LTVを最大化するための「顧客体験サイクル」という視点とその改善方法

Repro Journal編集部
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2020.06.24
LTVを最大化するための「顧客体験サイクル」という視点とその改善方法

目次

オフィスワークからリモートワークへ。レストランからフードデリバリーへ。これからの時代では、ユーザー視点にゼロから立ち、顧客体験を定義し直す必要があります。不安が支配する今こそ、ユーザーと強固な関係性を結びLTV(顧客生涯価値)を重視していくべきではないでしょうか。

そのためには、良質な顧客体験の提供を通じてエンゲージメントを高めることがカギになります。今回ご紹介するのは、一連の顧客体験全体を俯瞰して改善するためのフレームワーク「顧客体験サイクル」です。

サービスに関連する顧客体験を俯瞰し、一連のサイクルを磨き込む

ビットオート社は、中国版テスラと呼ばれる「NIO(蔚来汽車)」を創業したWilliam Liが指揮を取る、自動車情報サービスの大手企業です。彼らはWebや実店舗を通じて、中古車やメンテナンス品の販売、toC向けコンサルティングを提供しています。

そんな彼らは、「顧客のカーライフサイクルにフォーカスすること」こそが戦略だと主張します。

免許を取る・車を買う・車に乗る・車を売る・そしてまた車を買うというプロセス。この一連の体験を磨きこみ、最高のカーライフを顧客に届けることが彼らの目指す姿だというのです。

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そう。彼らは単一な顧客体験だけを磨いている訳ではないのです。

車にまつわる顧客体験全体を循環するサイクルに見立て、その回転を進めるという改善を行っているのです。このサイクルの回転を通じて、顧客と強固な長期的な関係を構築し、戦略的にLTVを最大化するという取り組みです。

重要なのは、一直線で描かれるカスタマージャーニーマップなどと違い、ユーザーが興味を持ち、検討し、購入し、利用し、そしてまた興味を持つ、という一連の体験が、ぐるぐると回るサイクルの構造をしているということです。

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この顧客体験サイクルは、「回転する力」が働くことで、次に説明するようなメリットを考慮に入れることができるようになります。

良質な顧客体験サイクルは、他の誰かのサイクルをも回す「歯車効果」を生む

いちユーザーの顧客体験サイクルの回転は、他のユーザーに大きな影響を与えます。

マッキンゼーが発表したレポートによると、ブランド購入の検討判断に影響を与えるタッチポイントのうち、およそ3分の2は既存顧客の声と過去のサービス利用体験が占めているといいます。企業主導のマーケティングが影響を与える割合はたったの3分の1しかありません。

cx-cycle_ 3出典:McKinsey & Company

あるユーザーの利用体験が素晴らしいものであれば、その口コミが誰かの興味を促し、検討を後押しし、利用を活性化させます。ひとりのサイクルの回転が、他のユーザーのサイクルにかみ合い、まるで歯車のように波及していくのです。

良質な口コミを生み、歯車効果を高めるために最も有効な施策とは何でしょうか?それは、一連のサービス体験を最高のものにすることに他なりません。つまり、「顧客体験サイクルの磨き込み」です。

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良い顧客体験サイクルはエンゲージメントを「加速度的に」高める

顧客体験サイクルの改善に取り組むことは対競合の観点からも重要です。良質な顧客体験サイクルが実現できているサービスとそうでないサービスでは大きな差が開き、追随できないレベルになってしまうからです。

米国のドラッグストア「ウォルグリーン(Walgreen)」の事例が象徴的です。

元々ウォルグリーンには、その他のドラッグストアと同じように、店舗くらいしか接触チャネルがありませんでした。そのため彼らの売り上げは、生活動線のなかでたまたま店舗を思い出し、足を運んでもらえるかどうかに依存していました。

そこでウォルグリーンは、ウェアラブルデバイスに連動したポイントシステムを開発し、アプリとして提供したのです。ユーザーは、運動したり、血圧や血糖値を自宅で測定したり、体重を記録する度にウォルグリーンのポイントを溜められるようになりました。

ドラッグストアへ毎日行く人はいませんが、散歩や体重測定を毎日続ける人は少なくありません。そしてウォルグリーンはアプリを通じて得られた健康データを活用し、購買を促すパーソナライズされた働きかけを行っています。

パーソナライズされたサービスの提供により利用率が高まり、ますます多くのユーザー利用データが蓄積されるようになりました。これにより施策の精度はさらに上がり、また利用率が上がる……というサイクルが生まれるようになったのです。

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このように、顧客体験サイクルの磨き込みにより加速度的にカスタマーエンゲージメントが高まるため、先行者利益が効きやすい構造になっているのです。

顧客体験サイクルの回転にフォーカスする企業と、そうでない企業の間には、追随できないレベルの差が生まれてしまいます。顧客体験サイクルの改善速度そのものが競争優位性に変わるのです。

顧客体験サイクル改善への取り組み方

では顧客体験サイクルを活用し、自社の事業改善につなげるにはどうすれば良いでしょうか? 実際にすぐれた顧客体験サイクルを実現しているユニクロを例に挙げて、活用ステップを説明していきます。

STEP1:顧客体験のサイクルを描く

まずはじめに取り組むことは、自社における顧客体験サイクルを洗い出し定義することです。どのような顧客体験のステップがあるのか、その体験のうちサービス提供している領域はどの部分なのか整理します。

例えばユニクロでは、「興味>検討>購入>着る>興味>……」と顧客体験サイクルを定義することができます。ユニクロはこの体験プロセスのうち「興味・検討・購入」の部分にサービス提供しています。

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STEP2:体験プロセスの阻害要因を発見し、回転摩擦を減らす

つぎに考えるのは、体験プロセスが途中で止まらないよう「回転摩擦を下げる」ことです。

高いエンゲージメントを誇るサービスは、多くの場合ユーザーの生活習慣の中に組み込まれています。体験を阻害する摩擦要因が少なければ、くるくると回り続ける風車のように顧客体験サイクルが回転し続けるのです。

ユーザーの利用シーンや文脈に応じて体験プロセスをブレイクダウンし、体験の阻害要因を見つけましょう。
例えば、ふらっと立ち寄ったユニクロ店舗内で購買するケースを考えてみます。

体験プロセスは次のようにブレイクダウンできます。
1.商品を眺める
2.気になる商品を見つける
3.似合うか確認する(試着する)
4.レジに並ぶ
5.購入する

このフローで摩擦になっているポイントを分析し、課題を発見しましょう。

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もしかすると「気に入った服を見つけたものの、自分に合ったサイズがなく購買をあきらめてしまう」という課題が発見されるかもしれません。

それには、「サイズ切れはアプリで注文しよう!」というポップを店内に掲示することで課題が解消され、ネットで注文してくれるかもしれません。

また別のステップでは「レジで行列が密集しており、ソーシャルディスタンスが保たれず並びたくない」「レジで店員さんに手渡し対応されることに懸念を感じる」などの課題から購入をあきらめてしまう人が多いかもしれません。

例えばスマホアプリでバーコードスキャンを行い、店内で手軽にネット注文できるように改善してはどうでしょう。

実は、ユニクロはすでにこの課題を解決しています。バーコードスキャン機能をアプリに搭載し、店舗でスキャンした商品をネットで注文できるようにし、またRFIDタグを利用したセルフレジを導入することで、店員の接客を介さず商品購入ができるようにしています。

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ここで注意すべきなのは、人によって体験プロセスが異なるという点です。「Instagramでインフルエンサーの投稿を見て特定の服が欲しくなった」というストーリーでは、また異なる流れが発生すると思われます。

ある人はWeb上で体験プロセスが完結しますし、ある人は店舗のみで完結します。両方のチャネルを横断する人も当然いるでしょう。ユーザーの置かれた状況ごとに体験プロセスを洗い出し課題発見していくことが効果的です。

状況別に課題を発見するためには、実際のユーザーにインタビューを行い、体験の軌跡をヒアリングしたり、ペインが想定される箇所でアンケート調査を行うことが効果的です。

特にこのニューノーマルの時代、ユーザーの価値観は急速に移り変わります。ユーザーのペインを素早く発見する取り組みが必要です。

STEP3:回転力を加える

顧客体験サイクルの回転を促すためには、摩擦を減らすだけでなく回転力を加えるアプローチも効果的です。ここでは体験価値を高めるアプローチとコミュニケーションによるアプローチ、大きく2つのアプローチが存在します。

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STEP3-1:体験価値を高める

まず体験価値を高めるアプローチについてです。

顧客体験サイクルの中で、サービスの磨きこみが足りない体験や、まだサービス提供していない「空白の体験」はないでしょうか?

ユニクロのケースで考えてみましょう。
「着る」という体験が空白になっていますね。

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ここは多くの人が課題を感じているポイントではないでしょうか。「毎日コーディネートを考えることがストレスだ」とか「コーディネートを考える時間が取られてしまう」といった悩みを持つ人は多いはずです。

この空白の体験に投資し、ユーザーにコーディネートを提案するサービスを提供してみてはどうでしょうか?

コーディネートを考える時間は、同時に商品の宣伝チャンスになります。提案されたコーディネートを見て新たなアイテムが欲しくなってしまうかもしれません。「着る」という体験に投資することで、広告予算を投下しなくてもユーザーに新商品を購入してもらえる機会が増えそうです。

まさにウォルグリーンがヘルスチェックするたびにポイント獲得できる仕組みを作り、ユーザーの日常体験に投資した取り組みと同様です。

店舗来店ニーズが低下するニューノーマルの時代では、ますます「着る」体験に接点を持つことが重要ではないでしょうか。

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やはりユニクロは既にこの取り組みを進めており、2019年の秋に「着こなし発見アプリ Style Hint」をリリースし、「着る」という体験への投資を進めています。

また商品の販促目的のためだけに行っているわけではありません。彼らは服の着用データを把握し、ユーザーのニーズに沿った商品開発に活かすことを目指しています。

売って終わりにせず「着る」体験にまで価値を届け、そのデータを商品開発に活かし、自社の売上最大化につなげようとしているのです。

STEP3-2:コミュニケーションで回転力を加える

回転力を加えるもうひとつのアプローチはコミュニケーションの活用です。ユーザーが次の体験に進むようにユーザーの状況に合わせてコミュニケーションを取りましょう。

ここでもユニクロは様々なコミュニケーション施策に取り組んでいます。

例えばユニクロの店舗で購入すると、数日後に「〇〇様、ご来店ありがとうございました。購入した商品はいかがでしたでしょうか?」「〇〇様のお買い上げ商品XXを使ったコーディネートを提案します」といったプッシュ通知が届きます。これによりユーザーはより満足した「着る」という体験に進むことができます。

またネットで注文すると、ユニクロのコンセプトを提案する雑誌「LifeWear Magazine」が送付され手元に届きます。ユーザーはその雑誌を読み、良い着こなし体験を得られると同時に、ユニクロのファンになります。

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また、商品発売時のコミュニケーション方法にも工夫が見られます。
ユニクロでは毎週月曜日に新作アイテムがリリースされるのです。

毎週訪れるたびに新しいアイテムに出会える楽しみがあります。毎週月曜日という一定のフリークエンシーで新商品を投下し、訪問する目的を作り出すことで、ユーザー行動は習慣化されます。

このような商品発売時のコミュニケーションを工夫することで、ユーザー行動が習慣化し、顧客体験サイクルに回転力が加わり、ユーザーのエンゲージメントが向上します。

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以上の取り組みのように、回転力を加えるために、体験価値に投資したり、コミュニケーションを工夫することを考えていきましょう。

まとめ:純粋なユーザーファーストこそLTV向上への近道

ここまで

  • 単一の点を磨くのではなく、顧客体験サイクルの回転を考えること
  • サービス改善のためにはまず顧客体験サイクルを定義すること
  • サイクルの回転を促すために、摩擦を低減したり、加速を促すこと

を述べてきました。

顧客体験サイクルにフォーカスすることで、単一の体験だけでなく一連の体験全体を改善することができ、さらに他の人々への波及効果も合わせて考えることができるようになります。

顧客体験サイクルは、純粋にユーザー視点に立ち、ユーザーに向き合うためのフレームワークです。

そう。発想はとてもシンプルなのです。

新型コロナウイルス流行後の今は、時代の転換点です。だからこそ、改めて基本に立ち返ってユーザー視点に立ち、サービスの本質的な価値を磨き上げる良いチャンスではないでしょうか。

変化の時代、正解は誰にも分かりません。

しかし私は、ユーザーファーストに考え、ユーザーに価値を届ける努力だけは正しい道だと確信しています。「顧客体験サイクル」は、その改善を行うための大きなヒントになるのではないでしょうか。

共にユーザーに価値を届けていきましょう。

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