2025年12月18日に施行された「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホ新法)を受け、アプリ外決済や独自IDの導入を検討する事業者は増えつつあります。
ドラマチック恋愛パズルゲーム『スタンドマイヒーローズ』をはじめ、複数のIPを展開する株式会社colyでは、2024年8月にアプリ外決済の仕組みを導入。同時に、サービス横断で利用できる共通ID「coly ID」と、外部決済で利用できるポイント制度「coly point」を立ち上げ、ゲーム内外に広がるユーザー体験をつなぐ取り組みを進めています。
今回は、株式会社coly IP事業本部マーケティング部 マネージャーの森孝信さんに、coly ID・coly point導入の背景や運用の工夫、アプリ外決済を活用した体験設計について伺いました。
オフラインコンテンツも含めた多面的な体験設計。colyのIP事業の特徴と、coly ID・coly point導入の背景

――はじめに、貴社の事業について教えてください。
当社は、女性向けのオリジナルIPを企画・運営しており、2025年現在ではアニメ化もされている『スタンドマイヒーローズ』をはじめ、複数のIPを展開しています。
私たちの事業には大きくふたつの特徴があります。ひとつは、オンラインに限らずオフラインも含めた多面的な体験設計を重視している点です。グッズやカフェ、リアルイベントなどのコンテンツにも積極的に取り組むことで、ゲーム以外でのチャネルでもキャラクターや世界観に親しんでいただけることを目指しています。
もうひとつは、IPをファンの方に長く愛していただけるように育てていく姿勢です。ゲームのサービスが終了した後も、グッズ販売は継続するなど、すべてのお客様に長く楽しんでいただけるブランド作りを大切にしています。
――2024年8月に導入されたcoly IDおよびcoly pointのシステムについて教えてください。
coly IDは、colyの各サービスで共通して利用できるIDで、アプリゲームはもちろん、公式グッズを取り扱うECショップ「coly store」など、他のサービスとも連携しています。
coly pointは、coly IDに紐づくポイント制度です。購入金額に応じてポイントが付与され、1ポイント=1円として次回以降の購入にご利用いただけます。また、累計獲得ポイント数に応じて、最大7.5%のポイント還元を行うなど、継続的に利用していただくための仕組みも設けています。
coly ID・coly pointを利用した課金は、アプリの外にある専用サイトに一度移動して決済する流れになっており、いわゆる“アプリ外決済”として扱っています。
――coly ID・coly pointは、どのような背景から導入されたのでしょうか?
もちろん、IAP(In-App Purchase:アプリ内購入)で我々が負担している手数料の一部をユーザー還元や新たなIPへの投資に充てたいという考えもありますが、IDとポイントの仕組みを導入する最大の目的は「データの共通基盤の構築」でした。
当社では、オンライン・オフラインのさまざまな体験を組み合わせながらIPを展開しています。お客様の消費動向もまた多様で、ひとつのゲームをとことん楽しむ方もいれば、一方でグッズを熱心に集めてくださる方も。なかには、複数のIPを横断して楽しんでくださるお客様も一定数いらっしゃるんです。
従来のデータ基盤では、こうしたお客様ごとの多様な行動を捉えるのには限界がありました。より一人ひとりに合った体験を提供するためにも、共通のIDを起点としたユーザーデータ分析が不可欠だったんです。
このような課題と向き合う中、アプリ外決済に取り組みやすい環境が整いつつあったことも後押しとなり、2024年に導入決定後、同年8月にリリースしました。
試行錯誤の末、安定運用を実現。ポイント限定の特典などで、新しい楽しみ方を提供できるように

――coly ID・coly pointリリースまでの動きについてお聞かせください。
まずは「決済とポイントの仕組みが安定して動くこと」という基本を固めることを最優先に準備を進めました。代表タイトルである『スタンドマイヒーローズ』の周年イベントに間に合わせることを目標にしていたので、スケジュールはかなりタイトでしたが、coly IDチームメンバーと開発ベンダー様が密に連携しながら進めることで、なんとか予定通りのリリースを実現できました。
――リリース後のプロモーションはどのように進めましたか?
正直、最初は思ったほど伸びなかったんです。「これはちょっとまずいぞ」という危機感もあって、考えられる施策はすべて試しました。
Web決済限定の商品やポイント限定アイテムを用意したり、公式SNSのキャンペーンで告知を強化し登録を促したり。こうした試行錯誤の甲斐あって、リリースから3カ月ほど経った2024年11月頃、『魔法使いの約束』の5周年や『ブレイクマイケース』のハーフアニバーサリーのタイミングで、利用者が増え始めた印象です。
2024年8月のリリース以降、徐々に浸透しcoly ID利用比率は好調に推移している(株式会社coly 2026年1月期第3四半期決算説明資料より)
――新しいシステムの導入にあたって、社内で苦労した部分はありましたか?
予想以上に大変だったのが、会計処理です。coly pointのように購入金額と連動して付与されるポイントは会計上の扱いが複雑で、社内フローが固まるまでは経理部門にかなり動いてもらいました。
また、周年イベントのようにアクセスが集中する日は、想像以上にサーバーに負荷がかかります。そのため、どの程度の負荷まで耐えられるのか、事前の確認と調整が欠かせませんでした。外部の決済システムと自社の運用フローをしっかり噛み合わせるまでには時間がかかり、最初は細かい調整に苦労する場面もありましたね。

――リリースから1年以上経ちましたが、現在どのような成果が出ていますか?
coly ID・coly pointを知る人が増え、特にロイヤル層を中心にアプリ外決済を選ぶお客様が増えてきました。IAP比率が下がったことで、利益率にもプラスの効果が出ています。
また、ポイント限定アイテムなどの施策を通してお客様に新しい体験を提供できるようにもなってきています。当社のIPを楽しんでいただく上での選択肢を増やせたことについては、手応えを感じています。
――2025年には、決済手段として新たにPayPalも追加されましたね。
これまでは基本的にクレジットカード決済が中心でしたが、カードを持っていない方や、カード利用を控えている方にも使っていただけるようにしたいと考え、PayPalを導入しました。決済手段の多様化は、今後もお客様のニーズを見ながら少しずつ進めていければと思っています。
coly IDを軸に、より一人ひとりに合わせたサービスを提供していく。共通IDは長期的な成長の基盤

――coly ID・coly pointについて、今後の活用の展望を教えてください。
リリース当初は、何よりもまず「安定して動くこと」を最優先に進めてきましたが、今後はもう一歩踏み込んで、よりパーソナライズしたサービスをお客様に届けていきたいと構想しています。
これまではゲーム内での行動でしかお客様の嗜好を把握できませんでしたが、coly IDの導入によって、グッズの購入やECの利用、複数IPをまたいだ利用など、お客様ごとの体験全体が可視化されるようになりました。
今後は、例えば特定のキャラクターのグッズをよく購入しているなど、「推し」が判断できている方には、そのキャラクターが主人公になるイベント情報をタイムリーに届けるといった形の、より一人ひとりに合わせたコミュニケーションを実現できればと考えています。
また、アプリからサイトへの遷移時に没入感を損なわないようなUX設計にも力を入れていきたいです。当社IPのお客様に限らずですが、ゲームの世界観に浸りたい人は多いはずなので「いかに気持ちを途切れさせずに画面遷移するか?」という点は、今後も妥協せず追求していきます。
――スマホ新法の施行を受け、これからアプリ外決済の導入を検討しているアプリ事業者も多いようです。最後にあらためてアプリ外決済や共通IDの可能性について教えてください。
アプリ外決済は、お客様に新しい選択肢を提供できる施策のひとつです。今はスマホ新法の追い風もあり、還元や特典の設計に取り組みやすい環境になってきていると思います。もちろん、決済代行システムの導入など技術的なハードルはありますが、今は外部ベンダー側もこの領域に注目していて、相談しやすくなっている印象もあります。
グッズやリアル施策を含めてIPを多面的に展開している場合は、お客様の行動を一元的に捉えられる仕組みが今後の施策展開に向けた判断材料にもなります。共通IDなど、顧客データを一元管理できるシステムを今から整えておけば、きっと数年後には大きな財産になるのではないでしょうか。