Webサイト・サービスの売り上げやCVR、顧客体験の改善に欠かせないのが、ユーザー一人ひとりに合わせたコミュニケーションです。そこで近年、注目されているのが「Web接客」という手法。
本記事では、Web接客の意味と役割に加え、Web接客ツールの種類や選び方、さらにはWeb接客で成果を出すためのコツについて、事例付きで誰にでもわかりやすく解説しています。ECサイトのCVR改善・売り上げ増大が進まずに悩んでいる人はぜひご覧ください。たった2カ月でCVRが2倍以上になった事例もあります。
Web接客とは?言葉の意味と定義
Web接客とは、Webサイトに訪れたユーザーに対して、実店舗での接客と同様におすすめの商品を紹介したり、ユーザーの疑問にリアルタイムで答えたりする施策です。
具体的には、ポップアップやチャットボットなどのツールを用いて、ユーザーの行動や属性に合わせてパーソナライズされた接客を行うことで、CVRや顧客満足度の向上を図ります。
例えば家電量販店でPCを購入しようとしているケースを想定しましょう。商品を選んでいるときに、「PCをお探しですか?」「どのような用途での使用をご予定ですか?」などと店舗スタッフから声をかけられ、スタッフとの対話の中で最適なモデルを選択できたり、お得な商品を見つけられたりといったシーンを想像するのは難しくないはずです。
もし、自分にピッタリのモデルを紹介され、しかも予想より安く購入できたとしたら、あなたは店舗スタッフのサポートに満足し、気持ちの良いお買い物ができるはず。家電量販店にとっては、これがまさに接客の成功による、顧客体験、売り上げの最大化です。そして、このようなコミュニケーションや体験をWebサイト上でも再現するのがWeb接客なのです。
■実店舗での接客をWebサイト上で再現する
実店舗ではスタッフが顧客の行動を観察して声掛けを実施。顧客のニーズに合わせたサポートで心地良いお買い物体験を実現している。
Web接客の具体的な手法
それでは、Webサイト上でどのようにして実店舗のスタッフが行っているような接客を再現するのでしょうか。具体的な実践例をサンプルとともに紹介しましょう。
Web接客の実践例
- そのタイミング・商品の購入に利用できるクーポンやキャンペーンのお知らせ
- 以前、購入した商品のセールやキャンペーンのお知らせ
- 決裁をせずにカートに残ってしまっている商品のお知らせ(カゴ落ち・カート落ち対策)
- ユーザーの購入履歴に合わせた商品のレコメンド
- 類似する特性を持った他のユーザーがよく閲覧している人気商品のレコメンド
- ユーザーの疑問や質問に即時に回答するチャット
■Web接客の実践例
■Web接客は顧客データの活用がベースになる
Web接客の施策はほとんどの場合、顧客データをベースにして実装します。顧客データにあたるのは、氏名、メールアドレス、性別、年齢のような基礎情報のほか、Webサイトの訪問履歴や閲覧ページの履歴といったオンライン上の行動、さらには購入した商品、購入回数、購入単価などの購買情報です。
これらのデータを分析、組み合わせて、ユーザーのニーズや陥りやすい課題に先回りし、Web上でメッセージを表示するのです。
Web接客を実施するメリット
ここまではWeb接客の言葉の意味と実践例について紹介してきました。続いてはWeb接客がWebサイトの運営にもたらすメリットについて、具体的なKPIと関連させながら解説していきます。
■Web接客がもたらす代表的なメリット
- CVR(コンバージョン率)の改善
- サイト・サービスからの離脱率の低下
- 顧客体験の向上
【メリット1】CVR(コンバージョン率)を改善できる
Web接客を上手に利用することで、ユーザー一人ひとりに最適な商品をレコメンドしたり、悩みを抱えている顧客にメッセージやアドバイスを送ったりすることが可能になります。興味や関心、購入意欲があるにも関わらず、必要な情報を得られなかったり、最後の一歩を踏み出せなかったりするユーザーの手伝いをすることで、CVR(コンバージョン率)を向上することができるのです。
例えば、ECサイトで商品を閲覧しているときに、「他の人はこの商品も閲覧しています」「他の人はこの商品も購入しています」といったメッセージを見たことがあるでしょう。これは、商品の比較をしやすくしたり、便利な商品をおすすめしたりして、ユーザーのお買い物に対する満足度を高め、CVRを向上させるWeb接客施策のひとつです。
【メリット2】離脱率を低下させられる
離脱率を下げて機会損失を減らすこともWeb接客の目的のひとつです。「商品を見てみたけど、自分の目的と合っているのかわからない」「商品に関して聞きたいことがあるけど手間がかかる」など、ユーザーが離脱してしまう理由は様々です。このような問題を解決するためには、ユーザーに悩みが生まれたタイミングですぐに解決するしか方法はありません。
Web接客はこのような場面でも活躍します。ユーザーの疑問を解消するようなコンテンツを案内するメッセージを表示したり、お問い合わせやFAQページへのリンクを表示することが可能になるのです。「安心して利用できるサイト」という認識が生まれ、リピート利用の促進につながる可能性もあります。
【メリット3】顧客のモーメントを捉えて顧客体験を向上させられる
モーメントとは、「生活者の商品やサービスに対する関心が高まる瞬間」のことを指します。購買のデジタル化によってユーザーの選択肢が増えた現代、このモーメントをしっかりと掴むことが重要。顧客の興味や関心が高まっているタイミングで、適切な内容・量・タイミングのアプローチをすることで、顧客体験(CX)を高められるのです。
こうした取り組みを積み重ねることが、ロイヤルカスタマーの育成にもつながります。企業は顧客体験を高めたり、ロイヤルカスタマーを増やしたりしていくことで、安定的に売り上げを拡大できるようになるのです。
Web接客が解決するその他の課題
そのほか、より具体的かつ実利的なWeb接客導入の目的もあります。Web接客によって解決し得る代表的な課題を一覧にまとめました。自社のWebサイトの状況と照らし合わせてみてください。
- アクセスしてほしいコンテンツやページのPV(ページビュー)数が少ない
- 掲載している商品やカテゴリが多岐にわたり、目的のページにたどり着きづらい
- カート落ち、カゴ落ちするユーザーが多い
- 入力フォームの離脱率が高い
- 掲載している商品の理解に時間がかかる、詳しい説明を要する
- 設計やコーディングが複雑でスピーディなPDCAが実現できない
Web接客の成功事例
【洋服の青山オンラインストア】店舗で培ったノウハウをWebサイトに再現
店舗での接客ノウハウが蓄積している企業のWebサイトでは、Web接客が非常に効率的に働きます。ユーザーのインサイトを捉えた効果的な施策立案が可能だからです。
「洋服の青山オンラインストア」では、店舗で培った、きめ細やかなコミュニケーションをどのようにWeb上に再現するかを徹底的に追及。大量の商品の中からお客様の嗜好に合わせた商品を案内できるような実装を施し、CVRの向上を実現しています。
店舗のノウハウを活かした細やかなコミュニケーションを実現
(「洋服の青山オンラインストア」青山商事株式会社様)
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【d fashion®︎】制限のある環境下でも高速PDCAが可能に
複雑な構造、コーディングが行われているWebサイトでは、細かな改善をスピーディに行うのが難しいケースがあります。少しの変更でもエンジニアへの依頼が必要になり、実装まで1カ月以上がかかってしまうようなケースも珍しくありません。
そんなときにもWeb接客は効果を発揮します。「d fashion®︎」を運営するマガシーク株式会社では、カゴ落ち・カート落ち対策をWeb接客ツールで実装し、たった2カ月でCVRを272%改善しました。
カゴ落ち対策を即実装。たった2カ月でCVRが272%改善
(「d fashion®︎」マガシーク株式会社様)
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【エディオンネットショップ】Web接客で「お客様のために」を即実現
CVRの低迷を課題としていた「エディオンネットショップ」では、カゴ落ち・カート落ち対策をはじめとし、ユーザー行動に合わせた商品のレコメンドを徹底的に実施。PDCAの繰り返しによって、CVRが前年比で150%以上改善しています。
カゴ落ち対策を即実装。たった2カ月でCVRが272%改善
(「エディオンネットショップ」/株式会社エディオン様)
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【ブシロード オンラインストア】アップセル・クロスセルが活発になりCVRが大幅向上
類似商品が多かったり、ブランドが多岐にわたるECサイトでは、Web接客の効果が発揮されやすい傾向があります。ユーザーの興味をそそるようなコンテンツや商品を、Web上で紹介しやすいからです。実際に株式会社ブシロードクリエイティブの「ブシロード オンラインストア」では、アップセル・クロスセル施策をWeb接客ツールで実装し、CVRが30%以上向上したケースも。
クロスセル・アップセルのレコメンドでCVR30%改善
(「ブシロード オンラインストア」株式会社ブシロードクリエイティブ様)
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Web接客ツールの種類と選び方
非常にメリットが大きく、オンライン上でのビジネスを行っているならぜひとも実施したいのがWeb接客です。しかし、ひとつハードルが存在します。自社完結でWeb接客のシステムを開発・実装するのが困難なのです。そこで利用したいのが、Web接客専用のツール。一般的にはWeb接客ツールと呼ばれています。Web接客ツールの種類や選び方についても解説しておきましょう。
Web接客ツールは「ポップアップ型」と「チャット型」に大別されるため、この2種類に分けて特徴や向いているサイトについて紹介します。
■Web接客ツールの種類
ポップアップ型のWeb接客ツール
ポップアップ型のWeb接客ツールは、あらかじめWebサイト内に設定を行っておき、ユーザーの行動や属性に応じて、ポップアップや吹き出しなどでメッセージを表示する機能を持ったツールです。ツールによっては、クリエイティブの出し分けやコンテンツ・セクションの追加ができる機能を持ったものもあります。
ポップアップ型Web接客ツールの最大の特長は、ユーザーデータを基にした事前設定によって、ユーザーのニーズや課題に先回りして対応ができること。実際の店舗に置き換えるなら、「スタッフからのお声がけ」をWeb上で再現できるツールと考えるのがいいでしょう。
■ポップアップ型が向いているWebサイト
- 商品数が多く、目的の商品にたどり着くのが難しいECサイト
- キャンペーン告知や割り引きにパーソナライズが必要なWebサイト
- 行動・属性データを基にした商品レコメンドが可能なWebサイト
- ユーザーの行動を阻害する要因に共通したものが多いサイト
- ユーザーの行動を阻害する要因をテキストやコンテンツの追加で解決できるサイト
チャット型のWeb接客ツール
チャット型のWeb接客ツールとは、ユーザーから入力される質問に対して、人間のオペレーターやAI等を活用したロボットが返答を行い、きめ細やかなコミュニケーションを実現するツールです。ユーザーのアクションを待って個別に対応することから、リアルな店舗における「お客様からの質問対応」が実現できるものと考えるのがいいでしょう。
ユーザーが能動的に質問を打ち込んだり選択したりする必要があるものの、顕在化した課題や疑問に対して、ダイレクトに回答ができるので、より満足度の高いコミュニケーションが成立するはずです。
■チャット型が向いているWebサイト
- 抱えがちな課題や疑問がユーザーごとに異なるケースが多く、個別対応が必要な商品・サービスを扱うサイト
- ユーザー自身で価値の判断や商品・サービスの選択がしづらい商品を扱うサイト
- 課題や疑問に対する即時対応が強く求められるサイト
Web接客の効果を最大化する方法・コツ
Web接客ツールを導入し、施策を実装したとしても必ず成果が出るとは限りません。Web接客を成功させるにはいくつか重要なポイントを押さえておく必要があるのです。最後にWeb接客の効果を最大化させるための方法とコツについて紹介します。
データで見るWeb接客ツール導入時の課題
下記の表を見てください。Reproが独自に調査した、マーケティングツール導入時に発生する課題とその発生率を示したものです。特徴的なのは「効果のある施策を立案・実施するノウハウが社内にない(なかった)」がどのツールでも顕在的な課題として認識されていることです。Web接客ツールに置いては、46.3%がこのことを過大視しています。
つまり、Web接客ツールの導入を成功させるためには、明確な目的を持った施策とそれを運用する体制が必要であるということです。この前提を基に以下のコツをチェックしていきましょう。
出典:「デジタルマーケティング実態調査レポート 2024」Repro株式会社
【コツ1】実施の目的と改善指標の明確化しておく
目的を明確にせず、「なんとなく業務効率が上がりそうだったから」「売り上げが上がりそうだったから」という理由でWeb接客を実施するのはおすすめできません。まずはWebサイトの課題を洗い出すところからスタートしましょう。
例えば、多くのECサイトの最終目標は売り上げの最大化です。しかし、売り上げを最大化するためにクリアすべき課題は個々のサイトによって異なります。「CVRの改善」かもしれませんし、「客単価の増大」や「購入頻度の増大」かもしれません。
仮にCVRを改善指標とするなら、クーポンのポップアップやカゴ落ち・カート落ち対策が有効に働くでしょう。客単価を増大させたいなら、セット商品の同時購入を促すメッセージが良いかもしれません。改善指標に合わせてピンポイントで施策を実施することが重要なのです。
なお、改善指標の洗い出しには、KGIとKPIの関連性を明確にした、KPIツリーの作成がおすすめです。
【コツ2】運用体制を整える
Web接客は一度、実施したら永久に効果が持続するという性質のものではありません。どのユーザーに対し、どんなメッセージを配信するのかをPDCAサイクルの中でテストし続け、最適解を探し求めるものです。
Web接客の効果を最大限に発揮させるには、ユーザーデータの分析やA/Bテスト、効果検証といったWeb運用施策が欠かせないことを覚えておきましょう。運用体制を整えず、「ツールさえ導入すればOK」と安易に考えた結果、施策が思うように実装できず、成果も生み出せないという例が少なくありません。
特にチャット型のWeb接客ツールで有人オペレーションを行う場合は、専任の担当者が必要になるのが通常です。人件費や教育コストなども考慮したうえで、継続的に運用できるかを事前に検討する必要があるでしょう。
【コツ3】結果分析・施策実施のPDCAを繰り返す
前述したように、Web接客ツールは導入後の運用・改善業務が肝心です。チャットやポップアップで表示されているテキストの効果はしっかりと出ているか、クーポンの利用率は向上しているかなど、細かい部分まで確認するようにしましょう。
改善のプロセスでは、当初設定していた目標や改善指標と照らし合わせて費用対効果を明確にすることも大切です。導入コスト以上の効果が見込めないと、ツールが無意味なものになってしまいます。Web接客の効果を最大化するためには、どのようなターゲットに何を配信して、どれくらいの購入率が予想できるかシミュレーションをしたうえで実践、そして再度分析していくことが重要です。