アプリの新規ユーザーを獲得したいと考えたとき、真っ先に思いつくのが「インセンティブ」を用いた施策なのではないでしょうか。電子マネーや割引クーポン、有料機能の期間限定開放などを報酬・特典としてインストールの促進を図るのです。
一方で、インセンティブ施策は効率が悪いという声を聞くこともあります。実際のところはどうなのでしょう。本記事では、Reproが実施した「モバイルアプリのインストール実態調査」の結果を基に、インセンティブ施策の効果や上手な活用法を考察していきます。
60%以上がインセンティブ目的のインストール経験あり
まずはインセンティブ施策がどの程度の訴求力を持っているのかを検証していきましょう。「モバイルアプリのインストール実態調査」では、1,236名の消費者に、「インセンティブ(報酬や特典)があることを理由にアプリをインストールした経験はあるか」を尋ねています。結果が下のグラフ。
■インセンティブを目的としてアプリをインストールした経験
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
インセンティブ目的でアプリをインストールした経験について、「何度もある」と回答したのは全体の21.7%。「数回ある」は35.4%で、「1回だけある」は6.6%となりました。実に60%以上はインセンティブがあることを理由にアプリをインストールしたことがある計算です。大方の予想通りかもしれませんが、インセンティブ施策は十分な訴求力を証明しました。
また、「何度もある」「数回ある」と、複数回のインストール経験があると回答した人だけで50%を超えることを考えると、実施する価値は高いといえます。
さらに詳細を把握すべく、年代別に分析したのが次のグラフです。年齢によってインセンティブの効果に差異は生まれるのでしょうか。
■インセンティブを目的としてアプリをインストールした経験(年代別)
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
分析の結果、明らかになったのはインセンティブによるアプリインストールの促進は「全世代に効く」ということです。40代以下では60%以上が、インセンティブ目的でアプリをインストールしたことがある(「何度もある」「数回ある」「1回だけある」の合算)と回答しており、50代以上でもその割合は50%を超えています。
なお、このデータを見るときには「年代が低いほうがアプリのインストール頻度が高い」という事実を念頭に置いておく必要があります。一見すると、年代が高くなるにつれてインセンティブの効果が緩やかに薄れていくように見えるグラフなのですが、高齢になるほどアプリのインストール頻度が低下することを考えれば、効果が薄れるとはいえないのです。40代では「何度もある」と回答した人が26.2%も存在し、相対的に見ると非常に効果が高い年代と見ることもできます。
訴求力が強いのは使用範囲に制限がないインセンティブ
それでは、アプリのイントールを効率的に増大させるためには、消費者に対してどのようなインセンティブを提供すればいいのでしょうか。より実践的なデータに触れていきましょう。下のグラフは「新しいアプリをインストールする際にどのようなインセンティブが魅力的か」を聴取した結果。非常にわかりやすい結果が出ています。カギになるのは「使用範囲の広さ」です。
■インストール時に魅力的だと感じるインセンティブ
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
最も多く選ばれたのは「電子マネー/現金キャッシュバック」で67.4%。これは基本的に利用範囲に制限がなく、インストールしたアプリと関係なく利用できるインセンティブ。2番目に多かったのが「ポイント」で62.2%。Amazonギフトカードや楽天ポイントなどが該当し、様々な商品の購入に使えるものです。
一方で「有料機能やサービスの期間限定利用」「アプリ内通貨・ゲーム内アイテムなどのアプリ内特典」といった、利用範囲がインストールしたアプリに左右されるものは低水準となっています。このふたつは有料・課金機能を持つアプリではありふれたものであり特別感が少ないという面もあるかもしれませんが、新規ユーザーを増やすという目的であれば、「電子マネー/現金キャッシュバック」のようなインセンティブを用意したほうが獲得効率が上がるはずです。
50%以上はインセンティブ消化後も継続利用している
アプリのプロモーションはインストールがゴールではありません。継続して利用してもらはなければ収益に繋がらないのが一般的なビジネスモデルだからです。「インセンティブを用いたインストール促進が非効率的である」といわれるケースがあるのもこのことが背景となっています。
もちろん、「モバイルアプリのインストール実態調査」ではインストール後の利用動向についても調査しています。下のグラフを見てください。
■インセンティブ消化後のアプリ利用状況
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
「有料会員になる、もしくは都度課金をして継続利用している」が4.7%、「無料で継続利用をしている」が49.8%となっています。当初はインセンティブ目的であったとしても、半数以上がアプリの継続利用に繋がっているわけです。アプリジャンルを区分した設問ではないため、アプリの特性等に左右される部分はありますが、十分な成果と捉えていい数値です。ちなみに、多くの調査データで80%以上のユーザーが、インストールしてから7日後に利用をやめているとされています。
加えて、「無料で継続利用をしている」と回答した人に、なぜ有料ではなく無料での利用に移行したのかを複数回答で尋ねたのが下のグラフです。
■インセンティブ消化後に無料での利用に移行した理由
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
「無料でも必要な機能やサービスを利用できる」を選択した人が最も多く73.7%に上りました。アプリの機能に一定の満足を得て継続利用されている形です。これらのユーザーは、より高い付加価値を提供することができれば、有料転換のチャンスがあるユーザーと言い換えることも可能です。
実際に提供できているアプリの機能やサービスとしての完成度に大きな影響を受けることは前提となるものの、単なるインストール数の増大ではなく、マネタイズ機会の増大という意味でもインセンティブによるユーザー獲得が価値の高いものであることが証拠づけられました。
オンボーディングの設計、インストール後のプッシュ通知やアプリ内メッセージでのコミュニケーションなど、よりアプリの価値をスムーズかつ高頻度に体感してもらうことを目的としたアプリ内マーケティング、CRMの設計が必要不可欠であるといえます。
報酬目当ての使い捨てユーザーは回避する?それとも再チャレンジ?
前述の「インセンティブ消化後のアプリ利用状況」の設問で「利用しなくなったがスマートフォンには残っている」「アンインストールした」と回答した人に、「なぜ利用しなくなったのか、アンインストールしたのか」を尋ね、さらに「同等のインセンティブを得られたときに再度利用するか」を聞いたところ興味深い結果が得られました。
■インセンティブ消化後に利用しなくなった・アンインストールした理由
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
■同等のインセンティブを得られたときに再度利用するか
※出典:「モバイルアプリのインストール実態調査」(Repro株式会社)
アプリからの離脱、アンインストールの最大の理由は「特典や報酬以外に利用する理由がなかった」というもの。この回答を選択した人は、インセンティブだけを目的としており、アプリの機能や提供価値自体にニーズがなかったユーザーです。インセンティブ施策においてはできるだけ回避すべきユーザー層といえます。
さらに「同等のインセンティブを得られたときに再度利用するか」という問いに対して、59%が「利用・インストールする」と回答していることを考えると、報酬や特典だけを目当てにキャンペーンをめぐり続けるユーザーが一定数いることもわかります。
インセンティブ施策のネガティブ面を表しているようですが、一概にそうともいえません。アプリ自体に興味がない人にインストールしてもらえているという事実は、その訴求強度の高さと捉えることができます。インセンティブがあれば再度利用・インストールしてもらえるという点は、アプローチのチャンスが継続しているということでもあります。
つまり、インセンティブ施策の効果を最大化するためには、その受け手となるアプリのフェーズが非常に重要であるということ。例えば認知を広げたい、とりあえずインストールしてもらってシェアを広げ先行者利益を勝ち取りたいような状況では、インセンティブの訴求強度の高さは最強の武器になり得ます。一方でトップラインを上げるのではなく、ROIやROASにフォーカスするのであれば繊細なキャンペーン設計が必要です。
さらに、アプリをリニューアルしたり、機能の大幅アップデートしたタイミングでもインセンティブによるインストール促進は有効に働くと考えられます。なぜなら休眠、離脱ユーザーにも強くアプローチができるからです。
今回は「モバイルアプリのインストール実態調査」のデータを基に、様々なインセンティブ施策の特性に触れ、解説してきました。報酬・特典をフックにしたユーザー獲得を検討しているアプリマーケターはぜひ参考にしてください。効果的に利用することで、一時の「PayPay」や近年の「Temu」のような圧倒的な拡大を実現できるかもしれません。