ARPUは、以前は携帯電話キャリアの収益の比較によく用いられていましたが、近年ではSaaSビジネスやネットサービスにも用いられるようになりました。特に、新しいビジネスモデルは従来の指標では施策の状態を測れないケースがあるためARPUが重要視されています。この記事では、ARPUの定義と計算方法に加え、ARPUと似た指標であるARPPU、ARPAについても解説します。
ARPUとは?言葉の意味と定義
ARPUとは、ひとりあたりの平均売上金額を表す指標。英語の「Average Revenue Per User」の頭文字を取った略語です。基本的には合計売上金額をユーザー数で割ることで算出できます。
かつては、通信事業の月額課金モデルのビジネスで主に使われていましたが、現在ではスマホゲームや動画配信サービスなど、月額課金サービスを提供するビジネスの状態を適切に評価するものとして広く使用されるようになりました。
業態によってはその中で項目が細分化されるケースもあり、例えば通信事業者であれば「音声ARPU」「データARPU」など、通話料とデータ通信料を区別して算出されています。
ARPUは収益化や購入額の増減を測定する際にも活用できる指標で、ARPUの累積値を指標とするケースもあります。例えば、ゲームをプレイ開始してから1週間単位、1カ月単位と特定期間内の累積額を調査することで、継続率と売上の相関性を分析することができます。
基本的にアプリケーションビジネスやSaaSビジネスで売り上げを拡大していくためには、新規登録者を増やすか、ARPUを向上させる施策を打ち出すしかありません。こうしたビジネスモデルでは、普及率が一定水準を超えると加入者が伸び悩む側面もあるため、いかにARPUを伸長させるかが売上向上のカギを握っているのです。
ARPU活用の背景
ARPUは、以前は通信キャリアの分野で活用されていたものの、近年はSaaSサービスやスマホゲームにも活用が広がり、一般的に認知されるようになったことは前述した通りです。
当初、通信キャリアがARPUを使い始めた理由として、日本の通信市場がNTTドコモ、au、ソフトバンクの3社による寡占状態であったことが挙げられます。これらの企業の競合によって市場は飽和状態となり、それ以上顧客を増やすことが難しくなりました。こうした背景から各通信キャリアは、顧客ひとりあたりの売上金額を増やす方針に転換します。それに伴い通信キャリアの業績評価の指標が、「顧客数」から「ARPU」へと変化したのです。
このように、事業が走り始めたフェーズでは顧客数が重要視されるケースが一般的ですが、ある程度事業が成熟して認知度が高まると、顧客の単価や質が重視されるようになります。事業の認知度が拡大した段階では求められるケースも多いため、ARPUの仕組みや考え方を理解しておくことは重要です。
ARPUはARPPUやARPAとどう違うのか
ARPUの他にも似たような言葉に「ARPPU」や「ARPA」などがあります。これらは、ARPUとどのような違いがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
ARPPUとは
ARPPUとは、課金しているユーザーのひとりあたりの平均売上金額を意味します。「Average Revenue Per “Paid” User」の略です。
スマートフォンゲームアプリの急速な広がりにより、非課金ユーザーと課金ユーザーを分けて考える必要性が生じたため、ARPPUが使用されるようになりました。そのため、無料のプランを提供しているサービスにおいて、課金ユーザーのみの平均売上金額を指標とする際に用いられます。また、一部SaaSビジネスでも用いられています。
⇒ ARPPUの意味や計算方法について詳しく見る
ARPAとは
ARPAとは、1アカウントあたりの平均売上金額を示す指標。「Average Revenue Per “Account”」の略です。ARPUとの違いは、ユーザー単位ではなく複数のユーザーが登録されたアカウント単位で平均売上金額を算出する点です。
例えばSaaSサービスでは、1アカウントの契約で複数人、複数端末での利用ができるプランを提供しているのが通常です。このような場合、ユーザー単位での平均売上金額(ARPU)で業績を判断するのは不正確。そこで活用され始めたのがARPAです。
【ビジネスモデル別】ARPUの計算方法
ARPUは1ユーザーあたりの平均売上金額なので、合計売上高とユーザー数がわかっていれば売上高をユーザー数で割ることで算出できます。 よって、計算式は次のようになります。
ARPUの計算例
ユーザーが100人で売上金額が10,000円の場合は以下のように算出できます。
ARPU = 10,000 ÷ 100 =100円
■ARPUの計算図
しかし、この計算式では、過去の売上高に対するARPUしか計算できません。そこで、将来的なARPUを予測できるビジネスモデルごとのARPUの計算方法をご紹介しましょう。
課金モデルのケース
まずは課金モデルの場合を例にご紹介します。課金モデルの場合、課金している1ユーザーあたりの平均売上金額(ARPPU)に課金ユーザー率(PUR・Paid User Rate)をかけたものがARPUになります。
課金モデルのARPUの計算例
例えば、あるアプリにおいて、1カ月ごとに商品を購入するユーザーの割合(PUR)が30%、購入をするユーザーの1カ月あたりの平均購入金額が2,000円、平均購入数が3点、購入頻度が1カ月に5回だとしましょう。ARPPUはユーザーの平均商品単価、1回あたりの平均購入数、平均購入頻度から構成されるので、月別のARPUは次のように計算できます。
ARPPU = 2,000 × 3 × 5 = 30,000円
ARPU = 30,000 × 30% = 9,000円
■課金モデルのARPUの計算図
広告表示モデルのケース
広告表示モデルを導入している無料アプリの場合、ARPUはユーザーひとりあたりのアプリ使用時に表示される広告の数に、広告単価(CPM)をかけたものとなります。なお、広告表示回数はPVやアプリの滞在時間に加え、利用頻度などによって変動します。
■広告表示モデルのARPUの計算式
ARPU =ひとりあたり広告表示回数 ×(CPM ÷ 1,000)
広告表示モデルのARPUの計算例
例えば、あるアプリにおけるCPMが600円(1インプレッションごとの単価は0.6円)の場合、このアプリにおける1日の1ユーザーあたりの広告表示回数が平均で30回だとすると、日別のARPUは以下のように求められます。
■広告表示モデルのARPUの計算図
クリック型・成果型広告モデルのケース
最後に、クリック型・成果型広告モデルの場合について解説します。クリック型の広告を導入している無料アプリの場合、ARPUは1クリックあたりに発生する売上高(CPC)にクリック率(CTR)をかけたものになります。
また、アプリインストール型広告(CPI広告)の場合も、ARPUの計算方法は同じです。クリック率(CTR)は広告がクリックされた回数を表示された回数で割ったものなので、1ユーザーあたりのARPUは次のように求められます。
クリック型・成果型広告モデルのARPUの計算例
例えば、あるアプリにおけるCPCが20円だとして、1日に5万人のユーザーがアプリを使用した場合の広告表示回数が500万回、クリックされた数が50,000回だとすると、CTRは1%となります。そのため、ARPUは以下ように算出されます。
このように、ARPUの算出方法はビジネスモデルによって異なるため、活用する際には注意が必要です。
ARPUの最大化に向けて
ARPUの最大化を実現するための方策にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的にご紹介します。
前述のようにAPRUはビジネスモデルごとに計算式が変わるため、ARPUを最大化させる方法もビジネスモデルによって異なります。しかし、いずれのビジネスモデルであってもARPUを最大化するための共通した施策として、顧客の購入頻度を向上させたり、アップセル・クロスセルを実現させたりすることが重要です。これらを達成するには「顧客ロイヤリティの向上」「無料ユーザーとの差別化」を図ることが不可欠です。
顧客ロイヤリティの向上
ARPUの向上に向けて顧客ロイヤリティを上昇させるには、はじめに顧客ロイヤリティを数値化したうえで、その数値を継続して測ります。さらに、顧客の再購入やアップセル・クロスセルを提案するタイミングを数値に直して分析し、判定することが求められます。
この顧客ロイヤリティを数値化するために役立つ指標として、「NPS(Net Promoter Score)」というものがあります。NPSとは顧客ロイヤリティを測るために、企業やブランドに対する信頼度や愛着度を数値化する指標です。顧客推奨度とも呼ばれ、企業の業績にも直結します。
NPSは感覚的な要素を測れる指標として多くの分野で採用されていて、欧米の売上上位企業の3割以上がNPSを採用しているといわれています。また、ある統計調査によると、2018年度の国内NPS導入率は10.1%であり、一方で顧客満足度調査は5割以上の企業に導入されているというデータがあります。NPSはまだまだ一般的には普及していないものの、徐々に日本においても浸透し始めていることから、NPSの重要度は今後ますます高まるでしょう。
一般的に、NPSは下記のような手順で計測されます。
- 顧客に対し「このサービスを周囲の人にすすめる可能性はどのくらいあるか」というアンケートを実施
- おすすめる可能性を0から10までの11段階で評価してもらう
- 11段階のうち0から6とした顧客を「批判者」、7から8とした顧客を「中立者」、9から10とした顧客を「推奨者」とする
- すべての回答者のうち「推奨者」の割合から、「批判者」の割合を差し引いた数値がNPSとなる
このように、NPSの計測は、調査項目がそれほど複雑ではありません。そのため、NPSが使われる理由にもなっています。
ちなみに、この計測方法は批判者とされる範囲が0〜6と広いことから、マイナス値になるケースがほとんどです。NTTコムオンラインが実施した調査データによると、ほとんどの部門において業界平均値、第1位の企業ともにNPSはマイナス値となっています。
実際にNPSを計測する際には、誤差を小さくできるように一定以上のサンプル数を集めることが理想的です。一方で、サンプル数を増やすほど調査にかかるコストがかさむので、予算と重要度を加味して調整しましょう。
まずはこのNPSを利用して顧客ロイヤリティを数値化したうえで、現状の満足度を確認することからはじめましょう。その後、数値を高める改善施策を行い、徐々にアップセル・クロスセルを行ってARPUを最大化させることで効率的に売上アップを目指すことができるはずです。
⇒ NPSの意味や計算方法について詳しく見る
無料ユーザーとの差別化
施策を実施する際は、無料ユーザーとの差別化も重要なポイントです。
例えば、スマホゲームアプリで経験値を稼ぐのに苦戦していたり、参戦できるイベントが少なかったりするなど、ある程度の制限を受けている無料ユーザーがいたとします。彼らが、「簡単にレベルを上げたい」「もっと多くのイベントに参加したい」と思ったときに、敵を簡単に倒せる攻撃力の高い武器や、新しいイベントに参加するためのアイテムといった、課金アイテムがあれば、購入する意欲を後押しすることができるはずです。
まずはユーザーへの負荷が少ないメリットを与えてエンゲージメントを拡大しつつ、興味関心の度合いが高まった段階で購買に結びつけるという仕組み作りも重要です。
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