ECサイトを運営している方のなかには、「色々と施策を試しているが売上改善につながらない」とお悩みの方が少なくないでしょう。「鉄板施策」といわれるような定番の施策はありますが、ただやってみるだけでは成果は出ません。
EC売上改善のための鉄板施策を実施するときに特に重要なのは、施策の「前提」を意識することです。本記事では、4つの鉄板施策を行ううえでの注意点を事例とともにご紹介します。
【鉄板施策1】カゴ落ち・カート落ち施策
鉄板施策としてひとつ目に挙げられるのは、「カゴ落ち・カート落ち施策」です。カゴ落ち・カート落ちとは、ユーザーがECサイトのカートに商品を入れたあと、購入に至らずに離脱してしまうことを指します。
カート落ち施策で対象となるユーザーは、一度商品を購入を検討した比較的購入意欲の高いユーザーです。見込み客へのアプローチとなるため、カート落ちを減らすことは売り上げへの大きなインパクトが期待できます。
カート落ち施策でやってしまいがちな失敗
Webサイトを閲覧しているのユーザーに「お買い忘れはありませんか?」といったリマインドメッセージを表示することが多いですが、ユーザー属性やユーザーの行動によってアプローチの仕方は異なります。どういったユーザーに対してリマインドしたいのかが定まっていないと、メッセージを表示するタイミングや文言にずれが生じ、ユーザー体験を損ねてしまいます。
カート落ち施策を成功させるためのポイント
では、ユーザーに商品のリマインドを行う際、どのようにすれば成果が出やすいのでしょうか。まずは、前提を整理するためにリマインドを行う際に対象となるユーザーについて考えてみましょう。ここで対象となるユーザーは次の2パターンとなります。
- カート内に商品を追加したもののサイトを離脱してしまい、再訪してきたユーザー
- カート内に商品を追加したものの、検討中のユーザー
施策の対象となるユーザーが1と2の場合、リマインドを表示する条件と文言は次のように考えられます。実際に私が携わった施策でも再訪時にカート保持商品をリマインドする施策を行ったところ、施策実施ユーザーのCVR(コンバージョンレート)は、未実施ユーザーに比べて23.2%高くなりました。
■再訪ユーザー向けのカゴ落ち・カート落ち施策の例
■検討中ユーザー向けのカゴ落ち・カート落ち施策の例
このように、カート落ち施策として、ただユーザーに商品のリマインドをすればいいわけではなく、前提を整理することでやるべきことが見えてきます。成果が出ない場合は、まずは対象とするユーザーと表示条件という前提部分が合っているのかを見直してみてください。
【鉄板施策2】レコメンド施策
鉄板施策のふたつ目はレコメンド施策です。レコメンド施策とは、ECサイトを閲覧中のユーザーに、ユーザーが興味のありそうな別の商品をおすすめする施策のことで、多くのECサイトで活用されています。レコメンド機能のメリットとしては、ユーザーのニーズに沿って新たな関連商品をおすすめすることで、サイトの回遊率が向上したり、購入単価が向上したりすることが挙げられます。
レコメンド施策でやってしまいがちな失敗
このレコメンド施策では、どのようなセグメントに切り分けて、何のおすすめを表示すればいいのか考えることが重要です。この施策でのありがちな失敗は、レコメンドの精度が低くユーザーにとって的外れな商品が表示されてしまうケースです。「商品Aを閲覧したユーザーは一律に、商品Aと同じカテゴリの商品Bを表示する」というように、レコメンドの表示ルールやシナリオの設定が甘いと、ユーザーはほかの商品を購入することなく離脱してしまいます。
また、自社で売りたい商品をレコメンドすることでサイトに悪影響を及ぼすケースもあります。レコメンド施策ではそのECサイトで売りたい商品を全ユーザーにレコメンド表示するのではなく、本来はそれぞれのユーザーに合わせた商品をおすすめするべきです。売り出したい商品をすべてのユーザーに表示してしまうと、CVRが下がるだけでなくユーザーからの信頼度も落ちてしまう可能性があります。
レコメンド施策を成功させるためのポイント
サイト上でどのように商品を閲覧するかは、ユーザーごとに異なります。そのため、成果につながりやすいページを特定し、レコメンドの表示ルールやシナリオをユーザー属性に合わせて設定することが大切です。
例えば、下記の事例をご覧ください。あるECサイトでは、サイト内でよく閲覧される商品詳細ページ群の離脱率が高いことが課題となっていました。そこで、ユーザー属性を新規・既存の2パターンに分けてレコメンドを強化したところ、CVRは大きくプラスに変化しています。
■新規ユーザー向けレコメンドの例
■既存ユーザー向けレコメンドの例
これは、ユーザーごとに商品の探し方が異なると仮説を立て、レコメンドの表示内容を切り分けたことで成果が出た事例です。ある商品に興味を持ち詳細ページを閲覧した新規ユーザーは、「色々なタイトルを見て興味がありそうなものを探している人」が多く、既存ユーザーは「ある程度購入するものは決まっており、同じブランド内で商品を検討したい人」が多いという仮説が当たったことで、CVRが向上しています。
このように、ユーザーによって商品の探し方は異なるため、一律で同じレコメンド表示をしても高い効果は見込めません。自社のECサイトでは、どんな行動をとったユーザーに対して、どのようにレコメンド表示を切り分ければいいかぜひ検討してみてください。
【鉄板施策3】人数表示施策
3つ目の鉄板施策は、人数表示施策です。この施策は、商品詳細ページで「現在◯人が閲覧中」や「1時間以内に◯人が購入しています」といったメッセージを表示するものです。
商品の購入を迷っているユーザーに対して、ほかのユーザーも同じ商品を選択していると伝えることで、「自分の選択は正しいものだ」という安心感を与え、購入への迷いを払拭することができます。また、閲覧人数を表示する商品によっては、「他の人が先に購入してしまうかもしれない」という気持ちにもさせ、購入の後押しにつながります。
人数表示施策でやってしまいがちな失敗
この施策でありがちなのは、「訴求軸」を決めずに閲覧人数表示をしてしまうことです。閲覧人数表示は、ユーザーに対してどう効果があるのかを意識して実施する必要があります。
具体的にいうと、この施策には「人気」「商品の品質担保」という訴求軸と、「商品の希少性」というふたつの訴求軸があります。そのため、すべての商品に閲覧人数表示を行えばいいわけではなく、このふたつの軸に当てはまる商品を対象に考えましょう。
訴求軸を意識しないままとりあえず人数を表示しても、購入の後押しにはならず施策の効果は見込めません。
人数表示施策を成功させるためのポイント
ひとつ目の「人気」「商品の品質担保」という訴求軸が効果を発揮するのは比較的高価な商品です。ユーザーが高価な商品を検討する際、「本当に値段に見合う良い商品なのか」と迷うはずです。その際、閲覧人数表示があればその商品の人気度や品質への信頼性が担保され、ユーザーの不安を払拭することができます。
実際に、あるアパレルECサイトで離脱率の高い商品詳細ページに閲覧人数表示を行ったところ、施策実施ユーザーのCVRは未実施ユーザーに比べて19.4%高くなりました。これは、「人気」「商品の品質担保」という軸で、ユーザーに上手く訴求でき成果につながったケースです。
■人数表示施策の例
また、ふたつ目の「希少性」の訴求軸の場合は、旅行サイトやグルメサイトなどで有効です。宿泊施設のページや店舗ページで多くの人が閲覧していることがわかると、ユーザーは「誰かに先を越されてしまうかもしれない」と感じ予約に至ると考えられるためです。
このように、閲覧人数表示は大きくふたつの訴求軸があるので、自社のECサイトの場合はどういった商品に表示すれば効果が見込めそうか、表示する場合はどの程度の閾値が適しているかを検討したうえで取り入れてみてください。
【鉄板施策4】LPにおける申し込み導線の改善施策
4つ目の鉄板施策はLP(ランディングページ)における申し込み導線の改善施策です。ここでいうLPとは、特定の商品の購入や申し込みに誘導するためのWebページのことをいいます。商品紹介やキャンペーン紹介、商品レビュー、購入・申し込みフォームなどの要素を適切な順番で設置することで、徐々にユーザーの興味を惹き購入へと後押しします。
LPでは特定のアクションを狙ったリンク以外は設置しないため、ECサイトと違ってユーザーがほかの商品に目移りすることがありません。そのため、特定の商品の購入率を高めることができます。
LPを制作する際にやってしまいがちな失敗
ある商品を力を入れて売りたいと考えLPを作ったものの、あまり効果が出ないというケースがあります。LPを作るうえで重要なのは、ユーザーが購入に至るまでのストーリーを描き、コンテンツを最適な位置に設置するということです。LPに掲載するコンテンツの整理が上手くいっていないと、ユーザーは購入することなく離脱してしまいます。また、掲載する情報量が多かったり、逆に情報不足であったりしてもNGです。
基本的にLPに必要な要素や、おおまかな構成は決まっています。しかし、構成内容は掲載する商品やターゲットによって微調整が必要です。
LP改善施策を成功させるためのポイント
これまで私は、CVに貢献しやすいコンテンツをLP内に埋め込むというテストを何度も行っています。その際、コンテンツの流れを意識することで数値が大きく変動することがわかっています。実際に、アパレル系ECサイトのLP改善を行った際、下記のようにCVR貢献度の高いコンテンツをCVフォームの直前に挿入したことで、施策実施後のCVRは未実施時と比べて15.6%高くなりました。
ユーザーが違和感なく情報を読み取れるかどうか、そして購入までスムーズに進めるかどうか、テストを繰り返しながら勝ちパターンを探ることが大切です。
■LP改善施策の例
A/Bテストは顧客との対話。施策の前提を踏まえてテストを繰り返そう
今回はECサイトにおける鉄板施策のポイントを事例とともに紹介しました。鉄板施策はただやみくもに取り入れるだけでは大きな成果にはつながりません。施策の対象や条件などの前提を整理したうえでA/Bテストを重ね、自社にとっての最適解を探ることが重要です。
A/Bテストは「顧客との対話」と捉え、テストを繰り返し行いユーザーへの理解を深めていきましょう。サイト上でユーザーが知りたいこと、求めていることは何なのか、A/Bテストを通じて問いかけ続けてみてください。ユーザーに対する解像度が上がり、成果につながる施策が打てるようになるはずです。