A/Bテストは、アプリの収益を最大化するうえで非常に強力な手法のひとつです。しかし、同時に最も誤解されやすい手法でもあります。本記事では、効果的なA/Bテスト戦略、正しい仮説の立て方、ふたつの主要なテストタイプについてご紹介します。あわせてアプリ開発者やマーケティング担当者がA/Bテストを始める際に犯しがちなミスについても解説しています。
A/Bテストの第一歩は明確な仮説
A/Bテストは、やみくもに要素を変更して成果を期待するものではありません。明確な仮説を立てずに始めてしまうと、得られる結果には意味がなくなってしまいます。下の図は仮説を立てる際に活用できるシンプルな「型(パターン)」です。

A/Bテストのアイデアは、専用のドキュメントで管理するのがおすすめです。チーム全員が自由にアイデアを書き込めるようにし、そのなかから特に効果が期待できるものを精査・優先して実施するとよいでしょう。
【POINT】
- 一見するとシンプルなCTA(Call to Action)ボタンの変更であっても、更新率、解約率、離脱率、さらには全体の収益にまで影響を与える可能性があります。
- トライアルからのCVR(コンバージョン率)だけに注目し、リテンションを無視してしまうと、短期的な数値は改善しても、長期的な収益を損なう判断を下してしまうかもしれません。
実際のところ、何が最も効果的かは事前にはわからないものです。だからこそ、テストを行う必要があります。ただし、データに基づいた意思決定を行うためには、単一の指標だけでなく、全体像を捉えることが重要です。
ふたつのタイプのA/Bテスト
これまでの経験を通じて構築した、モバイルアプリにおけるA/Bテストのシンプルなフレームワークを紹介しましょう。A/Bテストをふたつのタイプに分類しており、リスクを管理しつつ、テストを適切な構造で実施できるようになります。

【1】価格テスト - 長期的な経済的インパクト
「価格テスト」は、実施可能なテストの中で特に重要かつリスクの高いものです。価格を少し変更するだけで、アプリ全体のユニットエコノミクスが変化し、CAC(顧客獲得コスト)、リテンション、LTV(顧客生涯価値)にまで大きな影響を与える可能性があります。
価格テストを実施する際には、自社のユニットエコノミクスを十分に理解していることが前提となります。CACとLTVの関係性に自信が持てない状態で大きな価格変更を行うと、ビジネスにとって逆効果になるリスクがあります。
さらに、価格テストは意味のある結果を得るまでに時間がかかる傾向があります。更新率、解約率、ユーザーの長期的な行動を追跡する必要があるためです。数日で結果が見えるUI/UXのテストとは異なり、価格テストの評価には数週間から数カ月かかる場合もあります。
【2】UI/UXテスト - 短期的な成果創出
「UI/UXテスト」は短期間で実施・分析が可能なA/Bテストです。オンボーディング画面、ペイウォール、CTAボタン、メッセージング、アプリのレイアウトなどの要素に焦点を当てます。
UI/UXの変更は、トライアルへのCVRやユーザーエンゲージメントといった重要な指標に即座に影響を与える可能性があります。ただし、必ずしも長期的な収益成長に結びつくとは限りません。例えば、トライアルCVRが向上してもそのユーザーがすぐに離脱してしまえば、LTVは上がらない場合も考えられます。
どちらのタイプのA/Bテストも重要ですが、適切なタイミングで使い分けることが大切です。リリース間もないアプリではUI/UX改善に注力し、ビジネスモデルの理解が進んだ成熟段階のアプリであれば価格に関する実験にも取り組むといった形です。
まず取り組むべきはUI/UXテスト
月間収益が5万ドル未満のアプリが最初に取り組むべきなのはUI/UXテスト、特にオンボーディングとペイウォールの改善です。これらの要素は、すべてのユーザーが必ず接触する非常に重要なポイントだからです。アプリ内の深い機能と違って利用頻度に個人差がないため、オンボーディングとペイウォールは、ほぼすべての潜在顧客に影響を与える要素といえます。

オンボーディング最適化のためのA/Bテスト例
オンボーディングはユーザーの第一印象を大きく左右し、最終的に有料ユーザーへの転換率にも深く関わる非常に重要なプロセスです。オンボーディングにおいてテストすべき主な要素は以下のとおりです。
- 画面の順序とステップ数
オンボーディングは短くシンプルにすべきか、それとも丁寧にガイドする形でステップ数を増やすべきか。
- メッセージの内容と語調
フォーマルでデータ重視のトーンが効果的なのか、それともカジュアルで親しみやすい表現のほうがユーザーに響くのか。
- フォームやボタン、ビジュアル要素
CTAボタンはより大きくすべきか。色や配置を変えると効果があるのか。
一部のアプリデベロッパーは、ユーザーにアプリを試してもらってから価格を提示すべきだと考えていますが、実際には「支払い」もプロダクト体験の一部です。年齢や体重、嗜好など、個人情報の入力を求めるアプリであれば、あとから料金を提示するよりも、最初に明示したほうがユーザーにとって誠実でわかりやすい対応といえます。
実際、最もよく目にする誤りのひとつが、「ペイウォールの表示をユーザー導線の後半に遅らせること」です。なぜこれが問題なのでしょうか。それは、トライアル登録の60〜80%がオンボーディング中に発生しているからです。ペイウォールを初期段階で提示しなければ、大きな収益機会を逃してしまう可能性があります。
【要注意】よくあるA/Bテストの失敗要因
A/Bテストは非常に強力な手法ですが、正しく実施されてこそ真価を発揮します。残念ながら、多くのアプリデベロッパーが同じようなミスを繰り返し、誤った結果を導き出したり、貴重な時間を無駄にしてしまったりしています。以下は、特に多く見られる代表的な落とし穴です。
明確な仮説がない
何をテストしているのかを明確に定義しなければ、得られる結果に意味がありません。常に仮説を正しく構築し、その目的と期待する成果を明確にしておくことが重要です。
一度に多くの要素を変更しすぎる
何を検証するのかが明確であれば、自然と「ひとつの変更」「ひとつの指標」に集中できるはずです。複数の要素を同時に変更してしまうと、どの変更が結果に影響を与えたのかが判別できなくなり、テストの意味が薄れてしまいます。
不適切なユーザーセグメンテーション
新規ユーザーとリピーター(既存ユーザー)では行動傾向が大きく異なるため、同じテストグループに混在させるべきではありません。それぞれのユーザータイプに応じてセグメントを分けることで、より正確で意味のある結果を得ることができます。
サンプルサイズが不十分
ユーザー数が少ない状態でテストを実施すると、信頼性のある結論を導くことが難しくなります。業界のベンチマークによると、1グループあたり2,000人程度を目安とするのが望ましいとされています。例えば10日間でテストを完了させたい場合、1日あたり約400人のユーザーが必要になります。
もちろん、適切なサンプルサイズはアプリのジャンルやユーザーベースによって異なりますが、極端に少ない母数でA/Bテストを行っても意味がありません。しっかりとした判断を下すには、十分なユーザー数の確保が前提となります。
テスト期間が短すぎる
テストを早期に終了してしまうと、変更の本当の影響を見落としてしまう可能性があります。特に、ユーザー行動に影響を与える季節的な変動やプロモーション時期などを避けるような配慮が必要です。
必要に応じてテストを一時停止・再開しながら進めることで、統計的に有意な結果を得やすくなります。焦って判断を下さず、十分なデータと時間を確保して正確なインサイトを導き出すことが大切です。
A/Bテストは継続的な改善プロセス
A/Bテストは一度きりの対処法ではなく継続的なプロセスです。成功しているアプリは常にテストを重ね、改善を繰り返しながら戦略を洗練させています。そして最も重要なのは、テスト結果の記録を蓄積しておくことです。今日うまくいかなかった施策が、6カ月後には最大の成功につながる可能性もあります。以下に、今回取り上げた重要なポイントをまとめたので、しっかりと頭に入れて日々のアプリ改善に取り組んでください。
- アプリが初期段階にある場合はUI/UXのテスト、特にオンボーディングとペイウォールの最適化に注力
- ビジネスモデルが安定してきたら価格の調整を試みて収益戦略を微調整する
- CVRだけでなく複数の指標を追跡することでユーザー行動をより包括的に把握