第一印象は重要です。人生においても、モバイルアプリにおいてもそれは紛れもない事実です。ユーザーに継続利用を促せる時間は、インストール後の3日間しかありません。「3日を過ぎると77%のユーザーがアプリから離脱してしまう」。グロースの専門家であるAndrew Chenはそう述べています。
3日間は長い時間に思えるかもしれません。しかし、アプリのライフタイム全体を考えるとそれはごくわずかな時間です。正しい手順で優れた「オンボーディング」を提供することでしか、この厳しい統計数値を乗り越えることはできないでしょう。この記事では第1回としてオンボーディングの役割と重要性について解説していきます。
アプリのオンボーディングとは
「オンボーディング」は初めてアプリを利用するユーザーを歓迎するためのステップです。目的はたったひとつ。できるだけ早くアプリを使ってもらい、その魅力を体感してもらうことです。そのため、オンボーディングは3つの分野にフォーカスして施策を組み立てます。
チュートリアル
第一は「チュートリアル」です。オンボーディング手法の中で最も一般的で、かつ重要な役割を果たしています。適切なチュートリアルを設計できないと、ユーザーがアプリの使用方法を理解できず、離脱する可能性が高まってしまいます。
チュートリアルをどれだけ丁寧に行うべきかはアプリの性質によって異なります。独自の機能や斬新なUIを採用している場合は、より詳しく丁寧なチュートリアルを取り入れたオンボーディングが効果的です。
例えば、「YNAB(個人向け予算管理アプリ)」は独自の予算管理方法を採用しており、オンボーディングの過程で詳細な説明とガイドを提供しています。
出典:YNAB
とはいえ、ここまで詳しいオンボーディングを必要とするアプリはなかなかありません。ほとんどの場合は、アプリを利用することによって享受できるメリットをユーザーに紹介するだけで十分です。メリット訴求をするオンボーディングは、下の画面のようにシンプルなほうが良いでしょう。
出典:Just in Mind
セットアップ
オンボーディングは「セットアップ」の役割を担う場合もあります。アカウントが必要なアプリの場合、オンボーディングはユーザーがアカウント作成をする場にもなるのです。離脱を防止するためのアプローチとしてはソーシャルログインがおすすめ。既存のSNSアカウントや携帯電話番号でアカウントを作成できるようにしておくのです。
出典:UP Labs
パーソナライズ
最後に焦点を当てるのはパーソナライズされたUX(ユーザー体験)の提供です。オンボーディングは、プッシュ通知の許諾やカメラのアクセス許可など、UXを最適化するための情報収集の場としてうってつけです。
例えば「Quora」は、ユーザーに適切なコンテンツを届けるための情報として、オンボーディングで興味・関心をたずねています。
出典:Appcues
もちろん、すべてのアプリで理想的なチュートリアル、セッティング、パーソナライズを実現しなければならないかというと、そうではありません。お天気アプリのように使い方がシンプルなアプリの場合、チュートリアルが必要ないこともあるでしょう。
どのようなときにオンボーディングは必要になるのか
「どのようなケースでオンボーディングが必要なのか」。この質問に対する答えは簡単です。「常に」です。どんなアプリであってもオンボーディングを行う意味はあります。
もうひとつ問いを重ねてみましょう。「オンボーディングはどのくらい丁寧に行うのがよいのでしょうか」。オンボーディングは複雑、丁寧過ぎないレベルに調整することが重要です。設定を誤ると、メリットよりもデメリットのほうが大きくなってしまうのです。
下のグラフに示したClutchによる調査結果を見てください。わずかな時間の差でユーザーのフラストレーションが倍増してしまうことがわかります。
■オンボーディングの時間とユーザーが感じるストレスの関係
出典:Clutch
経験から述べるなら、アプリが複雑でユニークなものであるほど、オンボーディングのプロセスは丁寧である必要があります。しかし、「丁寧さのレベル」には慎重を期すべきです。いくつかの事例を紹介しましょう。
検討のポイントになるのは、アプリの操作方法やUIの独自性です。例えばアラームアプリ「Rise」は、既存のアラームアプリのようなUIの代わりに、独自の操作方法を採用したミニマルUIを採用しています。したがって、オンボーディングを通してアプリの操作方法を理解してもらう必要があります。
出典:Apptentive
もうひとつの事例は「Todoist」です。ToDoアプリというコンセプト自体に目新しさはありませんが、その操作方法が他のアプリとは異なるため、理解するためには十分な説明が必要となっています。
出典:Todoist
アプリを使用するためにユーザーデータが必要な場合にもオンボーディングは必須です。このことはフィンテックアプリをイメージすればすぐにわかるはず。フィンテックアプリは、ユーザーの個人情報や預貯金等の情報を必要とすることが多いからです。セキュリティや認証の設定には、より複雑なオンボーディングフローが必要になるかもしれません。
出典:Simform
株式取引アプリはオンボーディングの過程で、コンプライアンスの目的でユーザーを審査する必要があります。例えば、「eToro」のオンボーディングには、ユーザーの投資経験を評価するために設計されたクイズが含まれています。ユーザーが十分に理解している機能のみを解放し、必要以上に高額な取り引きができないような工夫が施されているのです。
出典:Trade the Day
適切なオンボーディングのレベルを判断できないのならこの定義に立ち返りましょう。「オンボーディングではアプリの使い方を学ぶ時間を最小限に抑えなければならない」。もし、数個のスプラッシュ画面がその役割を果たすならそれで十分です。
なぜオンボーディングが重要なのか
オンボーディングはアプリのリテンションとエンゲージメントを向上させる重要な戦略のひとつ。特にアプリを利用し始めて1週間を重要視すべきです。アプリデベロッパーは下のデータのような状態に陥らないために、適切なアプローチを採る必要があります。
■優れたオンボーディングが必要な理由
出典:DECODE
- ユーザーの80%はアプリをアンインストールする
- アプリを11回以上利用するユーザーは32%しかいない
- アプリの約25%は一度しか起動されない
ユーザーの80%はアプリの使いづらさが原因で離脱します。このような状況を回避するためにオンボーディングでユーザーに事前知識をつけてもらうのです。優れたUXを組み合わせることで、ユーザーはアプリの自在に使いこなせるようになるでしょう。
ただし、オンボーディングを単なるチュートリアルと捉えるのは間違いです。アプリの価値をより明確に訴求することで、ユーザーを惹きつけることができるからです。アプリの価値に気づくことができれば、ユーザーはより積極的にアプリを利用してくれるはずです。
FramedのLesley Park氏はアプリの利用初期に関してこんな表現をしています。
ユーザーがアプリの内容やメリットを瞬時に理解できなかったり、最初の体験が悪かったり(起動に時間がかかる、インターフェイスが不便など)した場合、最初から唯一のチャンスを棒に振ったことになる。
「Upland」がオンボーディングに注力した結果、リテンションレートが50%も上昇した事実を考えると、この言葉を疑う余地はないでしょう。
オンボーディングは、UXを向上させる機能の設定にも利用できます。例えば、プッシュ通知はユーザーとの間に信頼を育み、継続的な関係を生み出すことができます。問題はユーザーが大量に送られてくるプッシュ通知に警戒心を持っていることです。実際、アプリをアンインストールする理由の第1位は煩わしい通知を受け取ることとなっています。
結果として、プッシュ通知の配信について許可を得ることは重要でありながら、とても困難なステップとなってしまっています。しかし、オンボーディングの際にプッシュ通知を受信することの利点を正しく説明できているなら、オプトインの可能性は格段に高まるでしょう。
出典:Telerik
オンボーディングの役割はまだまだあります。特に強調しておきたいのが、オンボーディングによって「マジックナンバーを実行してもらう」というものです。マジックナンバーを実行することでユーザーはアプリの価値を認識できるようになり、アプリを継続利用する可能性が高まります。
もちろん、マジックナンバーはアプリによって異なります。ひとつだけ確かなことがあるとすれば、下記の有名アプリにおいても、マジックナンバーを達成してもらうためにオンボーディングが重要な役割を果たしているということです。
■代表的なアプリのマジックナンバー
出典:Parsa.VC