数々のグローバル企業でマーケティングとDXの実践者として活躍し続けてきた宮野淳子さん。現在はご自身の会社を立ち上げ、コンサルタントとして様々な企業の支援をしています。今回のインタビューでは、成果を生み出すための思考と行動原理について詳しくお話をうかがいました。他の追従を許さない成果創出の秘訣とは?ビジネスパーソンとしての在り方も浮き彫りにします。
聞き手:Repro株式会社 千田 侑実
お客様と全方位で伴走し、成果を出すコンサルティングスタイル
――最初に宮野さんのこれまでのキャリアについて教えてください。所属されてきた会社の名前を聞くだけでしり込みしてしまいそうなのですが。
宮野 新卒で入社したのが日本ロレアル株式会社(以下:ロレアル)で、在職期間は10年ほどです。「ロレアル パリ」という化粧品ブランドを日本で立ち上げるタイミングと入社時期が重なっていて、その中でダイレクトマーケティングやCRMを主に担当していました。
CRMといっても、当時は紙のカルテにお客様の情報や接客時の会話を記録して、次回以降の接客やマーケティングに活かしていくといったものです。そこにデジタル化の波が押し寄せ、顧客情報のデータ化・可視化、データを基にしたパーソナライゼーション、さらにはソーシャルメディア活用といった要素が入ってきます。マーケティング領域でのDX(デジタルトランスフォーメーション)ですよね。
ロレアルを退職したあとは、アマゾンジャパン合同会社でソーシャルマーケティングの責任者、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ではDXの統括、ゴディバ ジャパン株式会社ではCMO/CDOとしてマーケティングとDX領域の責任者をさせていただき、2021年に株式会社MJという自分の会社を立ち上げて今に至ります。
どの会社での経験も簡単に言葉にできないほど素晴らしいものだったのですが、新卒で入社したということもあり、ロレアルでの経験は自分のキャリアを大きく左右していますね。常に変革が起きていて成長をし続けられる環境でした。
「お金を使わず成果を創出せよ」といったようなチャレンジングな課題をたくさん投げかけられる会社だったのですが、それを実現する優秀な人材、組織があり、その中で悪戦苦闘することで、最短距離で成果を出すというマインドセットを徹底的に養うことができました。
――ご自身の会社での活動についても詳しく教えてください。主に国内企業のコンサルティングをされているようにお見受けするのですが、どのようなかかわり方なのでしょうか。
宮野 どう表現すればいいのか……難しいんですよね(笑)。マーケティングやDXに限らず、全方位でお手伝いさせていただいています。組織や社員のスキルトレーニングの企画まで。「とにかく会社を成長させたい」といった大きなお題をどのように解決していくかがテーマになることが多いのです。
企業によって抱えている課題や事業フェーズは様々です。お客様の定着率が成長のボトルネックになっているのであればCRMという方法論を活用しますし、認知に課題を抱えているのであればPRや広告も提案します。成長を加速させるための仕組みが不足しているのならDXや組織改革についてもお手伝いさせていただきます。本当に「手段を選ばず」です。
ただ、共通しているのは外部からのサポートであるというスタンスを取らないこと。お仕事をさせていただくときにいつも実感するのですが、どんな企業にも長い経験と高いスキル・ノウハウを持った現場の方がたくさんいらっしゃるんです。そういった方から学ぶことがスタートです。契約としては外部コンサルタントになってしまうのですが、必ず現場に出させていただきますし、いわゆるレポートラインにも入れていただきます。
例えば、マーケティングを戦略的に成功させて商品認知を改善できたとしますよね。でも、実際の売上が思うように伸びないというケースがあったりします。わかりやすいのは、百貨店やスーパーなどで他社商品と並んで販売される商材の場合です。お客様の購買行動はとても流動的なもの。売り場に競合商品のポスターやPOPがたくさんあったり、店員の方が何気なく競合商品を勧めてしまったりするだけで商品の選択が変わってしまうのです。
こういった最前線の事象は営業現場に出向かないと知ることができません。最短距離で成果を出すためには、外部から戦略を立案するだけでは足りないのです。
戦略的思考と泥臭さを両立。コアにあるのは推進力
――お話をうかがっていると、成果への徹底したこだわりを感じます。しかも、最短距離で実現することに。何か秘訣があるのでしょうか。
宮野 コンサルタントとして企業のお手伝いをするときには、「どのレバーを押せば短期間でその企業が成長するのか」を第一に考えるようにしています。
様々な競合他社がいる中で、強み、弱みを見極めて、いかに強みを伸ばし、弱みを克服していくべきかを最初に検討するのです。そのレバーがマーケティングなのか、DXなのか、それとも組織や人なのか。必要に応じて改善すべき点を提案して、売上を伸ばす方法を見出していくという考え方ですね。
スピードに関しては、「そんなに急がなくてもいいよ」とおっしゃっていただくこともあります。でも、早く成果を出してお返しをしたいという気持ちが強いんです。せっかちなんですよ(笑)。
戦略上、DXがテーマになったとします。DXの成果が売上に反映されるまでにはどうしても時間がかかりますよね。その時間を使って何かできることがないかと探すんです。PRに力を入れてパブリシティを獲得できれば、もしかすると数億円分の広告効果を得られるかもしれません。であれば、メディアへのアプローチもします。商品の流通や陳列方法の改善で売上が得られるなら百貨店や小売店との交渉に出向くこともあります。
成果=お仕事をいただいたお返しなので、私にできることは全部やりたいんです。
――合理的な戦略的思考と泥臭いと表現してもいいような行動量を両立されているのですね。この2つを同時に実践するのはとても難しく感じるのですが、何が宮野さんのコアにあるのでしょうか。
宮野 自分のことを賢い人間だと思ったことはありませんし、成功に導く確固としたフレームワークを持っているとも考えていません。会社員時代に関わったコンサルタントの方はもっと頭が良くて、成功を確信してお仕事をされているようでした。
もし、私に誇れるものがあるとすれば、推進力だけなんです。たとえ失敗しそうになっても、別の手段を模索してどうにかして成功する道筋へと関係者の皆さんと一緒に歩んでいく。最後はエモーショナル、熱意だったりします。もちろん第一に、第三者視点での市場、競合分析、消費者のカスタマージャーニーの調査、自社データの分析などは行いますし、最大限、合理的な戦略を立案することは前提ですよ。
少し話がそれるかもしれませんが、私は人に恵まれているんですよね。DXにせよ、マーケティングにせよ、決して一人でできるものではありません。例えばDXがテーマになるとき、多くの場合、ツールを提供してくれるパートナーが必要です。そんなときに、とても優秀で積極的にサポートしていただけるCSの方がいたりする。実際にはその方々の力で売上が改善しているわけです。社内の現場の方も含めて、関係者の力があってこそ今の私がいる。これが紛れもない事実です。
世界が憧れる日本企業を増やすお手伝いを
――最後に今後の目標やご自身の将来像についてもお話しいただけますでしょうか。
宮野 シンプルにいうと、日本の企業が世界的に大きくなって世界中の皆さんに憧れられる存在になる、そのお手伝いをしたいんです。
私自身、キャリアの主体を外資企業においているので、国内市場を対象にしてきた方よりも、グローバル市場に対する知識を多少は豊富に持っていると思います。その観点でお話しすると、外資企業は「戦略で戦う」、日本企業は「商品の品質や開発力で戦う」という傾向を持っていると考えています。
どちらが良いというものではないのですが、せっかく優れた商品を持っているにも関わらず、世界に出たときに日本企業が戦略面で負けてしまうケースがあるのです。世界中の人々が求めているものが、必ずしもハイレベルに追及しつくされた品質ではないからです。
世界に相対したときに発生するこういったギャップを、マーケティングやDXの力で埋めていく。結果として日本企業が世界で活躍するお手伝いになる。それが今後の目標ですね。