はじめに
さて、恒例の「モバイルアプリのサクセスストーリー」をご紹介する時間です。前回は『Slack』の事例を用いてコミュニケーションツールについて話しました。今回もコミュニケーションツールを話題にしていますが、前回とは違った角度から見ていきます。今回は『Slack』のようなビジネスに関するメッセージツールについてのお話ではありません。
面白い画像や動画を使ったメッセージツール、『Snapchat』にフォーカスしていきます。『Snapchat』を取り上げる理由は、このサービスのコンセプトが今やあらゆる業種の企業を引きつけているからです。若いユーザーたちの間での社会現象、多くの企業にとってのマーケティングの機会となっている『Snapchat』についてご紹介します。
2014から2020年にかけたSnapchatユーザーの推移(単位: 100万)
優れたアイディア
『Snapchat』の誕生については諸説ありますが、スタンフォード大学のReggie Brown、Evan Spiegel、Bobby Murphyという3人の学生の、「少し時間が経つと消えてしまう画像を送りたい」というアイデアが数百億円の価値のあるアプリの原型となっているのはご存知の通りです。
最初このアプリは『Pictaboo」という名前で誕生しましたが、2011年9月にEvan SpiegelとBobby Mutphyが『Snapchat』に改名しました。先ほど述べた『Snapchat』の誕生にまつわる諸説というのは、この記事の目的とはまったく異なるものなので、今回は「既に世の中にあるものとは違うものを創り出そうとする試み」に焦点を当てていきます。
この写真とビデオが消えるサービスには大きく2つの優れた機能がありました。まず寿命のあるスナップというものが画期的で、多くのユーザーがアプリを試すようになったこと。そして2つ目が、データの保存、アーカイブ、管理に関するユーザーの不安を取り除いたことです。
さて、それでは何が『Snapchat』の軌道を決めたのか一点一点正確に見てみましょう。
2014における最も急成長しているSNSアプリ TOP10
『Snapchat』成功の秘訣
『Snapchat』の戦略には、正確に理解すれば自身のアプリにも応用できるようなたくさんのグロースハックが詰まっています。
口コミによる拡散
もしあなたのアプリが素晴らしいのなら、口コミは強力なグロースハックです。2011年、『Snapchat』のリリースから2ヶ月ほどが過ぎたころ、アプリのユーザーはたったの100人ほどでした。しかし面白いことに、共同創立者の一人のいとこが学校の友人にアプリをシェアし、これが連鎖した結果『Snapchat』は世界中の若者たちの間で大評判となりました。たくさんの人が興味本位でアプリをダウンロードし、友人から間抜けな写真が突然送信され、一度開けば永遠に消えてしまうということに興奮したのです。
ミレニアル世代をターゲットにしたこと
『Snapchat』にはターゲットとしている市場があります。それはミレニアル世代です。彼らは一瞬一瞬を生きる術や、アプリによって提供された全ての体験を楽しむ方法を知っています。ミレニアル世代のことを考えると、すぐにあなたは『Snapchat』を意味する明るい黄色の背景を頭に思い浮かべるでしょう。
『Snapchat」のユーザーの声を集めたReutersの記事を読むと分かるように、彼らの『Snapchat』への愛はとても強く、彼らはとうとうアプリを運営しているSnap社の株に投資し始めました。彼らの平均年齢は26歳くらいです。彼らこそが真のロイヤルユーザーの鑑です。
自らプロダクト(Snapchat)を実際に使っていて、かつ家族を含む皆が知っているからSnap社の株を買うという若者
絵文字とフィルター
『Snapchat』ユーザーのほとんどは若者なので、ユーザーを喜ばすために、アプリ内で絵文字を使えるようにする戦略を考える必要がありました。そこでBitmoji(自分のアバターのスタンプ)を『Snapchat』内で使えるようにするために、昨年同社は絵文字アプリBitstripsを1億ドルで買収したわけです。
TechCrunchの最近の記事で、Bitmojiウィジェットに関する多くの興味深い情報が紹介されています。 これはSnapchaters((編集部注: SnapChatユーザーの愛称))にとって、彼らの気持ちをより楽しい方法でシェアするための格別なものとなっています。
また、顔認識技術を得るために、ウクライナのスタートアップ企業であるLookseryに1億5,000万ドルを投資しました。この技術がベースとなった機能「レンズ」は、コミュニケーションをより楽しくするために作成されていますが、その背後にあるアルゴリズムは非常に面白く複雑です。それがどのように作動するのか、なぜこれらのフィルタが写っている人と一緒に動くのかをより深く理解したければ、PetaPixelでシェアされたビデオを確認してみてください。
パーソナライゼーション
『Snapchat』は何もかもが特殊です。アプリのコア機能からユーザーが連絡先にアクセスする方法まで、すべてが人間味にあふれています。おそらくこういった特徴が『Snapchat』を、友人に良いところを見せたい人や、顧客に自分たちの商品を紹介しようとする企業のためのアプリへと変身させたのかもしれません。スナップの瞬間性と、ユーザーが自分のストーリーをシェアできる機会が、なぜこのアプリが急成長したのかを説明する理由となるでしょう。
下記のグラフからわかる通り、「友人と繋がれるから」という理由は『Snapchat』が好きな理由として挙げられているものの中で最下位でした。なぜなら、友人と繋がれることを主なゴールとしているアプリは他にもたくさんあるからです。
実際のユーザーインタビューでも、「友人と繋がれるから」という理由は最も少ない
ユーザー獲得とリテンションの難しさ
前述のように、Snap社はアプリのリリース時から素晴らしいスタートダッシュを切ったわけではありませんでした。その結果を見て、単に面白いアプリをリリースするだけでは「バズる」には不十分であることを悟ったのです。『Snapchat』が軌道に乗ってきたのは口コミ施策を始めてからです。
次に行うべきことはユーザーをもっと増やすためにアプリを強化することでした。絶ゆまぬ改善と、革新的な機能の追加によりユーザーは『Snapchat』というプラットフォームに魅了されています。お分かりのように、秘訣は、私たちの記事「Building A Sustainable Moble App Growth With User Acquisition And Retention」で明らかにしたように、さまざまな戦略で新しいユーザーを獲得するためのテクニックを組み合わせることでした。
SnapchatのGoogle Playストアでのランク
広告プラットフォーム
『Snapchat』のマーケティング活用が秘める大きな可能性に着目し、Snap社のチームは、企業の商品プロモーションに役立つだけでなく、広告を遊び心のある体験に変えるための新しい方法を企業が見つけられる、素晴らしいプラットフォームを苦労して作り出しました。
AppSamuraiは、『Snapchat』によってリリースされた最新の機能やサービスを絶えずお知らせしていますが、それは『Snapchat』のダイナミックな進化は注視しておいたほうがいいと考えているからです。
私たちが公開した記事に、「Best Practices of Snapchat Ads to Drive Installs」というものがあります。この記事では、数日前にリリースされたスナップアドのセルフサービスプラットフォーム((従来、企業は載せたい広告を申請し、Snapchatアドパートナーが管理を行なっていたが、このプラットフォームを使うことで企業が自分で広告を管理することができる))を使い、縦型ビデオを通して広告をユーザーに届けるためのコツをご紹介しています。
『Snapchat』を使ったマーケティングのさらなる利点は、ジオフィルターが使えることです。これは最もパーソナルなモバイル広告フォームであるロケーションベース広告((利用者の位置情報を元に行われるマーケティング))に役立ちます。『Snapchat』の「World Lenses」という機能もチェックしてみてください。3Dエフェクトを使った新しい広告キャンペーンに感銘を受けることでしょう。
おまけ: 自分の夢を売らない
ここからは『Snapchat』にまつわる話の中で、私たちが強調したい最も価値のある話をします。Mark Zuckerberg(FacebookのCEO!)が、Evan SpiegelとBobby Murphyに現金30億ドルでの買収を持ちかけたにも関わらず、Bobby Murphyが拒否したという2013年の出来事は有名です。
それからたった4年後の2017年3月にSnapchatを所有するSnapchat社は、社名をSnapと改め、2012年以来のアメリカのIT業界での新規株式公開で最高評価額となる250億ドルという市場評価をあげました。30億ドルのオファーを拒否したことが正しかったのか、疑っている人がいるのなら答えはもうお分かりでしょう。若い起業家にとって良い選択とは、アプリを捨てず、持ちうる武器を全て使ってアプリを成長させるために戦うことです。重要なことはあなたが本当にそのプロダクトを信じているなら、あなたの顧客もまた同じくそれを信じている、ということです。
IT業界における新規株式公開時の評価額ランキング
まとめ
私たちは前回のSlackに続けて、優れたアイデアから勝利のアプリに至るまでの道のりを解剖しました。
この記事は、ユーザーが何か欲しいなと思ったタイミングで、そのプロダクトの提供に集中することがビジネスを始める適切な方法であることを証明しています。ユーザーが明確にニーズを感じたタイミングでは遅いのです。ほとんどのアプリ事業者は成功することを夢を見ているでしょう。もしあなたが私たちの記事から読み取ったものをうまく適用すれば、あなたのアプリが次のサクセスストーリーの1つになるかもしれません。
この記事は、 AppSamurai社のブログ“ Snapchatの初期のグロースの秘密とは?”を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on AppSamurai in English under the permission from the author.