に変わるのにあわせて、お祝いのプッシュ通知を送ったり。また、ローンのお借入れ直後に、忘れがちな返済方法の説明をポップアップ通知で補う施策なども実施をしています。
いずれも背景にあるのは、みんなの銀行アプリでのお客様の取り引きや状況に応じて、CRM施策として、なるべくタイムリーにコミュニケーションを行うことで、お客様のロイヤリティや理解度を高め、ひいてはみんなの銀行のアクティブ化や収益に貢献することです。
CRMで本質的に重要なのは、このようなベーシックな施策をどれだけ積み上げられるかなのではないでしょうか。これまで行ってきた施策の総体が、中期的な成功に繋がるものだと思います。
――逆に苦戦している取り組みや抱えている課題についても教えてください。
現在トライ中なのは、お客様のセグメントに合わせたコミュニケーションの開発と自動化、それによる反応率の向上です。例えば、みんなの銀行ではいくつかキャンペーンを実施しているのですが、広い対象に対してふわっとしたメッセージを送っても期待以上の成果には繋がりにくいため、1to1に近いコミュニケーションの在り方をどうやって実現していくかを模索しているところです。
またもう1点は、さきほど申し上げたことと逆になってしまうかもしれませんが、SNSをプロモーションの主戦場としているからこそ、マーケティングの運用自体に難しさがあると思っています。
どういうことかと言いますと、日々仮説を持ってプランニングをするのですが、実際にはそれとはまったく別のところで反応があったり、バズが発生していたりすることもあり、振り返ってみて「こういうことだったのか」と発見することがよくあるのです。ある意味でみんなの銀行らしい、難しくもあり面白くもある領域ですね。
――マーケターとして成長するため、サービスをグロースさせるため、どのようなインプットをされていますか。
アプリやWebを中心としたサービスにおいて、マーケターとしての仕事を高い水準で遂行していくためには、「プランニング(企画力)」「リーダーシップ」「テクノロジー」の3つが必要です。これが揃わないと長い目で見たときにはパフォーマンスが上がっていかないと考えています。
たとえプランニングだけが良くても、周囲のメンバーを巻き込むリーダーシップの部分が弱く、実現に向けた仕組みがわかる、新たに作れるなどのテクノロジーを味方にできなければ、絵に描いた餅になってしまうのです。なので、それぞれのレベルを上げることを意識しながら普段の業務や社外からのインプットに取り組んでいます。
プランニングは先ほど申し上げた仮説検証思考を通して仕事の中で磨いていく方法がひとつですね。リーダーシップは、マーケティングに限らず、ビジネスパーソンの多くが必要とするスキルだと思っていて、良質な書籍や動画が世の中にはたくさんあります。そこから吸収していったり、業務ではあえて誰も手をつけない部分を引き受けることなどを通して、リーダーシップが必要な仕事を数多くこなすように心掛けたりしています。また、周囲のメンバーにもその機会を促すなどを通じて実践する場を作るように心掛けています。
テクノロジーに関しては自分が使っているマーケティングツールの理解や、社内のシステムの把握からスタートするのがいいのかなと。システム開発の要件定義を部分的に自分でしてみたり。これも経験から得るものが多いですね。狭義のマーケター業務を超えるような仕事も幅広くこなして経験値を増やすのは、大変ですが効果的な方法といえると思います。
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※本記事は2024年8月8日時点の情報です。掲載企業の都合により、紹介されている機能やサービスの提供が終了している場合があります。あらかじめご了承ください。
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