実店舗やネットショップ、アプリなど、顧客と接点を持つ複数のチャネルを互いに連携させてアプローチする「オムニチャネル」という考え方が注目されています。
現代のマーケティング戦略の中心になりつつあるオムニチャネルですが、その概念をしっかりと理解していないと、どのような効果を期待できるのかがわからないものです。本ページでは、オムニチャネルの基礎知識を誰にでもわかりやすく、詳しく解説し、メリットや成功の秘訣についても紹介します。
オムニチャネルとは?言葉の意味と概念を理解する
オムニチャネルとは、Webサイトやアプリ、SNS、店舗、電話などの様々なチャネルを連携させて、顧客が好きなチャネルで商品やサービスを購入できるようにするマーケティング戦略のことです。
インターネットの普及により、ECサイトで様々な商品やサービスを購入できるようになりました。その中で生まれてきたのが、店舗で商品に触れ、店舗スタッフの説明を聞いたうえで、店舗ではなくより安いECサイトで購入するという購買行動です。結果として、多くの小売店が販売機会を失ってしまっていました。
この問題を打破するために、大手企業が中心となって店舗とインターネットを統合した販売システムの構築を進めました。顧客に各チャネルの垣根を感じさせず、スムーズな購買体験ができるように、戦略的に販売するシステムがオムニチャネルです。
■オムニチャネルが実現する顧客とのコミュニケーション
オムニチャネルの実現により、顧客は自分を取り巻くあらゆるチャネルから、利便性や好みに応じて商品・サービスの購入方法を選択できるようになる。
オムニチャネルが実現すると、次のようなことが可能になります。
ある顧客が店舗で商品を探していたところ、目当ての商品が売り切れていました。しかし店舗のスタッフに確認すると、そのブランドのECサイトには在庫があるようです。そこで、顧客は店舗でその商品の支払いを済ませ、ECサイトから自宅へ商品を発送してもらうことにしました。
この例では、実店舗とECサイトの垣根を顧客に感じさせることなく、スムーズな顧客体験が提供されています。ECサイトの在庫情報が店舗に連携されていたことで、ユーザーにそのことを伝えられ、さらに店舗で支払いや発送手続きを行えたことで、顧客を逃してしまうリスクを抑えることができています。もし顧客が帰宅してからECサイトで購入することになっていたら、購入を先延ばしにするリスクや、別店舗のECサイトで購入してしまうリスクがありました。
オムニチャネルが生まれた背景
オムニチャネルという言葉が世間に広まるようになったのは、2011年にアメリカの百貨店Macy’s(メイシーズ)が行った取り組みがきっかけです。当時アメリカの百貨店は、AmazonをはじめとするEC市場拡大の影響を受けて、店舗のショールーミング化が進行するなど、長らく営業不振に悩まされている状況にありました。
Macy’sは膨大なシステム投資を行い、店舗と自社ECサイトの差をなくし、あらゆる情報を一元管理することで、顧客のニーズの取りこぼしを防ぐことに成功しました。オムニチャネル化によってブランドの優良顧客の増加だけではなく、企業全体の在庫整理と売り場の効率化が促進され、結果的に企業利益が以前とは見違えるように向上したのです。
O2Oとの違い
オムニチャネルと間違えやすい言葉に「O2O」がというものがあります。O2Oは、「Online to Offline」の略語で「On2Off」と表現されることもあり、その名の通りオンラインからオフラインの店舗に誘導することに重きを置いた考え方です。例えば、ECサイトを使う顧客にクーポンやお得情報を提供して、実店舗での購入を促すといった施策がO2Oにあたります。
O2Oは、売れ行きの思わしくない店舗などに顧客を誘導することで販売促進を実現するのに対し、オムニチャネルは顧客との接点を複数持ちながら、顧客体験に一貫性を持たせる販売活動。O2Oとオムニチャネルではアプローチがまったく異なります。
■O2Oで実施される顧客とのコミュニケーション
O2Oはあくまで、オンラインに存在する顧客をオフラインへと誘導することを目的としたマーケティング施策。顧客体験の一貫性は担保しないケースが多い。
マルチチャネルとの違い
「マルチチャネル」という言葉も、近年使われる機会が増えています。マルチチャネルとは、複数のチャネルで顧客との接点を持つことを示す戦略です。つまり、「店舗だけ」「ECだけ」と単一のチャネルのみで接点を持つのではなく、店舗も持ちつつ、ECサイトも運営、さらにアプリやSNSも活用するといった形で、複数のチャネルを持つ戦略です。
マルチチャネル戦略によってチャネルが増えれば、その分、顧客との接点も増やすことができます。一方でマルチチャネルには、各チャネル間で情報が独立してしまっているという弱点がありました。例えば、ECサイトの在庫情報と店舗との在庫情報が連携されておらず、どちらかで品切れが発生した場合、もう一方のチャネルに誘導するような仕組みを作れず、結果として機会損失を生んでしまっていました。
この弱点を補い進化させたのがオムニチャネルです。顧客との接点である販売経路を複数持ちながら商品やサービスを販売する点はマルチチャネルと同様です。しかし、オムニチャネルでは各チャネルの情報(在庫情報・顧客情報など)を統合して管理しており、顧客はどのチャネルからでも一貫した顧客体験ができるようになっています。
オムニチャネルを実現するメリット
「顧客接点となる複数のチャネルを連携させ、あらゆるチャネルから顧客に商品・サービスを提供する」のがオムニチャネル。続いては、オムニチャネルを実現することで生じるメリットについて3つ紹介します。
【メリット1】顧客の利便性や満足度の向上
オムニチャネルが実現すると、顧客はあらゆるチャネルから自分に合った方法を選択し、商品やサービスを購入できるようになります。顧客ニーズを捉え、それぞれのチャネルで最適な体験を提供できれば、顧客満足度が向上し、売上アップにつながるでしょう。
例えば、店舗販売の商品が品切れだった場合、顧客は他の店舗に同じ商品を探しに行くか、ECサイトで同じ商品を探して購入するのが一般的でした。しかし、オムニチャネルを実現することができれば、ネットや別の店舗に在庫があるかすぐに確認することができ、後日、商品を配送することも可能です。
オムニチャネルは目的ではなく手段です。顧客に対してどうすれば価値のある体験を提供できるかを考えたうえで戦略を立てることが重要といえます。
【メリット2】ショールーミングへの対策
ショールーミングとは、店舗で商品を見たり触ったりして確認するものの、その場で購入はせず、価格が安価なオンラインで購入するという購買行動です。スマートフォンの普及によってネットで商品を購入する割合が増加している現在は、店舗でのショールーミングが増加し、その対策が課題となっていました。
ショールーミングの対策としては、「オンラインショップの値段に対抗して商品価格を下げる」「顧客がネット購入することを受け入れたうえで、商品についての情報検索のサポートを行う」などの対策案があります。しかし、これらの方法は根本的なショールーミング対策とはなりません。
そこで活用できるのがオムニチャネルです。オムニチャネルを展開することで、「ネットで購入したものを店舗で受け取れるようにする」「店舗に在庫がなかった場合には通販サイトで購入できるようする」など、顧客に合わせた柔軟な販売方法をとることができます。多様なチャネルで顧客との接点を持てるオムニチャネルだからこそできる対策です。
【メリット3】情報管理の効率化による業務コスト削減
オムニチャネルでは、店舗やECサイトの情報が一元管理されます。受発注、在庫、配送に関する情報がまとめて管理されることで、管理業務は大幅に効率化されるでしょう。また、情報の一元管理ができるようになることで、管理システムの維持費が削減され、さらに在庫を適正化することができれば在庫ロスによる損失も抑制できます。
もちろん、オムニチャネルを推進するためにはシステムに一定の投資は必要です。しかし、長期的な視点では無駄を省いてコストカットできる可能性が高いといえます。
オムニチャネルを実現・成功させるためのポイント
ここまで紹介してきたようにオムニチャネルの実現は企業に様々なメリットをもたらします。しかし、その推進のためにはいくつかのポイントを押さえなければいけません。ここでは、オムニチャネル実現のために重要となるポイントを3つ紹介します。
【POINT.1】事前に十分な市況分析や計画策定が必要
事業のオムニチャネル化を進めるには、第一にロードマップの策定が必要です。ビジネスシーンにおけるロードマップとは、目標を達成するまでの工程表のこと。「どこまでをオムニチャネル化するのか」「いつまでにすればよいか」を、プロジェクトの目的とあわせて定義し、社員の役割分担やスケジュール調整を行って慎重に進めていくことが重要です。
オムニチャネル化は全社を巻き込んだ大きなプロジェクトになるため、慎重を期す必要があります。他社の動向や自社の強みなどを明確にし、顧客のニーズや購入時のパターンなど詳細に分析することで、オムニチャネル成功の確実性を高めましょう。
【POINT.2】各チャネルの連携とブランドイメージの統一
サービスやブランドによっては、接触チャネルごとに顧客に与えるイメージを変化させているケースがあります。イメージを統一しないことがプラスに働く場合もありますが、上手に活用しないと顧客に混乱を与えてしまう原因となります。
顧客に混乱を与えないためには、最もブランドの価値を体現したイメージをすべてのチャネルに適用するのが基本です。そのうえで、全体を通して顧客にどのような体験を提供するのかを設計しましょう。設計にあたっては、カスタマージャーニーの策定など、理想とする顧客の購買行動を可視化する必要があります。可視化した内容と、現状の各接点での体験の差異をチェックし、必要な改善を進めていきましょう。
【POINT.3】全チャネルを一元管理できるシステムの導入
オムニチャネル化を実現させるためには、チャネルごとに管理していた今までのシステムを抜本的に見直す必要があります。商品詳細や在庫情報、購入履歴などを一元管理することで、店舗とネットとで顧客に対してシームレスな接客が可能になります。
すべてのチャネルを横断的に管理することができる顧客管理システムは、オムニチャネル化をするためには必要不可欠なツールといえます。また、顧客管理システムでデータを蓄積していくことで、より詳細な分析が可能となり、各ユーザーに最適なマーケティング施策が可能となるでしょう。
オムニチャネルの先を考えることが重要
オムニチャネルという考え方は、顧客接点を可能な限り拡張するためのプラットフォームにすぎません。より深く考えるべきは、オムニチャネルによって何を実現するつもりなのかという点です。目的が不明瞭な状態でオムニチャネル戦略を進めたとしても、ただ顧客との接触チャネルが増えるだけで、理想的な成果を創出することはできないでしょう。
オムニチャネルの先にある顧客体験を常に意識しながら、多様なチャネルを開発していくべきなのです。オムニチャネルという武器をどのように使用し、新たな顧客体験を生み出すのか。OMOや将来のビジネスモデルの在り方を模索しながら、取り組んでいくべきでしょう。