この記事は、Spotifyのグローバル展開の徹底分析の第一部(Part3)です。
【6】ローカライズの結果を元に、製品を改善する
新しい市場に参入すると、より多様なユーザー基盤ができ、あなたの製品をより良くするデータが増えます。これは製品がB2Cでなくても、当てはまります。彼らが個人であろうと法人であろうと、エンドユーザーに関するより多くのフィードバックを得ることは、マーケットフィットの改善につながるのです。
長年かけ、地理的にも時間的にも蓄積された膨大な量のユーザーデータを全て活用することで、あらゆるユーザーによりパーソナライズされたリスニング体験を作成するという、Spotifyのバリュープロポジションも進化しました。プロダクトが複数の市場に進出したことを利用し、よりタフで適応性のあるプロダクトを作ることができます。
例えば、SpotifyのR&Dの取り組みには個人の音楽嗜好データに基づいた個々のユーザーへの高度な自動キュレーションの開発も含まれます。これにより、「各国のサッカーファンが音楽を通してFIFA 2014の結果をそれぞれどのように祝ったか」というような、主要なイベントに対する各国のユーザーの反応の違いを把握することができるのです。
Spotifyは、ユーザーの大多数がモバイルでサービスを利用していて、頻繁に移動する可能性があることも考慮しています。有料のサブスクリプションプラン「Spotify Premium」により、世界中のどこでもSpotifyを使用することができるのです。
フリーミアムサービスを利用している場合でも、ユーザーは14日間無料で国外で聴くことができ、国を簡単に切り替えることができます。
【7】主要なターゲットユーザーに適した方法で、新しい市場に参入する
Spotifyが調査を委託したグローバルマーケットリサーチ会社TNSによると、Spotifyのユーザーの多くは主要ソーシャルメディアのインフルエンサーであることがわかっています。
これはSpotifyが既によく知っている事実です。同社は未公開のベータ版の時、地域のインフルエンサーやアーリーアダプターを通じてバズらせ、この期間のフィードバックをその地域特有の機能に反映させています。数ヶ月後に市場に参入するころには、既に製品をとりまく多くの宣伝が行われており、これがSpotifyの新しい市場にする際に、主要なユーザーをうまく利用するやり方です。
ソーシャルメディアの影響度をランキング化するサービスであるKloutは、Spotifyに関するプロモーションを開催しました。あまりにも人気が出たためKloutとSpotifyの両方のプラットフォームはアクセス過多でサービスが停止したのです。著名メディア「GrowthHackers」によると、Spotifyが参入した全ての国で、未公開のベータ版期間と招待状の数が限定されていたことこそが「潜在的なユーザーたちの需要の増加」を実現しました。
招待状の不足が、マーケティング戦略であろうとサーバー帯域幅に関する問題であろうと、Spotifyはアメリカで1年間に300万人のユーザー(内20%が有料ユーザー)を獲得し、再生回数は130億曲に上りました。
【8】地域の購買行動と支払いシステムに適応させる
地域の相場に応じた適切な価格設定が重要です。それと同等に、ローカライズの鍵は地域の消費者の嗜好や支払いシステムを研究しましょう。つまり、消費者がオンラインで購入する方法や理由を調べるということです。
ブラジルは、1億人の音楽ファンを抱え、複数のストリーミングサービスが市場に参入しようとしのぎを削っている、激しい競争が集積している国です。ブラジルのほぼすべてのスマートフォンはAndroid OS上で実行されるため、Google Playにアドバンテージがあります。
The Rolling Stoneによれば、Spotifyとその競合であるいくつかは、その国の主要な収入格差と多様な音楽的嗜好を理解しプロダクトを適応させることで進歩してきました。
支払いシステムに関して、Spotifyはヨーロッパ各地の通信事業者との提携によるキャリアビリング((携帯電話などの電気通信事業者が、通話料と併せてコンテンツの利用料や課金などを徴収する支払いの仕組み))の開発に投資しており、プレミアム加入者はクレジットカードではなく携帯電話で支払うことができます。彼らは、このモデルで大成功を収めました。ヨーロッパのデフォルトの支払い方法は、クレジットカードの詳細と同様、保存された支払い方法としてキャリアビリングに切り替わりました。
【9】各国のユーザーに対して真摯に向き合い、問題はすぐに解決する
Spotifyは、PR活動で失敗になりうるものを成功に変える達人です。Taylor Swiftは2014年に、Spotifyが十分にアーティストに支払っていないという懸念を露わにしました。CEOのDaniel Ekは、それに対し2,000語近いブログ記事を個人的に書きました。彼は、その時点までにアーティストに支払った金額を表記し、「20億円以上」という題名を掲げました。
EkはすでにスウェーデンでこのPR活動のハードルに直面して準備をしていたのです。自国でSpotifyの待遇に不満を感じているアーティストに最初に遭遇したとき、Ekのチームは、アーティストがログインできて、どのくらいストリーミングされているか、またこれがSpotifyを通じて受け取った支払いとどう関連するのかを確認できるウェブサイトを構築して解決しました。インタビューでEk氏は、透明性の向上は「この議論の多くを解決している」と述べています。
もう一つの透明性に関する話:新しい市場に参入する前にSpotifyはその国に仮のホームページとサブドメインを設定し、メールアドレスを入れればサービス開始と同時にメッセージが送られるようにしています。日本での着手に先立ち、「日本でのサービス利用は現在準備中です!サービスを開始する際には、すぐにお知らせをお送りいたします。」とメッセージを載せています。
Spotifyのさらなる発展に乞うご期待
Spotifyは「音楽ストリーミング」と「所有」について人々の考え方を変えようと挑戦を続ていますが、近頃のアジア拡大の取り組みは印象的です。このシリーズの次回では、日本での最新の取り組みによって示された成功例と、Spotifyのアジアでの成功した例に焦点を当てます。Spotifyのグローバル成長にとって重要な9つの戦略について簡単におさらいしましょう。
- 長期的な戦略を明確にしてから市場を選ぶ
- 現在の市場動向とユーザー行動を利用し、製品を適合させる
- 素早いローカライズに向け、普遍的な機能の可能性を最大限に引き出す
- 新規ユーザーのニーズを把握するために、十分な時間を費す
- 海外展開において、技術面で実行可能な最小限のベンチマークを使用する
- ローカライズの結果を元に、製品を改善する
- 主要なターゲットユーザーに適した方法で、新しい市場に参入する
- 地域の購買行動と支払いシステムに適応させる
- 地域のユーザーに対し透明性を持ち、問題はすぐに解決する
次回は、Spotifyのアジア展開について深堀りしていきます。
この記事は、OneSky上の記事 “9 International Growth Strategies from Spotify“を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。Repro published the Japanese translation of this original article onOneSkyin English under the permission from the author.