エンゲージメントからアクティベーションへ。アプリの収益を左右するのは「広告」ではなく「体験」だ

Repro Journal編集部
Repro Journal編集部
2026.06.03
サブスクアプリの収益を左右するのは「広告」ではなく「体験」だ

目次

アプリマーケティングの現場で、ある種の転換点が訪れています。「いかに安くユーザーを獲得するか」という問いへの答えが、もはや収益につながらない構造になりつつあるからです。
2026年4月16日、東京で開催されたマーケティングイベント「RevenueCat App Growth Annual Tokyo 2026」に、ReproのApp Evangelist・中野竜太郎が登壇しました。「広告視点で考えるサブスクハックネタお披露目会 ~1円でも多くの収益を上げる方法について調査、議論、考察しました~」と題し、株式会社Alethne 代表取締役 坂本翔也氏、adjust株式会社 Sales Lead Japan 高橋将平氏とのパネルセッションで語られた内容は、サブスクリプションアプリに携わるすべてのマーケターにとって示唆に富むものでした。 

CPIだけを見ていると、「地獄が始まる」?

rc00Repro株式会社  App Evangelist・中野竜太郎

サブスクリプションアプリのみならず、何らかのアプリを運営していれば、CPI(Cost Per Install)の上昇に悩まされた経験は誰にでもあるでしょう。しかしRepro中野が最初に投げかけたのは、そのCPIという指標そのものへの疑問でした。

「安価なCPIを追いかけて継続率を見ない。これはかなりリスキーです」(Repro・中野)

広告で獲得したユーザーの8割は、インストール直後——いわゆる「Day0」に、アプリの良さを理解することなく離脱します。アプリの質にかかわらず、です。1インストールあたり1,000円のコストをかけたところで、その9割が消えていくケースも珍しくありません。CPIを下げることに注力しても、その先のユーザー体験が設計されていなければ、投資対効果は改善しないのです。

この問題意識が、セッション全体を貫くテーマに直結しています。「広告で差がつく世界は終わりかけています。これからはどうクリエイティブを工夫するか、どう分析して最適化するかです」と中野は喝破し、登壇者のAlethe・坂本氏も「広告で安くユーザーを獲るだけでは利益をもたらさず、地獄の始まりになります」 とコメント。獲得したユーザーをいかに「コア体験」へ導くか——そこに勝負の軸が移っているという認識を再確認しました。

Web-to-Appとオンボーディング設計で「AHA体験」を作る

ここで重要になるのが、自社アプリのコア体験(例:学習アプリなら「学習完了」、家計簿アプリなら「口座連携」)としての「AHA体験」をユーザーに届けることです。では、その体験設計とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

Repro中野が紹介した事例のひとつが、Web-to-App(WebページからアプリへのCVフロー)とオンボーディングを組み合わせた健康管理アプリ「NOOM」(https://www.noom.com/)です。同アプリは、インストールの前に、まずWebのランディングページでユーザーに複数の質問を投げかけます。その数は100問を超えることもあるといいます。

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「パーソナライズの質問を積み重ねていくと、『あなた専用のプランができました』という画面をペイウォール直前に出せます。自分だけのプランがなくなってしまうかもしれない、という心理的な損失感が、お試し登録への一歩を後押しするのです」(Repro・中野)

この手法はグローバルでは広まりつつありますが、日本では「長いアンケートをさせてから課金を求めることへの抵抗感があるのでは」(adjust・高橋氏)という見解もあります。これに対して中野は「スマホ外部課金の普及とともに、Webで課金してからアプリをインストールするという流れは日本でも少しずつ定着してきています」と指摘。環境の変化に合わせて、国内での展開余地は確実に広がっているという見立てを示しました。

人気語学アプリ「Duolingo」の例も挙げられました。同アプリはサブスクプランの案内画面に、「このプランを使ったユーザーの学習完了率は〇倍高い」という定量データを明示しています。「こういう『ハックネタ』がコンバージョンに効きます。ユーザーに対して、投資の合理性を示すことが重要です」と中野は語りました。

「エンゲージメント」から「アクティベーション」へ——時代の転換点

セッションのなかで中野が繰り返し強調したのが、「アクティベーション」というキーワードです。
従来のアプリマーケティングでは、エンゲージメント施策——つまり、他社ポイントやリワードを活用してユーザーをアプリ内に引き込むアプローチが主流でした。しかし中野はこう言います。

「他社のコインが欲しいというモチベーションで動くのと、自社のコア体験のなかでインセンティブを使うのは、まったく別のことです」(Repro・中野)

ここで重要になるのが「マジックナンバー」の概念です。7日間の無料トライアルがあったとして、ユーザーがその期間中に特定のイベントを何回実行したかによって、サブスク継続率は大きく変わります。「トライアル完了」というイベントをCVポイントとするのではなく、コア体験の達成回数を発火条件とする設計が、広告最適化においても圧倒的に効果的だということです。

「7日間のトライアルでも、やめることを決めているユーザーは2時間で消えます。つまり7日間あっても、実質2時間しか与えていないのと同じ」(adjust・高橋氏)という指摘に対し、中野も同意を示しました。

「インストール完了後、コア体験への到達を2時間以内に達成できたかどうかで、通知の送り方を変える。そういうトリガー設計にすべきです。つまり、Day0に本当に気合いを入れていただきたい」(Repro中野)

インセンティブについては、共通ポイント(PayPayポイントや楽天ポイントといった汎用性の高いポイント)の活用も有効と説明。

ライトなユーザーほど、自社ポイントより共通ポイントの方が圧倒的に効果が高い。これはすでに実証実験を行い証明されてきています」(Repro中野)

ただし、あくまでもコア体験へ誘導するための補助輪であり、目的はインセンティブへの依存ではなく「インセンティブがなくても楽しいと感じてもらえる状態を作ること」だと念を押しました。

LTVから逆算する「入り口の質」の改善

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Alethneの坂本氏は、最終的な利益やLTVから逆算して「入り口の質」を変えるアプローチを提唱。具体的には、広告とアプリにおける「期待値のズレ」をなくすことが重要だと語りました。例えば「TOEIC」を目的とするユーザーには、広く「英会話」を訴求するのではなく「TOEIC」に特化した訴求を一致させることで、決済率の向上が見込めます。あるいは広告クリエイティブに「No.1表記」や顧客満足度などを入れて、事前に安心感や信頼性を与えることの有効性も強調しました。

運用面においては、インストールだけを目的とするのではなく、より継続につながる深い「イベント」で最適化をかけることが求められます。坂本氏は「CPAが上がったとしても、継続率や転換率が向上し、長期的に利益が残るのならそれが正しい投資判断です」と力説。認知から獲得、継続、休眠ユーザーの復帰までをバラバラの施策として捉えるのではなく、1本の線として「全体でグループを組んで設計すること」が最も重要であるとまとめました。

「ソフト課金」という新発想——ショット課金からサブスクへの設計

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セッション後半では、adjustの高橋氏がRevenueCatのレポートをもとにした考察を披露しました。「ダウンロードからサブスク開始までの日数」を示すグラフに、数日後に小さな「谷」があることを発見した、という話です。

「サブスクのオファーが出た時に、みんな悩んでいる。世界中の人が、同じように悩んでいる」と高橋氏は分析します。悩んでいるユーザーに対して、いきなり月額・年額のサブスクを提示するのではなく、「1時間使い放題」や少額のコイン購入など、試しやすい小さな課金導線を用意する——「ソフト課金」とでも呼ぶべきアプローチが、サブスク転換率の向上につながる可能性があるということです。

Repro中野も、自身の体験から「漫画アプリでやりまくって廃課金ユーザーです」と苦笑しつつ、少額課金を繰り返したあとに「最初からサブスクにしておけばよかった」と気づく——そのユーザー心理の動きをマーケティング設計に取り込む発想に共感を示しました。

「低すぎる価格設定は高LTVユーザーを安値で取り込んでしまうし、高すぎるとライトユーザーが入ってこない。ライトユーザーにはショット課金をさせてからサブスクに誘導する。そういう価格設計の組み合わせが、収益の最大化につながるのではないか」(Repro中野)

「鉄は熱いうちに打て」——Day0が勝負を決める

最後に、中野が力を込めて語ったのはこの一言です。

「とにかく言いたいのは、鉄は熱いうちに打て、ということ。本当にDay0で全ての勝負が決まります。30日放置した後に戻ってくると思わないでほしい」(Repro・中野)

ユーザーがアプリをインストールした直後——その最初の接触においてコア体験へと導けるかどうか。ここに全てのリソースを集中させる覚悟が、サブスクリプションアプリの成長にとっては不可欠だと中野は言います。

広告費をかけてユーザーを獲得し、その大半を黙って見送っていた時代は終わりを迎えつつあります。CPIからLTVへ、エンゲージメントからアクティベーションへ——今回のセッションで語られた各テーマは、すべてその一点に収束していました。

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