アプリ開発にかかる労力は並大抵のものではありません。数カ月もの弛まぬ努力と何千ドルもの投資が必要です。しかし、結局のところ99.5%は失敗に終わります。アプリを成功へと導く緻密な戦略が欠けているのです。
あなたがこれから開発するアプリ、運営しているアプリが、この絶望的な数値のなかに入ってしまう可能性を少しでも下げるために、優れたモバイルアプリに共通する6つの重要なポイントを紹介します。
この記事は、DECODEのブログ ”6 things you need for a good mobile app strategy” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.
コアとなるコンセプトの設計
「アプリが解決すべき課題を見出すこと」、これこそが戦略において最も重要なポイントといえます。UXがいくら優れていようと、革新的なコアアイデアがあろうと関係ないのです。誰も使いたがらないアプリなど成功するはずがありません。
実際、市場ニーズの欠如はアプリやスタートアップが失敗する主要な要因のひとつであり、資金不足に次いで第2位にランクインしています。
■スタートアップが失敗する原因
出典:CB Insights
面白いことに、プロダクトの質が低いことが原因で失敗する割合は8%にすぎません。プロダクト品質の改善は、マーケットからのフィードバックに耳を傾けることで容易に実現できるからです。
しかし、肝心のアイデアにまったく需要がないと手の施しようがありません。アプリのコアアイデアの決定こそが最優先事項なのです。
最初はニッチな領域を選択するのがいいでしょう。可能性のあるカテゴリはいくつもあると思いますが、領域を絞ることによってアプリ開発に取り組む時間やエネルギーを集約できるからです。あなたが情熱を傾けられる領域、未開拓の市場、またはトレンドのカテゴリに注目してアプリ開発を始めてください。
■2022年2QにおけるApple App Store内で最も人気のあるカテゴリ
出典:Statista
カテゴリの選択が終わったら次は市場調査です。ユーザーの最も大きなペインポイントを見つけることがこのステップにおけるゴールになります。フォーカスグループ、RedditやFacebookのようなオンラインプラットフォームを通じてインタビューを行うのがいいでしょう。
例えば、実践しているダイエット方法(ケトジェニックダイエット)に関するアプリを開発するとします。このとき最も大切なことはケトジェニックダイエットを実践しているユーザーに、既存のアプリの満足している点と不満点をインタビューすることです。
ここで得られたインサイトからターゲットユーザーや、彼ら彼女らが抱えている最大の課題、そしてそれを解決することによってもたらされる利益を見極めることができます。このとき非常に役に立つのが「IBMメソッド」です。
■IBMメソッド
出典:IBM
このメソッドは非常にシンプル。テンプレートに従って空欄を埋めていくだけのものなので、誰でもすぐに実践に移すことができます。
「●●●」なユーザーが「●●●」な課題を解決すると「●●●」というメリットを得ることができます」
市場調査を参考に、チームのメンバー全員が付箋を持ち、アイデアを出し合うことで上記のテンプレートの空欄を埋めましょう。共通するテーマを見つけてテンプレートを完成させてください。
完成したテンプレートはあなたがコントロールできるなかで最も重要な要素のひとつです。開発中の判断を下すときのバロメーターとして活用して下さい。
ターゲットユーザーの理解
前のステップが適切に行われていた場合、ターゲットユーザーはすでに想定できているはずです。ここからはユーザーのことをより深く理解する段階です。
ユーザーに適切なサービスを提供したいと考えるなら、ターゲット市場を内外から知ることは必要不可欠です。これによって、より良いユーザー体験を構築できるようになるでしょう。同時にユーザーとのコミュニケーションやマーケティング活動も改善されるはずです。
この取り組みは異なる文化や規範を持つ海外市場に参入する場合にきわめて重要です。数えきれないほどの企業が、市場を十分に理解していなかったために国際的なマーケティングで失敗を犯してきました。
■ベンツが中国市場で失敗した要因
出典:Marketing Mind
ユーザーを深く知ることは本当に重要です。彼らの居住地だけでなく、趣味や興味、購買行動にまで注目しましょう。そのために活用したいのが、「ジオグラフィック」「デモグラフィック」「サイコグラフィック」「購買行動」の4分野でマーケットを分析する手法です。
■マーケットを利用する際に活用する4分野
出典:Referral Candy
ジオグラフィック分析はマーケットの概要を把握するのに役立つもの。潜在顧客がどの都市や国に住んでいるのかを示します。ジオグラフィックデータは自由に利用できるデータなので分析も容易です(例えば、ユーザーのIPアドレスからユーザーの居場所を特定することができます)。
デモグラフィックは、ユーザーの性別、年齢、および配偶者の有無などといった、人口統計学的なデータ領域。デモグラフィックデータは定量的に計測できるので、こちらも容易に収集することが可能です。デモグラフィックデータを深掘りするだけでも、ユーザーの特徴をある程度把握することはできるでしょう。
例えば、女性が市場の大部分を占める場合、伝統的に女性らしいとされてきた、パステルカラーを取り入れたアプリデザインを検討するかもしれません。
ただし、デモグラフィックデータには限界があります。例えば、年齢、性別、収入だけでは、その人が断続的断食(IF)に興味があるかどうかを判断することはできません。
そこで、サイコグラフィックスの出番です。ユーザーの好みや趣味、ライフスタイルなど、目に見えない特性を分析する領域です。サイコグラフィックデータはユーザーの行動に直接影響を与えるため、非常に重要なものといえます。
■デモグラフィックとサイコグラフィック
出典:CB Insights
最後は購買行動に関するデータです。これは自社サービスや競合他社とのコミュニケーション習慣を見極めるためのもの。消費行動やブランドへのロイヤリティを計測します。
市場調査のデータがすべて出揃ったら、ターゲットユーザーの特性を最もよく表す共通の要素が抽出していきます。ここまで来てはじめて、マーケティングにおけるペルソナが具体化されてくるのです。
マーケティングペルソナとは理想とするターゲットユーザーのこと。ペルソナをアプリ開発の指針とすることで、市場のニーズに合わせたアプリを開発できるようになるわけです。
■マーケティングペルソナ
出典:Cassidie Parker
マーケットに複数のグループがあることがわかった場合は複数のペルソナを作成するのもいいでしょう。各セグメントに対して最適化されたマーケティングを行ったり、アプリ体験をカスタマイズしたりすることができるようになります。
競合他社の分析
開発者の多くが起こしがちなミスは、競合分析の重要性に気づかずに徹底を欠くことです。競合他社は情報の金脈であり、そこには有効な戦略やアプリ改善のヒントがたくさん眠っています。さらに重要なのは、競合他社の失敗から学ぶことができる点。同じ失敗を繰り返さずに済むのです。
加えて強調したいのは、ほとんどのことを無料で分析できるということです。競合他社は最適なアプローチを求めて多くの時間やお金、労力を費やしています。私たちはそれを分析するだけでいいのです。
競合他社を分析する方法は無数にあります。手始めに「App Store」と「Google Play ストア」から調査を始めるといいでしょう。アプリに関連するキーワードで検索したときに表示されるアプリを確認してください。あわせて各カテゴリのトップチャートもチェックします。
■Apple App Storeのトップチャート
出典:App Demo Videos
調査・分析の際には、アプリの機能やUXデザインだけでなく、レビューやコメントにも注目することが大切です。ユーザーからの評価がわかるうえに、競合アプリの欠点は、自社で開発するアプリの武器となる可能性を秘めています。
競合をピックアップしたら一覧表にまとめましょう。下の図のようなマーケティングプランのテンプレートに合わせて構成するのがいいかもしれません。マーケティングやマネタイズ戦略、および主要な機能など、それぞれの要点も盛り込んでいきましょう。表にまとめることで、比較や共通要素の発見が容易になります。
■ランキング上位のアプリ比較表
出典:Septa Key
UI/UXのデザイン
たとえアイデアが素晴らしかったとしても成功する保証はありません。そのアイデアを実現するための効果的な表現が必要であり、その役割がアプリのUI/UXデザインです。
素晴らしいデザインは優れたユーザー体験を生み出します。もしそうでないのなら、アンインストールされる可能性は高まります。下のグラフをご覧ください。
■ユーザーがアプリをアンインストールする7つの理由
出典:Mobile App Daily
UI/UXの悪さが原因でアンインストールするユーザーが42%もいます。そのほかのアンインストール要因を見ても、上位にリストアップされたものの背景にある根本的な問題はUXです。
優れたUIデザインはいくつかの要素によって成り立っています。議論の余地はありますが、最も重要なのは直感的に操作できることです。
親しみやすく使いやすいUIデザインはユーザーに心地良さを提供します。直感的に操作できることがユーザーの精神的な負担を軽減するのです。逆に、いちいち考えないと操作できないUIはユーザーを困惑させ、アンインストールする原因になっていきます。
■ユーザーが認知負荷を感じる要因
出典:Boagworld
「余計な要素は取り除く」「片手で操作することを考慮したデザイン」「コピーワークに焦点を当てる」「プッシュ通知を巧みに利用する」など、心に留めておくべきことはたくさんあります。
加えて、ステークホルダーやエンドユーザーから定期的なフィードバックを得ることも重要です。アプリのデザインをテストするために、ワイヤーフレームやプロトタイプを作成するのは良いアイデアといえます。
その後、MVPを作成することも検討しましょう。MVPとは必須機能だけに絞ったアプリのことです。エンドユーザーにMVPを利用してもらうことで、受け入れてもらえるアプリかどうかを確かめることができます。
出典:Eleken
プロモーション計画の立案
デベロッパーの予想とは裏腹に、アプリに関わる作業の大部分はローンチ後に発生します。アプリストアに載ったら自然にユーザーが集まるかといったらそうではないでしょう。マーケティングを行う必要があるのです。
日々、新たにリリースされるアプリの数を考えてみてください。2022年、App StoreとGoogle Play ストアでリリースされたアプリの数は5,692,144に上ります。膨大な数の相手と競い合わなければなりません。
■アプリストア別のアプリ数
出典:Statista
競争はそこで終わりません。ユーザーのデバイス内にあるアプリとも競い合わなければならないのです。ユーザーがデバイスにインストールしているアプリの数はひとり当たり平均40個で、そのうち約半分のアプリに89%もの時間を費やしていることがわかっています。ここでも激しい競争が発生しているのです。
幸運なことに、飽和状態にあるアプリ市場において目立つための方法は数多く存在します。まずはアプリストアページを最適化するところから始めましょう。
キーワードの最適化や魅力的なアプリストアページの説明文、適切なアイコンの採用などは、アプリストア内での露出を増やし、ダウンロード率を高めます。
その後、マーケティングの力によってアプリのプロモーションをします。下の図はアプリをグロースさせるための一般的なマーケティングプランです。様々な投資が必要なことがわかります。
■アプリのマーケティングプラン
出典:Smart Insights
アプリのマーケティングに時間とお金を費やす準備をしましょう。アプリを広く世に知らしめたいと願うなら、そのふたつを惜しんではいけません。開発資金の31%程度をマーケティング費用として割り当てることができれば理想的です。
カスタマーサポートの設計
リリース初日からまったくエラーのないアプリなど存在しません。何度テストを重ねようと、バグやUXの課題は浮かび上がってしまうものです。ユーザーがこれらの問題に直面したときに備えて、ユーザーとアプリ運営者とのコミュニケーション手段を決めなければいけません。
アプリのカスタマーサポートにおいて最重要なのは、24時間365日利用可能であることです。問題が発生するタイミングはコントロールできないからです。予測不可能なトラブルに対応するための手法として、FAQやチャットボットは有力な選択肢となるでしょう。
そのほか、カスタマーサポートで必要になるコンポーネントとしては、下記のようなものが挙げられます。
■従来のカスタマーサポートと現在のカスタマーサポート
出典:Hiver
顧客の声に常に耳を傾けることが、カスタマーサポートにおける重要事項のひとつです。フィードバックやクレームに耳を傾けることで、問題点を見つけたり、改善機会をいち早く手に入れたりすることができるからです。
実践方法はいくつもあります。下の図にはその概要がまとまっています。カスタマーサポートはマーケティングやアプリのテストなど、他の領域と比較するとそれほど重要ではないと感じられるかもしれません。しかし、アプリのユーザー体験の向上に確実に貢献してくれるもの。時間と労力を費やすべきです。
■ユーザーと従業員からフィードバックを収集する方法
出典:Call Center Help