「ロイヤルカスタマー」とは何のことを指すのか、皆さんはすぐに答えることができるでしょうか?日本は著しい少子高齢化により人口減少の一途を辿っています。縮小する国内市場内では、会社経営の安定や利益の拡大を図るため、競合他社同士での激しい顧客獲得合戦が繰り広げられています。
そんな中、企業成長のカギといわれているのが「ロイヤルカスタマー」です。ロイヤルカスタマーは企業が抱える顧客の中でも、利益に大きく寄与する顧客とされています。この記事では、ロイヤルカスタマーの意味や定義、ロイヤルカスタマーの見分け方から育成方法について、詳しく解説します。
ロイヤルカスタマーとは
マーケティングにおいて、ロイヤルカスタマーは「企業の製品・サービスに対して忠誠心が高い顧客」のことを指します。購入額やリピート率など、ロイヤルカスタマーの基準は各企業によってさまざまです。企業にどんな影響をもたらし、どのような行動を取る人物をロイヤルカスタマーと呼ぶべきなのか、具体的に説明していきます。
ロイヤルカスタマーとはどんな行動を取る人物か
一般的にロイヤルカスタマーとは、
- 「商品・サービスを継続的に購入してくれる」
- 「競合他社の商品・サービスを購入しない」
- 「第三者に勧めてくれる」
この3点に該当する顧客のことを指しています。
企業の商品やサービスを愛用し、企業に代わって宣伝活動を行う顧客は非常に重要な存在です。イタリアの経済学者が生み出した「パレートの法則」では、企業が抱える顧客の2割がロイヤルカスタマーで、このロイヤルカスタマーによる売り上げは全体の8割を占めているとされています。
売上アップのための施策を行う場合、すべての顧客を対象にするとコストがかかり実現性はかなり低くなります。対して、パレートの法則では2割のロイヤルカスタマーへ投資することの重要性が述べられています。
近年、顧客の離脱率や解約率を下げ、ロイヤルカスタマーの満足度を高めていくことが企業の売り上げに効果的であるという考え方が主流になっています。特に、スマートフォンやSNSの普及により、ユーザーは商品・サービスの情報を圧倒的なスピードで収集・拡散できるようになりました。第三者に商品・サービスを宣伝してくれるロイヤルカスタマーは、アンバサダーマーケティングのユーザー候補にもなり得る貴重な存在です。商品やサービスのリピート購入や他社製品に流れないこと、第三者に積極的に宣伝することを基準に、ロイヤルカスタマーか否かを区別すると良いでしょう。
ロイヤルカスタマーが企業にもたらすものとは?
ここまでの説明で、ロイヤルカスタマーの人物像が見えてきたことでしょう。では、次にロイヤルカスタマーが企業にもたらす影響力について考えてみましょう。
影響力のひとつに、会社の売上増加に寄与してくれることが挙げられます。
ロイヤルカスタマーは商品やサービスに愛着を持って繰り返し商品やサービスを購入するため、長期的な利益の確保が期待できます。LTVが高いロイヤルカスタマーを増やすことは、高いマーケティングコストを掛けて新規顧客を確保するより、効率良く収益を高められます。
LTVの高さだけでなく、ロイヤルカスタマーは「忠誠心」も高く、競合他社が魅力的な製品・サービスやキャンペーンを打ち出したとしても簡単には離脱しません。長期的に自社のリピーターであり続けてくれるため、売上増加に大きく貢献します。
また、企業にとって嬉しいことは売上面だけではありません。先にも述べたように、ロイヤルカスタマーは商品・サービスに愛着を持った人物です。「こうした方がいい」「新しいサービスはないのか」など、企業に対してポジティブな意見だけでなく、顧客目線から自社商品の改善点を指摘してくれます。そのため、有益な情報を抽出することができるのもロイヤルカスタマーの特性のひとつです。
さらに、SNSや口コミサイトなど、さまざまなメディアから自発的に情報を発信してくれる動きも期待できます。製品・サービスに関心が高く、いわば「ファン化」しているユーザーだからこそ、知人や友人に勧めてくれるケースも珍しくありません。
これら3つの定義を持ったロイヤルカスタマーの存在は、企業が安定した事業を行い、将来的に成長し続けるために非常に重要な要素です。
「 多く買う人=ロイヤルカスタマー」ではない
ロイヤルカスタマーは非常に高い利益を企業にもたらします。そのため、いかにロイヤルカスタマーを確保し続けられるのかが、企業の最重要課題です。
そんな企業成長のカギを握っているロイヤルカスタマーですが、購買行動だけで判断していると思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。というのも、商品の購買歴が長く、購入数が多くても、その企業・商品・サービスのファンになっているとは限らないからです。
継続購入の理由としては、例えば「単に惰性や習慣で購入している」「そもそも他社の製品を使用したことがなく、良し悪しの判断がついているわけではない」などさまざまな理由が考えられます。こうしたユーザーはいくら購買頻度が高く、購入額が高くても、何かのきっかけで簡単に離脱してしまうリスクも高いのです。
では、本当のロイヤルカスタマーとは、一体どういった特徴を持っているのでしょうか。次の章で具体的に確認してみましょう。
本当のロイヤルカスタマーとは?
ロイヤルカスタマーを定義する際に、LTV(Life Time Value=顧客生涯評価)を算出して定義する企業も多いのではないでしょうか。
LTVは顧客が企業にどれだけの利益を与えるのかをあらわす指標で、「平均購買単価」×「購買頻度」×「期間」から算出することができます。購入によって長期に渡って直接企業に利益を与える行動や、購入以外の企業の成長に寄与する行動も加味して、このLTVを考えます。
確かに、LTVを上げることは企業のマーケティング施策の大きな目標でしょう。しかし、LTV数値や単価が高い顧客が必ずしも企業にメリットをもたらすロイヤルカスタマーとは限りません。
LTVの高い顧客はロイヤリティが高く、企業への忠誠心が高いと判断されがちですが、実際のところは以下のような理由で商品を使い続けているのかもしれません。
- 長期契約などで縛られているために商品・サービスを購入を辞めるタイミングを逃している
- 解約が困難な仕組みになっているために商品・サービスを使っている
- 他社の商品・サービスに気になるものがなく、仕方なく使っている
このように、LTVの高さがロイヤルカスタマーを証明するものになるとは必ずしも言い切れないのです。
また、購入金額が少なくてもロイヤルカスタマーとして数えられるという見方もあります。というのも、単価の低い顧客であっても、育成次第で将来的にロイヤルカスタマーとなる可能性が十分にあり得るからです。
そのため、購買量が多いことに加えて、「愛着と信頼」を持つユーザーこそが、本当のロイヤルカスタマーと定義できます。購買量が多いだけの、見せかけのロイヤルカスタマー(惰性型購買行動)は離脱リスクも高く、真のロイヤルカスタマーとはいえないのです。
ロイヤルカスタマーを育てるには?
自社商品に対して高いロイヤリティを持つロイヤルカスタマーを維持、育成していくことが企業の至上命題といっても過言ではありません。では、既存の顧客をロイヤルカスタマーに育成するには、どのようなポイントがあるのでしょうか。ここでは、企業利益を上げるための販売施策となる、ロイヤルカスタマーの育成法を解説します。
CRMを活用した信頼関係の構築
ロイヤルカスタマーの育成に欠かせないのがCRM(Customer Relationship Managemant)です。広義のCRMとは、集約した顧客情報を元にパーソナライズされたアプローチを行うことで、良好な関係を構築する仕組みを指します。なお、狭義の意味では、ITを活用した顧客管理ツール・システムそのものを指します。
ITシステムの発達により顧客情報の一元管理、企業内共有が容易に可能となり、企業は「見込み顧客」「既存顧客」「優良顧客(ロイヤルカスタマー)」と、顧客の属性に合わせたマーケティングを行えるようになりました。
CRMでは顧客の性別や年齢・地域・嗜好などの購買データを集積します。顧客の注文履歴をCRMツールと連動させることで、カタログ通販やネットショップでの顧客の購買行動や購入頻度を把握することができます。BtoC・BtoBいずれにおいても、こうした顧客一人ひとりに合わせたマーケティング手法は取り入れられています。
広告などの一般的なマーケティング手法では新規顧客の獲得がメインですが、CRMにおいては既存顧客の育成が優先されます。既存顧客の維持にかけるコストは新規顧客の獲得の5分の1程度とされており、ロイヤルカスタマーが企業の利益率に大きく影響することが認知されてきた背景もあって、CRMの重要度はますます高まっています。
CRMによって顧客との関係性を積極的に築いていくことで、「この会社の商品を買いたい」「今後も継続的に購入していきたい」という顧客の心理をより一層強くさせます。顧客と関係性を構築していく際は、顧客全体に同一のアプローチをするのではなく、SNSやDM、WEB広告を用いて「One to Oneコミュニケーション」を実現することが重要です。
CRMを活用して顧客ごとに最適なチャネル・タイミング・コミュニケーションを提供すれば、強固な関係性の構築とLTVの最大化が期待できます。何より、こうした取り組みをすることで製品・サービスに愛着を感じてくれる、本当のロイヤルカスタマーが増えることにもつながるでしょう。
NPSで顧客ロイヤリティを測る
ロイヤルカスタマー施策を効果的に行っていくためには、実際に企業に対して深い愛情と忠誠心があるかどうか熱量を測る必要があります。
そこで注目されているのが顧客ロイヤリティを測る「NPS(Net Promoter Score)」です。
企業に対しての忠誠心や愛着を数値化することができるNPSは、顧客満足度とは違う特性があります。顧客満足度は顧客本人の満足度合いを示すものであり、リピート購入や購入単価の向上など、必ずしも企業利益につながるとはいえません。一方、NPSは業績に直結しやすい指標だといわれています。
NPSでは、「製品・サービスを友人や同僚に勧める可能性を0~10点で評価してください」という質問を投げかけ、そのスコアを計測します。6点以下の顧客を「批判者」、7~8点の顧客を「中立者」、9~10点の顧客を「推奨者」と分類します。この質問は、ロイヤルカスタマーをあぶり出しやすいことに加え、改善ターゲット・改善点を絞り込みやすくなる特徴を持っています。
ちなみに、NPSの算出方法は、推奨者の割合から批判者の割合を引いて出た数値がNPSの値です。仮に、「推奨者50%」「批判者30%」とした場合、NPS値は20%とあらわします。これを顧客の収益性=LTVと組み合わせ、マトリクスの作成、セグメント分類することで真のロイヤルカスタマーを抽出することができます。
収益性が高い顧客でも批判者に該当すれば、離脱候補者となり確実な利益は見込めません。逆に、収益性が低くてもNPSが高ければ、高いロイヤリティを発揮してくれるでしょう。そのため、企業はいかにして批判者のNPS値を高められるかが課題となります。
批判者割合が高まる理由には、営業やマーケティングだけの責任ではなく、カスタマーサポート、商品やサービスそのものにあるかもしれません。顧客との接点が多様化したことで電話サポートだけでは、顧客との親密度を高めることは難しいでしょう。SNSやメルマガなど複数のチャネルを活用し、顧客に合った接点機会を増やすことで「批判者」を「推奨者」へと変化させることができます。
また、顧客体験を向上させる取り組みに加えて、定期的な調査、改善を行ってサービスの向上に努めましょう。PDCAサイクルを怠らなければ、推奨者となるロイヤルカスタマーを育てることができるでしょう。
まとめ
ロイヤルカスタマーの存在は、企業にとっての財産です。いかにして顧客に感動体験を与えられるのかが、マーケティングのテーマでもあります。
企業が売り上げを伸ばしていくためには、新規顧客の獲得ばかりに目を向けるのではなく、企業が今抱えている顧客を囲い込み、大切に育てていくことが重要です。
この記事を参考に、自社にいるロイヤルカスタマーは、NPS値が高く企業に良い売上をもたらしてくれるのか、今一度振りかえってみてはいかがでしょうか。