この記事は、『Spotify』のグローバル展開を徹底分析したもののPart2になります。『Spotify』がグローバルビジョンを推進する原理は前回の記事で分かったので、次にローカライズの成功事例を学びましょう。
長期的な戦略を明確にしてから市場を選ぶ
さまざまな指標に基づいて進出したい市場のリストを持ちましょう。市場を入念に調査して戦略を練ることがどの市場を選ぶか決める際の助けになるのです。
『Spotify』対『Deezer』を例に取りましょう。フランスの音楽ストリーミング配信サービスの会社であるDeezerは、Spotifyの競合の1つです。 DeezerはSpotifyよりもユーザー数は小規模ですが(Spotifyの有料ユーザーは3,900万人に比べDeezerは600万人強)、すでに180以上の国でフリーミアムモデルのプラットフォームを立ち上げています。ちなみにSpotifyは60ヶ国です。
DeezerはSpotifyよりも多くの市場にいるのに、なぜユーザー数が少ないのでしょうか?それはSpotifyとDeezerが全く異なる拡大戦略をとっているからです。元Deezer社員で現在はQuoraの社員によると、『Deezer』はグローバル展開の初期により積極的な計画に基づき邁進しました。彼らの計画はできるだけ米国市場に突入することを避け、その代わりに大量の小規模な新興市場をターゲットにするというものでした。
『Spotify』は米国市場に真っ向から勝負し、それに莫大な費用を要しましたが、結果として10年越しの賭けにおいては大きな成功を収めています。自社の戦略がどうであれ、入念な調査をしようという意思は必ず持つべきです。競合他社が特定の市場でどのように行動しているのかを観察することは、良い指標となるでしょう。
例えば、『Netflix』はAppleとDisneyの中国における規制問題をきっかけに、今最も大きい市場への参入を避けています。
『Spotify』がこの戦略を成功させるためには、アメリカにおける一か八かの勝負の前に、ヨーロッパでコンセプトが確固たるものであることを確認しなければなりませんでした。同社がスウェーデンでサービスを誕生させてから3年が過ぎ、アメリカでの大規模な開始直前の2011年に、Spotify有料ユーザーはとうとう100万人に到達しました。これは彼らが米国進出の準備完了のサインとして必要としていたものでした。この発表により、次の資金集めが行われ、無事秋にアメリカに上陸したのです。
現在の市場動向とユーザー行動を利用し、プロダクトを適合させる
『Spotify』は、市場が大幅に変化した場合でも、プロダクトが市場に完全にフィットするようにしています。同社は、プロダクトがどのようにユーザーの役に立っているかを知っています。彼らは以下の両方ができるのです。
- 彼らのプロダクトを新しい市場のニーズに合わせて変更する
- 自社プロダクトで市場に参入する方法を戦略的に考える
Spotifyが2011年にアメリカ上陸を予定していたとき、プロダクト名はよく検索されていたので、Spotifyは自社サービスを利用する平均的なユーザーは「能動的なリスナー」であり彼らは本当に聴きたいものを検索するだろうと仮定しました。
当時は、より「受動的なリスニング」を推奨するPandoraとアメリカのラジオ文化が米国市場を支配していました。既存のユーザー行動のニーズを満たすために、Spotifyは
革新的な「Weekly Discover機能((ユーザーがSpotifyで視聴してきた曲の趣味嗜好を分析し、週に一度月曜日に各ユーザー向けにオススメのプレイリストが配信される))を含む、ストリーミングサービスにさらに多くのキュレーション機能を組み込みました。
しかし、業界の長期的な動向も同様に考慮する必要があるのは肝に銘じておいてください。Spotifyがキュレーション機能を実装したという事実は、CEOであるEkが世界の音楽業界の長期的なトレンドを認識していることを示しています。ユニバーサルミュージックのデジタルビジネス部門海外責任者であるFrancis Keelingは、「主要なストリーミングサービスはすべて3,000万曲以上を提供し、品質やアプローチに差はありません。その中でトップにいることに価値があります。」と話しています。
キュレーション、オススメ、そして影響力こそが全てです。- Francis Keeling
素早いローカライズに向け、誰もが使う機能の可能性を最大限に引き出す
全ての市場に新しい機能を提供するほどリソースが無いときに、どうすればMVL ((Minimum Viable Localization: 最小限で実行可能なローカライゼーション))を達成できるでしょうか?これを考えるにあたってまずすべきことは、UIデザインのようなプロダクトが全世界共通で提供している部分に注目することです。Spotifyで世界的にヒットした機能は、その人が走るスピードに適した音楽でキュレーションされたプレイリストが作られるランニング機能です。
SpotifyのチーフプロダクトオフィサーであるGustavSderstrmは、「走るというのはどの国でも主要な活動です。」と言っています。彼は全世界、6,000万人のユーザーの習慣を研究しているチームを"社会科学者"と呼んでいます。 「世界中の数百万のプレイリストに簡単にアクセスできる」いう謳い文句で、彼らはこの機能を全世界共通でリリースしました。
新規ユーザーのニーズを把握するために、十分な時間を費す
Spotifyの場合、新機能を出す時や新しい市場に参入する時、公式発表前に数ヶ月間も計画を温めます。Dagens Nyheterとのインタビューで、Spotifyは何事もまず初めに6ヶ月間テストするため、「何かを始める」時には「ユーザーのニーズは既に把握している」とEkは説明しています。Ekは、Spotifyが音楽プラットフォームからライフスタイルブランドへピボットしたとしても、新市場への参入方法に変わりはなく、新規ユーザーにも対応できると言います。
海外展開において、技術面で最小限のベンチマークを設ける
プロダクトがセキュリティやデータの暗号化に関連している場合を除き、アプリやゲームが技術的に最高水準に達する前に新しい市場への参入を検討するのが普通です。2011年にSpotifyのアメリカ上陸が大幅に遅れたため、音楽とユーザーをつなぐために使用される「協調フィルタリング ((多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、あるユーザーと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動的に推論を行う方法))」アルゴリズムは、飾り気のない普通のものになりました。
New Yorker Magazineによると、最初はこのアルゴリズムが「便利というより迷惑だった」と報告しています。時間とともに、これらのアルゴリズムは劇的な改善を見せました。 2014年の初めには、Spotifyはアメリカに巨大なユーザー基盤を持ち、曲提案機能をさらに発展させるために、音楽の人工知能製品を開発したボストンのEcho Nestというスタートアップを買収したのです。
この記事は、 OneSky上の記事 “ 9 International Growth Strategies from Spotify“を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。Repro published the Japanese translation of this original article on OneSkyin English under the permission from the author.