【マルチチャネル入門 第2回】マルチチャネルの全体像。部分最適に陥らないための考え方とは

中野 竜太郎
中野 竜太郎
2026.02.12
【マルチチャネル入門 第2回】マルチチャネルの全体像。部分最適に陥らないための考え方とは

目次

Web、LINE、アプリなど、複数のチャネルを使ったマーケティングは、今や多くの企業にとって当たり前の取り組みになりつつあります。一方で、「マルチチャネルに取り組んでいるものの、手応えを感じられない」「どの施策が成果につながっているのかわからない」といった悩みに直面する企業は少なくありません。

こうした状態に陥る背景には、多くの場合「全体としての目標や戦略が曖昧で、各施策が断片的に進められている」という共通点があります。今回は、マルチチャネル施策の全体像を整理しながら、部分最適に陥らず、全体として成果につなげるための考え方を解説します。

施策を増やしているのに、手応えが出にくい理由

マルチチャネル施策は、正しく設計・運用できれば顧客満足度の向上やLTVの最大化につなげることができる取り組みです。一方で、目的や前提を整理しないまま進めてしまうと、コストや運用負荷が増えるばかりで、期待した成果にはつながらないこともあります。

まずは、マルチチャネル施策がうまく機能していない企業に見られる共通点を見ていきましょう。

施策全体を俯瞰できていない

マルチチャネル施策がうまく機能しないケースを見ていると、「施策全体を俯瞰できていない」という問題に行き着くことがよくあります。

多くの企業では、アプリ担当者はプッシュ通知の許諾率、メール担当者はメールの開封率、
LINE担当者はLINEの既読率……といったように、チャネルごとに担当者や見ている指標が分かれています。

こうした体制自体に問題があるわけではありません。ただし、「複数のチャネルをまとめて見たときに、何を成果とするのか」という視点が共有されていないままでは、各施策がバラバラに進んでしまうおそれもあります。

特に近年は、「マルチチャネルが重要らしい」「新しいツールやAIを使えば簡単にできそう」といった断片的な情報だけが先行し、全体として何を目指しているのかが曖昧なまま、チャネルを増やしてしまうケースが少なくありません。

このように、施策が個別最適で進むと

  • どの取り組みが成果につながっているのか説明できない

  • 施策の見直しや優先順位付けが難しくなる

といった状態に陥りやすくなるのです。

「顧客はそもそもチャネルを意識していない」という前提を見失っている

マルチチャネル施策を考えるうえで、必ず押さえておきたい前提があります。それが、「顧客はチャネルの違いを意識してサービスを利用しているわけではない」という事実です。

企業側から見ると、Web、アプリ、メール、LINEといったチャネルは明確に分かれています。一方で顧客は、「どのチャネルを使っているか」ではなく、「どのサービスを使っているか」という感覚で行動しています。

たとえばECであれば、商品を探し、比較し、購入し、利用するまでが顧客にとっての一連の体験であり、その過程で結果的に複数のチャネルに触れているにすぎません。にもかかわらず、企業側がチャネル単位で体験を設計してしまうと、顧客の行動や期待との間にズレが生まれやすくなります。

そのため、マルチチャネルに取り組む際は、「どのチャネルを使うか」から考えるのではなく、「顧客はどのような行動を取り、どのような体験を求めているのか」という視点を起点に、全体を捉えることが欠かせません。

データの連携不足により、顧客体験が分断されている

こうした前提を理解していても、データがチャネルごとに分断されたままでは、実際の顧客体験は分断されてしまいます。

マルチチャネル施策において多くの企業が直面するのが、チャネルを横断して顧客の行動を把握できないという問題です。

たとえば、

  • アプリで購入した商品が、メールで再びレコメンドされる

  • 店舗で貯めたポイントが、アプリで確認・利用できない

  • チャットで問い合わせた内容について、電話で最初から説明を求められる

といった体験は、いずれも珍しいものではありません。

これらは顧客にとって、同じサービスのなかで起きている出来事です。しかし、チャネルごとにデータが分断されていると、過去の行動や状況が引き継がれず、結果として一貫性のないコミュニケーションが生まれてしまいます。

ユーザーが 「いつ」「どこで」「どのような行動を取ったのか」をチャネル横断で把握できなければ、 本来届けるべきメッセージやタイミングを判断することはできません。マルチチャネルを機能させるためには、チャネルをまたいだ行動を連続したものとして捉えられるよう、 データをつなぐ仕組みを整える必要があるのです。

マルチチャネル施策で押さえておきたい3つの構成要素

マルチチャネルがうまく機能していない現場では、チャネル・データ・シナリオが分断されたまま運用されているケースが少なくありません。

部分最適に陥らず、全体として一貫した顧客体験を実現するためには、マルチチャネルを今挙げた3つの要素が組み合わさった仕組みとして捉える必要があります。

ここからは、それぞれの要素について押さえておきたい考え方を整理していきます。

チャネル

デジタルマーケティングで使われるチャネルには、Web、アプリ、メール、LINEなど、さまざまな選択肢があり、それぞれのチャネルにはリーチできるユーザー層や、得意とする役割に違いがあります。

たとえば、メールとLINEはどちらもユーザーに対して情報を届ける手段である点では共通しています。しかし、

LINEは開封されやすく、即時性が高い
メールは比較的コストが低く、情報量の多い内容を届けやすい

といった違いがあります。そのため、「どのチャネルが優れているか」ではなく、「この目的には、どのチャネルが適しているか」という視点で使い分けをすることが重要です。

▼チャネル別の特徴

チャネル リーチ範囲 エンゲージメント 強み 適した用途

App

狭い(既存顧客中心) ・データ取得しやすい
・プッシュ通知で即時性が高い
・ロイヤル化に強い
・ロイヤル顧客育成
・パーソナライズ
Web 広い(新規・検索流入) ・検索流入が多い
・認知拡大に強い
・認知拡大
・新規顧客獲得
Email

中(許諾済みリスト)

やや高 ・リッチなコンテンツを配信できる
・ナーチャリング
・ナーチャリング
・キャンペーン告知
LINE 広い(日本国内特化) やや高 ・開封率が最も高い
・日常的に開かれる
・限定情報の配信や特典配布
・タイムリーな告知
SMS 広い(電話番号ベース) ・確実に届く
・開封率が高い
・2段階認証
・重要通知

 

データ(顧客の行動履歴)

顧客がチャネルをまたいで行動するようになった今、マルチチャネルを機能させるためには、一人ひとりの行動を連続したものとして捉える視点が欠かせません。

そのために重要になるのが、チャネルを横断して顧客の行動を把握できるデータです。
具体的には、

  • 同一のユーザーを識別できる共通のID

  • 購入履歴や閲覧履歴

  • メール開封やLINE既読、アプリ起動などの行動データ

といった情報を、チャネルごとに分断せずに扱える状態を目指すのが理想的です。

こうしたデータがそろってはじめて、「どの行動の後に」「どのチャネルから」「どのような情報を」届けるべきかを適切に判断できるようになります。

マルチチャネルにおけるデータは、分析のための材料ではなく、顧客体験をつなぐための土台といえる存在なのです。

シナリオ

複数のチャネルを使いながら一貫した体験を提供するためには、ユーザーの行動を起点に、
次にどのようなコミュニケーションを行うかをあらかじめ設計しておく必要があります。これが、マルチチャネルにおけるシナリオ設計です。

たとえば、一般的なECアプリでは、

  • Webで商品をカートに入れたまま離脱したユーザーにメールでリマインドを送る

  • Webで初回購入を終えたユーザーにアプリの利便性を伝えてダウンロードを促す

  • 最終購入から一定期間が空いたユーザーにクーポンの有効期限を知らせる

といったように、ユーザーの行動に応じて、次の一手を用意しておくことがポイントになります。
シナリオ設計というと、高度なツールや複雑なワークフローを思い浮かべがちですが、最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。まずは、「ユーザーがどのように行動するのか」「そのとき、どんな情報が届くとユーザーに喜んでもらえるのか」を整理し、「この行動の後にはこう返す」という流れをチーム内で共有することから始めましょう。

テクノロジーは、こうした考え方を効率的に再現するための手段として活用するものだと捉えると、よりシンプルにシナリオを考えられるようになるはずです。

マルチチャネルをうまく機能させるためのポイント

ここまで見てきたように、マルチチャネルでは施策の全体像を捉えたうえで、チャネル・データ・シナリオを設計する必要があります。

では、実際に取り組みを進める際にはどのような点を意識すればよいのでしょうか。最後に、マルチチャネルをうまく機能させるためのポイントを紹介します。

まずは全体としての目標・優先順位を決める

マルチチャネル施策を進める際には、「事業としてどのような成果を出したいのか」「顧客にどのような体験を提供したいのか」といった、全体の方向性をあらかじめ整理しておくことが重要です。

全体像が定まっていないままでは、チャネルごとの施策が増えても、「結局、何がよかったのか」「どこを改善すべきなのか」が見えにくくなってしまいます。

全体の目標を起点に、どのチャネルを優先するのか、どの施策から取り組むのかを整理することで、 マルチチャネルは部分最適ではなく、全体最適に近づいていきます。

MMPを導入し、データに基づいて最適な体験を提供する

マルチチャネルで全体最適を実現するためには、「どのチャネルでユーザーがどのように動いたか」を定量的に把握する必要があります。

そのために欠かせないのが、チャネルごとの広告パフォーマンスやユーザー行動を可視化するMMP(モバイル計測パートナー)です。

MMPを導入することで、「どの広告チャネルからインストールされたのか」「そのユーザーがアプリ内でどんな行動を取ったのか」を可視化でき、チャネルごとの優先順位の見直しや施策の改善につなげられます。

近年は、プライバシー規制の関係でユーザーの同意なしには広告接触のデータすら取得できないケースも増えてきました。媒体の管理画面の数値だけに頼るのではなく、信頼できるファーストパーティデータを自社で蓄積・分析できる基盤づくりは、マルチチャネル施策の導入にあたって事実上必須の取り組みだといえます。

シンプルな施策から、段階的に広げていく

マルチチャネルの活用方法は多岐にわたりますが、まずはシンプルかつ低コストな機能から実装し、段階的に施策を広げていくことが成功のポイントのひとつです。

たとえば、アプリのプッシュ通知やメールでのリマインド、LINEでの簡単な告知など、いわゆる“王道”といわれる施策でも、全体の目的を意識しながら設計すれば、十分に効果を発揮します。

成果が出始めたタイミングで、個別のレコメンデーションやチャネル間の自動連携に取り組むといったように、徐々に施策を高度化させていくことで、チャネル間で足並みをそろえながら、無理なく成果につなげることができます。

まとめ:全体像を把握すれば、各施策が機能し始める

マルチチャネルは、顧客の行動をどのような流れとして捉えるかが問われる取り組みです。
チャネル・データ・シナリオを切り分けて考えるのではなく、全体の体験がどうつながっているかを意識することで、各施策の役割がより見えやすくなります。

マルチチャネル施策がうまく機能していないと感じる場合は、まず自社の状況を整理し、「今、どこで体験が分断されているのか」「どこから手を付けるべきか」を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

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