SARSやリーマンショックなど過去の恐慌から考える「これからのマーケティング」

Repro Journal編集部
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2020.04.07
SARSやリーマンショックなど過去の恐慌から考える「これからのマーケティング」

目次

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受ける昨今、多くの企業がマーケティング戦略の再考に苦悩しています。ほぼすべての業界における市況が悪化する中で、私たちはどのような手を打つべきなのでしょうか。

そこで参考になるのが、過去の恐慌時に各社がどのようなマーケティング活動を実施したのかということです。過去に発生したSARSやリーマンショックなどの不況時に逆境を乗り越えながら事業を拡大した企業や業界から学ぶことは多々あります。

SARSは何をもたらしたか?

特に、今回のコロナショックと類似しているのが、2003年に発生した「SARS」(重症急性呼吸器症候群)です。SARSは世界経済に400億ドルもの損害を与えたといわれており、その中でも中国経済を大きく停滞させました。またアジアにおける未公開株市場では、2003年における資金調達額は前年比で27%減少しています。

アジアにおける未公開株式市場出典:cbinsights.com

しかし、特定領域の活性化を促したという側面もありました。

2003年4月8日付の『South China Morning Post』内におけるモルガンスタンレーの香港市場に対する調査報告によると、EC市場が全体として好調であり、例えばヤフーショッピングでは前月比で売り上げが約30%増加し、売上品数も23万個という新記録を達成したと伝えています。

他の領域でも、ブロードバンド回線の申込数が40%増加し、ネットバンキング需要の高まりから、香港上海銀行におけるネットバンキング取引件数は40%の伸びが確認されています。

SARSによって成長を遂げた中国の巨人たち

そして、このインターネット市場に可能性を見出したのが、「アリババ」や「JDドットコム」です。

当時の「アリババ」は、社員のSARS感染が疑われたことから本社ビルは閉鎖され、リモートワークでサービスを当時運営することを余儀なくされていました。しかし、同社の主力事業であった製造業・卸売業向けのマーケティングプレイスである「アリババ・ドットコム」が同じように自粛が求められていた中小企業のニーズを捉え、中国を代表するサービスへと成長を遂げています。

アリババ出典:Alibaba Group(阿里巴巴集団)

他にも、「JDドットコム」は同社が公開した資料において、SARSによって約3週間で800万元もの経済被害を被ったと発表しています。オフライン店舗での事業展開が中心だった同社は、そこからEC領域への進出に舵を切ることで、事業の立て直しを図りました。そして、SARSが落ち着いた2004年に当時の売り上げの90%を占めていた実店舗をすべて撤退し、EC領域にリソースを集中させることを決断しています。

また「テンセント(騰訊)」が提供する「騰訊QQ(インスタントメッセンジャー)」が有料サービスの導入に成功し、オンラインゲーム領域に進出をしたのもこの時期のことでした。特にオンラインゲーム領域では「QQゲームプラットフォーム」を運営し、他社がコアユーザー向けに注力していたのに対し、カジュアルゲームをメインとした戦略でユーザー獲得を実現しています。

リーマンショックによってRTB(Real Time Bidding)が生まれた

SARSの収束から数年後の2008年。アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻により、リーマンショックは引き起こされました。負債総額が約6000億ドルというアメリカで最大の経営破綻によって金融市場は未曽有の危機を迎え、多くの失業者が発生しています。

このリーマンショックによって失業した金融工学のエンジニアが、インターネット広告業界に転職することで生まれたのがRTB(Real Time Bidding)という仕組みです。金融工学のノウハウを応用し、株取引の仕組みを広告売買に取り入れることで市場が急速に発展していきます。

これは、マーケティング業界において今や当たり前となった「DSP(Demand Side Platform)」や「SSP(Supply Side Platform)」という概念の基礎にもなっています。

インターネット広告費の推移出典:『広告業の動向について – 経済産業省』

日本のインターネット広告費はリーマンショック以降に急速に増加しており、スマートフォンの普及も後押しすることで市場規模が数十倍にまで拡大しています。

また、リーマンショックが生み出したRTBは、広告の考え方を根本から変えたということも忘れてはなりません。これまでの広告配信は「時間と場所」でのターゲティングが前提でしたが、「消費者一人ひとりに対して配信する」ことが当たり前になったのです。これは、リーマンショックに端を発するデジタルマーケティング革命といえるでしょう。今回のコロナショックでも、同様のマーケティング革命が起きる可能性はあります。

SARSやリーマンショック以外の恐慌からも学ぶべきことがある

ここまでSARSとリーマンショックという平成の2大不況について考察してきましたが、歴史を振り返ると様々な恐慌が発生しています。特に、歴史的な恐慌とされたのが1929年10月24日のアメリカの株価暴落から始まった大恐慌(Great Depression)です。

世界恐慌写真

この大恐慌によって、1933年にはアメリカにおける失業率は25%にまで膨れ上がり、1,200万人の失業者を生み出しています。しかし、この大不況の中でも独自のマーケティング戦略を打ち出すことで状況を打開した企業が存在します。

例えば、P&G社は1929年からの3年間で売り上げが約1億9,200万ドルから約9,400万ドルと50%低下しています。このタイミングでも同社は広告宣伝費を削減せず、むしろ当時の最新メディアであったラジオで全国放送の連続ドラマ(通称「ソープ・オペラ」)を配信するというマーケティング戦略を実施しています。他にも製品のサンプリング活動などの施策を繰り広げ、1945年には売上が約3億5,000万ドルに達し、ここから同社のグローバル戦略が進んでいます。

P&G石鹸

さらに、朝食用シリアル業界の大手であるケロッグ社は、恐慌時に一度は広告費用を削減する方針を取りましたが、当時40社以上いた競合の反応を見ながら、広告予算を大量投下する方針に転換することで競合他社の追随を許しませんでした。実際に1920年代末には約430万ドルの利益額は、1930年代初頭には約570万ドルにまで増加しています。

他にも、自動車メーカーのシボレーは恐慌時に広告予算を増加してマーケティング活動を実施することで、1920年代には同社と比較して売り上げが約10倍であったフォード社の売り上げを1931年に上回っています。

車の広告出典:M-BASE

これらの事例からもわかるように、恐慌時においてもマーケティングのやり方によっては大きく業績を伸ばした企業は多数存在します。

これからのマーケティングはどのように進めていくべきか

本稿では、SARSやリーマンショック、大恐慌という不況下において、事業を大きく伸ばすことに成功した企業についてお伝えしてきました。彼らの共通点は、これまでの常識にとらわれず、新しいテクノロジーやメディアに対して大胆な投資を行ったということです。

大恐慌においてはラジオを使ったプロモーションや不況下の大胆なマーケティング投資、リーマンショックでは人材流出から新しいマーケティング技術が生まれ、中国ではインターネット領域の興隆に目を付けることでEC市場が発展しました。

これらのことを考えると、コロナショックでの大不況下においても、新しいマーケティング手法や新興メディアへの大胆な投資が企業を救う可能性もあります。

すでに中国で先行して効果があらわれている手法としては、エンゲージメントマーケティングが挙げられます。こちらの記事で紹介しているように、ナイキはアプリを通じてロイヤリティの高いユーザーを生み出すことで、コロナショック下の中国で30%もの売上向上を記録しました。

他にも、過去の恐慌時のように、これまで考えもつかなかったようなマーケティング手法があらわれ、今後のデファクトスタンダードとなっていくことも考えられます。重要なのは、もはやこれまでの常識通りでは上手くいかないということです。いま一度顧客視点に立ち返り、本質的に重要な投資ポイントはどこなのかを考えなおす必要があるでしょう。

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