「作る」フェーズから「使われる・価値を提供する」フェーズへ – アプリ開発の最新トレンド -

山﨑 信潔
山﨑 信潔
2025.06.16
Update: 2025.06.28
「作る」フェーズから「使われる・価値を提供する」フェーズへ – アプリ開発の最新トレンド -

目次

2010年代中盤、DX、OMOの掛け声の下、あらゆる分野のサービスがモバイルアプリを立ち上げました。飲食、アパレル、金融といったリアル主体の事業だけでなく、Webサービスのアプリ化まで、それはまるで雨後の筍のように。しかし、現実にどれほどの企業が、アプリを核としたDX、OMOを成し遂げられたのでしょうか。
近年、Reproには「作ったはいいものの、アプリマーケティング専門のリテラシーもリソースもなく、最適な運用ができていない」「アプリを用いて実施したいことはたくさんあるが、どうしていいのかがわからない」といった相談が増えてきています。アプリは作って終わりではなく、運用し、グロースさせるものであるという認識へと、移り変わっているのです。

そこで今回は、アプリを用いたビジネス戦略からプロダクト設計、UI/UXデザイン、エンジニアリングまでを垂直統合し、多種多様なアプリ開発の実績を持つ、株式会社アイスリーデザインの吉澤和之氏にインタビューを敢行。UI/UXデザイン、アプリ開発というReproにはない知見を基に、アプリマーケティングのトレンドや課題解決の方法についてお話をうかがいました。

【アイスリーデザインとは】

トレンドはノーコード/ローコードからスクラッチ開発への回帰

【写真】株式会社アイスリーデザイン 吉澤和之氏のインタビューカット

――マーケティングツールやマーケティング支援の提供者であるReproの視点では、近年、アプリに対する論点が「グロース」や「使ってもらう」ことにシフトしているように見えています。アプリ開発をメイン事業とされているアイスリーデザインさんからは、どのようなトレンドが見えているのでしょうか。

吉澤 アプリ開発の中心が、単に「アプリを作る」というフェーズから、「いかにしてユーザーに継続的に価値を提供し、アクティブに使っていただき、ビジネスの成長に繋げるか」というフェーズに移行しているのは確かだと思います。

グロースを目指す企業が増えているからこそ、その実現手段としてのアプリ開発手法にも注目すべき変化が現れています。初期開発のスピードや導入の手軽さを魅力としてノーコード/ローコードツールで開発をしたものの、事業成長や運用の中でやりたいことが増えた結果、機能的な制約やスケーラビリティの問題に直面するケースが増えてきているのです。

ノーコード/ローコードツールを用いたアプリでは、ビジネスに最適な機能要件を追求したい、独自のブランドイメージを細部まで反映させたい、基幹システムや外部の複雑なサービスとシームレスに連携させたいといった、より高度で個別性の高い要求に応えきれません。

結果として設計の自由度や拡張性に優れたスクラッチ開発へと回帰、あるいは最初からスクラッチ開発を選択するという企業が増えている印象を持っています。

――ノーコードツール/ローコードツールからスクラッチ開発への移行を検討する企業は、どのくらいあるのでしょうか?

吉澤 あくまで個人的な肌感覚ですが、ノーコードツール/ローコードツール利用企業のうち8割くらいは、何らかの形でスクラッチ開発への移行を検討しているのではないでしょうか。やはり「やりたいことが既存のツールでは実現できない」という壁に突き当たることが多いようです。

アプリにとって優れたUI/UXとはいったい何なのか

【写真】株式会社アイスリーデザイン 吉澤和之氏のインタビューカット

――スクラッチ開発への回帰の目的として、より高度な機能の実装やユーザー体験の向上というファクターを挙げていただきました。一言でいうとビジネス要求とUI/UXの統合と言い換えることもできると思います。そもそも優れたUI/UXとは何なのでしょう。

吉澤 すごく象徴的な質問ですね。ただ、我々のクライアントとなる企業や実務の現場でもよく話題になることなので、わかりやすく説明しておきます。実はこういったお話をするだけで、アプリ開発への解像度がグンと上がったりするんです。

優れたUI/UXとは、「ユーザーが機能的な目的をスムーズに達成できる『使いやすさ』に加えて、使っていて心地よい、嬉しいという『体験価値の高さ』が成立している状態」と考えるといいと思います。

これを構造的に理解する上で役立つのが「UXピラミッド」というフレームワーク。Aarron Walterという方が、4段階のピラミッド構造で考案したとされるものなのですが、現在では6段階に拡張したものを用いるのが一般的で、アプリが提供する価値を、底辺から「機能的である」「信頼できる」「分かりやすい・使いやすい」「便利である」「楽しい・心地よい」、そして頂点の「付加価値がある」という段階で示します。

多くは「分かりやすい・使いやすい」レベルを目指しますが、ユーザーを惹きつけ、ビジネスを成長させるには、ピラミッドのより上位の価値提供が不可欠です。

■UXピラミッド【図】UXピラミッド※画像作成:株式会社アイスリーデザイン

もうひとつ「UXデザインの5段階モデル」というものもあります。これは、よりデザインに重きを置いた考え方ですね。

UXデザインを「戦略(ユーザー要求・ビジネス要求)」「要件(機能仕様、コンテンツ要求)」「構造(インタラクションデザイン・情報アーキテクチャ)」「骨格(レイアウト・ナビゲーション・情報設計)」「表層(ビジュアル・デザイン)」の5層構造で捉えます。下層が上層の土台となっていて、戦略なくして優れたUXは生まれません。

■UXデザインの5段階モデル
【図】UXデザインの5段階モデル※画像制作:株式会社アイスリーデザイン

――これらのフレームワークが、実際のアプリ開発において具体的にどのように活かされているのかわかりやすい例があれば教えてください。

吉澤 パッと思いつく例として「Coke ON」と「イオンウォレット」が挙げられます。

Coke ONは、自動販売機での飲料購入に「スタンプを集めてドリンク交換」というゲーミフィケーション要素を加えました。これはUXピラミッドでいう「楽しい・心地よい」「便利である」ひいては「付加価値がある」の実現です。

背景には「LTV向上およびブランドロイヤルティの育成」という、UXデザインの5段階モデルにおける明確な「戦略」があり、そこにスタンプ機能という「要件」を定義。さらに、「15スタンプでドリンク1本無料」という報酬設計や、プッシュ通知によるお知らせ。これは「構造」「骨格」の部分ですね。加えてデザイン表現としての「表層」が見事に連携しています。

イオンウォレットは、クレジットカードとスマホ決済や送金サービス、ポイント管理などを統合した非常に多機能なアプリです。しかし、ただ多機能なだけではありません。イオンウォレットをイオンの金融サービスの総合タッチポイントと位置づけ、クロスセルによる取扱高増大を狙うという明確なビジネス上の「戦略」がベースにあるのです。

そしてタッチポイントが統合されたことで、顧客データの一元化が可能になり、ユーザー行動に紐づいたキャンペーン配信やサービス提案が可能になっています。UXピラミッドにおける「便利」「楽しい・心地よい」「価値がある」を実現しようとしているわけです。

「使われるアプリ」を開発するために企業に欠けていた視点

【写真】株式会社アイスリーデザイン 吉澤和之氏のインタビューカット

――では、「使われる、価値を提供する」アプリを開発するにあたって、過去の企業が欠けていた視点はどのようなものだったのでしょうか。アプリをこれから開発する企業、リニューアルを予定している企業に向けての学びを、吉澤さんの視点で教えてください。

吉澤 過去の企業が見落としがちだった最も重要な視点は、アプリに対する「ビジネス要求整理」だと考えています。「何かしたい」という熱意はあっても、「アプリでどう実現し、どうビジネスに繋げるか」という設計が定まっていなかった例が多かったのではないでしょうか。

決してネガティブなことを言いたいわけではありません。アプリを活用したビジネスの黎明期だったので、まずは作ってみることが重要であったという時代的な背景もあります。その経験を経たうえでの改修であればそれは進化ですから。

特に大規模、レガシーな企業であれば、急に「アプリを作る」というミッションを与えられた部署の方も多かったのではないでしょうか。「DX、OMOが重要だから」「競合がやっているから」という曖昧な理由で、しかもスピーディに。社内に専門家がいないなかでの試行錯誤は賞賛すべきものだったと思っています。

ただし、アプリ開発の成功は、しっかりとしたビジネス戦略やユーザーニーズ理解という土台があって初めて成り立つものでもあります。ビジネス要求整理が徹底されていなかったために、「作って終わり」という結果を招いたのでしょう。

――ぜひもう少し詳しく教えてください。

吉澤 要するに「アプリは使ってもらえなければ意味がない」という意識が低かったということです。分解すると「ユーザー視点の欠如」「グロースに対する理解不足」と表現できるかもしれません。

多くの企業では、自社製品やサービスを「提供する側」の視点、いわゆるプロダクトアウトの発想でアプリを考える傾向があります。「この機能は素晴らしいはずだ」といった企業側の論理が先行し、実際にアプリを使うユーザーが何を本当に求めているのか、といった本質的な理解が後回しにされがちだったのです。

そして、アプリはリリース後も改善を繰り返して初めて「使われるアプリ」へと成長するものです。しかし、このグロース戦略までを見据えたビジネス要求整理ができていない企業が多かった。結果、既存Webサイトの延長のようなアプリになり、「使い続ける意味」を提供できなかったのです。

もちろん、そのほかにもたくさんの要因は存在します。例えば金融業界のアプリ。金融機関の基幹システムは非常に複雑で柔軟性も低いというのが前提です。ユーザーニーズに合致する機能を実装しようとしても、エンジニアリング、UI/UX、マーケティングといった、広範かつ深いリテラシーを持つ人材やチームが存在しなければ、実現はほぼ不可能です。最近、注目されているPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)の存在も重要ですよね。

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ビジネス要求整理をどのように実施して課題解決へと導くのか

【写真】株式会社アイスリーデザイン 吉澤和之氏のインタビューカット

――吉澤さんのお話を聞くと、アプリ開発の難しさ、面白さがすごく理解できます。そんなときには外部の知見を借りるのが有効だと思います。仮にアイスリーデザインさんであれば、どのような解決策を提示できるのでしょうか。

吉澤 実は先ほど申し上げたビジネス要求整理という言葉は、アイスリーデザインがよく使う言葉で、弊社でアプリ開発を提案する際には、必ずこの段階からスタートさせていただきます。「なぜ作りたいのか」「誰のどんな課題を解決し、どんなビジネス成果を目指すのか」という目的とゴールの設定からお客様と向き合うわけです。ワークショップ形式で議論を重ねることもあります。

言葉にしてしまうと月並みに聞こえてしまうのですが、お客様のビジネス、事業戦略、ターゲット顧客、競合環境、社内体制や既存システムの把握に加え、ユーザーインタビューやアンケート、そしてその分析などでユーザーニーズを明らかにしていきます。

このビジネス理解とユーザー理解を掛け合わせることで、「本当に価値のあるアプリとは何か」が見えてきて、「UXデザインの5段階モデル」でいう、「戦略」から「要件」への飛躍ができるようになるのです。

お客様がかなり詳細にRFP(提案依頼書)を定められているケースもありますが、ビジネス要求整理の段階で、齟齬が出た場合は「このままでは成功しません」と正直にお伝えすることもあります。お客様にとって気持ちの良いものではないことは承知なのですが、次のステージに進むための適切な摩擦と捉えています。

自社のビジネスや戦略についてはお客様のほうが圧倒的に解像度が高い、アプリ特有の事情については弊社に一日の長があります。そのなかで生まれるギャップを丁寧に埋めていくことは、お互いにひとつのゴールを目指すうえで重要なステップですから。

――読者のなかにはアプリの開発という言葉に、エンジニアリングとデザインといった表面的なイメージしか持てていない人も多いかもしれません。アイスリーデザインさんのように、上流の工程から支援してくれる会社は多いのですか。

吉澤 国内では両手で数えられる程度なのではないでしょうか。戦略立案からプロダクトの設計、UI/UXデザイン、開発までを一貫して支援できる会社は、多くても10社くらいだと思います。

少し宣伝的な言い方になってしまうのですが、いくら戦略を練れたとしてもそれを機能やコンテンツ要件として定義し、最適なUIに落とし込めなければユーザーには届きません。逆もしかりで、ものすごく先進的で魅力的なデザインやインタラクションが実装できたとしても、使いづらく、ユーザーニーズに即していなければビジネスの成果には反映されません。

ビジネス戦略とUI/UXのシームレスな結びつき。特に複雑な要件を抱えている企業や事業規模の大きな企業にとってはこの考え方が非常に重要です。それができるのが、戦略、プロダクト設計、UI/UXデザイン、そして最近ではPMM機能を垂直統合している弊社ならではの強みだと考えています。

――複雑な要件、規模の大きなという言葉をもっと具体的にするとどういった領域の企業が該当しますか。

吉澤 複雑な要件という観点でいうと、金融やIT通信系、不動産などが挙げられると思います。背後にあるシステムが複雑ですし、扱うデータの量も膨大。高い堅牢性も求められます。規模の観点でいうと、EC、小売りがその代表といえるかもしれません。たくさんの顧客に利用されることを前提として、しかもそのデータを効率良くマーケティングに活かしていく必要があります。

弊社のWebサイトをご覧いただくとイメージがしやすいかもしれません。「HeartOneポータルアプリ(大和ハウスフィナンシャル株式会社)」「共済マイページ(日本コープ共済生活協同組合連合会)「東京スター銀行アプリ(株式会社野村総合研究所)」「PEACH JOHN 公式アプリ(株式会社ピーチ・ジョン)」などのアプリを幅広く掲載しています。

――なるほど。アプリを作ろうとしたとき、多くの企業は競合や先行事例の研究をすると思いますが、その対象はアプリの外形や表層的なものに止まってしまいがちです。背景にある戦略を想像することはできても、それがどのように機能開発やUI/UXに結びついているかを計算することは困難です。アプリでやりたいことがある企業ほど、専門家に相談してみたほうがよさそうですね。

吉澤 その通りだと思います。アプリを作りたいと思ったとき、既存のアプリを改善しようと思ったときは、まず知見のある人に相談するのがベター。弊社では「何から手をつければよいかわからない」「今の進め方に不安がある」といった漠然としたものから、特定のKPIを改善したいといったものまで、なんでも相談を受け付けています。まずは気軽にご連絡いただければ幸いです。

そのうえでお客様のニーズに合うようであれば、ビジネス要求の整理という最上流から、UI/UXデザイン、開発、そしてリリース後のグロース支援まで、ワンストップで適切な支援をさせていただきます。

プロフィール

株式会社アイスリーデザイン 執行役員 CPO兼CMO 吉澤 和之(よしざわ かずゆき

株式会社アイスリーデザイン
執行役員 CPO兼CMO
吉澤 和之(よしざわ かずゆき)

フリーライターからキャリアを始め、創刊雑誌の初代編集長を務める。広告代理店を経て、外資系MarTech企業でビジネスアーキテクトとして新規事業開発やマーケティングなどに従事。その後独立し、SaaS企業の事業コンサルティングを行う傍ら、ニューヨーク発のIT企業MovableInkの日本進出支援。20年6月からは台湾発AIテックスタートアップのawooにジョインし、日本市場開発責任者として日本法人awoo Japanの立ち上げとグロースを成功させる。23年2月より現職。

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