2026年5月27日に開催したウェビナー「Stripeに聞く!EC担当者が知っておくべき『AIコマース』の潮流」を、ポイントを絞って振り返ります。ゲストはストライプジャパン株式会社(以下、Stripe) パートナーソリューションアーキテクトの池田 尚史氏。Reproの中野と、急速に広がるAIコマース、特に「エージェンティックコマース」の現在地と、EC事業者が今から備えることを対談形式で掘り下げました。
- 「エージェンティックコマース」とは何か
- 日本で広がる前に、EC側が整えておきたいこと
- Stripeが提供する取り組み(ACS)と、安全性の考え方
AIコマースとは?いま起きている変化を一言でいうと
これまでのECは「検索して探す」が基本でした。そこに、文脈を理解したAIが入り、自然言語での相談から商品提案につながる体験が増えています。
池田氏によると、英語圏では「AIコマース」よりも「エージェンティックコマース」という呼び方がよく使われるとのこと。ポイントは、提案にとどまらず、購入(チェックアウト)までをAIエージェントが担うところ。将来的には、エージェント同士が自律的に決済する世界観まで含みます。
市場の熱量も高まっています。アメリカのレポートでは「消費者の約半数が、過去1年間に生成AIのサポートによって購入を決定した」とされ、2030年までに小売業界におけるエージェンティックコマース市場は5兆ドル(約750兆円)規模に成長すると予測されています。池田氏は「すでに熾烈な競争が始まっている」と語りました。
すでにAmazonの「Rufus」やWalmartの「Sparky」、FinTech企業KlarnaのAI導入など、具体例も出始めています。買い物の入り口が、検索から「会話」へ。そんな変化が現実になりつつあります。
日本ではいつ広がる?EC側に起きる「関係の変化」
よく出る質問が、「決済まで含めたエージェンティックコマースはいつ日本に来るのか」。池田氏は時期の断定は避けつつも、「そんなに遠い未来ではない」と述べ、近い将来の到来を示唆しました。
もうひとつ重要なのが、EC事業者と消費者の間にAIエージェントが入ることです。消費者側は「探す・比べる・買う」を任せ、EC側から見ると「エージェントが顧客として購入しに来る」場面が増えていきます。
エージェントがECサイトの情報を正しく扱うために、「UCP(Universal Commerce Protocol)」と「ACP(Agentic Commerce Protocol)」という2つのプロトコルが紹介されました。UCPはGoogleが主導し、Stripeも策定に参画しています。ACPはOpenAIとStripeが共同で開発したもので、AIエージェント経由のコマース体験を最適化する狙いがあります。
そして池田氏は、すでにエージェント経由の流入は起きているため、「そのときの離脱率を把握し、改善していくことが重要」と強調しました。
Stripeの「エージェンティックコマーススイート(ACS)」で何ができる?

Stripeが提供する「エージェンティックコマーススイート(ACS)」は、ACPとUCPの両方をカバーし、EC事業者がエージェンティックコマースを始めやすくするためのソリューションです。アメリカではすでにサービスが開始されています。
ACSの主な機能は次の3つです。
- エージェントへのチャネル登録:
Stripeダッシュボードから、「Microsoft Copilot」「Google Gemini」「Meta(Facebook、Instagram)」など複数チャネルへ登録できます。各社と個別に交渉・契約せずに進められる設計です。
- 商品カタログの連携:
APIまたはCSVで商品・在庫情報をアップロード。各エージェントのスキーマの違いをStripe側で吸収し、最新データを渡せるようにします。
- AI向けのチェックアウト:
エージェントのUI内で決済まで完結できるよう、各エージェントに適したチェックアウトAPIを提供。EC側の個別開発負担を抑えながら、スムーズな購入体験を目指します。
利用の流れは、Stripeアカウント設定、税金設定、商品カタログデータのアップロード、注文フルフィルメント対応、エージェント登録と販売の有効化。注文情報の連携や在庫引き当てなどは実装が必要ですが、Webhookの活用で連携しやすいと説明がありました。
連携先としてMicrosoft Copilot、Meta(Facebook)やGoogle Geminiとの連携も発表されており、「販売チャネルを増やす」観点でもACSの強みが示されました。
安全性はどう担保する?AIコマースの不正対策

AIエージェント経由の購買で気になるのが安全性です。池田氏は、カード情報がエージェント上で共有されることはなく、Stripe側で厳重に管理されている点を強調しました。
不正対策は、従来のボット対策とは違う考え方が必要になります。Stripeの不正検知エンジン「Radar」と連携し、エージェント上の挙動や登録されたカード情報から不正を検知する仕組みを構築しているとのことです。
その中核となる要素技術が、Stripeが開発した「Shared Payment Token(SPT)」です。
「購入者さんがエージェントに買い物依頼するときに、カード情報を渡すわけにいきません。そこで、エージェントはStripeなどの決済プラットフォームに対し『この売り手(加盟店)に、最大〇〇円まで、〇〇分間だけ有効』という条件を付けて、決済トークンの発行を依頼します。これを受けたプラットフォーム側が、ユーザーの元々の決済手段に紐づいたSPTを発行し、エージェントへと渡します。その後、エージェントはカード情報の代わりにこのSPTを販売者に送信し、受け取った販売者が決済プラットフォームへと請求を行い、条件(金額や期限)が一致していれば決済が完了する、というイメージです」と池田氏は語ります。
生のカード情報を渡さずに決済できるのがSPTのポイントです。トークンは金額や有効期間が制限されているため、万が一の漏洩時にも転用リスクを抑えられます。今後はカード以外の決済手段にも拡大される予定です。
EC事業者が「今から」備える3つのこと
エージェンティックコマースに向けて、EC側での備えは大きく3つに整理できます。
- 決済インフラの刷新:
エージェントが理解しやすい形、つまりAPIベースの構造が前提になります。APIドキュメントが公開され、LLMが読み取れる状態にあることが重要です。
- AIエージェントの受け入れ体制:
様々なエージェントが登場する前提で、「どのエージェントから来ても受けられる」設計が求められます。
- 商品カタログの整備:
提案の精度を左右するのは、商品・在庫データの信頼性です。オンラインと店舗の在庫が分断されていないか、リアルタイム性は担保できているか。ここが弱いと、エージェント側で優先度が下がる要因になり得ると池田氏は警告しました。
池田氏は、まず「決済インフラの刷新」から着手するのがよいとアドバイスしました。できるところから、段階的に整えていくのが現実的です。
Q&Aセッション(参加者の質問から)
【Q】Shopifyが発表していたエージェンティックコマースとは、また別物ですか?
【A】広い意味では同じですが、ShopifyはShopifyで独自のモデルを考えています。そのため、今回のセッションの文脈では、別のイメージのものと捉えていただいて問題ありません。
【Q】エージェントが商品を探す場合、その国内のみのECが対象になるのでしょうか。例えば、アメリカの人が「日本風のXXXを買いたい」と記載した場合、日本のECも探して商品購入が行われるのでしょうか。その場合、今後は海外発送の準備ができている会社が強くなるのでしょうか。逆に、海外発送ができない場合、日本からのアクセスのみに販売するといった設定は可能でしょうか。shopifyが発表していたエージェンティックコマースとは、また別物ですか?
【A】エージェントの振る舞いは提供企業次第ですが、国境を越えた購買は十分にあり得ます。現時点では難しい面もありますが、世界的に普及すれば、国際発送の準備ができているEC事業者が有利になるでしょう。海外への販売制限についてはエージェント側の機能次第であり、今後議論が進むテーマだと考えられます。
【Q】エージェントはひとつの質問に対して1商品を提案しますか?それとも複数商品を提案しますか?
【A】これはエージェント側の要件によりますが、現状のプロンプトでは複数の商品を並べて提案することが一般的です。
【Q】エージェンティックコマースと相性が良い商品カテゴリはありますか?アパレルECを運営していますが、アパレル導入にはいろいろな壁がある印象です。どの業態からエージェントコマースが進んでいきそうでしょうか。
【A】現在、世界中で模索が進んでおり、特定のカテゴリを断定するのは難しい状況です。洋服や学用品などは相性が良いイメージがありますが、今後より明確になっていくでしょう。アメリカの動向を見ると、アパレル関連も比較的多い印象です。
【Q】今後、インスタントチェックアウトなどのチェックアウト機能を活用する場合、受け手となるECサイトが「会員登録制」の場合でも問題ないのでしょうか。それともAIによる購入は、非会員決済が主になるのでしょうか。
【A】現状ではエージェント上で決済が完結するため、ECサイト側の会員情報とは連携されていません。そのため、購入はゲスト購入として扱われますが、今後の改善によって会員情報連携にも対応していくと考えられています。
【Q】 現在はカード決済が主流ですが、Account to Accountでの手続きを、StripeがサポートするAIコマースで実現できるのでしょうか。また、その構想はありますか。
【A】Shared Payment Tokenの対象はカードだけではなく、様々な決済手段をサポートする構想があります。各決済事業者との開発連携は必要になりますが、今後対応範囲が広がっていく見込みです。
【Q】 AIによって商品を探すとのことですが、「商品を探す」というアクション自体は今後も必要でしょうか。将来的には、AIから何らかの方法(例えばLINEなど)で提案してくるようなことも起こり得ますか。
【A】消費者からのアクションなしにAIが提案してくる世界は十分にあり得ると思います。Stripeとして具体的なサービス提供は未定ですが、エージェント側のレコメンデーション機能として、将来的に登場する可能性はあります。
まとめ:AIコマースに向けて、まず何から始める?
AIコマースは「いつかの未来」ではなく、すでに動き始めています。日本でも、決済まで含む体験が広がる可能性は十分あります。
- まずは“受け皿”をつくる: 決済やデータ連携を、エージェントが扱いやすい形(API中心)に整える。
- 商品・在庫データの信頼性を上げる: 正確で新鮮なデータは、提案されやすさにも直結します。
- エージェント流入を“計測して改善”する: すでに起きている流入を見逃さず、離脱や詰まりどころを潰していく。
池田氏からは「まだ先の話だと思わず、今ならできることはたくさんあるので、ぜひStripeに問い合わせてほしい」というメッセージもありました。備えは早いほど、選択肢が増えます。
Reproでは、Webサイトの表示速度改善ツール「Repro Booster」を通じて、ECサイトのパフォーマンス向上を支援しています。体験の土台を整えたい方は、無料診断もぜひご活用ください。
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