2020年、全世界で新型コロナウイルスによる感染症が流行しました。大きな困難に見舞われた小売業におけるOMOアプリの現状はどうなっているのでしょうか。
本記事では、株式会社ヤプリ 執行役員CCOの金子洋平氏、トランスコスモス株式会社 常務執行役員 DEC統括デジタルトランスフォーメーション総括責任者の柏木又浩氏を招いて行われた、「アプリマーケティングカンファレンス 2021」の「OMOアプリ 国内外の最新潮流」セッションの内容をダイジェストで紹介します。
※2021年3月16日、17日の2日間にわたって開催された「アプリマーケティングカンファレンス 2021」のセッションをダイジェストでレポートするものです。
コロナ禍によって加速した顧客接点のデジタル化の重要性
セッション冒頭で話が及んだのは、2020年の小売業における最大のトピックであったコロナ禍についてでした。
「コロナの直前くらいから、『D2C』『SNS』『OMO』という3つの言葉が、顧客接点のキーワードだと思ってきました。SNSをはじめとした顧客接点の観点で考えると、コロナ禍に対して迅速に対応できたのは、中小規模事業者のD2Cブランドだったのではないでしょうか」と柏木氏は指摘します。
柏木氏は、「D2Cブランドは、コロナ禍をむしろ追い風として成長してきた気がします」とも語ります。
金子氏も同意する形で、くりーむパンで有名な株式会社八天堂の事例を紹介。
「アプリやSNSでしっかりと顧客コミュニケーションをされている企業なので、コロナ禍により『お店で買えない』という状況になったときにでも、ECでそれまでの数倍の規模の売上を実現できたそうです」「アプリやSNSを使って顧客接点を展開している企業は、コロナ禍にも強く対応できた」と語っています。
株式会社八天堂のアプリの事例(登壇資料より)。
柏木氏、金子氏ともに、D2C、SNS、OMOといったデジタルを活用した顧客接点の強化こそが、コロナ禍を乗り切る原動力になっていたと考えているようです。
海外の最新潮流は「非接触」「データ爆発と収益化」「ハイパーパーソナライゼーション」
国内から海外に目を向けたときに、2020年、小売業において大きな潮流となったのが、「非接触」「データ爆発と収益化」「ハイパーパーソナライゼーション」の3つであると述べたのは柏木氏です。
第一に、Eコマースやストリーミングビデオサービス、リモートラーニングなどの非接触型サービスの急伸に言及。
さらに、コロナ禍において自由に買い物ができない消費者に対応するため、「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」「Curbside Pickup」といった、可能な限り非接触で実現できるサービスが急増。それに伴って小売事業者によるアプリ活用が格段に増えたといいます。
そして、アプリ活用によって企業が手に入れたのが、大量の顧客・購買データ。これが、「データ爆発と収益化」「ハイパーパーソナライゼーション」につながっていきます。
ハイパーパーソナライゼーションとは、多くの場合、
- 大量のデータの新たな入手とAIの活用によって、飛躍的に進化したパーソナライゼーション
- 従来よりも魅力的であり、心地良いコミュニケーションを実現するパーソナライゼーション
という2つの意味合いで使われる言葉だそうです。
ここで柏木氏から印象的な問いかけがありました。
「2021年のNRF(National Retail Federation・全米小売業協会が開催するカンファレンス)のセッションの中で発表されたある調査では、『パーソナライゼーションを、とても嬉しく思う・心地良く思う』という割合が80%を超えていました。日本でパーソナライゼーションされたサービスを受けていて、そんな風に思ったことがあるでしょうか?」
柏木氏自身、「あまりそんな風に思ったことがなくて……」と苦笑いしたほか、金子氏も「日本の方のほとんどは、そうは思っていないのではないか」と述べています。
その理由として金子氏は、日本でパーソナライゼーションが語られる場合、広告など、企業主体で語られる場合が多く、『顧客を喜ばせる』という観点よりも、『商品を売る』という観点が強いからではないかと推測。
両者ともに、「日本におけるパーソナライゼーションも、データを企業に渡すことが生活を豊かにしたり、心地良くしたりことにつながる」という方向に向かうべきだとまとめています。
店舗・ECの役割にも大きな変化、進化するOMOへのアプローチ
このセッションでは、コロナ禍がOMOへのアプローチに軌道修正をもたらしたことも指摘されています。
2018~2019年頃、OMOの文脈において、「店舗はエンゲージメントやブランドエクスペリエンスを構築する主体に変わっていく」という言説が主流でした。しかし、コロナ禍がもたらしたBOPISやCurbside Pickupの普及によって、店舗には、ラストワンマイル領域を担う配送拠点としての役割も加わったというのです。
欧米諸国ほどではないがという前置きがあるものの、日本にもこの流れは押し寄せています。金子氏から紹介されたのは、株式会社プレナスが運営するお持ち帰り弁当「ほっともっと」の事例でした。
BOPISやCurbside Pickupによって、「オンラインで注文して店舗で受け取る」という行動が主流になってくると、「店舗はそれ以上の体験を顧客に提供できなければならなくなる」と柏木氏は述べています。
ほっともっとではアプリを活用して、オンラインで注文し、店舗で受け取るという購買行動を実現しています(登壇資料より)。
OMOのもう一方を担う、ECやアプリといったデジタル領域でも進化が加速しているそうです。キーワードとして挙がったのは「HUMAN COMMERCE」という言葉でした。
柏木氏は、2021年11月にトランスコスモスが提供を開始した、「HERO」というサービスを紹介。店舗のスタッフがオンラインで対面接客をするソリューションで、大幅なCVの増大と来店促進の効果が期待できるといいます。
店舗のスタッフが商品のことを最も理解しているという、接客の原点に立ち返り、リアル店舗のスタッフがオンラインで接客できるようになるHERO(登壇資料より)。
デジタルだけでなく、「人の力を借りる」という観点で、金子氏もスタッフスタートを紹介。実際に店舗で活躍している販売員が、コーディネートを専用アプリからアップロードできるサービスだという。
アップしたコーディネイト経由での売上はスタッフ個人の販売実績として積みあがるスタッフスタート(登壇資料より)。
デジタルと人の力を融合させた新たなOMOへと
最後に金子氏は、HUMAN COMMERCEを深堀する形で、NetflixとAmazonのカスタマーサポートについても紹介。実際にNetflixに問い合わせをしたところ、チャットボットではなく人間が迅速かつ丁寧に対応をしてくれたそう。非常に満足のできる顧客体験だったと語っています。
また、Amazonの問い合わせ画面には「今すぐ電話がほしい」というボタンがあり、このボタンをタップすると、時間を問わず、すぐに通話ができるとのことです。困ったときにとても心強いサービス設計となっていました。
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の流行は、リテールビジネスに多大な影響を及ぼしました。そしてそれは、OMOという文脈にも確実に波及しています。
デジタル一辺倒でも、アナログ一辺倒でもない、デジタルと人の力を融合し、より柔軟かつスピーディに環境変化に対応できる体制とソリューションが求められているといえそうです。