この記事では、アプリマーケティングにおける施策を考案するうえであなたの強い味方となる「ユーザーエンゲージメントマップ」の作り方を解説します。
プッシュ通知やアプリ内メッセージの施策を配信していく中で、「1日に何通もプッシュ通知が届いてしまっているユーザーがいそうだが可視化されていないので分からない」「利用初期のユーザーにばかり施策が当たっていて、それ以外がなおざりになっている」といった状態になったことがあるマーケターの方は少なくないのではないでしょうか。この記事で解説する「ユーザーエンゲージメントマップ」は、アプリをインストールしたユーザーがそのサービス上で歩んでほしい理想的なステップを可視化し、各ステップにおいてどのような阻害要因があるか、その阻害要因に対してどのような打ち手のアイデアが考えられるかを、ひとつの表で整理するものです。
アプリマーケティングをはじめる第一歩として、ぜひ自社サービスのユーザーエンゲージメントマップを作成してみてください!
ユーザーエンゲージメントマップを作成するふたつのメリット
ユーザーエンゲージメントマップとは、アプリ内でのユーザーの行動を時系列でステップごとに整理し、各ステップにおける目標行動とその目標行動をユーザーが実施しない場合にどのような阻害要因が存在しているかの仮説を整理し、洗い出した阻害要因の仮説に対してどのような打ち手を取ることができるかを考えるためのフレームワークです。
今までReproのカスタマーサクセスとしてアプリサービスを複数ご支援してきた中で、ユーザーエンゲージメントマップを作ることで得られるメリットは大きくふたつあると私は考えています。
1.MECEに施策を実施できる
ひとつ目は、MECEに施策を実施できる点です。ユーザーエンゲージメントマップを作成する最大の目的は、ここにあります。
すべてのステップのユーザーに対して、漏れ・ダブりがない状態で施策を配信できているかどうかを可視化できるので、施策が当たっていないユーザー群を発見したり、逆に施策が当たりすぎているユーザー群がいないかチェックできるようになります。
よくあるケースとして、すでに定着している既存のユーザー向けの施策は充実しているが、新しくダウンロードして入ってきたユーザーへの施策が一度も配信されていないというパターンがあります。せっかく獲得したユーザーも、しっかりオンボーディングしないと失っていくばかりです。すべてのステップのユーザーにMECEに施策が当たっている状態を目指しましょう。
2.社内で共通認識を持つことができる
ふたつ目は、施策を新しく考案する際などに、社内で共通認識を持つことができる点です。基本的に施策を考案したり、施策の配信結果からインサイトや仮説を考えるには、ひとりで考えるのではなく、誰かと壁打ちしながら進めることをおすすめしているのですが、その際にこのユーザーエンゲージメントマップが役立ちます。
「こういう施策をやってみたら、こういう結果になったんだよね。どう思う?」とだけ聞かれても、よほどそのアプリを使い込んで、すべてのステップが頭に入っているような人でない限りそのディスカッションは有益な場にならないでしょう。
前提情報として、アプリ内にどのようなステップが存在し、今回実施した施策はどこのステップに該当するのかや、どういう仮説を持ってその施策を実施したのかを伝える必要があり、その際にユーザーエンゲージメントマップを見せれば分かりやすく伝えることができます。
また、担当者の変更や業務の引き継ぎが発生した際にも、ユーザーエンゲージメントマップがあれば現状の施策の配信状況と、どういった仮説をもって施策を配信しているのかが明瞭になるのでおすすめです。
さて、ここまで読んでくださったあなたはユーザーエンゲージメントマップを作ってみたくなっているのではないでしょうか。次のセクションでは、具体的なユーザーエンゲージメントマップの作成方法について解説していきます。
ユーザーエンゲージメントマップの作り方
ここからは、具体的なユーザーエンゲージメントマップの作成方法について解説していきます。
1.とにかくアプリを触りまくる
まずはユーザーエンゲージメントマップを作成したいアプリを、ユーザーの目線に立って操作しましょう。この時重要なのは「ユーザー目線に立つこと」と「すべてのステップを網羅すること」です。
マーケターという立場は通常のユーザーと比較してアプリを触る頻度が高いのではないかと思います。使い慣れていると、どうしてもユーザー目線というのは薄れてしまいがちです。たとえば多くのユーザーが「使いづらいな……」と感じている部分があっても、使い慣れているあなたは使いづらさを感じられないかもしれません。
なるべくユーザー目線を意識して、新鮮な気持ちでアプリを操作してみましょう。もし可能なら、家族や友人など身近な人にアプリを使ってみてもらい、その様子を見たり感想を聞いたりしてみてください。思わぬところで使いづらさを感じているかもしれません。
また、このタイミングでアプリ内のすべてのステップを網羅し実際に体験する必要があります。例えばECアプリであれば、実際に商品を購入してみて一連の体験としてどうだったかまで確認することが理想です。
2.ユーザー行動を洗い出し理想のステップを作る
次にアプリ内でのユーザー行動をカテゴライズし、ステップとして可視化していきます。
アプリ内のユーザー行動は、例えば求人のアプリでは「お気に入り登録をした/しなかった」のように分岐が発生すると思いますが、ユーザーエンゲージメントマップを作成する際は理想となるユーザー行動のみを洗い出していきます。具体的には以下のようなイメージです。
3.各ステップに対して、その行動をユーザーが行わない要因(=阻害要因)を考えて書き出す
理想行動のステップが網羅できたら、各ステップに対してその理想行動をユーザーが実施しない場合、どのような要因(阻害要因)が考えられるかの仮説を立て、記載していきます。一連の作業の中で、ここが最も重要な部分です。
ここで、ひとつの理想行動に対して複数の阻害要因を思いつくケースもあるのではないでしょうか。その場合、思いついたものすべてを記載していきましょう。思いつく仮説が多ければ多いほど、改善のためのPDCAサイクルを回す際に試せるパターンが多くなり、結果勝ちパターンを見つけることができる可能性が高まります。未来の自分を助けるつもりで、仮説をたくさん考えてみましょう。
阻害要因の仮説を洗い出す際には、以下のポイントに気を付けましょう。
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施策の話ではなく、課題の話をする
この段階で洗い出したいのは阻害要因=課題なのですが、気付くと打ち手である施策の話になってしまうことがあります。
例えば、会員登録が完了しない場合に「LINEログイン機能がなかった」と考えるのは、もはや施策の話です。施策についてはこの次の段階で考えるので、まずは「メールアドレスを入力してのログインが面倒だった」などの課題に焦点を当てましょう。その解決策として「LINEログイン機能を組み込む」が浮上します。
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ユーザーを主語にして考える
ユーザーを意識せず、運営側の視点だけで仮説を洗い出してしまうのも、ありがちな失敗です。
例えば、会員登録を完了しないことに対して「チュートリアルでの説明が不足していた」と考えるのはあくまでも運営側の発想です。ユーザーが主語になれば、「個人情報がどのように使われるか分からず不安になった」といった阻害要因が浮上するのではないでしょうか。
阻害要因の仮説は、偏った視点で作成してしまうことを避けるために複数人で検討することが有効です。できればひとりで考えるのではなく、誰かとディスカッションしながら作成することをおすすめします。
私もユーザーエンゲージメントマップを作成する際は、社内のメンバーやお客様とディスカッションしながら、必ず誰かと一緒に作成するようにしています。
4.その阻害要因に対してどんな打ち手が打てるかを考える
阻害要因の仮説について思いつくものすべてを書き出したら、いよいよ最後のステップです。阻害要因に対して、どのような打ち手があるかを考えていきます。
例えば、「会員登録を完了する」というユーザーの理想行動があり、そこに対しての阻害要因の仮説として「登録するページが複数に分かれているので、どれくらいの時間がかかるか分からずに面倒になって離脱してしまう」というものがあったとします。ここで考えられる打ち手としては、「会員登録の所要時間は1分程度であることをアプリ内メッセージで訴求する」などが挙げられます。
打ち手の例としては、先に挙げた例のようなプッシュ通知やアプリ内メッセージなどの施策配信、根本的なUI改善などが挙げられます。
注意したいポイントとして、ここで考える打ち手はあくまで仮説に対してのアイデアであり、成果が保証されたものではありません。そのため一つひとつの打ち手に工数を大きくかけるのではなく、スピードを重視して仮説をひとつずつ検証していき、勝ちパターンを見つけていくことをおすすめします。
スピードの観点から一点補足すると、例えばUI改善を行う場合はデザイナーさんなども巻き込んだ大きなプロジェクトになるので、「まずはスピード感をもって検証をするために疑似的にアプリ内メッセージで実施ができないか」といった代案を考えてみてもいいかもしれません。
こうしてユーザーエンゲージメントマップの項目を埋めていくと、完成イメージは以下のようになります。
ユーザーエンゲージメントマップは作ってからが本番
この記事ではユーザーエンゲージメントマップの作り方について解説しました。
ユーザーエンゲージメントマップは作って終わりではなくここからが本番です。次の記事では、ユーザーエンゲージメントマップを用いて実際に阻害要因仮説に対する打ち手の施策を実施していく際に気を付けるポイントや、施策の実施後の振り返り方について解説していきます。
ユーザーエンゲージメントマップの作成は特に初めてだとなかなか骨が折れますが、アプリマーケティングの第一歩としては最適だと思うのでぜひチャレンジしてみてくださいね!