競争の激しいサブスクリプションアプリ市場を勝ち抜くためには、優位性のあるプロダクトだけでは不十分なことが多く、継続的な最適化が求められます。そこで重要になるのがA/Bテストです。では、A/Bテストはどんなタイミングで始めればよいのでしょうか。そして、どのようにA/Bテストを活用すれば、収益と継続率を向上させられるのでしょうか。
アプリグロースの専門家でありAppstackの開発者であるLucas Moscon氏と、QonversionのCEOであるSam Mejlumian氏が、これらの疑問についてウェビナーで詳しく説明しました。本記事では、彼らのディスカッションのハイライトを取り上げ、A/Bテストがサブスクリプションアプリに画期的なツールとなり得ることを示しています。
A/Bテストはいつ開始すべきなのか
A/Bテストを初めて行うアプリ開発者が悩みがちなのは、「いつ開始すべきか」「効果的なテストを行うために満たすべき前提条件は何か」ということです。答えはシンプル。理想的な期間は2~3週間で、その期間にリスクを冒し過ぎることなく、合理的な期間内に統計的に有意な結果を達成できる場合にのみ開始することが重要です。
アプリのグロース戦略をスタートしたばかりのときは、A/Bテストに足を踏み入れてみることをおすすめします。必ずしもすぐに大きな成果を上げるためではなく、プロセスや必要なツール、そしてその仕組みを理解するためです。Sam氏は以下のように強調しています。
A/Bテストはツールであり、魔法のようなグロース戦略ではありません。それを支えるインフラとオーディエンスの規模がある場合に最も効果的です
では、「統計的に有意」とはどのようなことを指すのでしょうか。どのくらいの期間、テストを行うべきなのでしょうか。また、テストには何人のユーザーが必要なのでしょうか。
ひとつのバリエーションにつき1,000人のユーザー、つまり1日あたり100人のユーザーで20日間テストを実施すれば、有意義で信頼性の高い結果を得られるというベンチマークがあります。これは相対的なものであり、アプリによって異なるものですが、目安としてはよいでしょう。ユーザー数が少なくてもぜひテストしてみてください。簡単なテストをいくつか実施するだけでも、非常に有益な学習体験となります。
ただし、初期段階のアプリでは、大企業のやり方をモデルとした仮説主導のA/Bテストにすぐに飛びつくのは、最善の方法ではないかもしれません。大企業は、たとえ最終的に失敗に終わったとしても、長期間にわたる調査サイクルや仮説設計、テストを行う余裕があります。しかし、小規模なチーム、特にリソースが限られたスタートアップ企業にはそれがありません。
代わりに大胆なプロダクト改善を行い、それをスピーディに反復することに重点を置くべきです。スムーズなオンボーディングが実現されていなかったり、PMF(プロダクトマーケットフィット)が不明瞭だったりすると、サブスクリプションのA/Bテストに時間とリソースを投資しても、コンバージョンは見込めません。
初期段階のアプリの場合、競合他社のモニタリングやトラッキング、製品アップデートからインスピレーションを得ることのほうが、A/Bテストにリソースを集約するよりも生産性は高くなるでしょう。
A/Bテストを開始する適切なタイミング
- アプリが成熟している
PMFを実現し、安定したユーザーの流れがあることが望ましいです。
- 会社が成長している
急速な成長や多くの収益が必要なわけではありませんが、A/Bテストを効果的に実施するにはチームとリソースが必要です。
- 統計的に有意な結果を迅速に得ることができる
A/Bテストのバリエーションごとに少なくとも1,000人のユーザーがいれば、結果は信頼性の高いものとなります。
A/Bテストを開始しないほうがよいタイミング
- 初期段階のアプリ
UXの問題を解決する最中であったり、ユーザー基盤を構築中であったりする場合は、A/Bテストを行わずに、プロダクトの修正と大胆な実験を優先したほうがよいでしょう。
- 対象ユーザーが少ない
ユーザー数が十分でない場合、統計的に有意性のない結果に終始する可能性があります。
- 測定基準が不明確
A/Bテストを行う前には、KPI(コンバージョン数、解約率、継続率など)を定義する必要があります。
サブスクリプションアプリのA/Bテストにおける重要指標
Lucas氏もSam氏も、A/Bテストの成功を測定するには、アプリのパフォーマンスを直接的に反映する主要な評価指標に焦点を当てることを勧めています。例えば以下のような指標です。
- 収益指標
MRR(月次計上収益)/ARPU(ユーザーひとり当たりの平均収益)
- CVR(コンバージョン率)
無料トライアルから有料へのCVR/インストールから有料へのCVR
- 継続率と解約率
継続率と解約率をモニタリングして、隠れた成長のボトルネックを特定します。
CVRは最終目標ではありません。それは収益の代理指標に過ぎません。また、ユーザーを維持することも同様に重要です。
とLucas氏は念を押しました。
サブスクリプションアプリのA/Bテストのアイデア
【1】オンボーディング
ユーザーのエンゲージメントは、オンボーディング体験に左右されます。レイアウトや選択肢の配置のテストは、コンバージョンに大きな影響を与える可能性があります。
【2】価格設定
Lucas氏は大胆な価格設定テストを勧めています。
もし現在のサブスクリプション料金が20ドルなら、40ドルや50ドルをためらわずに試してみましょう。得られる洞察は、あなたを驚かせるかもしれません。
ただし、Sam氏は小規模なアプリについては慎重な対応を勧めています。価格設定のテストには、ユニットエコノミクスへの理解と、統計的に有意な結果を得るのに十分なユーザー数が必要です。
【3】地域限定のオファーや割り引き
休暇やイベントの時期に合わせてローカライズしたオファーをテストし、エンゲージメントを高めます。「Duolingo」のようなアプリは、ユーザー行動に合わせて段階的な割り引きを行い、エンゲージメントの高いユーザーをターゲットにすることで収益を上げています。
【4】トライアル期間
トライアル期間を14日から3日に短縮することで、CVRを低下させることなくキャッシュフローを改善することができるケースがあります。Lucas氏は次のように説明しました。
3日以内に「アハ!」という瞬間を提供できないと、長期的にエンゲージメントを維持するのは難しいでしょう。
【5】UI/UX
「試してみる」ボタンを追加したり、ペイウォールの終了ボタンを2~3秒遅らせたりなど、ちょっとしたデザインの調整が、CVRに驚くほど大きな影響を与えることがあります。
本記事の元となったウェビナーでは、事例を基にA/Bテストの成功例をディスカッションしています。例えば、瞑想とマインドフルネスアプリの「Headspace」は、オンボーディング、メッセージング、ビジュアルデザインに手を加え、下の図の「B」パターンでトライアル回数を10%増加させることに成功しました。一見すると小さな変更に見えますが、結果は重大なものです。
A/Bテストの結果をバックログとして保存する
A/Bテストを成功させるための見落としがちなコツのひとつが、テスト結果の詳細なバックログを残しておくことです。数カ月前にうまくいかなかったテストが、テストのタイミングや場所を調整するなど、ちょっとした修正を加えることで、あとになって意外な成果をもたらす可能性があるからです。
過去のテストの記録は時間を節約し、新しいアイデアを生み出すきっかけになるため、早い段階で取り入れるべき賢い習慣です。
アプリに秘められた可能性を開放するために
A/Bテストは、サブスクリプションアプリにとって強力なツールですが万能ではありません。適切なタイミング、KPIの明確な理解、そして継続的な取り組みが必要です。A/Bテストは、オンボーディング、価格設定、ペイウォールのいずれを最適化する場合でも、収益と継続率を拡大するデータドリブンな意思決定を可能にします。
アプリの成長の可能性をいつ解き放ちますか。 今すぐA/Bテストを開始し、データが成功へと導いてくれる環境を構築しましょう。