「変わりゆく“コミュニケーション”、変わらない“商売”」 #NEWWORLD2020 株式会社オールユアーズ 木村氏、株式会社ナノ・ユニバース 越智氏

Repro Journal編集部
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2020.05.08
「変わりゆく“コミュニケーション”、変わらない“商売”」 #NEWWORLD2020 株式会社オールユアーズ 木村氏、株式会社ナノ・ユニバース 越智氏

目次

株式会社ホットリンクが主催するマーケティングカンファレンス「#NEWWORLD2020」が、2020年4月22日~5月1日にかけてオンライン開催されました。コロナショックが経済活動に大きく影響を与えるなかで、これからのマーケティング戦略をどう再構築すべきか、示唆に富んだ内容となっています。

今回のイベントレポートでは、株式会社オールユアーズ 木村氏、株式会社ナノ・ユニバース 越智氏がゲストとしてご登壇されたセッションをまとめてお伝えいたします。

PROFILE

飯高悠太氏

株式会社ホットリンク 執行役員CMO

広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、50社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。2019年より株式会社ホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施。

木村昌史氏

株式会社オールユアーズ 代表取締役・ライフスペック伝道師

群馬県出身。大学在学中から大手アパレルチェーンにて働き、店長職や本部勤務をこなす。株式会社オールユアーズを設立後、同社の理念「ライフ・スペック」の伝道師として、『着ていることすら忘れてしまう服』をコンセプトにストレスからヒトをカイホウするプロダクト開発など精力的に活動中。

越智将平氏

株式会社ナノ・ユニバース 経営企画本部WEB戦略部 部長

2002年 株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECを担当。2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大・会員制度の構築・デジタルマーケティングを中心に取り組み、現在はオムニチャネル戦略を推進している。

「顧客を主語として考え続ける」 登壇ゲスト:株式会社オールユアーズ 代表取締役 木村氏

早期からの対策で、むしろ売り上げは伸びている

ー コロナショックはどのような影響を与えていますか?

木村氏(以下、木村):オールユアーズでは早期からコロナ対策を考えていました。具体的には、2月くらいから対策を考え始め、3月中旬くらいまで対策方針を考えていたと思います。この時から、店舗を閉める前提で考えていたので、むしろ売り上げは伸びていますね。

ー 具体的には、どのようなアクションを行ったのでしょうか?

木村:効いた施策はマスク販売ですね。もともとPRとして行うつもりはなかったのですが、結果として反響が増えており、そのタイミングで新規の購入が増えています。

また、販売チャネルをすべてオンラインに移行しました。昨年の9月から自宅で試着できるサービスを始めており、これが活きています。自宅での試着にオンラインでのプライベート接客を組み合わせることで、自宅というプライベートスペースでも店舗と同じような体験が出来るように工夫をしています。

ー オンライン接客の難しさは感じたりしますか?

木村:どうしても手触り感や素材のテクスチャーを伝えるのは難しいです。加えて、オンラインで商品の選定まで行うことはお客さんにとって難しい部分もあると思います。ただ、オンライン接客を通して、商品の選定などはサポート出来ます。オンライン接客は出来ることが限られるので、商品の選定や自宅試着を通じたサイズ感の確認にフォーカスしています。

店舗に来店してもらう場合、その場で購買決定しなければいけないというプレッシャーを感じやすいという話があるのですが、オンラインだとそれがないという特徴もあります。そういう観点で考えると、オンライン接客は可能性があると感じています。

商売の本質は変わらない

ー コロナショックを受けて、顧客の購買行動は変わったと感じますか?

木村:変わりましたね。SNSでのコミュニケーションひとつをとっても、これまでは店舗送客だったのが今だとそのまま購入につながることもあるのです。そういう意味では、前提が変わったなと感じています。

このような状況が続くと、そこで買いたくなる理由をどう設計するのかが重要になりそうだと考えています。どこで買っても同じみたいな商品は難しいと思っていて、ブランドとしての思想がシビアに評価されていくと感じています。

なので、ブランドとして発信するメッセージには気をつかっています。ブランドアクションの一挙手一投足が見られるようになってくるので。

ー ちなみに、EC化が進んでいくことについて、今は追い風だと捉えられているのでしょうか?

木村:今はオンラインでないと購入出来ない状況なので、強制的にEC化を加速させていますよね。オールユアーズでも、これまでリーチ出来ていなかった人にも届いています。その影響もあって電話でのお問い合わせが10倍くらいに増えているのです。

なので、コールセンターに電話対応を移管して、コールセンターからのフォローでオンライン購入出来るような施策にも取り組んでいます。

ただ、注意しなければいけないのは商売の本質は変わっていないということです。自分たちのお客さんは誰で、何に喜んでくれるのか意識すべきですし、変わらないことは何も外してはいけません。

コロナショックで問題になっているのは、これまでのやり方が通用しないということだけで、本質を見失わずにアウトプットの仕方を変更すればいいと思います。

ー たしかに、そうですよね

木村:デリバリーを始めたり、オンラインコミュニケーションに力を入れるなどさまざまなアプローチは出ていますが、最適解はまだ見つかってないと思います。加えて、アプローチ方法はますます多様化していくはずです。

ただ、オンラインで何をやるのか? というスタートラインが同じになったので、大手であってもスタートアップであっても同じ状況から施策を始めることが出来るのが、現状だと考えています。

社会に対する批評軸を持たなければならない

ー コロナによって、働き方はどう変化すると考えていますか?

木村:現状は店舗を閉めてオンライン接客をしていますが、私は茨城県に住んでいまして、オンライン接客の反応が良いので東京でやる意味があるのかということは考えています。東京には物理的に特定の人に会うメリットはありますが、今後は居住する場所も多様化していく可能性があります。

この多様化が実際に進むと、ECの可能性はより広がっていくなと思います。逆に、店舗に投資をしている企業であれば、店舗の販売員さんの定性的なデータをいかにオンラインに活用するかが大事になるのです。

これまでの販売員さんは個別にチャット接客を行った経験があるので、そこを活用することで優秀な販売員さんのオールスター店舗が出てくるはずです。そうなってくると販売員さんの働き方も変わってくるので、この取り組みは増えて欲しいなと感じます。

あと、働き方とは少しニュアンスが異なりますが、行政と企業の線引きが曖昧になっていくと考えています。

ー 具体的にはどのようなイメージなのでしょうか?

木村:例えば、大阪府の泉大津市ではマスク不足への対応として、行政が一早く地域の事業者と組んでマスクを生産・供給を始めたことが話題になっています。

社会にどうアクションしていくのかが大事である中で、いち早くアクションを起こした泉大津市長は凄いですよね。もちろん、行政が旗を振ることによって不公平感は出るかもしれませんが、まず不安を拭い去って、そこからどうアクションを進めていくのかという流れが出来ています。

これをブランドの話に置き換えると、社会に対する批評軸を持つ思考が求められていると考えています。誰かの補助を待つのではなく、短期的には不利益かもしれないですがアクションすることで、長期的にLTV向上など、良い効果もあるのではないでしょうか。

主語に置くべきは「コロナ」ではなく「顧客」

ー 最後に、参加者の皆さんにメッセージをお願いします!

木村:間違ってはいけないこととして、考えるべきことはコロナではありません。皆さんが考えるべきことは、お客さんです。コロナという言葉を主語にするとドンドン動けなくなるので、お客さんを主語に置くことが必要です。

その上で、自分たちに何が出来るのかを考えれば良いと思います。この流れをみんなで実現していくことで、今後の未来が良くなっていくと信じています。

「必要な変化が早く求められるようになった」 登壇ゲスト:株式会社ナノ・ユニバース 越智氏

何も考えずにEC化しても売り上げは伸びない

ー コロナによる影響はいかがでしょうか?

越智氏(以下、越智):大変な部分が多いのが実情で、国内にある70店舗のうち稼働しているのは1店舗のみの状況です。なので、やはり売り上には大きく影響はありますね。ただ、もともとEC化率が50%にまで引き上げられているブランドなのでオンラインシフトがそれなりに出来ている分、業界の中でも影響は受けていない方なのかなと感じています。

特に、オンライン施策はECモールと自社ECの両方で実施していますが、自社ECの伸びが大きくなっており、アプリの利用率も高まっています。

ー オンライン施策の中でも、伸びている特徴などはあるのでしょうか?

越智:これまでオンライン施策については様々な投資を行ってきていますが、このタイミングで販売員さんが対応するチャット接客が分かりやすく伸びていますね。サイト全体の7~8%はチャット接客を通して購買に繋がっています。

ちなみに、チャット接客は本社に在籍する元販売員の方々が対応しているのですが、今後は店舗スタッフもリモートでチャット接客出来るように取り組みを始めています。

ー この状況下で店舗のスタッフの方々はどのように業務に取り組まれていらっしゃるのでしょうか?

越智:自宅待機してもらっているスタッフもいますが、自社のECサイトにコンテンツを投稿出来る場所があるので、そこに投稿をしてもらったり、SNS活用によるオンラインコミュニケーションに取り組んでもらってもいます。

ー なるほど、コロナショックはEC化の追い風となるのでしょうか?

越智:多くの方がECと言っていますが、先ほども話したようにECモールと自社ECがあり、個人的にはECの飽和が起きていると考えています。モールに出品しているすべての商品が伸びるわけではないですし、やはりECで情報が不足していれば購買にはなかなか至りません。

購買を促すコンテンツや情報の拡充が今後はより重要になりますし、少なくともECにすれば売れるというわけでもないと感じています。

ユーザーとの距離が近いブランドにシフトしていく

ー 「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」ではどのような変化が起きると考えていますか?

越智:今は変わることと変わらないことの情報整理をしている段階です。会社でも、アフターコロナに関するプロジェクトが走っていて、変わる・変わらないの整理をしています。

おそらく変わるであろうことはブランドの見せ方であり、リブランディングです。私たちのブランドは全国に出展することで大きく展開しブランドを保ってきたのですが、これをECでも実現出来るのか。店舗と同じように出来るのかというのが次の挑戦になると思います。

そして、その中で、ユーザーにより近いブランドであるという位置づけにしていくことが求められると考えています。

先ほどの木村さんのお話を聞きながら感じたのですが、やはりユーザーとの近さを保てているブランドは今の状況でも強いです。お客さんとつながれているので、正しくインサイトを把握出来て、ブランドとしてブレない。

やはり、私たちにもブランドの再定義が必要だと感じています。

ー ちなみに、変わらないことは何なのでしょうか?

越智:店舗はやはり必要だと感じています。これは変わりません。なぜならば、ファッション業界はすべてEC化することがお客さんの幸せになるかというと懐疑的で、店舗じゃないと出来ないこともあるからです。

例えば、たしかにECはデータを蓄積することが可能で、気軽に買えるという側面がありますが、試着が難しいのが実情です。今回のコロナショックで初めてECで服を購入する人も増えているので、良い体験でなかった人もいると思います。

なので、ECと店舗のどちらのインフラも今後の時代に最適化出来る企業が生き残ると考えています。

ー なるほど。今後はどのような取り組みを実施されるのでしょうか?

越智:ECと店舗のそれぞれの良さを掛け合わせていくことを考えています。具体的には、ECは人気商品を簡単に見れますが、店舗ではそうではありません。多くの人がどの服を買うべきか迷うことが多いことを考慮すると、店舗でもECに近い発想の情報提供が求められると考えています。

また、店舗体験をIT活用する方向も考えられます。例えば、仲の良い販売員の方に相談したいというお客さんもいらっしゃいますが、常に店舗に販売員がいるとは限りません。なので、美容室の予約のようにITを駆使した店舗での体験向上はまだまだ目指せると考えています。

加えて、自社の直近の施策でいけば、店舗スタッフがチャット接客をスムーズに行うための対応準備ですね。また、販売員の方からの提案で、動画コンテンツを増やしたいと要望が来ているので、接客リソースをコンテンツ化していくことを予定しています。

未来に起こるはずだった変化が早くなっただけ

ー 個人として、コロナショックをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

越智:良いチャンスだと考えている側面もあります。コロナショックによってもたらされた変化は、将来起こるはずだった未来がたまたま早く来てしまったという話だと捉えています。

実際に、これまでであれば理解されにくかった未来を見据えた投資も、コロナによって理解してもらいやすくなっています。なので、前向きに進む部分も多々あるのではないでしょうか。

ー 固定概念が変わっていきますよね

越智:そうですね。個人的に変えたいのが、販売員の方々が持っている不安を払拭することです。みんなこの状況で雇用にもやはり不安を感じられている方も多く、デジタルでの接客スキルを資格制度に出来ないかということを考えています。

実はデジタル接客にもちゃんと技術があって、5年くらいやっているのでノウハウが溜まっています。リアルの店舗接客だけではなく、このような能力も資格にすることで、社員の自己肯定感を高めたいと考えています。

ー 固定概念を変えるという観点での 他企業の取り組みで気になっている施策はありますか?

越智:ZARAの取り組みが気になっています。モデルさんの撮影が難しい現状で、自宅で洋服を撮影してもらって、コンテンツとして活用するのは地味に凄い発想です。

これまではカメラマンがいて、ロケハンして、撮影するのにライティング機材などをセットしてというのが当たり前だったのが、洋服だけ発送することで撮影が出来るというのは大きな変化だと思います。

ー 企業のマーケティング活動のあり方が変わっていきそうですね

越智:ブランドからの発信よりも、ひとりのインフルエンサーがスタッフから出るほうが影響があるのではないかと感じています。実は、店舗からのSNS活用に関する問い合わせは増えていまして、予算のかけ方なども変わるかもしれません。

今後は個の力が大事になって、自然に増えていくのが大事だと思います。業界として、ECに全員が注力し始めれば、広告費も高騰すると考えられますし、このような取り組みの重要性は高まると見ています。

高まる外出への期待を取り込むことを考える

ー 最後に参加者の皆さんにメッセージをお願いします!

越智:事実として、ファッション業界は重い雰囲気につつまれています。今後は、消費者の購買行動において、洋服の優先順位は下がると多くの方が考えていますし、事実として下がると考えています。最近だと、ゲームやマンガアプリからEC流入が増えているので、お金の使い方はすでに変わっています。

ただ、購入されている商品を見ると、「STAY HOME」に必要なものだけではなく、もしかしたら家にいるから購入しないというものではないとも考えられる気がしています。コロナが落ち着いたら、どこかに出かけたくて、その時に着る服をどうしようみたいな想像を膨らませている方もいらっしゃると思います。

今は外出への期待値が上がっているので、良いサービス・商品があれば、需要はもしかしたら伸びるのかもしれません。

「手段は変わる、本質は変わらない」 モデレーター:飯高氏

ー 最後に、私からおふたりのお話を振り返りつつ、まとめることができればと思います。

木村さんのお話では、3月にマスク販売をしたことで、結果として売り上げが伸びたお話をいただきました。周囲が何を求めているのかを考え、コミュニケーションの取り方を変えていく。そして、コロナさえもトレンドとして考えることの重要性をお伝えいただいたのが印象的でした。

また、越智さんのお話では、ECの飽和が起きること、ユーザーに近いブランドが求められることをお伝えいただきました。現状の変化はもともと起こるはずだった未来が、コロナでたまたま早くやってきたことであり、悲観せずに前向きに進むことは私も大事だと考えています。

最後に、おふたりに共通していたのが、変わること・変わらないことを意識するということです。商売の本質は変わらなくて、変わるのはコミュニケーションなどの手段。この変わるところには対応していくことが今後求められそうですね。

ー 参加者の皆さん、ご視聴いただき、ありがとうございました!

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