「変わりゆく世界の中で、マーケ界のリーダーたちとこれからのオウンド戦略を考える」をテーマに開催されたウェビナー、『オウンドみんなでがんばるんジャー!』シリーズ。2020年7月8日に開催された最終回第一部のテーマは、「変わりゆく世界に向けて、マーケターが次に取り組むべき一番重要な一手とは」。さっそく、当時の様子をレポートします。
<登壇者>
株式会社顧客時間 共同CEO 奥谷孝司
三井住友カード株式会社 執行役員 佐々木 丈也
株式会社フェリシモ 物流EC支援事業部長 市橋 邦弘
ECエバンジェリスト / 株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 川添 隆
※市橋氏・川添氏はZoom上からのディスカッション参加となりました。
<モデレーター>
株式会社UNCOVER TRUTH COO 小畑陽一
コロナであってもなくても、変わらないものを見つめる
小畑:本日はよろしくお願いします。まず、佐々木さんに決済という観点から、マーケターへのアドバイスを伺えればと思います。
佐々木:増税やコロナ禍で人々がソーシャルディスタンスを意識するようになった影響で、決済自体の形も変わると思っています。例えば、これまで消費者は買い物をするとき、店員に現金を手渡すことが当たり前でした。しかし昨今では、ポイント還元やコンタクトレスを意識する人が増え、モバイル決済が当たり前になってきました。決済シーンで新たな市場が続々と生まれているので、そこで顧客の行動を把握し、打ち手を考えることが大切だと思います。
この前、奥谷さんと一緒に分析させていただいたのですが、たとえば、最近はUber Eatsなどのデリバリーサービスや、応援消費や助け合いという文脈でクラウドファンディング的な消費が伸びています。こうした新しい市場をとらえた決済サービスが求められていると思います。
奥谷:決済会社のデータを見ると世の中のトレンドが見えてくるんです。例えば、ふるさと納税の消費行動を佐々木さんのカードデータで分析した際、通常12月にしか山がないはずなのに、3〜5月にも山があることがわかりました。特にクラウドファンディングの決済は基本的にデジタルで行うので、顧客の消費行動をデータで可視化しやすい。明確なエンゲージメントがある小売店や旅館を応援したい消費者の気持ちを取り込む会社ほど伸びると思っています。
小畑:川添さんはいかがでしょうか。
川添:僕が考えるポイントは3つです。ひとつは、コロナによって変わることよりも変わらないことを見つめるほうがよっぽど大事だということ。僕が携わっているメガネスーパーの場合、大義とそれを叶えるためのアクションを明確にし、ブレないことを大切にしています。
ふたつ目は、マーケティング施策と人的リソースのバランス。特に小売の場合、今は店舗に人をコロナ前ほど配置できなくなっている。実際、メガネスーパーは今、残業や休日なども含めた働き方を変えている状況です。店舗では施策と人的リソースが一体になっているので、その中で何ができるかを考えることが大切だと思います。
3つ目は、オンライン/オフライン両方で活躍できる人を増やすこと。小売業界でビジネスパーソンのオムニ化ができているところはコロナ禍での対応がスピーディーですね。例えばスマホでコーディネートなどの接客ができるとか、人のリソースをオンラインとオフライン両方ではれる店舗やブランドは強いと思います。
Zoom接客で売り上げが激増した事例
小畑:ひとつ目の「変わらないことを見つめる」ことで、成功しているブランドの事例はありますか?
川添:例えば、D2Cだと、オールユアーズですね。同社では既存顧客へのケアに注力するために、Zoom接客を導入しました。これが見事にハマり、接客を体感した人が、ポジティブな感想をSNSに投稿するようになったんです。そこから新規顧客を獲得する好循環を生み出すことに同社は成功しています。これに習ってZoom接客を始めたイケウチオーガニックも同様です。
オールユアーズのZoom接客の様子
引用:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00319/00004/
FABRIC TOKYOでも、既存顧客のためにUXを磨き込んだ結果、それが新規顧客の獲得につながったと過去のイベントで聞いています。この構図は、コロナの中でもあまり変わらなかったかなと。広告で新規顧客を獲得する手法は一定の効果はあると思いますが、みんながオンラインに集中して競争が激化するリスクもあります。「既存顧客のケアに注力することが、結果的に新顧客獲得につながる」そこに気が付いたブランドがコロナ禍の顧客満足度を上げているように感じます。
小畑:フェリシモだと、既存顧客のボリュームって多いじゃないですか。そのあたりの顧客変化とか、お客様に向けてという話をぜひ伺いたいです。
市橋:当社は定期通販しているのでもともとリピーターが多いのですが、最近は新規のお客様も増えています。そこで社内でよく議論になるのが、「新規と既存、どちらを大切にするのか」ということ。これは永遠のテーマだと思っています。
あと、川添さんの話を聞いて、Zoom接客って興味深いと思いました。新しくて、マンツーマンで。最近よくD2Cという言葉を耳にしますが、D2Cとこれまでの通販の違いってまさにそこじゃないかなと思っていて。お客様を群で捉えるのではなく、個人で識別して関係を築いていけるところが素晴らしい。ただ、ファンが増えてきたときに、どうコミュニケーションの質を確保するのか気になります。
川添:たとえば、オールユアーズでも月1件程度だったZoom接客の件数が、今では1日数件ほどに増えているそうです。もともと代表の木村さんがひとりで接客していたのですが、それだととても対応しきれないので、対応できるスタッフを増やしていると聞きました。
だからといって、Zoom接客を始めて人を増やせばすぐに問い合わせが増えるわけではありません。メガネスーパーでも『お家でコンシェルジュ』というサービスでリモート接客をすることもあるのですが、現時点のご相談件数は多いとはいえません。自社のリモート接客が認知されるまでには、ある程度の時間がかかると思っています。
自宅から眼鏡の購入相談やリモート視力検査などができる「お家でコンシェルジュ」
引用:https://www.meganesuper.co.jp/concierge/
市橋:とても興味深いですね。私はコールセンターをコストセンターではなく、プロフィットセンター化することを目指してきました。オペレーターはかかってきた電話に出るだけでなく、Zoom接客するように自ら語りかけていくことがこれからの時代に求められているのかもしれませんね。
川添:僕が最高だなと思ったのは、あるファッションセレクトショップの事例。コロナ禍で対面接客できなくなってしまったので、ある店舗の店長自らが進んでリモート接客を導入したと聞きました。
「Zoom接客は自宅で接客が受けられて贅沢」というお客様の声もあるそうです。また私が考えているのは、Zoom接客であれば接客する側もお客様のグローゼットの中を見せてもらえる可能性があるので、普段取得できない情報を得ることもできる。そこはオンライン接客の魅力だと捉えています。
奥谷:当社でもZoomでユーザーインタビューをしているのですが、非常にいい。会社にお客様をお呼びするとどうしても構えられてしまいます。でも、オンラインならいつでもオン/オフの切り替えができて元の生活に戻れるので、よっぽどコミュニケーションが取りやすい。特に若い人は、TikTokやインスタライブのプロモーションに慣れているので、インタラクティブ制さえ担保できれば購入してもらいやすい。お客様が自宅で「これほしい」と思った商品を見つけたら、オンラインで店舗スタッフと会話できるような機能をこれからの店舗は持つといいと思いました。
「顧客の質問にはその場で即答」オンライン接客は、上位職が担うべし
小畑:視聴者の方から質問が寄せられているので、聞いてもいいですか。「様々な企業がオンライン接客を導入していると思うのですが、お客様の反応はいかがですか。習慣として根付くのに時間がかかると思いますが、うまくワークしている企業があれば教えてください」とのことですが、みなさんいかがでしょう。
川添:「反応が悪い」という話は聞いたことがありません。おそらく「誰がやるか」が重要だと思っていて。たとえばメガネスーパーで『お家でコンシェルジュ』を始めるときに、代表の星﨑が「(オンライン接客を含めた)コンシェルジュサービスはその場で完結させることが顧客満足につながる」と口酸っぱく言っていました。
星﨑のお父様はもしもしほっとライン(現:りらいあコミュニケーションズ)の創業者で、星崎自身も大学の頃から1,000人くらいのコールセンターのアルバイトをまとめていました。ですから、CSに対してとても厳しいんですね。
また、以前イケウチオーガニックのZoom接客を受けたんですけど、社長自らが愛媛から登場されて、驚きました。こちらの質問にはすべてその場で即答いただけたので。一瞬でファンになりましたよ。
奥谷:日本だと敬遠されがちですが、Zoom接客ってネットスーパーでも可能性があるなと思っていて。日本人がなぜネットスーパーを嫌がるかというと自分の目で商品を見たいから。でも、僕らからすると触らないほうが良い野菜やフルーツもたくさんあるんです。お客様の要望が、「バナナが何房ついているか知りたい」とか「青いものが良い」ということであれば、オンライン接客でも十分対応できると思っています。これはスーパーに限らず、他の小売も同様です。
問題はコストですが、オーダーがくる店とこない店を見極めて、オーダーがくる店だけにオンライン接客を導入すれば、投資コストを抑えることができると思います。
佐々木:私も一昨年までコールセンターのシステム企画も管轄していましたが、その頃から有人対応を前提とせず、お客様が電話をかけなくても済む仕組み、即ちWEBで全ての問題が解決する仕組みが良い顧客体験になると考えてます。そのうえで、大量の受電にはチャットボットのようなAIを活用して、顧客体験を損なわないようにすることが大切だと思います。
マーケティングは、商売そのもの。今こそ、自社の価値を明確にして、伝える状態を作るべき
小畑:最後に、「そもそもマーケティングとはなんですか」という質問がきています。みなさんいかがでしょうか。
市橋:結局、商売だと思うんです。よく売り手良し、買い手良し、社会良しっていうと思うんですけど、三方よしの状態をつくることがだと思います。4P、4C、事業ドメイン、原体験、理念…。そういったものすべてひっくるめて考えるべきものが商売であり、僕が考えるマーケティングです。
奥谷:企業がやっていることを面白おかしく伝えていくことだと思っています。99.9%の会社は資本主義の中で、自分たちが正しいと思うものを売ろうとしているので、それをいかに早く、正しく、幅広く伝えるかが、僕のマーケティング活動です。
ただ、今はコロナ禍の影響で「ミニ戦時中」のような状態。「降りかかる課題は選べないけど、それに対する態度は選べる」代表高島は社員によくそう言っていて、僕もその言葉が大好きです。今こそ企業の真価が問われている。企業の価値はそれぞれで、それはプロダクトかもしれないし、接客かもしれません。いずれにせよ、企業の価値は何か明確でないと、マーケティングツールをいじるくらいしかできません。今こそマーケターは自分の会社価値を正しく伝えられる状態を担保するべきだと思います。
川添:僕は小売に携わっているので、いかにお客様と良い取引関係を築くか、長い取引関係を築くかの戦略や施策をマーケティングと捉えています。マーケティングを戦略レイヤーで見ると、企業文化があって、経営戦略があって、商品戦略があって、マーケティング戦略があって、具体的な販売戦略があって、顧客に届くという構図になっています。本来、マーケティング戦略は作ったものを広めたり、売ったりすることを考えればいいはずでした。しかし、今は経営戦略まで含め、最終的に顧客にどう届けるかを考えることが大切だと思います。
佐々木:「お客様と距離を縮め、つながる」活動だと思っています。決済で便利、安心、安全を消費者や事業者様に提供することが私たちかカード会社の使命なので、そこをきちんとお客様に伝え、距離を縮めていきたい。そのための付加価値をつくっていくことが、私たちにとってのマーケティングだと思います。