お金について話すことは未だにタブーな場面もありますが、私たちの生活は自分の労働力や自分が作ったものに対していくらもらえるかで決まるというのは紛れもない事実です。
「価値」は実際に測ろうとすると非常に複雑な概念ですが、単純な解釈をされがちです。多くの人は、「サービスの価値とはそれにかける労働力によって規定される」という労働価値論(古典派経済学の基本理論。人間の労働が価値を生み、労働によって商品の価値が決まるという理論)の幻想にとらわれています。ですから、私たちは「職人」や「手作り」と書かれたジャムに12ドルも払いたくなるのです。「手作り」なら「工場製品」よりも多くの労力がかけられていると感じますよね。
一方で、価値は購入する人によって決定され、あなたが求める価格を支払ってくれる人がいればそれが妥当な価格だと言う人もいます。「Webセミナーに500ドル?もちろん!X会社がそのくらい請求してたよ。」「一月に9,99ドル?よさそうだね。高めのコーヒー二杯分だ!」
しかしこれらの価値に対する考え方はどちらにせよ価格についてきちんと分析されているわけではなく、自分でビジネスチャンスを失っている可能性もあります。価格の調整は意図的に行われるものです。オーディエンスを理解することやビジネスを確立させること、巧みに商品を提供するために必要なことをすべて考慮しなければなりません。しかしどうすれば価格決定できるのでしょう?価格を決めるという行為の大部分はあなたのビジネスモデルやリサーチにかかっているわけですが、価格を見たときに人は何を感じるのか理解を助けてくれる研究はいくつかあります。
見たものこそほしいもの
人はアンカリング効果によって、価格を提示される場面では最終的に最初に見たものを選択する傾向があります。アンカリングとは、購入するか決める際に最初に提示された価格(アンカー)に大きく影響を受けてしまうという認知バイアスのことです。もしあなたがある取引で交渉していたり、正当化しようとしている際に最初に20ドルを見たら、最終的な決断は30ドルよりも20ドルで終わる可能性が高いのです。
では、この効果をどのように活用できるでしょうか?納得できる例を一つご紹介します。マッキンゼーのアナリストは、半導体メーカーが新しい製品を打ち出す際に、(私たちの多くが行うであろう)古い製品の価格を下げるのではなく、逆に吊り上げていることを発見しました。これによって彼らは在庫品を売って得られる利益に加えてアンカープライスを高め、新規の顧客が新しい製品をより抵抗なく購入できるようにしたのです。レートや価格をあげると不審に思われることもありますが、価格決定の際は、高い価格で始めた方が最終的にはより高い価格で決まります。
価格の聞こえ方(見え方)が重要
価格の提示方法がどのように私たちの感じ方に影響を与えるかという研究はたくさんあります。ほんの少しのニュアンスの違いであなたが適切な価値を提供していると信じてもらえるかどうかが変わります。ポイントは以下の通りです:
「半端な」数字にする
これは昔からある手法の一つですが、依然として効果があります。この手法は「端数価格」と呼ばれ、一番大きい桁の数字が変化すると消費者にポジティブな感情が生じるのです。私たちの脳は目にした価格の一桁目をコード化します。それにより9,99ドルから9,19ドルはそこまで変化を感じませんが、9,01ドルから8,99ドルでは受け取る価値に大きな違いが生じるのです。(最大限安くなっていると錯覚する)
声に出してみる
the Journal of Consumer Psychologyが出している研究で、消費者は音節数の多い価格の方が大幅に高いと感じるということが明らかになりました。これは数字の「言いやすさ」に起因しているからと言われています。言いにくい数字ほど、ネガティブな感情を持ちやすくなるのです。例えば、1,999.99ドル(ワンサウザンド、ナインハンドレッド、ナインティナイン、アンド ナインティナイン センツ)は1,999ドル(ナインティーン ナインティナイン)よりも大幅に高く感じます。音節数が多いほど、価格が高いと感じるのです。
価格の文字の大きさを小さくする
価格をページの一番上ではなく一番下に配置すると、より安く感じるということが研究でわかっています。面白いことに、フォントの大きさは価格に対する理解や感じ方に影響を与えることができるのです。フォントが小さいほど価格も安く感じます。「情報処理のしやすさから、もしあなたがより小さなフォントで価格を表示するならば、消費者はより安いと感じてくれるのです。このテクニックは特により大きいサイズの参照価格と対比させることで効果的になります。」
大きなセールをするときは、可能な限りきりのいい価格にする
コーネル大学の研究者によると、購入者はきりのいい価格の場合の方がお金を支払うといいます。(例:362,978ドル vs 350,000ドル) きりのいい価格の方が交渉に有利だからだと考える人もいるかもしれませんが、実は数字に対する私たちの認知の仕方が原因だと研究者は明らかにしました。そしてそれはたとえ1,000万ドル以上使おうと、この認知の仕方は変変わることはないのです。
出費の痛みを減らす
何か購入した後にやっぱり決断を誤ったかもと後悔したことはありませんか?商品やサービスを購入すると結果的にはいい気分にはなりますが、決済の瞬間に他のことに使えたかもしれないという考えから購入の痛みに襲われます。(例:20ドル何かに使えば、他のことに20ドル使えなくなるのと同じです)MITとカーネギーメロン大学の研究によると、その痛みはある二つの要因から発生するといいます。
- 支払い方法(物理的に自分の手でお金を払う方が痛みを感じる)
- 支払いのタイミング (何か消費した後にさらに支払う方が痛みを感じる)
では、どのように価格構成を変えればこの痛みを取り除けるのでしょうか?Uberを例にとって考えてみましょう。従来のタクシーは乗車中にメーターがどんどん上がっていくのを目にし、目的地につけば物理的に現金を渡さなければいけません。しかしUberではメーターも支払い取引もないのです。メーターを見ながら金額を気にする必要はありません。支払いは購入者に喜んでもらい、あなたのサービスに満足してもらうための強力な手段です。
気づかれないように価格をあげる
私たちは利益を上げるためにできることは最大限に活用したいわけですが、もし消費者に気づかれることなく価格をあげられる方法があったとしたらどうしますか?ウェーバーの法則は物理的な変化と、それを受けての心理的な変化の対応関係を示したもので、もとの刺激量に対する弁別閾の比が常に一定であることをいいます。これはどういうことなのでしょうか?
基本的に価格を含むすべての変化はスタート地点と相関しています。もっともな単純な例で言うと、騒がしい部屋では大声で叫ばなければいけないところを静かな部屋であれば囁くだけで十分であるということです。ごく当たり前のことですよね?これが意味することとは、もとの刺激量(もとの価格)からの価格変化が感じられるか否かの境目があるということです。マジックナンバーが存在するわけではないのですが、マーケターの多くは10%の価格変更が認知され始められる値だと決めました。これはつまり2%、5%、8%までならほとんど気づかれずに価格をあげることができるということです。またこれはつまり、消費者に値下げによるお得さに気づいてもらうためには10%以上価格を下げる必要があるということです。
説明なしに最低価格競争をしない
最低価格競争の最悪のシナリオはあなたが勝つことであり、次に最悪なのはあなたが負けることです。スタンフォード大学の研究によると競合商品と価格に明らかな差があるとき、それに対する十分な説明がない限り実はネガティブな影響を与えてしまうことが分かっています。
競合商品と比較して価格が安い理由を説明しない限り、消費者の信頼を失ってしまう可能性があるのです。更に、s単フォードの研究者は商品が低価格な理由を説明しなければ、消費者が購入を決断するとき騙されているのではないかと感じてしまうことがあることを明らかにしました。
これらの研究は消費者が価格についてどのように感じるのかについて理解するのに役立つかもしれませんが、現実世界におけるプロダクトの価格戦略を否定することにはなりません。ベースキャンプのJason Friedは下記のように説明しています。:
「実際にお金をまだ支払っていない人に対していくらなら支払うのかを尋ねることは検討違いです。なぜなら彼らはどんな価格を答えたとしても痛くもかゆくもないからです。どんな回答をしても何ともありません。「本当に重要な答えはお金を支払ってもらえることです。何かに対しお金を払ったら、それが彼らの答えということです。それだけを気にするべきなのです。」
この記事はMedium上の記事 "How to price anything The psychology behind what we’ll pay…"を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Medium in English under the permission from the auther.