「変化しながらも、本質は外さない」 #NEWWORLD2020 ニューバランス ジャパン 鈴木氏、inquire Inc モリジュンヤ氏

Repro Journal編集部
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2020.05.01
「変化しながらも、本質は外さない」 #NEWWORLD2020 ニューバランス ジャパン 鈴木氏、inquire Inc モリジュンヤ氏

目次

株式会社ホットリンクが主催するマーケティングカンファレンス「#NEWWORLD2020」が、2020年4月22日~5月1日にかけてオンライン開催されています。コロナショックが経済活動に大きく影響を与えるなかで、これからのマーケティング戦略をどう再構築すべきか、示唆に富んだ内容となっています。

今回のイベントレポートでは、ニューバランス ジャパン 鈴木氏、inquire Inc モリジュンヤ氏がゲストとしてご登壇されたセッションをまとめてお伝えいたします。

PROFILE

飯高悠太氏

株式会社ホットリンク 執行役員CMO

広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、50社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。2019年より株式会社ホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施。

鈴木健氏

株式会社ニューバランス ジャパン マーケティング部 ディレクター

1991年広告代理店の営業としてスタートし、I&S/BBDOでストラテジックプランナーを経て消費財メーカーのマーケティング企画および調査を担当。2002年ナイキジャパンでナイキゴルフの広告、Web, PRを担当し、その後同社でウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験。2009年にニューバランスに入社し、ニューバランスブランドのPRおよび広告宣伝、販促活動全般を手掛ける。一般社団法人マーケターキャリア協会 理事。

モリジュンヤ氏

inquire Inc CEO

1987年生まれ、横浜国立大学卒。2010年より「greenz.jp」編集部にて編集を担当。独立後、「THE BRIDGE」「マチノコト」等のメディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に執筆活動を行う。15年、編集デザインファーム「inquire」を創業。ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」の立ち上げ、社会をアップデートするクリエイティブポータル「UNLEASH」を創刊する。メディアやプロジェクト、組織の編集に取り組む。株式会社アイデンティティ共同創業者、NPO法人soar副代表、NPO法人マチノコト理事。

「ニューノーマルを見い出し、提供価値を再考する」 登壇ゲスト:株式会社ニューバランス ジャパン 鈴木氏

素早いソーシャルアクションは自己肯定感につながる

鈴木氏

ー コロナショックはどのような影響を与えていますか?

鈴木氏(以下、鈴木):ニューバランス社では、最初に中国の話が出て、その次に日本への影響の話が出ましたね。ただ、感染者が増えたのは北米やヨーロッパが先だったことから、アメリカ本社が先にアクションを取り始めて、日本もアメリカに追随する形でアクションを取り始めました。

アメリカ本社の取り組みで面白かったのが、最初は中国への寄付が中心でしたが、自国で感染が広まると医療従事者への支援や靴を生産している工場でマスクを作り出したということです。

マーケティングとして、消費者にちゃんと伝わっていくようにSNS活用やクリエイティブにもこだわって、見せびらかすのではなく、ちゃんと消費者に真摯に伝わるように広告ではなくSNSを活用したことはポイントだったと思います。

ー マスクを生産するという意思決定はどれくらいのスピードで決まったのでしょうか?

鈴木:私も後で知ったのですが、アメリカの感染者が増え始めた時期にすぐ実行したので、決断はかなり早かったと思います。

この動きは会社に所属する人間としてかなり自信になりましたね。社員向けのフィロソフィーがちゃんと浸透していて、社会が困っている時に自分たちの価値を自問自答して、アクションができるのは自己肯定感につながりますよね。

このようなリーダーシップも大事なんだと改めて感じました。

ー 店舗は閉まっていると思いますが、ECはどうでしょうか?

鈴木ECは全体的に伸びていますね。特にマスクや生活必需品はホットアイテムです。ただ、スポーツブランドやアウトドア用品などは購入されにくくなっています。

ー 日本ではあまりECが普及していないように感じますが、いかがでしょうか?

鈴木:日本の場合は、テクノロジーが追いついていないということよりも、日本人が生鮮食品に対する目が厳しいこととスーパーなどが充実していることが原因のように感じています。

ただ、今後はECとしてのキャパシティは広がる可能性があると思います。これまでオンライン化は手段のひとつでリアルには勝てないと思われていましたが、領域によってはオンラインの方が効率的で便利だという認識が広まっています。

お店に行けないという状況においては、購入前にどのような情報を提供すべきかという戦略を今こそ考える必要があると感じています。

「ニューノーマル」を意識して、リアルに繋げるオンライン施策を考える

ー 「 withコロナ」や「afterコロナ」という言葉をどう捉えていますか?

鈴木:それらの言葉よりも、社内のキーワードとしては、「ニューノーマル」という言葉がよく使われています。これは元に戻らないという前提で、今後に起こる変化を考えて、追随していくという発想です。

例えば、スポーツ業界では試合ができない状況ですが、選手のプライベート情報などをSNSを通じて発信していくという取り組みが増えています。

ただ、試合の代替手段としてのオンラインコミュニケーションだけでなく、リアルの試合に行きたくなるようなオンラインコミュニケーションが強化されていくのではないかと考えています。試合前にライブ配信でファンとつながるみたいな。

これまでオンラインコミュニケーションはオマケのような立ち位置でしたが、試合への来場を促すなどのリアルの価値と結びつけるオンライン活用が発展すると考えています。

ー これは他の領域でも広がりそうですよね

鈴木:そうですね、最近面白いなと思った取り組みとして中国でライブ読書というアクティビティがあります。本屋や作者がオンラインでその本に関する情報発信をすることで、消費者に伝わって、価値が広がることで売り上げにもつながっているそうです。

こういう取り組みは日本でも取り入れられるなと考えています。

「サスティナブル」と「レジリエンス」を意識し、提供価値を見つめ直す

ー 生き方とか働き方はどのように変化していくと考えていますか?

鈴木:若い人に特に言いたいのは、リモートワークは自由度が高いですが、その代わりにセルフコントロールが求められる時代になるということです。

自由な時間が増えることで、副業が増えると考えており、これは良い変化だと考えています。ただ、個人としての自己管理や責任が増え、また自分で意思決定をすることも求められるようになります。なので、自由と責任のバランスが大事になり、ちゃんと自覚しておく必要があると思います。

ー 仕事のパフォーマンスが可視化されていきそうですよね

鈴木:会社によってはリモートでの管理が強まりますし、批判もあったりしますが、これは他の人に言われてやるのか、自分でやるのかの違いでしかありません。どちらかというと、自分の生産性の高い時間を把握して、そこに重要度の高い仕事を持ってくるみたいな自己管理が必要になります。

これまで受動的に仕事をやっていた方々にとっては、意識を変えなければいけない時代がやってきていますね。

ー 企業の面から見ると何が求められるようになるのでしょうか?

鈴木:企業として大事なことは、このような世の中だからこそ、「サスティナブル」と「レジリエンス」のふたつの要素が大事になると考えています。

前者は、いわゆる持続可能性で、企業や社会が長く続いていけるのかということで、後者は、企業としての回復力や生き残るために柔軟に対応できるかという意図で使っています。事業を安定させるためには無駄を省くことは大事ですが、無駄がなさすぎると危機下で柔軟な変化が難しくなります。

なので、このふたつが大事だと思います。あまり良くない例ですが、タピオカ屋がマスクを販売するのは商魂たくましいですよね。笑

ー その観点だと、「オールユアーズ」はブレてないですよね

鈴木:そうですね。店舗は閉まっているけど、オンラインで自分たちの価値を追求できているし、その中でも本質は変わっていない。例えば、サンプルを送るだけではなくて、ちゃんとフィッテングまでできるみたいなこだわりが凄いです。

D2Cは表面的な部分で判断されることが多いですが、芯にある思想が大事だなと思います。

ー 思想が意識され始めると、企業のマーケティング活動は変わりそうですよね

鈴木:悩ましいですよね。笑 ただ、今は新規顧客よりもロイヤル顧客や既存ユーザーを大事にすべきですし、ブランドとしてのアクションは企業の気持ちが見えるので良いと思います。また、このようなアクションを通じることで社員の安心にもつながります。

このことを踏まえて、以下の3つの視点で考えていくことが大事だと考えています。

まずは、企業やサービスの思想をマーケターが収集して、発信することが大事です。コミュニケーションのエキスパートとして、まずは社員に伝えて、次に顧客に伝えるというコミュニケーションを取るべきです。

次に、これまでの価値提供を見直して、どのような価値提供をしていくのか考えることが求められます。この価値提供を考え直す際には、その価値を分解してみることをおすすめします。例を挙げると、レストランが店舗の営業を自粛する中でも、事業を継続するために料理という提供価値の中で、人に広く伝えられるレシピを公開するというようなアクションなどが考えられます。

そして、最後に変わった世界で生き抜くためにどのような価値を創造するのかを考えなければなりません。前のふたつは今を生き残るための考えですが、3つ目は長期的な視点での発想です。

今後は、よりアイデアを出すことが求められますし、若い人たちの思いもよらない発想が増えていくと考えています。

若い人の新しいアイデアに期待したい

ー 最後に、参加者の皆さんに向けてメッセージをお願いします!

鈴木:最近、若い人と話して面白かったことがあります。彼らは、遊園地が閉まっている状況でどう楽しむかと考えた結果、Youtubeからアトラクションの動画を見つけて、その動画をみんなでシェアしながら見るということをやっていて、新しい楽しみ方を発見したりしています。

こういう状況で普段やらないようなことをやる機会は増えている中で、このようなアイデアを出せるのは、先ほども話しましたが若い人の方が強いよなと感じています。

なので、皆さんに色んなアイデアを考え、実践してもらって、私はそういうアイデアに乗っかっていきたいですね。笑

「今こそ習慣の再構築を」 登壇ゲスト:inquire Inc モリジュンヤ氏

オフライン→オンラインの切り替えは、コミュニケーション方法も変化させる

モリ氏

ー コロナショックはどのような影響を会社に与えていますか?

モリジュンヤ氏(以下、モリ):今のところ大きな影響はありません。もともと、フルリモートかつフルフレックスでミーティングの時だけ集まるという感じだったので、働き方の変化はありません。

ただ、取材の方法は変わりましたね。オンライン取材で対応することがほとんどですし、イベント取材などはそもそも今なくなっていて、今後はオンラインイベントへの取り組みに対応していく感じかなと思います。

ー オンラインでの取材での注意点はあったりますか?

モリ:ちょうど最近チームで話したのですが、基本として通信環境が大事です。通信エラーはやはり起きるのでリスクヘッジすることが必要不可欠だと思います。

また、一番大事なのはアイスブレイクだと感じ始めています。オンラインだと普段の状態からいきなり取材モードに入るのが難しいので、話が進みやすいように工夫しています。他にも、話の途中でこれまでの話をまとめるみたいなことも意識的にやるようになりましたね。

あとは、オンラインならではの取材方法を見出したいと考えています。対面取材をそのままやるのは正直無理です。なので、例えば、オンラインミーティングは目が合わないので、共通で見る場所を作ったりしていて、質問項目を一緒に見ながら話して、内容をリアルタイムで共有するみたいなことはやりやすいなと感じています。

ー むしろ、オンライン取材の方がコンテンツの深みが出るのかもしれませんね

モリ:たしかに、論理的な話を深めていくのはオンライン取材はやりやすいです。一方で、感情に寄り添うようなエモーショナルなインタビューは試行錯誤しています。やはり、対面の方が感情みたいな部分はまだ進めやすいですね。

もしかしたら、ビジネス系のコンテンツはオンライン取材の方が向いているのかもしれません。

自分の習慣を再構築するチャンスだと考える

ー 「withコロナ」や「afterコロナ」という言葉をどう捉えていますか?

モリ:当たり前が変わっていく瞬間であるなと考えています。当たり前が崩れるタイミングで、本来の目的や幸福度を上げるために何をやるべきかなどを考える機会だと捉えています。

個人的には、何もしなければ当たり前は意外と変わらないと考えています。例えば、震災でもちろん変化したことはありましたが、あるべきではない姿に戻ったものもありました。

なので、「こういう風にしたい!」と考えて、そのための習慣の再構築が求められると思います。新しい行動を習慣にすることが、「withコロナ」でやるべきことなのではないでしょうか。

たしかに、習慣の再構築はこのようなタイミングだからこそ考えるべきかもしれません

モリ:加えて、やらないことを考えることも大事だと思います。やることをひたすら考えるだけではなくて、立ち止まって何をやらないかを考えるという価値観も大切です。

例えば、習慣をどう作っていくかを考える際に、今は情報が溢れていて思考の妨げになることも多々あります。鳴りやまないプッシュ通知はその一例ですよね。

そう考えると、個人も会社も目標を決めて、達成するための「やるべき習慣」と「やらない習慣」を確立することが求められているように感じます。また、目標とあわせて自分たちの価値を見直すことも大切ですね。

ー なるほど。そうなると、生き方や働き方も変わっていくのかもしれません

モリ:私は早い段階からリモートワークを取り入れてましたが、どこでも働けるというコンセプトに共感している人が増えており、時代としても求められているという時間があります。

だからこそ、会社ではよくセルフマネジメントの話をします。よくインターネットからインナーネットという言葉を使うのですが、自分の中での変化に着目して、疲弊しやすい状況を回避できるようになっておくことが大事です。

そのために、自分のリテラシーをどう上げるのかについて、意識しなければなりません。今後はオンライン情報がさらに増えていきますが、それは自分への負荷が上がることにつながります。なので、取捨選択ができるリテラシーを身につけることが求められますよね。

また、個人としての多面性をどう作るかも大切です。今のスキルが来年に通用するか不明な時代において、学習すること、新しいことにアジャストしていくことを意識しなければなりません。スキルの幅広さや柔軟性は個人としても最近より考えるようになっています。

ー 今後はより生活と仕事の境目が曖昧になりそうですね

モリ:そうですね。生活と仕事のモードチェンジの作り方を確立するのか、切り替えない生き方をするのか。この最適化は進みそうですよね。

個人的には、仕事と生活の線引きをやらないのですが、やっぱりオンの状態でずっといるのは疲れます。そこで、オンとオフの状態把握を自分なりにできるように意識しています。自分の集中度合いを観察するのとか大事です。

多少の無理は成長という観点では大事になりますが、際限なくやれる人はほとんどいないので、失敗しながら身につけていけば良いのではないでしょうか。少なくとも、自分の状態に関心をもたないと辛いですし、我慢を続けると爆発した時に影響が大きいので、自分と対話していくことから始めるのがおすすめです。

メディアと読者の関係性も変わっていく

ー 少し話を変えますが、メディアとかコンテンツの在り方はどうなっていくと考えていますか?

モリ:今まではメディア側でコンテンツの価値をかっちりと決めてプッシュして伝えていくことがメインだったと思いますが、今後が受け取った人によってメディアやコンテンツの価値が決まるようになってくると考えています。

受け取り側への余白を残して、受け取った人の解釈によって能動的に動くみたいな。これは関係性の作り方の話になりますが、そういう余白は大事になっていくと思います。

あと、メディアとしてアイデンティティを考えるのは大事ですよね。直近のアクションの早い人たちはそういう存在理由に向き合ってきた人たちだと感じています。

ー そう考えると、誰が情報を発信しているのかも重要性が上がりそうですね

モリ:私もそう思います。例えば、海外の新興メディアは、すでに誰が語っているのかをより強く出しています。これは完璧な発信者はいなくて、どうしても発信側が考えている背景や何かしらのバイアスがあるという前提があるからです。

そこから、ユーザーのリテラシーが上がっていくことで、この背景やバイアスがわかるようになってくるので、どの立場からどういう人が発信しているのかは重要度が上がりますよね。

実際に、私は10年くらい新しい働き方をやってきているので、働き方の発信をした際に受け取り側としても、僕のキャリアという文脈は少なからず影響を受けると思います。

このような観点を取り入れることで、メディアは読者からのエンゲージメントを高めることができるはずです。

ー 最近で良かったメディアはありますか?

モリ:具体的な例ではないのですが、ある新興メディアがスロージャーナリズムをコンセプトにしているのは良いなと思います。もちろん、正しい情報を調査して伝えることが大事ですが、意外と事件性の高いようなニュースなどは精神的に疲れるんですよね。

なので、落ち着いてアクセスできることにフォーカスをして発信をしていくことは時代に合っているのかもしれません。スローな発信は意識すべきだと考えています。

自分と社会の“well-being”を両立する

ー 最後に、参加者の皆さんにメッセージをお願いします!

モリ:より良い世界を実現するために、自分が何をするのかが大事です。私は「少数の市民が影響力を持つことで、社会は変わっている」というような言葉が好きで、これを意識しながらアクションを色んな人が起こしてくれると良いなと考えています。

社会のために自分が疲弊するのも違うと思うので、自分にとっての「ウェルビーイング (Well-being)」と「社会的なサステナビリティ」を両立することが大切だと思います。

「変化に対応しながらも、本質を外さない」 モデレーター:飯高氏

ー 最後に、私からおふたりのお話を振り返りつつ、まとめることができればと思います。

鈴木さんのお話では、まず会社としてのブランドアクションの背景の重要性をお伝えいただきました。また、元には戻らないという発想で「ニューノーマル」を見据え、リアル価値の向上とオンライン活用との連動を意識することが大事であること、加えてセルフコントロールの重要性についてもお話いただきました。

モリさんのお話からは、オンラインシフトによって取材面ではメリットがあったこと、また、何もしなければシフトすることはないから、自分たちで考えることが大切だとお伝えいただきました。さらに、良くなる世界に向けて、個人としてのアクションが大事になっていくことにも触れていただきました。

加えて、おふたりに共通していたのが、変化に追随しながらも本質を外さないことが大事であるということだったと感じています。

ー 参加者の皆さん、ご視聴いただき、ありがとうございました!

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