あなたはモバイルアプリを制作しようとしています。素晴らしいアイデアを持っており、すぐにでも着手したい状態です。
ところで、市場調査は済ませましたか。もしその答えがNOなら、キーボードから手を離しましょう。適切な市場調査をせずにアプリを制作することは、基礎工事をせずに家を建てるようなものです。綿密な市場調査はアプリの成功に欠かすことはできません。本記事ではその理由を紹介します。
この記事は、DECODEのブログ ”‘How to conduct market research for your mobile app?” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.
市場調査が重要な理由
第一にアプリ業界の規模は非常に大きいことを知りましょう。直近のデータによると、2020年には1,429億ものアプリとゲームがダウンロードされています。Google Playストアでは、毎日3,739ものアプリがリリースされており、2021年12月にはおよそ30,000のアプリがAppleのApp Storeでリリースされています。
こんな市場にプランも戦略もなしに乗り込みたくはありませんよね。
■アプリとゲームのダウンロード数
※出典:Business of Apps
過去にタクシーアプリ「Hailo」はこんな事態に陥りました。イギリスでの大成功を収めたあと、彼らはアメリカ進出に注力。しかしながら、彼らは致命的なミスを犯しました。アメリカ市場の特異性について適切な調査がしていなかったのです。
同じ過ちを繰り返してはいけません。市場調査を行い、適切なアップグレードを施していれば、大規模な市場であってもスムーズに参入できるでしょう。市場調査は価値のある多くのインプットを与えてくれます。
- オーディエンスのペインポイント
- 業界トレンド
- 潜在ユーザーの心理
- 競合の強みと弱み
アプリの市場調査に入る前に
良い準備ができれば、半分は勝ったようなものです。紙を何枚か手に取って(もしくはGoogle Documentを開いて)準備を始めましょう。
「ターゲットユーザーはどのような人ですか?」「大衆を狙いますか?それともよりニッチな市場を選びますか?」「ユーザーの好みや、経済的な状況(もし課金モデルを考えているのなら)は?」「どこに住んでいて、使っている言語は何ですか?」
そして、アプリが目指しているゴールはどのようなものでしょうか。ユーザーの抱えているどのような悩みを解決してくれるのでしょうか。もしゲームアプリを開発しているのなら、UXに基づく課題に注力すべきです。
ユーザーが日々向き合っている悩みを想像しましょう。アプリによってユーザーのペインポイントを取り除く方法を常に念頭に置いてください。フィンテックやヘルスケアアプリを制作している場合は、特に意識しましょう。
※出典:Decode
例えば、食事の献立を考えるアプリだとしたら。ユーザーの立場になってみましょう。どうすればもっと楽にユーザーが献立を考えられるようになるでしょうか。
一般的な献立を提供しますか、それとも栄養学的に考え抜かれた献立がよいのでしょうか。はたまた食事の時間に合わせてカテゴライズしてあげたほうがよいでしょうか。ひょっとすると、アレンジができるような献立を求めているかもしれません。もしそうであれば、独自のカテゴリを追加・選択できるようにしてあげればよいでしょう。
この段階で、ビジネスモデルの概要を記しておきましょう。無料アプリにするのか、それとも無料体験期間を設けるアプローチを採るのか。アプリ内広告でマネタイズする方法もありますし、アプリ内課金でのマネタイズも考えられます。アプリに十分な価値があると感じており、アプリ制作に高度な技術を取り入れるのなら、有料アプリにしてみるのもよいでしょう。
ご覧の通り、ビジネスモデルは無数に存在します。圧倒されるかもしれませんが、市場調査を終えたときには、適切な方法でアプリをマネタイズできるようになっているはずです。
アプリのSWOT分析を行いましょう。SWOTはStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字を取ったもの。アプリを俯瞰的に捉え、優れたロードマップを作成することができる有名な市場調査の手法です。
もし、アプリに携わっている人が他にもいるなら、彼らにも意見を求めましょう。より客観的なインサイトを得ることができます。情報はすべて書き留めておき、あとで調査から得た気づきと比較しましょう。
市場調査のメソッドを利用する
次に、市場調査を積極的に行っていきます。しかし、知識を持たずに行ってはいけません。市場調査のメソッドを身につけることが先決です。モバイルアプリに役立つ可能性が高い調査方法をいくつかご紹介します。
アンケート調査
主な調査方法のひとつがアンケート調査です。価値ある情報を得るために、あらかじめ定義されたグループに一連の質問をします。アンケート調査は潜在的なユーザーの思考を知るための、非常に簡単で効果的な方法です。
しかし、質問が具体的でなかったり、包括的でなかったり、ユーザーが回答しづらいものだった場合、その調査結果はあまり役に立たないかもしれません。最初は自由に回答してもらい、徐々に質問の幅を狭めていきましょう。しかし、狭めすぎてもいけません。「はい」か「いいえ」で答えられる質問からは、意味のある結果を得られず、役に立ちません。
※出典:DECODE
フィードバックが得られたら、アプリの強みと弱みについて判断することに専念しましょう。ユーザーの意見に一喜一憂してはいけません。ネガティブな批評からモチベーションが高まったり、インサイトが得られることもあるのです。
友達や同僚からのフィードバックに依存してはいけません。バイアスがかかっているからです。SNSやアプリのカテゴリに関わりのある他のチャネルに属する匿名の人物を対象にアンケート調査を行いましょう。
アンケート調査に時間を取ってもらうためにインセンティブを付与してもよいでしょう。アプリを特別に使用できる権利や割り引き、その他の付加価値のあるものでも構いません。また、時間がかかりすぎる調査は避けましょう。Kantarによるとベストなアンケート調査時間は10分程度だそうです。
アンケートの作成は億劫なものではありません。数多くのオンラインツールが面倒な過程を代行してくれるからです。最も有名なツールに「Survey Monkey(有料)」「Hotjar(有料)」「Google Forms(無料)」があります。
ソーシャルリスニング
人々はSNS上で生活を送っています。実際に、世界の半数以上の人々が何かしらのSNSを利用しているのです。彼らは我々が気づかないうちに非常に重要な情報を提供してくれています。この宝の山をどのように利用すればいいでしょうか。
ソーシャルリスニングを始めましょう。SNS上でブランドに関わる情報をモニタリングすることは市場調査には必要不可欠です。類似プロダクトに関するコミュニケーションからインサイトを得ることができます。なかでも重要なのは、ペインポイントを把握できることです。
もし、ゲームアプリを開発しているのなら、「Dsicord」に耳を傾けましょう。健康的な食事に関するアプリを開発しているのなら、Facebookのフィットネスグループをチェックしてみるのもよいでしょう。「Buffer」や「BuzzSumo」のようなソーシャルリスニングツールを使用することもできます。「Reddit」や「Google」も役に立ってくれるはずです。
情報を収集するだけではいけません。 専門知識を提供することで人助けをするのです。そうすることで権威や信頼を築くことができます。専門知識を発信し、ユーザーとの関係を築くことで、ユーザーはペインポイントについて赤裸々に話してくれるようになります。
また、ソーシャルリスニングは顧客ペルソナの分析だけでなく、競合他社の分析にも大きな武器となります。この点については後ほど詳しく説明します。
関連データの収集
デジタルの世界では、データは急速に新鮮さを失っていきます。数年前まで最先端だと考えられていた情報も、すぐに遠い過去の記憶となってしまうのです。市場調査で収集されるデータソースは信頼性、新鮮さ、関連性がなければいけません。
関連データの収集はオンラインツールを用いれば、簡単に実施することができます。以下にいくつかのツールを紹介します。
Data.ai
「Data.ai(旧App Annie)」はアプリの関連データを提供するリーディングカンパニーです。ブログやレポートは無料で提供されており、インサイトが満載です。アプリのダウンロード数や収益トップのアプリ、競合の成長分析など、知りたい情報を何でも入手することができます。
Data.aiは「Game Changer」と呼ばれるポッドキャストも配信しており、業界の成功者の素顔を垣間見ることができます。より詳細なデータを手に入れたいのなら、プレミアムプランを選ぶのが賢い選択だといえるでしょう。
※出典:Data.ai
Statista
「Statista」は様々な業界や国の最新データを大量に提供しているプラットフォームです。大量にデータがあるので、求めているデータにたどり着くためには自分が欲しいデータを明確にしておかなくてはいけません。
業界概要のページは情報を絞り込む手助けになります。無料で入手できるデータもありますが、大抵は有料プランでないと入手できません。
Business of Apps
「Business of Apps」はアプリのデータだけでなく、ニュースやプロダクト、アプリ業界に関わるインサイトを知ることができる素晴らしいソースです。アプリのマネタイズ、ASO(アプリストア最適化)対策やアプリマーケティングに関するガイドも提供しています。アプリ開発の次のフェーズにおいて必ず役立つはずです。
Google Trends
無料ツールの「Google Trends」も役立ちます。世界中の調査トレンドを比較するときに効果を発揮します。どの国のユーザーベースがあなたのアプリにとってベストであるのか知りたければ、数クリックでその答えがわかるのです。
もしも閲覧する時間が十分に確保できないのであれば、購読してトピックやトレンド検索についてのデータを手に入れましょう。
※出典:Google Trends
なお、ユーザーの平均給与や各国の経済状況など、一般的なデータを求めているのであれば、公式の統計局が最適な情報源です。
競合分析
ゴッドファーザーのなかで「友人は近くに、敵はより近くに」というMichael Corleoneのセリフがありますが、アプリマーケティングにおいても同じことがいえます。
競合の強みと弱みを調査しておくことで、業界のトレンドや消費者行動、さらには「してはいけないこと」に対する解像度を高めることができます。自身の失敗から学ぶより、他人の失敗から学んだほうがよいでしょう。
競合分析をするときは、プロダクトだけでなく企業も調査しましょう。競合他社を選定してください。競合はすでにその専門分野で活動しているので、探し出すことは難しくないはずです。
さらなる情報収集と分析
情報はできるだけ収集しましょう。これらに対する回答を見つけてください。
- 競合企業は民間企業かそれとも公営のものか
- 競合企業のビジネスモデルはどんなものか
- どんなユーザーが利用しているか(どこに住んでいるのか、どんなテクノロジーを利用しているのか、ペインポイントは何かなど)
- 競合アプリはユーザーのどんな課題を解決しているのか
- 競合アプリの特徴はどこにあるのか
- 競合企業の昨年の収益と利益はいくらか
- 競合企業のマーケティング戦略はどんなものか
「Apptopia」や「Determ」のようなツールを活用すれば、これらのデータは簡単に収集できます。収集した情報を分析しましょう。競合のビジネスモデルの隙は見つかりましたか。競合の強みと弱みを分析できますか。競合より上手くアプリを運営できますか。
競合他社のSWOT分析
競合他社のSWOT分析も役立ちます。そうすることで、自社のアプリと競合アプリの違いが明確になります。
※出典:DECODE
直接競合や類似したプロダクト、まったく同じプロダクトの分析だけに注力してはいけません。視野を広げ、規模の大小関係なく様々な企業の分析をしましょう。
アプリ開発に着手した段階では、大手企業のような強力なインフラを持っているわけではありません。しかし、彼らのビジネスアプローチ、ユーザー、競合他社へのアプローチから多くの価値ある知見を得ることができます。
直接的に競合しないアプリでも、そのアプリが自社のアプリと類似したユーザーの課題を解決しているかもしれません。競合のメソッドを調べて、自社アプリ用に工夫を凝らすことができれば、それは非常に有益な調査となります。
例えば、カロリー計算アプリを作成しているとします。カロリー計算アプリのほかに、水分計測アプリや献立アプリも調査してください。UXやUI、全体の機能から気づきを得られるはずです。これらの方法を利用すれば、市場調査の一番重要な部分を押さえることができるでしょう。
調査結果をアプリに反映させる
調査が完了したとしても、まだすべきことは残っています。発見したことをまとめ、最初の段階と比較し、組み込める要素はアプリに組み込みましょう。
自分の持っている知識と調査中の気づきとの間にギャップを感じることもあるでしょう。アプリの改変が不可避であると判明してしまうかもしれません。しかし、落ち込む必要はありません。それはアプリ開発のプロセスとしては普通のこと。アプリ開発の序盤でミスに気づくことは、後半で気がつくよりよほどよいことです。
ポイントは、調査結果をシームレスにアプリ開発のプロセスに取り込んでいくことです。では、それをどのように実践すればよいのでしょうか。
調査から発見したことをグループに分類しましょう。例えばスプレッドシートのシートごとに気づきを分類してみてはどうでしょうか。そしてこれだけは必ず分類しましょう。
- バイヤーペルソナ
- 競合他社
- 業界トレンドと概要
- 価格モデル
自分の調査結果から得た気づきとともに、外部から収集した関連データも含めるようにしてください。調査結果から得た気づきと外部から収集したデータを、調査を始める前に取ったメモと比較しましょう。
※出典:DECODE
例えば、顧客についての調査結果と、調査前に考えていた理想的なユーザーを比較するとどうでしょうか。ギャップはありますか。彼らの好みやニーズとビジネスプランは一致しているでしょうか。
もし潜在ユーザーが無料アプリしかダウンロードしていないとわかった場合、有料アプリを開発しようとは思わないはずです。
アプリのワイヤーフレームに調査結果を盛り込みましょう。ワイヤーフレームは最もコストパフォーマンスの良いアプリの未来予想図です。神経質になる必要はありません。アプリの基本的な機能を把握できていればよいのです。
それと同時に、理想的なユーザーとアプリの機能がマッチしているのかも確認しましょう。まだアプリ開発の旅の始まりに過ぎないのですから、これらはすべて変更可能であるということは覚えておきましょう。
結論
基礎を大事にすれば、アプリを長年運営し、繁栄させることができます。最も重要なのは、市場調査を包括的に行うという点です。
アンケート調査とソーシャルリスニングを通じて、ターゲットユーザーのことや、彼らの抱えているペインポイントを把握することができます。競合他社のSWOT分析を行い、業界のトレンドを見つけ出してください。気がついたことを分析し、アプリに取り入れましょう。
市場調査はここで終わりではありません。これはプロセスの一部なのです。トレンドやユーザーに変化があったのなら、アプリにも変更を加えるべきでしょう。満足いく市場調査ができたのであれば、アプリ制作とその成功は容易なはずです。