行動科学が示すプロダクト体験に最も欠けている要素

2022.06.17

  • アプリマーケティング・運用
プロダクト体験_kv

Libbyはバックパッキング(トレッキング)を始めたばかり。初めての旅は、経験豊富な友人とシエラ山脈を4日間トレッキングするものでした。出発前、ふたりは速度や標高、歩行距離を追跡するアプリをダウンロードしました。

1日目の終わり、ふたりはその日どのくらいの距離を、どの程度の速度で歩いたのか確認するのにワクワクしていました。しかし、残念なことに、アプリが示した数値はふたりの期待より遅いものでした。標高3000フィート、7マイル歩きましたが、歩行速度は毎時1.7マイルだったのです。

Libbyが最初に考えたのは最も「論理的」なものでした。ただ速く歩けばいいのです。彼女は他にもアイデアを出し、例えば上り坂での遅いペースを埋めるために下り坂ではペースを上げて歩く、あるいは休憩は10分間まとめて取るのではなく、こまめに2分間ずつ取るなどを提案しました。

経験豊富な友人は、Libbyが思いつかない答えを出しました。荷物の重量を減らせばいいのです。

経験豊富なバックパッカーは、バックパックの重量を減らすことが速度を上げる最も簡単な方法であることを知っています。軽い荷物を背負えば、速く歩けるのです。友人は水の量を減らし、荷物の重さを分散することを提案しました。

さて、この高性能なハイキングアプリがLibbyのような頭のいい人にとってどれほど役に立ったのか考えてみましょう。見やすいチャートやグラフは数多く提供していますが、この情報から具体的にどのような行動を取ればいいのかという指針はまったく立ててくれません。言い方を変えると、そのデータだけではLibbyの役には立ちませんでした。

もしLibbyがひとりでハイキングをしていたら、「ただ速く歩く」という選択しかできず、失敗していたでしょう。その後、自分自身のふがいなさにイライラしてしまったかもしれません。歩くペースが速すぎてつまずいたり、必要な休憩を取らず無理をしてケガをしたりすることもあったかもしれません。

ビジュアルのいいグラフは意味のあるユーザー行動を促すわけではない

実際、消費者向けのアプリではビジュアルのいいグラフのみ提供して、専門的な提案がないことはよくあります。これは、例えばケーキを焼くための材料だけ用意してレシピは自分で考えろといっているようなものです。

ある事例を紹介します。「Fitbit」という睡眠アプリはユーザーそれぞれの睡眠パターンについて素晴らしいデータを提供してくれます。しかし、たとえ質の高い提案が得られるはずのプレミアム版だとしても、アプリの容量の90%はデータで費やされ、実際睡眠の質を向上させるための提案はわずか10%しかないのです。

睡眠アプリ

「Peloton」のアプリも同様です。エアロバイクを利用した運動の結果に関する衝撃的で面白いデータは提供してくれますが、肝心なポイント、つまり、どうすれば出力(ワット数)を上げてより良い体型になれるのかが抜けているのです。

フィットネスアプリ

Pelotonの場合、Libbyのように初心者はペダルを速く漕ぐという当たり前なことしか思い浮かびません。しかし経験者は抵抗を増やす方が遥かに効果的であることを知っています。ペダルを速く漕ぐ代わりに、抵抗値を1から2ポイント上げてワット数を上げるのです。

しかし、一番最悪なのはフィンテックの個人向け家計簿アプリです。これらの企業は、エンジニア予算のほとんどをカテゴリー分けとデータの可視化の向上に費やしています。これにより、先月とその前の月を比較した美しい円グラフやトレンドグラフを表示してくれます。

しかし、何かが抜けています。それは、ユーザーが支出を減らすには何をすればいいのか、ということです。

家計簿アプリ1

家計簿アプリ2

例えば、ミレニアル世代に人気のアプリ「Mint」の代替アプリである「Clarity」は、データを利用して何をすればいいのかを手助けするUI/UXスペースがほとんどありません。このチャートを見れば、支出を減らすための最善の方法が自分でわかるというのが暗黙の了解になっています。

悲しいことに、実際はそうではありません。ほとんどの人は、コストを削減するためにラテやアボカドトーストの購入を控えるべきだと考えます。しかし実際は、居住費や交通費、健康保険料の支出を減らした方が遥かに良いと専門家は口を揃えるのです。

レポートとインサイトだけでは不十分 ー ユーザーは点と点をつなぐための助けを必要としている

研究結果ははっきりと示しています。単に行動を追跡するだけでは変化は起きません。特に複雑な環境においては、初心者にとって「最善の行動」が明らかでないことがあります。例えば、研究者が糖尿病患者にお金を支払って自身のグルコースの数値をモニタリングしてもらったところ、数値の追跡をすることに成功しました。しかし、かなり厳しいモニタリングだったにも関わらず、グルコースの値が変化することはなかったのです。

インサイトと行動が一体であるシンプルな環境では、データを表示するだけでも期待が持てます。例えば、歩数計の場合、歩数を記録すると人々はさらに歩数を伸ばしたくなるというエビデンスがあるのです。しかし、少し複雑な課題である減量となると、歩数計を利用することは逆効果になることがあります。

体重を減らすために設計された2年にも及ぶ包括的な研究によると、歩数計を利用していなかった被験者の方が、利用していた人より5ポンド多く減量に成功したのです。なぜでしょうか。歩数計を利用した被験者は歩数は稼いだのですが、減量できるといわれている高負荷運動を敬遠してしまったのです。

この発見は金融行動にも当てはまります。研究者は、人々に情報(例えば複利やFICOスコアについて)を与えるだけで、投資やクレジット払いの習慣が変わるという有力な証拠を未だに発見できていません。データだけではそこまで辿り着くことができないのです。

専門家としてお勧めの提案をする

ユーザーを本当にサポートしたいのなら、アプリデベロッパーはユーザーをデータに基づいた行動へと誘導することに注力すべきです。ユーザーはLibbyであり、あなたがバックパッカーのエキスパートであることを必要としています。

もちろん、そう簡単なことではありません。アプリからの提案や誘導がLibbyにとって最適であると、どのように知ることができるのでしょう。悲しいことに、そのような提案をすることを妨げているのは恐怖心なのです。

Irrational Labsでは、世界クラスのエンジニアとともにこの課題に取り組んでいます。彼らは広告プラットフォームを構築していましたが、中小企業のキーワードを決めるのは彼ら自身が最善であるという理由から、キーワードの提案をしたがりませんでした。

しかし、本当にそうでしょうか。お花屋さんはフラワーアレンジメントについて、パティシエはケーキについて考えます。中小企業は広告プラットフォームやキーワードの専門家ではありません。エンジニアはキーワードの専門家であり、キーワードについて一日中、毎日考えているのです。彼ら以上に素晴らしい提案ができる人はいるのでしょうか。お花屋さんはキーワード自体でさえ、何なのかわからないでしょう。

プロダクトマネージャーやデザイナーは全員がそれぞれの領域の専門家です。あなたの領域の課題をあなた以上に考えている人はほとんどいません。提案をすることは難しいことですが、それがあなたの仕事です。美しく表現されたデータと、人々の生活向上とのギャップを埋める最高のポジションにいるのが、あなたなのです。

行動設計を利用してユーザーの行動をどのように導くのか

デザイナーとして、この道を選択すると新たな問題に直面します。ユーザーの想定が異なることを承知のうえで、説得力を持って最適な行動を提案するにはどうすればいいのでしょうか。摩擦が生じると実行する可能性が低くなることは承知のうえで、提案したことを受け入れてもらうためにはどうすればいいのでしょう。また、どうすればユーザーがモチベーションを失わないようにチャートやグラフを表示することができるのでしょうか。

これらは、聞くことに意味があり答える価値のある質問です。データを提供するだけでなく、行動設計まですることで、さらに面白くなっていきます。

ある銀行と共同で行動設計を活用し、自動車ローンの貸倒損失の割合を前年比で69%減少することができました。行動科学によると、返済に介入する機会は返済ができなかった後ではなく、ローンを組んだ時だということが明らかになったのです。

そこで銀行のウェルカムコールに自動支払いや請求書払いのリマインダーを含めるように設計しました。その結果、車を手放さず、経済的に管理できていると感じられるようになった人々のストレスが軽減され、人的コストも削減できたのです。

データだけではなく、専門家によるガイダンスも提供することでよりユーザーに貢献できるようになります。行動設計はあなたとユーザー双方を高め、影響を与える根本的な変革を円滑に進める手助けをするのです。

この記事は、IRRATIONAL LABSのブログ ”The Biggest Missing Element in Most Product Experiences, According to Behavioral Science (Does Yours Have It)” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.

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