スマホ新法でどう変わる?2026年の飛躍に向けた「アプリ外決済」活用のカギ【スマホ新法の「?」を解決 第2回】

Repro Journal編集部
Repro Journal編集部
2025.11.19

目次

「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホ新法)の全面施行まで1カ月を切りました。アプリ事業者・開発者にとってアプリ外での決済が現実の選択肢となる一方で、「結局どんな影響があるの?」「今のうちに何を準備すべき?」といった声も少なくありません。
Repro Journalではスマホ新法やアプリ外決済に関するインタビュー連載を実施中。第2回は、アプリ外決済の基礎知識やユーザーの意識、施行後のアプリビジネスで押さえておきたいポイントについて、Repro株式会社・アプリエヴァンジェリストの中野竜太郎が、Reproが行ったユーザー調査の結果とあわせてお話しします。

スマホ新法って結局なに?施行の狙いと海外の動きを整理

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—— はじめに、アプリ外決済とはそもそもどのようなものなのでしょうか。

「アプリ外決済」とは、スマートフォンアプリのユーザーが、App StoreやGoogle Play ストアを経由せず、外部サイトや外部決済サービスを通じて支払いを行う仕組みのことを指します。

IAP(In-App Purchase:アプリ内購入)を使うと最大30%の手数料が発生しますが、外部決済を導入することで、その負担を抑えられる可能性があります。ただし現在(2025年11月時点)は、アプリ内から外部決済ページに誘導することを制限する「アンチステアリング規定」が設けられており、外部決済の導入には一定の制約がある状況です。

—— 2025年12月に施行される「スマホ新法」が、どのようにアプリ外決済と関わってくるのでしょうか?

スマホ新法は、スマートフォンに関するビジネスの取引環境をより公正でオープンなものにしていこうという目的で作られた法律です。そのうちの一要素として、アプリ外決済へのアプリからの直接誘導や第三者アプリストアの導入を認めていく方向で議論が進められています。これによって、アプリ事業者が自社に合った課金や流通の仕組みを選びやすくなることが期待されているんです。たとえば、アメリカのEpic Gamesが、日本でも独自のアプリストアを開始することが先日(2025年11月14日)発表されましたね。

こうした法整備の背景には、海外で進む同様の規制強化があります。たとえばEUでは2024年3月に「デジタル市場法(DMA)」が全面施行され、ゲートキーパーと呼ばれるAppleやGoogleを含む複数の大手プラットフォーマーに対して様々な義務が課されるようになりました。

—— スマホ新法やアプリ外決済は、国内のアプリ事業者のビジネスにどのような変化をもたらすのでしょうか?

制度が整うことで、アプリ事業者がより柔軟に決済方法を選べるようになります。これまでプラットフォームを通じてしか提供できなかった課金機能を、自社の判断で外部決済に切り替えたり、複数の決済手段を組み合わせたりといった選択肢が増えていきそうです。今後は手数料の在り方を含めて、事業者の裁量が広がる可能性があります。その分、価格設計やサービス内容の見直しもしやすくなり、ユーザーへの還元につなげていけるかもしれません。

また、独自の決済システムを導入すれば、クレジットカードやコード決済、後払いなどユーザーのニーズに合わせた多様な支払い方法を提供できるようになります。さらに自社で決済データを扱える範囲が広がれば、ユーザー理解を深めてマーケティング施策をより精緻に設計する動きも進むのではないでしょうか。

—— 収益構造に変化が生じるだけでなく、アプリ運営そのものにも影響がありそうですね。

そうですね。単に収益の仕組みが変わるだけでなく、ユーザーがどんな方法で支払うか、どんな価格で利用するかといった体験設計の部分に変化を出せる点は大きいです。

外部決済を取り入れることで、価格設定の自由度が増したり、ポイント還元や割引など独自の仕組みを導入しやすくなったりするという側面もあります。ユーザーにとっては、使い方や価値観に合わせて決済方法を選べるようになり、事業者にとってもサービス設計の幅が広がるという、ひとつの転換点になるのではないでしょうか。

6割のユーザーはアプリ外決済を知らない!その背景とは?

—— 現在、アプリ外決済はスマートフォンユーザーにどの程度認知されているのでしょうか?

実は、あまり知られていないのが現状です。

当社が2025年9月に実施した調査では、スマートフォンユーザー1,860名のうち、「アプリ外決済を他人に説明できる程度に知っていた」と答えた人はわずか10.5%。「知っていたが説明できない」を含めても38.2%にとどまっています。

g01スマホ新法とアプリ外決済・課金についての消費者調査(Repro」より

つまり、多くの人にとって、アプリ外決済という言葉自体がまだ聞き慣れないものなんですよね。

さらに「アプリの売り上げにAppleやGoogleへの手数料がかかっている」ことを知らない人が73.4%、「知っているが手数料率は知らない」も含めると、9割以上のユーザーが具体的な仕組みを把握していないこともわかりました。

g02スマホ新法とアプリ外決済・課金についての消費者調査(Repro」より

—— なぜ、ここまで認知されていないのでしょうか?

アプリ内に外部決済への案内を出すこと自体が制限されている点が大きく影響していると考えています。 AppleやGoogleの規約では、アプリ内から外部の決済ページに誘導することを禁止する「アンチステアリング規定」があります。そのため、アプリ事業者は「アプリ外での決済がおすすめですよ」など明示することができず、結果としてユーザーがその存在を知る機会も限られてしまっているのが実状です。

実際にはNetflixやDisney+(ディズニープラス)のように、外部サイトでサブスク登録した上でアプリを使っているケースでも、ユーザー自身はそれを“アプリ外決済”とは認識していないことが多いんです。

—— それでも一部の企業では、うまく外部決済を活用している例もあると聞きます。

そうですね。ゲームアプリなどでは、「お得な情報はこちら」といった表現を使って、アプリ外に設置したWebの公式ショップを案内しているケースもあります。

また、先ほどアプリ名を挙げた動画配信サービスのように、新規アカウントをWebサイトでしか登録できないようにして、手数料が発生するIAPを回避するように設計している例も見られます。

あるいはライブ配信アプリの場合、ライバーが配信内で「こちらのほうがお得です」と誘導したり、アプリ事業者が「推しに還元します」とアピールしているケースもあります。ユーザーには推しに対してたくさん投げ銭をしたい気持ちがあるので、「推しのためなら」とアプリ外決済に移行しやすいんですよね。

このように、現行ルールの範囲内で最適化を試みる企業が増えてきている印象です。

—— 各社、さまざまな工夫でアプリ外決済を訴求しているのですね。

スマホ新法の施行後は表現規制が緩和され、より直接的に外部決済のメリットを伝えられるようになるとも考えています。

ロイヤル層からアプローチするのが吉。お得感だけに頼らない訴求のポイント

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—— これから自社アプリでアプリ外決済を導入したい事業者は、どんなことから考え始めればよいでしょう?

アプリからWebページに誘導する際は、どうしても途中離脱が発生しやすいので、没入感を妨げない導線設計や画面のわかりやすさが重要になってきます。バナーの表現ひとつでもCVRは大きく変わるので、UI/UXを意識することが欠かせません。

さらに「安い」だけではなく、アプリ外決済ならではの付加価値を設けるのがポイントになるのではないでしょうか。そのためには、アプリ外で提供するプランを、誰に向けて、どのように設計するかを考えておくとよいでしょう。

たとえば、アプリ外決済限定の特典やポイント還元といった「お得」を用意すれば、幅広いユーザーに向けてメリットを訴求できます。あるいは、特に課金額が大きいロイヤル層のユーザーに向けて、一度に購入できる金額の上限を高めに設定して、大量のアイテムを購入する手間を一度で簡単に済ませられるようにするプラン設計も考えられます。

—— 一度に支払える上限額を高めに設定することが、ユーザーにとってのメリットになるのでしょうか?

高額課金を行うユーザーにとっては“お得さ”と“手間の少なさ”の両方が大事です。そして手間に関しては、課金額が多い人ほど、そのメリットを実感できるのではないかと思います。

たとえば、App Storeの場合、ゲームアプリなどで手軽に使ってもらえるように最低課金額を100円程度に設定すると、価格ステップの仕様上、上限が15,000円程度になってしまいます。

実際に私が熱中していたゲームアプリも、アプリ内のストアで「ダイヤ」を購入する際は上限金額が15,000円ほどだったんです。しかし決められた価格ステップがないWebストアでは、その10倍以上の金額で大量のダイヤを一括購入することができます。

高額課金ユーザーにとっては、1.5万円の支払いを10回するよりも、一度に15万円分購入できる方がはるかに楽です。しかも、そのゲームの場合はアプリ外なら20%ほどダイヤが上乗せされるので、お得と手軽が両立できているんですよ。

—— 100円程度の課金であれば「どちらでもいいかな」という気もしますが、たしかに高額になるほど、その差は明確になりそうですね。

上限いっぱいまで課金するのは極端な例にも思えるかもしれませんが、実はアプリ外決済は、ロイヤルユーザーと相性がいいんです。もともとアプリへの熱量が高く、すでに課金の経験もあるので、「お得で便利に使えるなら試してみよう」と受け止めてもらいやすい。価格や仕組みが変わることへの理解度も高いため、最初のトライアル層として向いています。

まずはロイヤル層に向けた訴求に集中することで、実際のユーザー反応を見ながらUIや訴求内容を調整できるというメリットもあります。いきなり全ユーザーに案内するより、段階的に広げていくほうがリスクが少なく、安定した移行につなげやすいと思います。

—— アプリ外決済への移行を促すためには、そういったメリット以外に、ユーザーに対してどのようにメッセージを打ち出していくとよいでしょうか?

単に値段やユーザーへのメリットだけではなく、アプリを応援する行為としての課金という考え方も伝えていけるといいと思います。特にロイヤル層のユーザーは、そのアプリやコミュニティに強い愛着を持っているので、「アプリ外での決済がサービスの継続につながる」といったメッセージがポジティブに響く可能性もあります。

もちろん、すべてのユーザーを外部決済に移行させる必要はありません。IAPも便利ですから、一人ひとりのユーザーが自分に合った方法を選べるようにすることが大事なんです。

日本のアプリ支出額は世界第3位。スマホ新法は市場のポテンシャルを活かす好機

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—— スマホ新法は、アプリビジネス業界全体にどのような影響を与えそうでしょうか?

業界全体をもう一度活性化させるきっかけになると思っています。

外部決済の導入で事業者がより柔軟に価格設定を行えるようになったり、結果的にユーザーがより手軽にサービスを楽しめるようになったりする。そうした構造が成立すれば、事業者とユーザーの両方にとってプラスになる流れが生まれるはずです。

日本は、アプリ支出額が179億ドルにものぼる世界3位(Sensor Tower/Adjust 「Japan App Trends 2024」)の巨大市場です。エンタメやゲーム、ライブ配信など、国内のIPやコンテンツ産業にはまだ伸びしろがあり、グローバルでも十分に戦えるポテンシャルがあります。スマホ新法は、そうした日本発のアプリビジネスが再び勢いを取り戻すための後押しになると感じています。

—— 最後に、アプリ外決済の導入を検討しているアプリ事業者へのメッセージをどうぞ。

スマホ新法の施行まであと少しですが、ユーザーが納得感を持って決済手段を選択できるような導線・メッセージや、ストレスなく利用できるUI/UXを整えておくことが大切です。そうすることで、アプリ外決済を、単に手数料を下げるだけの仕組みではなく、自社でどういう体験を提供していくかを再設計する好機にできます。うまく準備できれば、2026年以降のアプリビジネスにとって大きな追い風になるはずです。

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