EUのDMA(デジタル市場法)から読み解く、スマホ新法がもたらす変化とは?【スマホ新法の「?」を解決 第3回】

Repro Journal編集部
Repro Journal編集部
2025.12.03
EUのDMA(デジタル市場法)から読み解く、スマホ新法がもたらす変化とは?

目次

2025年12月18日に施行が迫った「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称「スマホ新法」。気になっているけど、実際のところ、どのような変化が起こるか想像がつかない方も多いでしょう。そこで参考となるのが、すでにEUで施行されている「デジタル市場法(DMA)」です。
Repro Journalではスマホ新法やアプリ外決済に関するインタビュー連載を実施中。スマホ新法によって、どのような規制が行われるのか。そして、その規制に対し、大手プラットフォーム事業者は、どのような動きを見せると考えられるのか。今回は、EUにおけるDMAの施行状況や日本でこれから施行されるスマホ新法に詳しい、ニッセイ基礎研究所の松澤登さんにお話をうかがいました。

日本のスマホ新法、EUのDMAとの違いは?

ニッセイ基礎研究所・松澤登氏

――アプリ事業者からは、2024年3月に全面施行されたEUのデジタル市場法(DMA)とスマホ新法との類似や違いが気になっているという声が多く聞かれます。DMA自体の認知度も非常に高いようです。まず、EUではDMAによってどのような変化が起きているのか教えてください。

DMAはそもそも、欧州域内での「contestability(競争機会の確保)」を目的とした規則です。DMAの施行により、現在、EUではさまざまな変化が起きています。代表的なところでは、アプリ外決済が認められるにあたって手数料が定められたり、同様に、公式アプリストア以外からのダウンロードごとに手数料が発生するようになったりしました。

欧州委員会はDMA違反の可能性があるとして複数のゲートキーパー企業に対し調査を行い、Appleに対して5億ユーロに及ぶ制裁金を課すなどしていますが、重要なのは、DMAができたことで、従来の独占禁止法と異なり、競争制限があったかどうかを立証する必要がなくなった点です。ゲートキーパーに指定されれば、DMAに違反しているかどうか、それだけで制裁金を課すことも可能になったのです。 ‎

――では、日本のスマホ新法はそもそもどのようなもので、EUにおけるDMAとの類似点はどれくらいあるのでしょうか。

日本のスマホ新法も、国内のスマホ関連市場における競争やイノベーションの促進を目的としていて、大きな枠組みとしては、スマートフォンに関する規制の内容はほぼ同じです。基本的にDMAの中でスマートフォンに関わる部分はすべて日本のスマホ新法にも盛り込まれています。

代表的なものを挙げますと、まず、「データによる自社優遇の禁止」。これは、アプリから取得したデータを自社事業の競争に有利になるように利用してはならないという規制です。次に「不公正取引の禁止」では、ゲートキーパーは個別事業者との取引において、不公正な取引を行ってはならない、例えば、アプリストアに掲載する際の審査において、不当な条件を課してはいけません。さらに、アプリをダウンロードする際、自社アプリストア以外の利用を禁止してはいけない「サイドローディング制限、相互運用性制限の禁止」、支払い手段を自社が提供するものに限定してはならない「アプリ内課金システムの強制禁止」などがあり、これらの規制は、日本でもEUでも基本的にほぼ同じ内容になっています。

ただ、その中でもいくつかの違いがあります。

――その違いとは、どのようなものなのでしょうか。

まず、対象範囲が異なり、DMAは幅広いデジタルプラットフォームを対象としていますが、スマホ新法はスマートフォン関連の内容に特化しています。

より具体的な違いとしては、例えばDMAには「第三者アプリストアそのもののインストールを許容しなければならない」という規定があります。つまり、App StoreやGoogle Playストアとは別に、別のストアのアイコンをスマートフォン上に設置できるようにしなければならないと求めているのです。一方、スマホ新法にはこの規定がありません。日本では第三者ストアから個別アプリのダウンロードを認めることまでは求めていますが、第三者アプリストア自体のインストールまでは求めていません。

また、データポータビリティ(ユーザーが自身のデータを、他のサービスへ簡単に移行したり、再利用したりできる権利)に関しても、DMAではデータそのものをアプリ業者に渡さなければならないとされていますが、日本のスマホ新法ではデータの取得条件を示すことが求められているだけです。私見ですが、この点についてDMAの規制は強すぎるようにも感じられ、そこまで踏み込むことを避けている日本のスマホ新法の方が、ちょうどよいバランスであるとも考えられます。

もうひとつ、先日EUでGoogleが検索結果に関し差別的取り扱いをしたのではないかということでDMA上の調査を開始したという報道がありました。その内容を詳しく見てみると、DMAでは違法の可能性があるが、日本のスマホ新法では、検索エンジンに関する規定はあるものの、同様のケースでは規制の対象にならないという興味深い案件ということがわかりました。
※関連情報:EU、Googleへの調査開始-Google検索についてDMA違反の可能性(ニッセイ基礎研究所、2025年11月19日)

スマホ新法が施行されたら、日本で何が起こる?

ニッセイ基礎研究所・松澤登氏

――DMAで指定された大手のプラットフォーム事業者(ゲートキーパー)は、DMAに対して、どのような反応を示していますか? 特に今後の日本での動きを考える上で、日本のスマホ新法でも指定事業者になっているAppleやGoogleの動きが気になります。

両社ともにDMAが定めるゲートキーパーとしての義務を遵守しつつ、システム変更やビジネスモデルに影響を与えるポリシー変更を行っています。一方で、AppleはDMAの適用自体について争う訴訟や、制裁金への不服申し立てなど、積極的に争う構えを見せています。その主張はDMAが「欧州連合基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of the European Union)」の比例原則に違反すると主張するもので、規制の効果と失われる損害のバランスが取れておらず、課される制限が重すぎると訴えています。 また、第三者アプリストアを認めることで、セキュリティが確保できなくなり、顧客体験に問題が生じる可能性があるという懸念も示しています。 

スマホ新法が施行されると、同様の訴訟が日本でも起こりうると十分に考えられます。先ほどお伝えした通りスマホ新法の内容はDMAとほぼ同じであり、Appleが同様の主張をする可能性は高いと言えるでしょう。 ‎

――スマホ新法が施行されるにあたって、アプリ外決済の導入を考えているアプリ事業者がEUの状況から学べる点はあるでしょうか?

DMAにおけるゲートキーパー企業であるAppleやGoogleの動きについて、EUと同様の対応を日本でも行うかなども含めて注視する必要があるでしょう。例えば、サイドローディングに対する手数料設定や、第三者アプリストアの審査基準などが重要なポイントになると思います。 ‎

アプリ外決済にかかる手数料に関して、現時点では分かりませんが、たとえ第三者アプリストアや自社サイトでダウンロードや決済ができるようになっても、新たなストアの手数料や外部決済サービスを使うための手数料がかかるため、期待できるほど大幅に安くなるわけではないかもしれません。

また、アプリ事業者、特に中小規模の事業者にとっては、複数のチャネルに対応するためのコストや、第三者アプリストア経由でセキュリティ問題が発生した場合のリスクなども考慮する必要があり、場合によっては、アプリ外での決済を導入するメリットをあまり感じられないケースもあるかもしれません。

――第三者アプリストアが増えた場合、EUでAppleが主張しているようなセキュリティ等に関する懸念は日本でも考えられるでしょうか? ‎

確かに、セキュリティ上の懸念がないとは言い切れません。法律的には、例えばマルウェアを配布した事業者が責任を負うことになりますが、その事業者を特定して責任を追及することは難しいのが現状です。

EUにおけるDSA(デジタルサービス法……デジタルプラットフォームなどオンラインサービスにおける、違法なコンテンツが提供された場合の包括的な規則)では、デジタルプラットフォーム事業者が違法なコンテンツの存在を知っていた、あるいは知った後に行われた行為についての責任を負います。しかし、通常の審査では発見できなかったような内容や、審査を行わない第三者アプリストアから流入した問題については、プラットフォーム事業者は責任を負わない可能性が高く、その場合、ユーザーは泣き寝入りするしかありません。

実際に法律による規制がかからない第三者アプリストアが出てくる可能性があるため、アプリ事業者としては、そのストアの仕様や運営業者が信頼できるか、トラブル対応の体制が整っているかなども考える必要があります。

スマホ新法が施行されると、おそらく、第三者アプリストアからダウンロードする際や、アプリ外決済のために遷移する際に、プラットフォーム側から「Warning(警告)」の画面が表示されるようになると思います。ひとつには自社のアプリストアを使ってほしいというような経済合理性がありつつも、様々な被害が生じないようにする、あるいは生じた場合にその責任から逃れることも含めて表示するのは当然です。その警告画面の文言や内容があまりにも強い場合は、スマホ新法の規制にかかるかもしれませんが、セキュリティの不安がある以上、「Warning」が出されるのは、致し方ないと言えるでしょう。

スマホ新法の目的である競争促進やイノベーションは起こるのか

ニッセイ基礎研究所・松澤登氏

――スマホ新法の施行後、実際に競争促進やイノベーションの育成は実現しそうでしょうか。現時点での予想で構いませんので、ご意見をお聞かせください。

個人的な意見としては、すぐに劇的な変化が起こるとは考えにくいでしょう。例えば、第三者アプリストアの利用が認められたとしても、AppleやGoogleに対抗できるものがすぐに登場するとは思えません。また、アメリカでは、Epic GamesがAppleやGoogleを相手に訴訟を起こしましたが、果たして、日本でEpic Gamesのような訴訟を起こせる企業があるでしょうか?

しかし、だからと言って、イノベーションが起こる可能性がまったくないわけではありません。なぜなら、スマホ新法によって、イノベーションが起きる土壌ができたと言えるからです。そもそも、競争促進やイノベーションというものは、官民がともに動かなければなしえません。つまり、スマホ新法によって、国としてできることはやった。だから、あとは、民間企業がいかに動くかにかかっているのです。時間がかかるかもしれません。時には、複数のアプリ事業者が協力し合わなければならないかもしれません。それでも、スマホ新法によって、どのような変化が起こるのか。期待して見守りたいと思います。

※本記事は掲載日(2025年12月3日)時点の情報です。

プロフィール

ニッセイ基礎研究所 松澤登氏

株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登氏

日本生命での調査部法制担当課長・法務室長を経てニッセイ基礎研究所に。法の動向・行政の動向・海外事情について最新状況をトレースし、企業や消費者に役立つ形で分析の上で適時解説。具体的には企業法制、消費者法制、個人情報法制等の分析やデジタルプラットフォーム法制の動向について分析を行っている。

【経歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
 2025年4月 取締役保険研究部研究理事
 2025年7月より現職

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