Tinderのプレミアムプランの価格設定はなぜ受け入れられたのでしょうか。
Tinderは年齢層の高いユーザーにより高い金額を設定していました。著名な出会い系アプリであるTinderはプレミアムプランに堂々と進出したのです。このよくできた出会い系アプリTinderのプレミアムプランを我々Price Intelligentlyは「ねっとりとしたプレミアム体験」と呼んでいます。
ユーザーはプレミアムプランによって世界中の誰に対しても左右にスワイプを行うことができ、プレミアムプランによって気持ちさえも変化してしまいます。全ては課金がもたらすものです。Tinderを知らない読者の方は話についてこれていないかもしれませんが、一般的な出会い系アプリをイメージしてもらえれば大丈夫です。
たいていの場合、30代以下のユーザーに支持されている無料の出会い系アプリは何かしらのプレミアム機能をローンチしてきました。しかしこの予想される追加機能は、Tinderが年齢に基づいてユーザーの課金額が違うのをユーザーが知ったとき批難の対象となりました。30歳未満のユーザーには月額9.99ドル、30歳以上のユーザーには月額19.99ドルの課金をしていたのです。
このTinderの変更に対して反対をしている人たちは、プレミアムプランの金額設定は価格差別の法律に違反しているので不正行為だと非難しています。(つまりこの課金のアイデアを左にスワイプしているということ…失礼、いちいちスワイプに例えるのはやめておきます)しかしながら、以前に価格差別に関する記事の中でも書いたように、オンラインの取引における価格差別はややグレーゾーンにあるのです。
私たちは弁護士ではありませんが、年齢によって課金する額を変えるのは優れた方法です。なぜなら、年齢層の高いユーザーと低いユーザーが課金してもいいと考える金額は異なるということは私たちの過去のリサーチによって証明されているからです。このTinderのプレミアムプランに興味を持ったので、我々の得意なこと、すなわちデータを収集し、Tinderがスマートな価格設定をしているか確かめてみました。
分析してみたところ、とてもスマートな変更であるということが分かりました。Tinderはユーザーペルソナを定量化できるレベルで把握しているのです。以下のパートではデータを見ながら、なぜこの価格設定がTinderにとって潜在的な収益に貢献しているのかを見ていきましょう。また、この記事からあなたの価格戦略に生かすための教訓を見つけ出しましょう。
Tinderの価格を見てみましょう!
Tinderはアプリ市場で最も急速に成長しているアプリの一つであるため、アルゴリズムの回答者の発見はそれほど難しいものではありませんでした。まず、PriceIntelブログの読者にアルゴリズムに必要な情報を提供するために、価格に関する質問をいくつかします。その後回答を集計し、特定のユーザーグループの価格弾力性を測定します。私たちは、これまで数百万回に渡ってこの検証をしてきたので、数値結果は回答者がいる限り(ユーザーがそのアプリに興味を持っている場合)かなり正確な数字となります。
以下はアメリカのTinderユーザー数百人に実施した実際の調査結果です。年齢、性別、および価格の質問をしました。調査結果からかなり興味深いデータを得ることができました。Tinderは2つのユーザーグループに対して異なる方法で価格を適正化しており、今後の価格戦略として更なる差別化要素を図る可能性があるとわかったのです。18-29歳では、10ドル近くを中心に、月額8.44ドルから10.36ドルまでの間に課金してもいいと考える金額が集中していました。このデータで興味深いのは、最大月額 20ドルまでならさらに多くの支払いを検討する人たちがいるということです。
年齢層の高い集団のデータでは検討する課金額はよりいっそう広範囲にわたっていますが、一番回答数が多かったのは月額25ドル前後でした。このデータで特に興味深いのは、一つのプロダクトに月額 50ドル払っても構わないと答えた人もいるということです。
性別ごとの分析も行ったところ、男性は女性と比べて検討する課金額がはるかに高いということです。女性が課金を検討する金額と比べると、男性は年齢層の低い集団では女性より11.9%、高い集団では女性より47.9%も高い金額を支払っても構わないと答えています。これはさほど驚くべきことではありません。というのも、Tinderにとって重要なペルソナはHookup Hankと呼ばれる旅行に出かける前に特定の誰かと出会おうとする人たちだからです。(大抵のユーザーは50マイル圏内の中である人を左右にスワイプするだけです)
結果は素晴らしいものでした。Tinderは価格の差別化戦略において間違ったことをしているわけではなかったのです。とはいえ、なぜこれがあなたとTinderの価格戦略全体について重要なのでしょうか?これは二つの要因があります。
(1)価格帯は複数あってもよいという考え方を広く拡大したこと
(2)同一ペルソナの違いを利用したこと
あなたのプロダクトユーザーを複数のグループに分けることができるなら、複数の価格帯を用意する必要があります。私たちは、以前複数の価格帯に対する考え方について書きましたが、そこでの基本的な前提は、あなたのサービスが一つの価格帯しかない場合、多額の機会を損失することになるでしょう。
Tinderのような数百万人のユーザーを抱えるサービスであればなおさら影響があります。単一の価格にユーザー全員が満足するようなことは価格弾力性の曲線下においてはありえないからです。
実際、市場でかなりの割合のユーザーが、中心価格帯の2倍以上を払っても構わないと答えており、Tinderはこの法則を利用しています。年齢、性別、場所などに基づいて価格を差別化しているだけではなく、さらにユーザーグループを追加してより多くの収益を狙っているのです。とりわけ Tinderが出した機能に対して何から何まで支払うようなユーザーを無料ユーザーも含めて狙っています。
この価格戦略の欠点を挙げるなら、Tinderはプレミアム版にアップグレードするための過程をできるだけシンプルにしようとしていますが、複数のユーザーグループの存在が妨げとなっていることです。その結果、価格差別化の法律のグレーゾーンを犯すのがベストな賭けだという判断に繋がっています。
要約-ユーザー全員が本当に同一でない限り、できるだけ需要曲線下の面積を広くするために複数のユーザーグループを考えるべきです。
同じペルソナが異なる価格感度を持つ場合
ペルソナごとに異なる機能をオプションとして提供すると、同じユーザーペルソナの中でも課金を検討する額が異なる場合があることに気づきます。例えば、まだスタートし始めたばかりの非常に小さなスタートアップと大企業ではプロダクトの利用度合いは同じでも課金に対するモチベーションは異なっています。
これは、非常に厄介な問題です。なぜならペルソナ間の唯一の違いが予算である場合、通常はどのペルソナに集中するべきかを選択しなければならないからです。代替案としては、より課金へのモチベーションが高い顧客を差別化するために機能や有効な指標やアドオンとなるものを見つけることが挙げられます。
しかし、これも非常に困難な場合があるのです。Tinderは各ユーザーグループに対し異なった価格設定をすることでこの課題を解決してきました。たいていの場合、こうした変更が発表されるとひどく悪い評価をうけます。Tinderがここ数週間で受けたような評価も同様です。なぜなら年齢層の高いユーザーはたとえ自分が属する層が他の層より課金してもよいと考える金額が高かったとしても、自分の意思で支払っているということを認めたくないのです。
究極的には、アプリでこうした課題を解決する方法は、何らかの特定の理由を設けてそのグループよりも高いグループに強制するしかありません。例えば「エンタープライズプランのユーザー全員このSLAが必要です。例外はありません」や 「30人以上のユーザーにサービスを提供するためにはより高い額を支払っていただきます」といった感じです。しかし、こうした強制措置を全員が好むわけではありませんし、透明性をもってAmazon、Orbitz、そしてTinderが経験しているような反発は避けるべきです。
まとめ:同じペルソナでも検討する課金額が異なることはあります。しかし、異なる価格の提供がそのペルソナに合った機能の差別化でない場合は注意すべきです。
Tinderの重大にもかかわらず誰も目にとめていないこと
価格の差別化が完全に顧客の同意を得たオンラインビジネスの事例はありません。なぜならオンラインで価格の差別化を図る場合に、その「差別化」を完全に納得感のあるものにすることは非常に難しいからです。Tinderほど露骨に反発が出た事例は珍しいにしても、複数の価格設定で争った先例は豊富にあるので、いざとなればTinderは法人顧問弁護士がすぐに駆け付けられる準備はしているのだろうと思います。価格差別を図る前に価格を決定するというもっと根本的な課題があるので、常にユーザーから得られるデータを用いて、あなたのプロダクトの価格を決める根拠を蓄積しましょう。それが決めるということであり、「右にスワイプできる」ということです。(またジョークをついつい…)
この記事は、 Price Intelligently 社のブログ “ Why Tinder’s charging older users more, and why it makes perfect sense ” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Price Intelligently in English under the permission from the author.