マッチングアプリ『Tinder』はプロダクトのローンチから1年かからずに100万MAUを達成しました。更に驚くべきことにローンチから30ヶ月後には2,400万MAUに達しています。
本記事は1年目に『Tinder』が利用した戦術や戦略、マーケティングツールについて調査するものです。
課題
「アイデアはアイデアでしかない。 いつ、どのようにそのアイデアを実行するかによってその価値や結果は決まる」と創業者の一人 、Justin Mateen氏は言いました。ユーザーにアプリの価値を感じてもらうために『Tinder』が乗り越えなければならない課題は大きく二つあったのです。
1. マッチングアプリのマイナスイメージ
マッチングアプリは昔から悪いイメージを持たれていました。『Tinder』はこのマイナスイメージ、つまりCEOであるSean Rad氏がいうところの「心理的バリア」を取り除かなければならなかったのです。
2. 地理的な集中の問題
人々は基本的に住んでいる場所が近い人と会います。『Tinder』がその真価を発揮するには、特定のエリアにいる十分な数の男女にプロダクトを使ってもらうことが重要でした。
成長戦略
『Tinder』はこれらの課題を解決するために「ローカルPR活動」を実行しました。『Tinder』の一年目の成長戦略は「college by college(大学から大学へ) 」と呼ばれる初期のFacebookが用いた戦略と同じようなものだと考えれらています。 その見解は表面的には正しいですが、『Tinder』のアプローチが成功したのは大学のサブコミュニティーに浸透させることができたからです。
マッチングアプリを必要としない人をターゲットにする
CMOのJustin Mateen、CMO補佐のWhitney Wolfeは大学の学生クラブのメンバーでした。
「まず小さなエリアの中で影響力のある人を見つけ出す必要があります。誰がインフルエンサーなのか探り、彼らをターゲットにするんです…私たちはそうやって大学や他の社会的なコミュニティの隅々まで『Tinder』を浸透させました」
Whitney Wolfe
当初の『Tinder』の目標は「Greek college community(学生クラブ)」のコミュニケーションツールで最も有名な組織になる事でした。ローリングストーン誌ではこれを「VIP、例えばソロリティ((アメリカの大学・大学院の女子学生社交団体))のトップ、セレブ、モデル、お金持ちを狙いにしている」と表現しています。
大学のVIP達をユーザーにすることでマイナスイメージのリスクを回避し、更に多くの人々を魅了することで初期のユーザー獲得にも良い効果を及ぼしました。
意欲的なマーケティング
『Tinder』はマーケティングの素材としてソロリティが持つ従来のイメージを利用しました。以下の画像では『Tinder』のプレスキットを南カリフォルニア大学の学生クラブ「Kappa Kappa Gamma」がTumblrにアップした写真と比較しています。写真の内容、構成、トーンなど酷似していることがわかるでしょう。
このプレスキットからわかるのは、ソロリティが世間から持たれている「自分たちの活動をモバイルからシェアする」という従来のイメージを『Tinder』の利用方法を伝えるイメージとして一部利用していることです。
集中させる
インフルエンサーがアプリを使い始めたので、マーケティングチームはより大きな学生コミュニティへのアプローチを開始しました。各大学のコミュニティに手紙を送ったのです。この社会的証明を利用した作戦が功を奏し、各大学でユーザーグループの構築が進んでいきました。多数派のグループが参加したことにより、さらに多くの人に浸透していったのです。
個人へのアプローチ
『Tinder』チームは有名大学のバーやイベントに出向き、10人に登録をしてもらいました。これが『Tinder』が行った個人へのアプローチです。
このアプローチによって、あとから『Tinder』を使い始めるユーザーのサービスに対する第一印象を良くすることに成功しました。今後『Tinder』を利用するユーザーが使い始めたとき、すでに『Tinder』を利用している魅力的なユーザーをスワイプして選ぶことが可能になっているからです。
プレゼンテーション
『Tinder』は集団でプレゼンテーションを受けたいと言っているソロリティにもアプローチしました。ソロリティが使い始めたら、そのソロリティと仲の良いフラタニティ((アメリカの大学・大学院の男子学生社交団体))にもプレゼンしたのです。この時点で『Tinder』にはフラタニティと地理的にも社会的にも近いソロリティが十分な数いたので、フラタニティにもアプリを使ってもらうようにするのはずっと簡単でした。
ローンチパーティー
『Tinder』は入場の際にアプリ画面の提示を必要とするパーティーを企画しました。このやり方はUSCや他の大学にも広広まっていったのです。Justin Mateenはビバリーヒルズの親の家でパーティーを開催しました。
グロースの結果
『Tinder』が大学のコミュニティに対して行ったマーケティング戦略はアプリを熱心に使うユーザーたちの間で発展し、このマッチングアプリを成功に導くこととなりました。『Tinder』を使うことで成功したという話は18~23歳のコミュニティに広がっていき、『Tinder』は最初の6ヵ月で50万人以上のユーザーを獲得したのです。
この分析結果についてのおことわり
『Tinder』を使うユーザーは『Facebook』のアカウントでの認証が必要なので、『Facebook』のデータを今回の分析に用いました。このデータには異論もあるかもしれませんが、『Tinder』のグロースの傾向をざっくりと知るには十分です。
マーケティング戦略の転換
早期に行った大学でのキャンペーンが世界にマッチングツールとして浸透するのに大きく貢献しました。しかしながらこれらの戦略の効果は限定的でした。アメリカの大学間以上の広がりを作るには、マーケティングのアプローチを調整する必要があったのです。
各都市でのリリース記念パーティー
2013年の終わりに『Tinder』はマーケティング戦略を25~34歳をターゲットにしたものに変更しました。都市向け機能のリリース記念パーティーをナイトクラブを貸し切っておこなったのです。
年齢層
「最初の数ヶ月の主なユーザーは18-24歳でしたが、今では全ユーザーの57%に留まっています。そして次のターゲットは25~44歳までの幅広い年齢層です。」 Justin Mateen
火を絶やさないこと
『Tinder』のマーケティングチームはグロースの各段階で適切な施策を行いました。プロダクトの初期の成功は最初に熱狂的なユーザーを作れるかどうかにかかっています。ゼロからの地道なスタート、早期のキャンペーンが100人、1,000人と新しいユーザーを得るのにとても重要だったのです。
もし彼らがリリースの一年目で個人に対するアプローチを行っていなければ、これだけの成長はなかったかもしれません。
この記事は、 Parantap Research & Strategyの記事 "TINDER'S FIRST YEAR USER GROWTH STRATEGY"を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。Repro published the Japanese translation of this original article on Parantap Research & Strategyin English under the permission from the author.