連続インタビュー「Marketers' Café:成功へのステップと発見」。Webサイトやアプリを活用してビジネスをグロースさせるため、日々、マーケティング活動に奮闘する現場のマーケターの生の声をお届けします。今回は、日本最大の美容プラットフォーム「@cosme(アットコスメ)」を運営する株式会社アイスタイル マーケティングディレクターの渡辺智さんにお話をうかがいました。
Service-
日本最大級の美容プラットフォーム「@cosme」
日本最大級の美容プラットフォーム「@cosme」
iOS/Android/Web
――「@cosme」について簡単にご説明いただけますでしょうか。
@cosmeは、日本最大級の美容やコスメのプラットフォームです。スキンケア、メイク、ヘアケアなど様々な製品を掲載しており、ユーザーはクチコミを投稿したり、美容スペシャリストによる専門ブログを閲覧したりすることができます。また、人気商品のランキングや新製品の情報も充実しています。ECである「@comse SHOPPING」もあわせて運営しており、ユーザーはクチコミやLike、Haveといったフラグを参考にしながら買い物することができます。
1999年にサービスを開始して以来、「生活者とコスメの出会いを生み出すメディア」として成長し続け、現在の登録商品数は40万件、累計クチコミ数は2,000万件、月間利用者数は1,760万人に上ります。
Mission-
マーケティングを通して、@cosmeの利益を最大化する
――渡辺さんの現在のミッション・役割について教えてください。
2024年6月末までグロース推進部というアクイジションからリテンションまでのすべてを手掛ける部門の管掌をしていました。7月からは役割が変わり、マーケティングディレクターとして会社全体のマーケティング戦略を立案し、実行に向けたタスクに落とし込んだり、各タスクフォース、プロジェクトを横串で連携させていったりと、マーケティング・グロース観点で@cosmeアセットの最大化を図っていくロールとなりました。今日お話しするのは入社からグロース推進部までの話がメインになります。
アイスタイルには美容やコスメのクチコミサービスである@cosme、ECサービスの@cosme SHOPPING、リアル店舗である@cosme STOREという3つのアセットがあり、@cosmeアプリはそれら3つを繋げるハブとして位置づけられています。部門はWebからの流入を強化しながらアプリユーザーを増やし、Web・アプリ問わずユーザーにアクティブに活動してもらうことをミッションとしています。
Motto-
自分たちの事情よりも、ユーザーの事情を優先すること
――@cosmeの運営やユーザーとのコミュニケーションにおいて重視していることはありますか?
会社の方針によってユーザーに負担がかかる状況を作らないことですね。ユーザーが抱えている課題に対する問い、解決に向けた示唆など、ユーザーが欲するタイミングで、最適化された体験を提供することを志して日々業務に勤しんでいます。
――具体的にいうと、そのポリシーはどのようにサービスに落とし込まれていますか?
私が入社する前からアプリの開発は進んでいて、会社として将来的にはアプリに体験をシフトしていきたいという想いがありました。WebサイトではSEO要件やリソースの観点から制限がかかってしまい、アイスタイルが描く世界を実現するには障壁が多かったからというのが理由です。
その想いを実現したいと経営の意思決定がなされた当時、App Storeでのアプリの評価は星2.3という状態でした。そんな状態でアプリに人を誘導したとしても、ユーザーはシンプルにアプリの体験を良しとしてくれるでしょうか。私は、たとえユーザーに良い体験を提供できていたとしても、ストアの評価が低いままではユーザーがその点数に囚われ、アプリに満足したと言い切るには難しい状態になるだろうと仮説立てていました。そのため、ASO観点でもマーケティング観点でも、課題を解消したうえでWeb to Appに取り組みたいと上申し、実直にアプリのプロダクト以外のすべての改善を行ってきました(ASOに取り組んで行った結果、iOSで星4.5以上の数値になり、現在は星4.6という数字をキープできています。※2024/10/24時点)。
また、他社事例から強制的にアプリを起動するという施策を検討せよという議題も挙がりましたが、Webで@cosmeに訪れているユーザーの体験を考慮し、あえて「強引にアプリに移行させることはしない」という方針を打ち立てました。
具体的な話をすると、アプリを持っていながらWebサイトに訪問したユーザーを、ディープリンクで無理にアプリに遷移させるといったことはしないようにしています。なぜなら、そのユーザーはアプリにはない情報、もしくは探しきれなかった情報をWebサイトで検索したかったのかもしれないからです。どんなにアプリに移行してもらいたいとしても、ユーザー行動から紐解く心理やUXからそれはしないほうがいいですよね。「ユーザーを無理にアプリへと移行させることはしない」という方針を打ち出してから、Webでのユーザーコミュニケーション施策をより活発に行うようになり、全社的にもWebとアプリ、どちらも顧客体験を損ねることがないように取り組もうとする意識が芽生えました。
Marketing-
当たり前のことに粛々と取り組む姿勢、それこそが成果に繋がる
――マーケティング施策やユーザーとのコミュニケーションで、「これは成功だったな」といえる取り組みがあれば教えてください。
事業インパクトが大きいものでいうと、まずはオーガニック流入が激減していた状態からV時回復させて、過去最高のMAUを達成したことです。いわゆるSEOの領域になるのですが、入社時から当社のWebサイトにはSEO観点のリスクが非常に多くある(具体的なダウン数値とともに)と経営層に伝えていたので、リスクが顕在化してからの改善に向けた取り組みは社内でも類を見ないほどの速度で進んでいきました。最悪の数値をバッチリ当てたのは嬉しいことやら悲しいことやらと…苦笑
アイスタイルのどのプロジェクトよりもスピード感があったと言い切れます。体制構築から施策の実行まで、当時社長(現会長)の吉松やメンバーと協力し、半年で元に戻しました。ただ、これほどの数字影響が本当に出るとは経営層も予想していなかったのでかなり混乱していました。全責任を背負うロールとしてフラットな精神で取り組めたことは過去経験(DB系サービスでのSEO責任者)の原理原則に基づいた施策方針の組み方があったからこそです。
他にも、Webからアプリへ送客する施策において、我々に管掌が移ってからWebでの取り組みを強化してすぐにユーザー数を10倍ほどにまで伸ばせたことも、Web to Appの観点では大きな成果だと考えています。
過去には@cosme STOREでのアプリインストール強化施策を手掛けたのですが、Webからの取り組みは未着手部分が多かった。そのため、@cosmeのWebサイトのトップページでアプリを大きく訴求したり、各ページにアプリ訴求のポップアップを表示することをベースとし、画像や文言、セグメントを常に調整してPDCAを回し続けた結果、ユーザー数を伸ばすことに成功しました。これにより店舗、Webとアイスタイルが保有するアセットすべてで最適化されたインストール環境が完成したのです。
その他、Web・アプリにおけるログインや、ユーザーのリテンション、また、口コミ投稿・Like、EC・店舗購買などの社内指標でも軒並みギネスを達成、毎年更新し続けています。もちろん、全社で取り組んでいることではありますが、これらの施策は主力として旗を持って動き続ける同じ視座をもったメンバーの力も大きく寄与しているのではないかなと考えています。
やっていることは、奇をてらったことは特にしていなくて、ユーザーに対し、きちんとアプリの存在を伝えていく、当たり前のことに粛々と取り組んできただけです。ただ、当たり前を当たり前に取り組むことが難しいのですよね。
――逆に苦戦した取り組みや抱えている課題についても教えてください。
成功したプロジェクトは、最初は全部苦戦しています(笑)。自分の見込みではすべてのプロジェクトがもっと早く目標地点までたどり着いていたはずですが、様々な事由から時間がかかりました。グロースするまでに自分の見立てと1~3年ほどズレが生じています。
何でもそうですが、「これをやるべき」や「なぜ取り組むべきなのか」を周囲に理解してもらうことは、プロジェクトを推進するうえでかなり大切だと感じています。啓蒙活動を毎回丁寧に行い、自分自身の実績を積み上げていくことで、その後のプロジェクトのスピード感も早められるのだと学びました。それを支えたのは熱意・覚悟・決意であり、そこがなければ何も成し遂げられないなと、過去経験からも言い切れると考えています。
Input-
得た情報を自分自身のフィルターを通して理解する
――マーケターとして成長するために、サービスをグロースさせるためにどのようなインプットをされていますか。
日常で触れる様々なコト・モノで情報収集しています。「YouTube」のコンテンツやWeb媒体、「X」や書籍、イベント参加や飲み会など様々なところから情報を得ています。ただし、すべて鵜呑みにはせずに疑問を持ちながら情報に触れることを意識しています。そして、自分というフィルターを通して「メタ化」していくことを心掛けています。そうすることで、自分なりの「原理原則」が作られ、引き出しを増やすことに繋がっているんだなと考えてます。
――渡辺さんが考える、マーケターに必要な素養はなんだと思いますか?
それを話すには良いエピソードがありまして……幼稚園児の頃相撲大会があって、初戦敗退したのですが、敗者復活戦から優勝したんですよ。初戦敗退するぐらい弱かった私がなぜ優勝できたかというと……省略(リアルでお会いした際に聞いてください :D)
話を戻すと、俯瞰して見るクセは必要かもしれません。あとは考え続ける、問い続けるというスタンスはマストだと考えています。
例えば、店舗経由で獲得したアプリユーザーの継続率に課題があったとします。データだけ見るとしましょう。店舗でアプリをインストールし、かつ商品詳細を閲覧しているユーザーは継続率が高いということがわかりました。この様な場合、よく陥りがちなのが、ユーザーに商品詳細を見せて継続率を上げれば良いという考えです。
数字だけを見るとそうかもしれませんが、二歩三歩引いて構造を把握しようとすることで、店舗でのアプリの紹介の仕方やコミュニケーションはどうかという考えにたどり着きます。そこで行われているアクションを踏まえて数値を見ると、別の答えに行き着くはずです。
今見えている数字に囚われ短絡的に答えを出すのではなく、立ち止まって「なぜそうなったのか?」という問いを重ねていかなければ、本当の課題は見えてきません。汗をかいて考えることは面倒くさいことですが、そこから目を背けずに、真正面からぶつかることがマーケターにとって重要なスキルだと考えています。いや、マーケターのみならず、仕事をしていくうえで重要なことです。
このことは一緒に働く部門メンバーにも伝えています。私の考えや思いに賛同してくれたメンバーが多くいて、同じ方向を向いて走ってこれたからこそ成果に繋がっているのだと声を大にして言い切れます。
マーケターは会社の真ん中で、様々な仕事のハブとして機能しなければならない職業だなということをこの取材を通じて再確認できました。改めて身が引き締まる思いです。
最後に私事で恐縮ですが、私を信じてWeb、アプリでともに汗を流してくれた部門メンバーの皆さん、そして協力してくれた他部署の企画担当の皆さん、施策を形にしてくれたテックやデザイナーの皆さんへこの場を借りて感謝の言葉を伝えさせてください。
ありがとうございました (`_´)ゞ
コアメンバーとして活躍する(旧)@cosmeサービス本部グロース推進部の一部メンバー。左上から、 千住 崇さん、渡辺 智さん、寺崎 友哉さん、新井 一哉さん、大石 歩さん。左下から、 小川 友恵さん、飯泉 朝実さん、長井 杏奈さん
※本記事は2024年7月16日時点の情報です。掲載企業の都合により、紹介されている機能やサービスの提供が終了している場合があります。あらかじめご了承ください。