スマートフォンやSNSの普及によって顧客との関係構築の方法は様変わりしました。昨今ではユーザーに対するアプローチは、リーチの広さよりもユーザーとのつながりの深さを重要視したマーケティングが必要とされています。長期に渡って顧客と深い関係性を築き、継続的に利益を生み出す方向へとシフトしているのです。
さて、このような関係性を重視するマーケティングには、「リテンションレート」「継続率」という指標の活用が欠かせません。今回はこのリテンションレート・継続率の概要や、リテンションレート・継続率を高める方法について解説します。
リテンションレート・継続率とは
リテンションレート・継続率とは、サービスの継続率や定着率を数値化したものです。一定期間においてアプリやWebサービスを再利用したユーザーの割合を示した数値で、日本語では「既存顧客維持率」と呼ばれています。
リテンションはマーケティング業界で用いられる用語で、「一定期間(契約期間など)、既にサービスを利用しているユーザーとの関係を維持すること。もしくはその能力」を示す言葉です。
最近ではサービス提供者の多くが、ユーザーの新規獲得以上に既存ユーザーの維持に注力しています。リテンションが重要視される以前、サービスの成長には新規ユーザーの獲得こそが最も重要な指標とされていました。しかし、サービスの利用開始から90日を経過すると、90%近くのユーザーがサービスを利用しなくなることがわかってきたため、既存ユーザーの動向を分析・解析しリテンションレートを高める方法へと移り変わったのです。
リテンションレートを高めることは「LTV(顧客生涯価値)」を高めることにつながります。LTVとはひとりのユーザーが一定期間(契約期間)を通じてサービス提供者にもたらす価値・利益のことです。つまり、高いリテンションレートを維持することがLTVを高めるのです。
リテンションレートを測定する意味
リテンションレートを測定する目的は新規ユーザーの将来的なサービス利用期間を測るためです。
また、リテンションレートを測定することで、新規ユーザー獲得のために必要とする予算が適切かどうか、新規ユーザー獲得の施策が成功しているかどうかを判断することもできます。この指標はユーザーの定着率や継続率を測るだけでなく、既存ユーザーと事業者の「つながりの深さ」をあらわす指標でもあります。
リテンションレートを測定し、数値を定点観測することで、離脱リスクが高まっているユーザーに離脱を踏み止まらせる施策を打つことも可能になります。「既存のユーザーを大切に育てる」「機会損失を最小限に留める」という観点から、リテンションレートの測定・分析は非常に重要なのです。
リテンションレートの計算方法
続いては、リテンションレートの計算方法について説明します。リテンションレートは以下の計算式で算出されます。
リテンションレート(%) = 継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100
例えば、あるサービスの新規ユーザー数が2,000人増加し、1カ月に800人のユーザーが継続利用していたとします。この場合のリテンションレートは、(800÷2,000)×100=40%です。一般的にリテンションレートは、業界平均で2カ月後に20%前後を保てれば健全なリテンションを維持できているとされています。
リテンションレートが下がる主な要因
リテンションレートが低い、もしくは下がっているということは、ユーザーがサービスから離れてしまっていることを意味しています。リテンションレートを高める方法を紹介する前に、まずユーザーがサービスから離脱する主な要因をご紹介します。
サービスからユーザーが離脱するほとんどのケースで、サービスの価格や品質は問題点にはなりません。なぜなら、多くのユーザーは良いサービスには多くのお金を支払ってもよいと考えているからです。
多くのユーザーにとって離脱する要因となるのは、「ユーザーがサービス提供者に大切に扱われていない」と感じてしまうことです。つまり、良い顧客体験を提供できなければ、多くの場合、リテンションレートは下がってしまいます。
また、「顧客がサービスを利用し続ける意味を見出せない」「サービスの価値、利用方法が顧客に伝わっていない」場合も同様です。目的を解決できないサービス、価値をもたらしてくれないサービスからユーザーが離脱していくのは当然です。
さらに、サービス自体の価値が伝わっていたとしても、それ以外の面でリテンションレートを下げてしまうことがあります。具体例としては「通知やメールマガジンがあまりにも多い」「興味がない情報の通知が届く」「不具合への対応が遅い、不十分」などが当てはまります。
これらのリテンションレートを低下させる要因をなくしつつ、次にご紹介するリテンションレートを高める施策に取り組んでいきましょう。
リテンションレートを高める方法
リテンションレートを高めるために、まずはユーザーの満足度を上げることが大切です。満足度を上げる際に気を付けるポイントとして、以下のような点があります。
- 顧客対応が迅速で充分か
- 自社の製品・サービスのクオリティは優れているか
- WebサイトやECサイトはストレスのない導線設計になっているか
- 顧客の態度変容に合わせたフォローができているか
このように配慮すべきポイントは様々で、業態によっても異なります。リテンションレートの向上に役立つ重要な考え方について、詳しく見ていきましょう。
リテンションレート施策におけるカスタマーエンゲージメントの重要性
リテンションレートを高めるうえで欠かすことのできない考え方が「カスタマーエンゲージメント」です。カスタマーエンゲージメントとは、企業と顧客の信頼関係を長期にわたって築くための方法です。
単にリテンションレートを上げようと思えば、PV・セッション・CVRといった数値に注力するだけでも、目的は達成できます。しかし、サービスへの再訪を促すことだけを目的としたアプローチになってしまうと、ユーザーはサービスに対して悪い印象を持ってしまう恐れがあります。
サービス再訪を促すだけのマーケティングが良い結果に結びつかない要因はいくつか存在します。例えば、広告の表示回数を増やしたり、メールマガジンの配信回数を増やしたりすると、情報過多による忌避や購読停止などが起こりやすくなります。登録したサイトから、ひっきりなしにメールマガジンが届き、サービスを退会した経験があるひとも多いでしょう。
そのため、単に数値だけを見て施策を打つのではなく、カスタマーエンゲージメントの視点からリテンションレートを向上させることが重要です。
カスタマーエンゲージメントは、長期に渡って関係を築くことを目的に、ユーザーの行動タイミングごとに顧客の期待を超える体験を提供するマーケティング手法です。カスタマーエンゲージメントを推進していくうえでもリテンションレートは重要な指標で、サービスの成長に欠かせません。
なお、カスタマーエンゲージメントの向上には以下の2点が必要とされます。
分析・効果測定のためのデータ取得
PV・CVRなどのデータから打ち出す施策には限界があります。それぞれの数値に合わせて施策を打ち出すと、施策の一貫性がなくなり顧客の興味関心を高めにくくなってしまいます。また、施策の一貫性がないと抽出したデータもあまり意味のないものになってしまいがちです。
そのため、どのような目的で施策を設定し、どういった分析・効果測定を行うかをあらかじめ設定したうえで、データを取得することが重要です。
施策をスピーディーに実行するための体制
カスタマーエンゲージメントの施策の効果的な運用方法は、マーケティング担当者だけで回せる小さな施策を繰り返すことです。本来であればマーケティング担当者とデザイナーやエンジニアが連携をとって施策を打ち出しますが、部署内でリソースが偏るなど課題点が多く、効率的な運用ができません。
マーケティング担当者だけでスピーディーに施策を回し成果を出す体制作りは、カスタマーエンゲージメントの向上のみならず、社内で新たな予算を確保することにもつながっていくでしょう。
リテンションレートを高めるための具体的な施策
具体的にカスタマーエンゲージメントを基にしたリテンションレートの高め方をいくつかご紹介します。
1.初回利用・初回来訪時のチュートリアルの実装
ユーザーにサービスの使い方や価値が伝わらなければリテンションレートは下がってしまいます。解決策として、サービスの初回利用時のチュートリアルを実装する方法があります。
チュートリアルを作成する際には、このサービスを利用するとどんなメリットをユーザーにもたらすことができるかをしっかりとアピールすることが重要です。
2.アプリ内メッセージ・Web接客によるメッセージの配信
アプリ内メッセージ・Web接客とは、アプリ内やWebサイト内で、ユーザーのアクセス状況やアクションに合わせてメッセージを表示することです。ユーザーを上手く誘導できるように、ユーザーのアクションに合わせてメッセージを送信することで効果を発揮します。
ユーザーを上手く誘導できるように設計されたメッセージは、サービスのリテンションレートの向上にも貢献することがわかっています。
3.プッシュ通知・リッチプッシュ通知によるメッセージの配信
プッシュ通知・リッチプッシュ通知は、ユーザーがサービス・アプリを利用していないときでもユーザーにメッセージを配信できる機能です。単なるアクティブユーザー数の向上を目的とした通知ではなく、あくまでもリテンションレートの向上が目的なので、パーソナライズされた通知内容には工夫が必要です。
4.パーソナライズされたメッセージの配信
位置情報やデモグラフィック情報、購買・利用履歴などを用いて、各ユーザーにパーソナライズされた通知はとても利便性の高いものです。最近の調査ではパーソナライズされたメッセージがユーザーのリテンションレートの向上に役立っていることがわかっています。
パーソナライズメッセージはモバイルユーザーとのコミュニケーションにおいて強い効果を発揮します。
5.離脱を事前予測して対策
ユーザーがサービスから離脱することを事前に予測し、離脱を防止する施策を実行することは、リテンションレートを向上させることにつながります。
また、ユーザーの離脱の事前予測はカスタマーエンゲージメントにも関わってきます。想定以上にユーザーの離脱が予測されるのであれば、サービスのカスタマーエンゲージメントが高まるような施策を行いましょう。
6.リマーケティングによる復帰促進
1度サービスから離脱してしまったユーザーにもう1度サービスを利用してもらうことは容易ではありません。この場合もカスタマーエンゲージメントの見直しや、ターゲティングの精度などのリマーケティングが必要となるでしょう。
リマーケティングを行う際には、ユーザーの行動や興味・関心などをもとにターゲットを細分化し、各ターゲットに最適な新たなリテンションの方法を定めましょう。
7.A/Bテストによるエンゲージメントの向上
リテンションレート向上のために、マーケティング活動の良し悪しの測定にA/Bテストを用います。A/Bテストを使えば、例えばメールマガジンなどでメッセージを2パターン送信し、どちらのメッセージのエンゲージメント率が高いかを数値で判断できます。
送信したメッセージのエンゲージメント率の高さはリテンションレートの向上に直結します。
8.シームレスなサービス体験の提供
サービス全体を統括したシームレスなマーケティングがリテンションレートを向上させることにつながります。
例えばプロモーションの際には、サービスサイトやアプリなどサービス全体への導線を用意することがシームレスな体験につながり、リテンションレートの向上に効果的です。
カスタマーエンゲージメントプラットフォームの有用性
ここまでマーケティング活動を中心的としたカスタマーエンゲージメントを高める方法をご紹介しましたが、そのうえで強力な味方となるツールが「カスタマーエンゲージメントプラットフォーム」です。
カスタマーエンゲージメントプラットフォームは様々な行動データをもとに1対1のコミュニケーションを実現するプラットフォームです。
必要な設定を行うだけで、ユーザーにパーソナライズされたメッセージを送信したり、広告を配信したりできます。また、レコメンドエンジンをはじめとする各種ツールとの連携を活用して、カスタマーエンゲージメントを高める各種施策のバックアップをすることが可能です。
テクノロジーは日々進化しているため、サービスを提供するためのマーケティングの手法も日々進化しています。従来のように、多くのリードを獲得し続けるビジネスモデルでは息切れしやすく、効率も良くありません。今後も既存の顧客との関係を強化し、質を高めていく取り組みは増々大切になっていくでしょう。
今回ご紹介したリテンションレートの考え方を参考に、ぜひ効率的にサービスを改善してみてください。