2023.02.20
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アプリの成功にとって最も重要な指標はおそらくリテンション率(継続率・定着率)でしょう。算出方法はとてもシンプルで、より多くのユーザーを維持すればするほど、より多くの収益を獲得することができます。
しかし、残念なことに高いリテンション率を維持するのは大変難しいのが現状です。業界全体で、73%ものユーザーがわずか90日後にアプリをアンインストールしていることがわかっています。落胆的なベンチマークであることには違いありません。
しかし、この統計に打ち勝つことはできます。ただ、それには十分な努力と適切なリテンション戦略が必要です。
この記事は、DECODEのブログ ”How to increase user retention for your mobile app” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.
オンボーディングはユーザーがアプリに抱く第一印象であると考えてください。したがって、ユーザーを維持するためには、シームレスで直感的なオンボーディング体験が必要です。
「Reforge」のDan Wolchonokは、Hubspotで行ったオンボーディングの改善例について、興味深い事例を紹介してくれました。結論からいうと、ユーザーのリテンション率が平均15%向上したのです。
■ アプリをダウンロードしてから1週間経過したときのリテンション率の変化
なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。オンボーディングの目的のひとつは、できるだけ早くアプリを使いこなせるようにすることです。これによりユーザーが混乱することはなくなり、より早くアプリのメリットを享受することができるようになります。オンボーディングを改善することは、定着率を高めることにつながるのです。
逆に、オンボーディングが適切に行われないと、悪影響を及ぼす場合もあります。例えば、Clutch社の調査によると、オンボーディングに1分でも余計な時間がかかると、28%のユーザーがフラストレーションを感じることがわかっています。2分経過した時点で、この数値は33%にまで上昇するのです。
■ オンボーディングに要する時間の増加とともに、ユーザーのフラストレーションも溜まる
出典:Clutch
このことから、オンボーディングを可能な限り短縮することが、リテンション率の向上につながると結論付けられます。
オンボーディングの時間を短縮する方法のひとつが、ユーザーから必要最小限の情報しか求めないことです。例えば、アプリでユーザーの誕生日をたずねることに意味はあるでしょうか。その質問がユーザーの役に立つのかどうか、よく考えてください。
また、フォーム入力そのものを完全になくすことも考えるべきでしょう。例えば、ユーザーにアカウントを作成してもらうのではなく、ワンクリックでサインアップできるようにしてはどうでしょうか。FacebookやGoogleアカウントを活用することで、ユーザーの登録時間を劇的に短縮できます。
■SNSのアカウントを利用してアプリのサインアップを行えるようにする
出典:Ecwid
もちろん、長いオンボーディングを避けられない場合もあります(例えば、金融業で長時間の顧客確認プロセスを必要とする場合など)。このような場合は、複数の画面に分割して表示することで、ユーザーがより管理しやすくなるでしょう。
ここでは、投資アプリ「Fisdom」の成功事例を紹介します。これをひとつのオンボーディング画面に凝縮するとしたらどうなるか、想像してみてください。
■ オンボーディングが長い場合は、複数の画面を細かく表示する
出典:Toptal
良いオンボーディング体験は、チュートリアルをすべてスキップすることができるように作られています。手取り足取り教わるのを嫌がるユーザーもいるのです。
ひょっとすると、自分のペースでアプリの使い方を学んでいきたいというパワーユーザーや、すでにアプリの使い方を知っているユーザーもいるかもしれません。
■オンボーディングを必要としないユーザーも存在する
出典:Apptimize
しかし、何よりもオンボーディングで明確に伝えるべきことは、アプリのバリュー・プロポジション(本質的な提供価値)です。次のセクションでは、その点を探ってみましょう。
運営するアプリのバリュー・プロポジションはなんですか。これはアプリの存在価値であり、ユーザーがアプリを利用するときに得られる主なメリットです。ユーザーを魅了し、維持したいのなら、バリュープロポジションを前面に打ち出しましょう。
オンボーディングの目標はユーザーに「アハ体験」をさせることです。ここでいう「アハ体験」はユーザーに「このアプリは必要だ!」と思わせる瞬間のことを指します。例えば、「Uber」のようなライドシェアアプリはこのようにアハ体験を創り出します。
■ ライドシェアアプリ「Uber」の場合
ユーザーが手配した車が時間通りにユーザーのもとに到着する瞬間が「アハ体験」
出典:Appcues
アプリで何ができるのかを伝えるのではなく、アプリによってユーザーの生活がどのように変化するのかに焦点を当てたオンボーディングにするのです。
次に、メンタルヘルスアプリの「Sanvello」をご紹介します。
■Sanvelloのオンボーディング画面
出典:DECODE
「より心地よく過ごすために」というコア・ベネフィットからアプリが始まっていることに注目してください。
それと同時にオンボーディングでユーザーが目標設定できることにも注目しましょう。Sanvelloはこうして多くのユーザーの人生を変えているのです(より健康的な生活がしたい。希望を見つけたいなど)。主要なアプリ機能にバリュー・プロポジションを交えて提示することもできます。
例えば、「Elevate」は40種類以上のゲームをプレイすること(機能)で、毎日メンタルスキルを向上(バリュー・プロポジション)させることができると述べています。
■Elevateのオンボーディング画面
出典:UX Planet
さて、バリュー・プロポジションの策定に苦戦している人もご安心ください。アプローチ方法はあります。4つの要素だけ考えれば良いのです。
まず最初の要素は、ユーザーがアプリから得られる価値やメリットです。先ほどの例でいうと、「スキルが向上する」「より心地よくなる」といったものです。
次に、日常会話で使われるような表現を用いてわかりやすさを追求してください。例えば、「あなたのメンタルヘルスを解決します」ではなく、「より心地よく」など、よりわかりやすい表現を使いましょう。
3番目は差別化です。アプリのバリュー・プロポジションは競合サービスと差別化できていますか。「Elevate」の場合、科学的研究に基づいてゲームを作成していることが他の脳トレアプリとは一線を画しています。
最後は簡潔さです。一旦バリュー・ステートメントが決まれば、それを一文に集約してみましょう。例えば、スティーブ・ジョブスがiPodのバリュー・プロポジションを「1,000曲をポケットに」にしたように。
一方で、バリュー・プロポジションを作成する上で最も重要なのは、市場調査を通じて市場を徹底的に把握することかもしれません。そうすることで、初めてターゲットユーザーの心に響くバリュープロポジションを策定することができます。
パーソナルタッチを加えることで、ユーザーはアプリ体験が自分たちのために用意されたものであると感じます。言い方を変えると、ユーザーのことを考えているということを示すのです。驚くことではありませんが、これはリテンションに影響を与えます。
ブランド、アプリ、製品からユーザーが離れてしまう最大の要因は、ユーザーへの「無関心」であるとSuperOfficeは言及しています。
■ 顧客が企業から離れる理由
出典:Super Office
パーソナライゼーションはユーザーを維持することだけが目的ではありません。収益の伸長にも寄与します。
Bloomreachによると、80%ものユーザーは体験をパーソナライズしてくれたブランドを選択する可能性が高くなるそうです。
■ 体験をパーソナライズするメリット
出典:Bloomreach
パーソナライゼーションは様々な形で行うことができます。最も簡単なのはアプリ内でユーザーの名前を用いることですが、これは単なる始めの一歩に過ぎません。パーソナライゼーションが最も効果を発揮するのは、ユーザージャーニーやスキルに合わせてアプリ体験を改善するときです。
そうすることで、必要のない機能やオーバースペックな機能でユーザーを圧倒してしまうのを避けることができます。株式取引アプリの場合、こういったパーソナライゼーションはユーザーの取引歴やリスク許容度に合わせて、金銭的な失敗を最小限に抑えるために必要不可欠です。
「Betterment」アプリは、オンボーディング時にユーザーを評価し、それに応じてアプリ体験をユーザー用に改善することでこの問題に取り組んでいます。
■Bettermentのオンボーディング画面
もうひとつパーソナライゼーションに関する優れた例を挙げるなら「Turbo Tax」です。
オンボーディングで年間の経済的なマイルストーンに関する質問をします。そして、その選択に基づいた機能をユーザーに提案するのです。
■「Turbo Tax」のオンボーディング画面
出典:Storyly
Turbo Taxのアプローチはユーザーに必要以上の複雑さを与えることなく、包括的かつ十分な機能が揃ったアプリを提供するスマートな方法です。
パーソナライゼーションには柔軟性も必要です。ユーザーの好みはアプリをしばらく利用してみないとわからないこともあるでしょう。さらにいうとユーザーの好みが変わることもあります。だからこそアプリの仕様を少しずつ調整する必要があるのです。
「Netflix」や「Spotify」などの配信アプリはこれを熟知しています。例えば、Nrtflixはすでにユーザーが視聴したコンテンツに基づいて、新しい番組をおすすめするのです。
Spotifyもパーソナライゼーションの提唱者であり、直近では「Only Youキャンペーン」を実施しました。アンケートや過去に再生した曲に基づいて、カスタマイズされたプレイリストを提供します。また、こんな面白いネタも紹介しています。
■「Spotify」の「Only Youキャンペーン」
出典:Spotify
どんなユーザーでもこれを見ればSpotifyが自分のことを理解してくれていると感じるでしょう。
実際に、パーソナライゼーションはアプリのリテンションには欠かせない戦術です。魅力的なバリュー・プロポジションと体験によってユーザーを惹きつけ、パーソナライゼーションによってユーザーが夢中になるのです。
アプリ内メッセージとプッシュ通知はユーザーを維持するための素晴らしいツールです。しばらくアプリを利用していないユーザーであれば、なおさら効果を発揮します。なぜなら、ユーザーはときに、アプリに復帰するためのさりげないリマインダーを必要とすることがあるからです。
それ以外に、これらは効果的なエンゲージメントツールでもあります。例えば、「Groupon」のように、特別なクーポンを提供して新しいユーザーを歓迎するという素晴らしい方法もあるのです。
■「Groupon」のクーポン提供に関するプッシュ通知
出典:Hi5
これは個人の体験に基づいたものではありません。しっかりと数値でも示されています。例えば、「Airship」の調査で、プッシュ通知を使用していなかったアプリが、プッシュ通知を使用することで、定着率が190%も上昇する可能性があることがわかっています。
しかし、権力と同様、これらのツールも乱用されがちです。調査によると、関連のない通知を過剰に配信することが、ユーザーのアプリをアンインストールする理由の第1位になっています。そのため、プッシュ通知やアプリ内メッセージを有効に活用したい場合は、ベストプラクティスに従うことが有効です。
最も重要なことは、短くまとめると同時にユーザーの注意をひくことです。ここで重要なのは、通知の文言をできるだけ短くすること。Localyticsの調査によると、スイートスポットは10文字以下でした。
■プッシュ通知のクリック率
出典:Hi5
また、ユーザーが受け取る通知やアプリ内のメッセージもユーザー自身が管理できるようにするべきです。プッシュ通知やアプリ内メッセージの配信停止の可能性を少しでも防ぐことができるように、メリットをユーザーに伝えておきましょう。
「Emma」アプリの例がこちらです。
■「Emma」のプッシュ通知許諾画面
出典:Telerik
プッシュ通知とアプリ内メッセージはユーザーが関心のあるものでなければなりません。マーケティングに注視したメッセージよりも、価値のあるコンテンツが好まれます。
例えば、「Robinhood」のアプリ内メッセージは、ユーザーが選んだ銘柄に関する重要な情報を配信しています。やがて、ユーザーはその配信を頼りにするようになり、定着率は間違いなく高まるのです。
■「Robinhood」のアプリ内メッセージ画面
出典:Robinhood
プッシュ通知にパーソナライゼーションを取り入れることで、より強力なリテンション戦略を実現できます。これによってユーザーはどんなプッシュ通知でもありがたく感じ、期待して配信を待つようになるのです。
天気アプリ「Sunshine」のパーソナライズされた予報にユーザーが大変満足している様子が以下に示されています。
■「Sunshine」のパーソナライズされたプッシュ通知
出典:Hi5
プッシュ通知とアプリ内メッセージはゲームチェンジャーになる可能性があります。大切なのは、ユーザーのニーズを把握し、宣伝に偏りすぎないことです。
もしリテンション率を急増させる方法があるとすれば、それはゲーミフィケーションです。ゲーミング要素をアプリに取り入れることでユーザーを惹きつけることができます。フィンテックからフィットネスまで、ほとんどすべてのアプリがゲーミフィケーションを取り入れることで大成功を収めているのです。
興味深いゲーミフィケーションの事例に言語学習アプリの「Duolingo」があります。
■「Duolingo」のゲーミフィケーションされた表示画面
出典:Raw Studio
アプリのいたるところがゲーミフィケーションされています。 レッスンはプログレッション方式で行われ、課題をこなしたり、単語を覚えたりすることで「レベルアップ」していきます。家族や友人と競い合うようなスコアボード機能も実装しています。
アプリのプッシュ通知でさえもゲーミフィケーションツールとして利用することがあります。Duolingoはこの方法を多用することで知られていますが、上手く使いこなしています。絶え間なく配信する通知は、意外なほどモチベーションを高める効果があるのです。
■「Duolingo」の絶え間のないプッシュ通知
出典:Raw Studio
ゲーミフィケーションに力を入れることで、Duolingoは大成功を収めました。Duolingoのユーザー数は今や3億人を超えています。
Duolingoのアプローチがヒットしたのは、以下の5つのゲーミフィケーション要素を満たしていたからです。
ユーザーには達成したい明確な目標があります。次に、この目標を達成するために、アプリがルールを設定し、毎日の語学レッスンを受けることになります。成果はプログレスバーとレベルという形で表され、ユーザーの目標との差を確かめることができます。
ユーザーはXPポイントという形で報酬を受け取ることができます。最終的に、スコアボードや毎日のプッシュ通知により、モチベーションを高めることができるのです。注意しなければならないのは、ゲーミフィケーションは複雑であってはいけません。モチベーションと報酬という本質的な欲求を満たす要素があれば、効果を発揮してくれます。
例えば、「Insight Timer」は、瞑想の習慣を継続させるためにストリーク(継続ボーナス)を使用します。そして報酬はシンプルな星と、コミュニティからの認知です。些細なことに感じますが、これが驚くほど上手く機能します。Insight Timerは他の瞑想アプリを大きく凌駕する存在になっているのです。
■アメリカで利用されている瞑想アプリの割合
「Insight Timer」が63%と圧倒的
出典:Insight Timer
ただし、誇りや達成感は十分効果的なモチベーションになりますが、実際の報酬に敵うものはないことも覚えておきましょう。
ディスカウントやお得な情報、その他特典の提供はユーザーのアプリ復帰に最も効果的な方法です。これはユーザーがアプリをアンインストールしたときでさえ有効です。
Googleの調査によると、アプリを使わなくなったユーザーの30%は、割り引きがあれば再びアプリの利用を検討することがわかっています。従って、特典の提供はユーザー復帰の最後の手段となるのです。ゲーミフィケーションコンサルタントのYu-kai Chuo氏はなぜこれが機能するのか説明しました。
「外発的報酬(ギフトカード、お金、商品、割り引き)を使って人々を体験に惹きつけ、内発的報酬(認識、ステータス、アクセス)によって人々の関心を移行させるほうが良い。」
ユーザーにインセンティブを与える方法は様々です。ユーザーにポイントを与え、そのポイントを様々な賞品と交換するのも良い方法のひとつでしょう。
ポイント制度によってユーザーは自分の欲しいものが柔軟に手に入れられるようになりました。その好例が、マレーシアのデジタルバンクであるCIMBの「オクトチャレンジ」です。ユーザーは、一定の残高を維持したり、取引を行うなどの課題をクリアすることでポイントを獲得することができます。このポイントは、割り引きやリベートに交換することが可能です。
■CIMBのリワードプログラム「オクトチャレンジ」
出典:Money Thor\
「Streak」アプリもポイント制の一例です(Strealコインといわれています)。このアプリは10代向けなので、商品もその層に合わせています。
■「Streak」のポイントプログラム
出典:Streak
しかし、ユーザーにとって特定のアクションと引き換えに何がもらえるのか把握できていることは必ずしもメリットばかりではありません。ゲームデザイナーのWendy Despianが説明してくれました。
「特定のアクションで得られる報酬がわかってしまうと、驚きがなくなってしまいます。そのような体験ではユーザーの興味が削がれてしまうのです。」
したがって、インセンティブ・プログラムをより効果的にするために、不確実性を取り入れなければいけません。その代表的な方法が、「プライズ・ホイール(景品交換所)」です。
■プライズホイール
出典:Convertful
プライズホイールは、商品はわかっていても、どれが出るかがわからないから効果的です。そうすることで、将来的に獲得できる可能性のある賞品に対する好奇心や興奮が生まれ、ときには賞品そのものよりもモチベーションを高めることができます。
これらすべての戦略はアプリのリテンションキャンペーンに取り入れることができます。だからといって、すべての戦略を同時に行うことはできません。
まずは戦略をひとつかふたつに絞って実行し、その結果に応じて最適化するほうがはるかに良いでしょう。その上で新しい戦略をもうひとつ試しましょう。そうすることでより早く結果を出すことができます。
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